この音は、ただ君の為に。   作:月の城

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急遽休みになったので書けました。
他者視点も出したいのですが、難しい。


2話

 昨日の膝蹴りから1夜明けて、いつも通り先生が来るまでイヤホンで外界の音を遮断する。

 

 先生が来たのでイヤホンを付け替えると、今日の午後は部活発表会があるという言葉が聞こえてきた。

 

 はっきり言おう、クソ面倒。

 ふけることも考えたが、帰りのHRを考えるとそれはまずい。

 出席日数が足りなくなって面談とかも洒落にならないからおとなしく出るしかないか。

 

 めっちゃ憂鬱。

 

 

 そうして始まった午後の部活発表会。

 

 端的に言えば頭痛い。

 一発目に出てきた地元人気№1とかほざいていた軽音部。

 最初の音を聞いた瞬間、あまりの不快感に顔を歪ませて、先生が見てようがお構いなくいつも持ち歩いているイヤホンでシャットアウトした。

 

 ただ楽器を鳴らすだけならまだしも、あの連中は弾いている楽器のことなど関係なく痛めつけているだけ。

 聞く価値もない。

 

 周囲の生徒が俺を見て来るが、こんな吐き気を催す不協和音を聴いている周りが信じられない。

 早く帰りたいな。

 いくつかの部活紹介が終わって、うとうとしていたらステージに見慣れたものを運んでいる眼鏡の男子生徒がいた。

 

 

 部活一覧を見ていなかったけど、この学校にもあったんだ筝曲部。

 

 

 イヤホンを外して眼鏡君が鳴らす箏の音を聞くと、『六段の調』を演奏しているらしい。

 聴いた感想として、音は出せているけど凄い下手くそ。

 大分緊張しているのか音も震えているし、所々ミスもある。

 

 しかし、さっきまでの部活動に比べれば大分マシ。

 ただ、周囲は興味がないのか大声で話し始める。

 

 常識のない奴らを見ると、去年の出来事を思い出してしょうがない。

 箏の音が話声に掻き消されて我慢の限界だった。

 

「ゔるっせえんだよ、聴こえねぇだろが!!!」

「うるせぇな、話すんだったら外で話せや屑ども!!」

 

 どうやら俺だけでなく、我慢の限界を超えた人がいたらしい。

 向こうは自分の椅子に足を叩き付けたらしいが、俺は端に座っていたのもあり座っていた椅子を蹴飛ばして壁にぶつける。

 

 

 ガンッ!!

 

 

 チラッと演奏していた眼鏡君を見たがどうやら演奏をするどころではなくなったらしい。

 暇つぶしにもなるかと思ったが、この状態ではさっきみたいに箏の音を聞くのは無理だろう。

 

 高校生の間はおとなしく過ごしていくつもりだったけど、周りがこんな屑ばかりだっていうんならもうどうでもいいわ。

 椅子を蹴ったその足で体育館から出て、今日はそのまま帰った。

 途中俺を呼ぶ声が聞こえた気もしたけど、阿保臭くて全部シカト。

 おとなしかった前世と比べれば性格変わったよな、俺。ストレス抱えなくて済んで逆にスッキリしたけど。

 

 少し早く帰れたから時間が余ったなぁ。

 久しぶりに今の俺の保護者代わりになってくれた人のところに行くか。

 

「つーわけで、遊びに来たぞ。ばっちゃん」

「何がつーわけじゃ、それよりお前学校はどうした?」

「今日は部活紹介だとかで自由下校。時間が余ったから遊びに来たんだけど邪魔だった?」

 

 ふん、と顎で奥を指すと俺は笑いながら礼を言って店に入る。

 俺が小さいころから使っている13弦。

 

 箏の前で正座して、イヤホンを耳に挿し目を瞑る。

 聞こえてくるのはコンクールで弾かれたとある曲(・・・)

 1音1音とても丁寧に弾くその奏者と、その音が醸し出す風景。それをイメージしながら、何度も何度も繰り返して聴く。

 

 

 

 30分ほど経って目を開けると、イヤホンを外して箏爪をつける。

 

 

 ターン。

 

 

 鳴らした音が消えるのを待って、もう一度同じ絃を弾く。

 

 

 ターーン。

 

 

 近い、けど違う。この音じゃない。もう一度。

 

 

 タァーン。

 

 

 駄目だ。今度は遠くなった。もう一度。

 

 

 ターン。

 

 

 弾き方を変えてもこれじゃ最初の音と変わらない。もう一度。

 

 

 

 顎から流れ落ちた汗が俺の左腕に当たると同時に集中力が切れた。

 結局、通しでそれなりに出せたのは4小節まで。そこから先はまた楽譜に起こすのとイメージですり合わせていくしかない。

 一先ず、ご飯を食べてから今日までの出来を楽譜に残しておかないと。

 

「ほれ、終わったんだったらさっさとおいで。ご飯にするよ」

「ありがとう、ばっちゃん」

 

 戸を開けて入ってきたばっちゃんが俺にタオルを投げ渡すと、すぐにご飯だと言って部屋を出て行った。

 

 迷惑をかけっぱなし、凄い申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 だから早く高校を卒業してばっちゃんに恩返ししたい。

 小さいころから爺さんと一緒に俺の面倒を見てくれた数少ない家族なのだから。

 

 

