異動、引っ越し、新環境での慣れ。
忙殺の日々で小説を読むという行為すら出来なかった1ヶ月ですが自分の能力の無さのせいですね、はい。
言い訳はこの辺にして、早く次を出せるように頑張ります。
そして、新たに感想をくださったお二方ありがとうございます!
読みやすい文章を心がけて頑張っていきますので、今後ともよろしくお願いいたします。
「かんぱーーい!!」
教頭と全校生徒を納得させ、廃部の危機を乗り越えた筝曲部の面々は部室で打ち上げを行っていた。
「俺らすごくね!?」
「人生であんな拍手貰ったの初めてだぜ!」
「これでもう部は安泰だね!」
いつもの3人組が肩を組みながら騒いでいた。
「うん、一時は本当どうなるかと思ったけど……みんな。精一杯頑張ってくれてどうもありがとう!」
筝曲部の部長である武蔵が笑顔で実康たちに言うと、三人は揃って頭を掻く。
「な、なんだよー、照れるじゃねーか!」
「いや、むしろこっちこそ……。なんかさー、あーいうの……俺初めての感覚だったんだ。一つの事を一ヶ月間びっちりがんばって、本番で全力出し切って、誰かに認められて。弾き終わった後の熱気とか、全身痺れる様な感じとか――なんか、すげーいいなって思ったよ……とか言ってみたり……」
最後は声が小さくなっていったが、光太と通孝が隣で聞いていてそれをいじっている。
その言葉に武蔵は何かを感じたのか、先輩たちが書いた『めざせ全国!!』の紙を見て詰まりながらも話し出す。
「あ、あのさ! ――も……もしみんなが良ければ、こ、このまま……ぜ……全国……目指してみませんか?」
一瞬の静寂のあと、五人それぞれ違った反応を見せる。
「うおおおー、いいねいいね!! 全国――なんかかっけぇじゃん!!!」
「俺もやりたい!!」
「この勢いでいっちゃおーぜ!!」
「やるからにはてっぺんとるしかねーだろ」
「私は最初からそのつもりですが」
思っていた反応と違ったことに、武蔵が慌てて聞き返す。
「ちょちょ……、いーの!? そんな簡単に……全国ってそんな生易しい場所じゃ……!!」
「 「 「俺らならダイジョーブ!!!」 」 」
間髪入れずに実康たち三人組が親指を立てて返すと、武蔵がそのまま前のめりになり四つん這いになる。
でも、他の五人が楽しく談笑する姿を見て笑みをこぼすと、もう一つ伝えなきゃいけないことを話す。
「それと神崎君のことなんだけど、朝会の後僕のところに来て来週辺りに部室に来るってさ」
また静寂が訪れたかと思えば、三人組のテンションが爆発した。
「本当ですかたけぞー先輩!?」
「やったー!! 新しい部員が増えるぞ!!」
「おう、これで俺も先輩と呼ばれるのか」
三者三様の喜び方に色々と疑問が武蔵とさとわに浮かぶ。
「足立君はまだ分かるんだけど、水原君と堺君の新しい部員? 先輩ってどういうこと?」
「だって、あの時神崎君は俺たちと一緒に弾くって約束してくれたでしょ? それって部員になって一緒に弾いてくれるってことだよね?」
「俺らの方が早く部活始めてるからな、少し先輩だろ?」
愛が納得したかのように左手の平に右手を打ち付ける。
「なるほど、確かに」
「違うでしょ」
愛とさとわが正反対の声を上げ、お互いに睨み合う。
その場がまた混沌としてきたが、武蔵が賑やかな5人を見て笑みを浮かべる。
――こんなのも、たまにはいいか。
――――――――――
――タン。
出来上がった曲を一通り弾いてみて、違和感がないことを確認した瞬間背中から畳の上に倒れ込んだ。
大会まではまだ日にちがあるとはいえ、後詰を考えればなるべく早めに曲自体は完成させておきたかった。
昔は馬鹿にしていたが、二度目の人生を経験していれば嫌でも認識せざるを得ない。
時間の流れは残酷なまでに早く過ぎるということに。
一週間学校を休んだこともあって集中してできたが、そろそろ学校に行かないとばっちゃんが何を言い出すか分からない。
昨日……一昨日? もっと前だったかな?
