この音は、ただ君の為に。   作:月の城

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緊急事態宣言により、お休みを……というわけでもなく。
GWが明けてから、ようやくのお休みです。
まさかの1ヶ月空いてしまいましたが、まだまだ熱意は冷めてません!


3話

 ねっむー。

 時刻は日曜日、もうすぐ13時になる頃かな?

 

 今日は駅の近くで開催される邦楽のイベント、春の邦楽祭に来ています。

 しおりを見る限りだと、鳳月会がトップバッターで演奏するみたいだからそれだけ聞けばさっさと帰る予定。

 

 こういうイベントにはじいちゃんと一緒によく来ていたから、その方面には顔を知られていたりする。

 大会の場で演奏するときと、普段の日常での姿。

 髪型、眼鏡、服装と外見が全く違うのもあって気付かれにくいんだけど、昔馴染みの連中には割とすぐバレたりする。

 

 本当にすごいよね。演奏するときはウィッグまで使って長髪にしているのに、それでも看破してくるって……。魔眼でも持っているんじゃないかって疑ったけど、この世界にはファンタジー要素が全く見当たらないんだよ。

 

 というわけで、今の格好はジーンズに、グレーのパーカーという地味目に固めております。

 鍔付きの帽子もかぶっているから顔を見られる可能性も低い。

 

 

 ぱーぺきだ。

 

 

「えー、みなさん。今日は春の邦楽祭へようこそいらっしゃいました。これから演奏されるのは、邦楽の魅力満載のプログラムなのでぜひ堪能していってくださいね!」

 

 ごめんなさいね、最初に弾かれる『龍星群』にしか興味ないんでさっさと帰ります。

 

「では、まずトップバッター。筝曲鳳月会のみなさんに箏を披露していただきましょう! 曲目は、綾瀬タキ作曲の『龍星群』です!!」

 

 司会者が横にはけると、着物を着た小学生の女の子たちが出てきた。

 随分可愛い子たちが出て来たなぁ。

 つーか、この世界で箏を弾く子たちってみんなレベルが高い。

 将来美人になるだろうなぁ、と思いつつも幼過ぎて恋愛対象には入りません。ロリロリの気持ちもわかるけど、俺はタメか年上がいいです。

 

 ジャラン!!

 

 演奏が始まり、周囲の喧騒が一気に静かになる。

 ……聴くだけ聴いてみようか。

 

 

 

 

 

 近くのファミレスで遅くなった昼ご飯を食べ終えて、食後のアイスコーヒーを飲みながらさっきの曲を振り返る。

 聴いてみた感想としては上手かった。

 

 ただそれだけ。

 

 実力は名門とうたわれるだけのことはあった。でも、俺が求めていたものは何もなかったことから無駄骨となってしまったわけなんだけど、なんだかなぁ。

 このあとは帰っても特にやることがないし、ばっちゃんのところにでも顔を出すか。

 

 マドラーでコーヒーを掻き回していると、どこかで聞いたことがある声が耳に入ってきた。

 

「マジか! 席空いてねぇーのかよ!?」

「すいません、只今満席でして少しお待ちいただくことになります」

「いいじゃんチカ、少し待ってよーよ。歩き疲れちゃったし、他の店に行くのも面倒だし」

 

 あのイケメン男子は……よく見れば眼鏡君もいる。

 他の連中は見たこともないけど、ん~。

 

 お冷を取りに行くついでに入口で対応していた店員に話しかける。

 

 

「店員さん、彼らが良ければ相席でも構いませんけど?」

「え、よろしいのですか?」

「あれ? お前確か」

 

 

 イケメン男子が何かを思い出そうとしているようだけど、眼鏡君に話しかける。

 

「俺はもうコーヒー飲めばお会計するだけだから悪い話じゃないと思うけど?」

「そうなの? いいじゃん、席譲ってくれるってんだしそうしようぜ」

「俺も腹減ってるからそうしてくれると助かるな」

 

 眼鏡君の後ろから出てきたフワフワしている可愛い系男子と、おデブがささっと俺が座っていた席に向かっていった。

 おいおい、そこはお連れさんの意見も聞いてからにしなさいよ。

 

「すみません、うちの部員が」

「構いませんよ。それに部員ということは、廃部は免れたんですね」

 

 席に向かいながら口に出した言葉に、眼鏡君の動きが止まる。

 

「あ!! どっかで見たことあると思ったら、お前部活発表会で椅子を蹴っ飛ばした奴か!」

 

 お、正解だ長髪ボーイ。

 

「そうだよ、初めまして筝曲部の皆さん。その節は失礼しました」

「いや、あれは聴いていない周りの連中が悪い。お前が謝ることじゃないだろ」

 

 いいやつじゃないか、イケメン男子。

 しかし、眼鏡君を除いた他の野郎どもが目をそらしたのは見逃さなかったぞ。

 ということは、イケメン男子以外の人は人数合わせか何かかな?

 

「つかお前、こんなとこに一人で飯食ってるってことは何か用事でもあるのか?」

「ん~、用事があったってほうが正しいかな。駅前で開催していた春の邦楽祭を聴きに来ててね、それが終わって知人の店に行こうと考えていたところ」

「すごかったよねー、あれ。最初に出てきた箏どうだった? 俺はもう圧倒されちゃったんだけどさぁ」

 

 う~ん、正直に言っても鼻につくだろうし。

 かといって、この人たちとそこまで仲がいいというわけでもないから……ちゃっちゃか帰ろう。

 伝票を持って席を立つと、濁した言い方で一言だけ告げた。

 

音は合っていた(・・・・・・・)から上手かったんじゃない? じゃあ、あとは皆さんでごゆっくり」

 

 外ッ面だけの音なんて今更求めてなんていない。

 これも言っちゃうと、箏が上手い奴みたいに捉えられそうだ。よ~し、堂々と言えるよう爺さんみたいに頑張るぞ。

 

 1,862円!? 俺そんなに高いの頼んだっけ……あ、あのチキンセットか。

 

 

 

 

 

 

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