 昨日の疲れが残っていたのか、少し寝坊して1限の途中で教室に入ると俺を見ながらクラスがひそひそと何か話しているのが見えた。

 あぁ~、そういえば昨日やっちまったんだっけ。どうでもいいけど。

 

「君! 今頃来て何していたの!!」

「ただの寝坊です、なんで俺に構わずどうぞ授業を続けてください先生」

 

 そう言って堂々とワイヤレス式のイヤホンを両耳(・・)につけて席に座った。

 先生が何か怒鳴っていたが、それを無視しながらノートを取り出して今日も音合わせをする。

 

 授業が変わって、他の先生が来た時も同じように過ごす。

 中にはノートを取ろうとする先生もいたが、廊下側にある教室下の小さな引き戸を思いっきり蹴って睨みつけると何かを言って引き下がった。

 相も変わらず音楽を聴いているので何を言っているのかは知らないが、どうせ学年主任に報告だの保護者に連絡だのそんなところだろう。

 

 生憎と登録している家の固定電話は俺以外が取ることはないから無駄に終わる。

 

 しかし、今日1日は邪魔されまくったおかげか全然進まなかった。

 さっさと帰ろうとしたときに、廊下を走っていくイケメン君が見える。

 彼を見る頻度が高いのもそうだけど、見えた彼の横顔は何かを決意した力強い眼をしていた。

 

 ……ああいう人に箏を弾いてもらえれば、面白い音が出そうなんだけど……それは高望みしすぎか。

 

 

 

 

 

 あれから少しして、珍しく気分がよかった俺は昼休みに持ってきた弁当を食べるために先日見つけた穴場に向かっていた。

 

 場所はそう、数学準備室。

 人の喧騒から離れたとこにあるこの教室は俺にとって楽園と言える場所だ。

 今日もその楽園で有意義な時間潰しをしようと、扉を開く。

 

「ん? 誰だお前?」

 

 ソファに寝転がりながらこちらを見る中々ダンディなおっさん。

 いや、つか――。

 

「おっさん誰?」

 

 少なくても1年の授業で見かけていないから高学年の先生だと思われる。

 だが、マジかよ。俺の楽園、数日で消えたわ。

 

「俺は数学教師の滝浪涼香だ、こっちは答えたんだからそっちも答えろよ問題児」

「知ってるんじゃないっすか、問題児の神崎孝介。以後よろしくしないでいいですよ」

 

 人がいたんじゃしょうがない、今日は昼休みが終わったらさっさと戻ろう。

 近くの椅子に座ってコンビニで買った唐揚げ弁当を食べながらノートを机の上に立てる。

 

「お~、こりゃまた随分な問題児だな。ここ私用利用禁止なんだけど?」

「先生こそ、職員会議までの合間とかの私用利用はやめた方がいいですよ?」

 

 部屋に沈黙が生まれ、滝浪先生がため息を吐く。

 

「お互いに何も見なかった、それでいこうじゃないか」

「ええ、それで滝浪先生一つ質問よろしいですか?」

「なんだ、問題児」

「筝曲部の顧問って誰ですか? 入部届を出したいんですけど誰か分からなくて」

 

 答えが返ってこないのでノートから視線を先生に向けると、めっちゃ嫌そうな顔をした先生がいた。

 マジで?

 

「先に聞いておくわ、なんで筝曲部?」

「部活に入っておけば取り敢えず履歴書とかそういったことで書ける内容が増えるのと、少し箏は齧っているので他の部活よりかはまだましかなと思って」

「……本音は?」

「部員が一人っぽいんで、幽霊部員でも数がいれば部活として成立するんじゃないかなぁと思った」

 

 チラッと生徒手帳を見たが、部活として成立するためには最低5人以上の部員が必要と書いてあった。俺が入ったところで焼け石に水だろうが、あとは知らん。

 名前は貸してあげるから頑張れよ、眼鏡君。

 

「すげー面倒なんだけど」

「安心してください。授業が終わればすぐに帰りますし、必要なら大会とかも穴埋めで出ますから。つーか、部活動の顧問をしていれば少しでも手当が出るでしょ? それに大会以外はあまり引率することのなさそうな部活の顧問をしている方が他の部活よりは楽だと思いますけど?」

 

 滝浪先生がさっきよりも長い溜息をついて体を起こす。

 

「無駄に知恵が回る奴だな、お前」

「すいません、俺子供なんで何言っているか分からないっす」

 

 頭をかいて左手をこちらに出す。

 その手に俺が食い終わった弁当を入れたビニール袋を渡した。

 

「誰がゴミ渡せって言ったんだよ! 入部届だよ!!」

 

 頭に当たるコースを避けると俺のカバンの中にホールインワン。

 おお、ナイスイン。結局自分で捨てなきゃダメなのね。

 

「これは失礼、てっきり捨ててきてもらえるかと。えっと入部届は……」

 

 カバンの中を探せども出て来るのはメモしたノートだけ。

 おかしい、いつ出してもいいように適当に書いてカバンに入れておいたのに。

 

「今、ないんで今度出します」

「ここまで引っ張っておいてないのかよ、まぁいいわ。気が向いたらでいいから今度持って来い」

「ええ、絶対に持っていきますから待っててくださいね。滝浪せーんせ」

 

 嫌そうな顔をする滝浪先生に向かって舌を出す。

 人をからかうのは楽しいね。

 さて、音合わせを――え? 授業だから帰れ?

 

 ケチ。

 

 

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