一度ばっちゃんが家に来たのだが、俺の部屋を見て鍋にカレーを作って帰っていった。
休憩中だったから少し話はしたんだけど、何話したか忘れたな。
兎にも角にも、無断欠席も度が過ぎればばっちゃんの家に迷惑をかけてしまう。
徹夜で頭がハイになっているのは分かるけど、少し寝よう。
起きてから今日学校に行くかどうか決めよう、うん。
結局、少し寝るつもりがガッツリと寝てしまった。
疲れが溜まっていたらしい。
気が付けばお昼である。
…………飯食って学校行くか、メンドクサイ。
俺が教室に入ると煩かった喧騒がピタッと止んだ。
なんだ、黙っててくれるんなら俺がいるときは何も喋らないでほしいね。
イヤホン越しとはいえ、騒音を完全にカットできるわけではない。
曲に集中したいから、この状態で一日過ぎるなら何も文句は言わないよ。
午後の二限を終えて、部室棟の方へ足を向ける。
帰ろうと思ったのだが、先週眼鏡君に顔を出すと伝えていたのを下駄箱で思い出したのだ。
といっても部室棟なんて来たのは初めてだから、少し探してしまったが無事に見つけた。
まさかこんな端の方にあるとは、大好きなものは最後まで残す派の人かな? ……馬鹿じゃねぇの。
部屋に入る前の常識として、ノックノック失礼しまーす。
「先週約束をしていた神崎ですけど、倉田先輩いらっしゃいますか?」
扉を開けて中を見ると、
あれ~? 俺の記憶違いでなければ『龍星群』を弾いてたのって六人だったような?
「おぉー、待ってたぜ神崎!」
「神崎君が来たー!!」
「よく来たな新入部員」
三人組が歓迎してくれているのはなんとなく分かったけど、おデブが言った新入部員という単語に首を傾げてしまった。
そういえば入部届出してなかったな、そうなるとまだ所属してなかったはずなんだけど――まぁ、いっか。
「聞きたいことはいくつかあるんだけど、まず先に」
荷物を肩から降ろして頭を深く下げる。
「朝会の時は邪魔をしてすみませんでした。もし許していただけないなら気の済むまで殴ってもらってもかまいません」
「ちょ、ちょっと待って。なんでそんな物騒な方に話が進むの!?」
部活発表会とこの前の朝礼。
大会とかではタブーとして当たり前のことをしたのだ。
演奏中と演奏前の邪魔をした身としては糾弾されてもおかしくない。
「頭を上げろよ、別に俺らはお前の事怒ってねぇし殴りたいとも思ってないから」
イケメン男子が嬉しいことを言ってくれるが、今回一番迷惑をかけたのは眼鏡君なのだ。
彼からの許しを得ない限り俺は頭を上げるつもりはない。
「神崎君、僕から君に伝えたいことがあるとしたら一つだけだよ」
――――ありがとう。
……は?
「あの時、工藤君のおかげで緊張が吹き飛んだ。そして、神崎君のおかげで覚悟が決まった。だから怒るよりも、僕は逆に君に感謝しているんだ。ありがとう」
眼鏡君……いや、まだ早いか。
俺は、この人を何も知らない。
「……分かりました、それじゃあこの件はこれで終わりにしておきましょう」
頭を上げて、荷物をまた肩に担ぐと気になっていたことを一つ聞く。
「ところで、頬を腫らしたそちらの人は? この前の朝会の時には見なかった方ですが」
「あぁ、彼女は僕と同じクラスの来栖妃呂さん。先週から入った新入部員だよ」
頭から指先まで見たけど、少なくても箏をやる印象には見受けられない。
……関係ないか、誰が箏をやろうと俺には一切関係ないんだから。
「なるほど、よろしくお願いします。それで、箏を出していないということはもしかして部活休みの日でしたか?」
「休みではなかったんだけど、今度の邦楽祭に出場するための条件として定期テストで赤点を2つ以下にしないといけないってことを話していてね。急遽勉強会をすることにしたんだよ」
あ~、そういえばそんな条件あったな。
俺の場合は二度目ということもあって、軽い復習で済むけど他の人からすればそうでもないか。
しかし、
「そういうことなら、定期テストが終わったらまた来ようと思います。それでは」
軽く礼をして部屋から出ようとしたら、可愛い系男子が声をかけてきた。
「神崎君も俺らと一緒に勉強しようよ? 一緒にやった方が楽しいしさ」
彼に好かれる何かをした覚えはないけど、随分と積極的だな。
ただ、そこまで勉強しなくてもいい俺からすると長い時間拘束されるのは御免なわけでして。
「彼女と勉強会があるから、今度のテストのときにでもまた誘ってね」
手を上げながら部屋を出ていくと形容しがたい声が背後から聞こえてきた。
彼女? そんなのいないよ。
俺にいるのは相棒だけさ。