日本語はムズカシイ……。
新たに感想ありがとうございます!
私の小説を見てくださっている方々のためにも、頑張って執筆していきたいと思います。
定期テストも無事に終わり、テスト前に交わした約束通り俺は今筝曲部の部室に向かっている。
あの面子を見る限りだと、イケメン男子とあの三人組が勉強と無縁そうに見えたけどはてさてどうなったことやら。
邦楽祭、正式には高校生関東邦楽祭と呼ばれている大きな大会だ。
他に大会がない訳でもないが、俺の覚えている中で大きな大会は秋冬に開催される全国大会予選。神奈川県予選は十二月だからまだ半年以上先。
となれば、眼鏡君たちが出場すると言っていたのも間違いなくこれだろう。
大会規模は、俺の住んでいる神奈川県を含めた関東の一都六県。
団体の部と個人の部の二つがあって団体の部は人数制限をかけていない。
共に各県(都)から優秀校、一人を選出してその中から最優秀賞を決める大会。
全国とは違う関東圏の高校生大会だが、全国常連校も普通に参加するから厳しい競争になる。
個人の部も演目はフリーだけど、基本的に高校生大会というだけあって団体の部ほど人は集まらない。
それでも上手い奴はゴロゴロとしている魔窟なのだから面白いわ。
そういった連中の曲は聴いていても不快に思わないから、後日郵送されるDVDで何度も見返す。
――その予定なんだけど、な~んか嫌な予感がするんだよなぁ。
そんなこんな考えている内に、筝曲部の部室前に着いたわけなんだけどやけに賑やかだな。
来ると言った手前帰れないから、この前と同じ要領で行こうか。
「お疲れ様で~す」
ノックしてない?
細かいことは気にするな、禿げるぞ。
「ようこそ、神崎君。君もテストお疲れ様」
「お疲れ様です、あの程度でしたら全然余裕でしたね――って、滝浪せんせーじゃん。お久~」
なんか男4人が壁に向かってぶつぶつ呟いていたり、項垂れたいたりと面白い光景を繰り広げているけど更にその奥にいる人物。
数日の楽園だった数学準備室。そこで出会って以来エンカウントしなかった滝浪先生が椅子に座ってくつろいでいた。
今は教室が以前ほどの喧騒じゃないからまだマシだけどさぁ、あの部屋の方が静かで快適そうだったんだよなぁ。
「いつぞやの問題児じゃねぇか。随分と久しぶりな気がするな」
「一ヶ月? は会ってないからそうなんじゃない? あっ、ここで会ったのも縁だろうしこれ渡しておくよ」
カバンに手を入れて掴もうとしたら、先に口を出されてしまった。
「ゴミを寄越すなよ?」
「…………んなわけないじゃないですか。以前話していた入部届っすよ」
ちっ、ボケを先に殺されたら何も出来んではないか。
素直に入部届を出すと、滝浪先生がさっと眺めて折りたたんでポケットに入れた。
雑だなぁ、まぁいいけどさ。
「え!? なんか自然に入部届出してたけど本当に!?」
「駄目でした? 元々は1ヶ月前に出すつもりだったんですけど、やることがあって出すのを忘れてたんですよね」
ほんと、滝浪先生に会うまですっかり忘れてたわ。
人数もいるみたいだし、幽霊部員もいらないかなぁって思ってたところにあの演奏だもんな。
部室内が一気に賑やかになったが、このメンバーで気になるのは美人女子、あとは……イケメン男子ぐらいか。
美人女子は理解している。
俺と同じように小さい頃から箏を弾いているのだろう。
彼は音に気持ちを乗せるのが上手い。
俺のように空っぽの音ではなかった。
音の響きがまるで違う。
何度も何度も彼女は弾いてきたのだろう。
粗削りで雑な音ではあった。
でも、最後のソロで出したあの音は感じ入るモノがある。
彼女は俺よりも才能があって、努力もしてきた本物。
彼はまだまだ伸び盛りの初心者で、可能性を感じる原石。
対する俺は凡人で、理想だけを追い求めている
それでも……俺は聴いてみたいんだ。
爺さんが言っていた――自身の手で奏でた音によって生まれる、…………心が震える演奏ってやつを。
「少し、部の雰囲気というのを見たいので今日は見学させていただきますね」
「あ――、うん」
滝浪先生の横に椅子を持ってきて座ると、眼鏡君たちが箏の準備を始めた。
「一つ質問いいか、問題児?」
「何ですか滝浪センセー?」
小声で聞いてくるあたり、周りに聞かせたくない話なのだろう。
「入部動機、あれはどういう意味だ?」
「そのまんまっすよ? 彼らの演奏に気になる音があった。その音をもう一度聞いてみたくなっただけです」
最後のラストスパート。
龍を幻想させる演奏、それをこのメンバーがどうして弾けたのか?
動機としてはそれで充分じゃない?
しかし、イケメン男子は頭で釘を打つ練習でもしているのかな?
なかなかに面白いけど、周囲はちょっと引いてるのが分かる。
ん? 頭突きを止めたと思ったら、今度は美人女子に向き合ってどうしたんだ?
愛の告白とか? そしたら全力でニヤニヤしながら見ててやろう。
「俺、お前の六段聴いてみてぇんだけど――駄目か?」
「え……」
「曲と向き合えって言われてもやっぱよく分かんねぇし、お前の六段聴いた方が何か掴める気ぃする。――つか、一度ちゃんと目の前で、鳳月の箏聴きたい。龍星群とか、なんだかんだ俺らに合わせてたとこあんだろーし」
その通りだよ、イケメン男子。
恐らく、彼女の音色があからさまに変わったのはソロパートのところだけ。それ以外では大分窮屈そうな音をしていたからね。
「そーいうんじゃなくて、全力で曲と向き合った本気の箏。駄目か?」
「それ、俺らも聴きてー! つか俺ら鳳月さんの一七弦しか聴いたことないじゃん!」
美人女子が少し
そのまま箏の元まで行って座ると、目を閉じて雰囲気が一変する。
ターン。
……最初の一音で分かってしまう。
彼女が、この六段にひたすら向き合ってきたことを。
『六段の調』という古典曲は、流派によって伝わり方や教え方も全然違う。
出だしの「五」一つにしても、弾き方やテンポが個人によって異なる。
歴史がある分、色んな人の解釈や想いが積み重なって今に至る為、曲に凄く厚みがあるのだ。
彼女の演奏には、どことなく水の気配がする。
淀みなく、清流のように透き通った穏やかさ。
すでに、彼女は彼女なりに六段に対しての答えを出しているのだろう。
演奏が終わっても誰一人声を出さない静けさの中、滝浪先生が全員に問う。
「……なんだお前ら、こいつの演奏聴いてビビったか?」
美人女子の顔が一瞬強張ったが、長髪ボーイが体を震わせながら叫んだ。
「すげぇ……っ! すげぇよ! 何かうまく言えねぇーけどっ、箏って……こんな風にも弾けんだ……はは。鳥肌とまんねぇ」
「俺も俺もっ。なんかすごい心臓バクバクしてるっ! 鳳月さんすごいよ、めっちゃかっこいい!!!」
「俺……音楽で感動したの初めてだ……」
「鳳月ちゃん……すてき……」
長髪ボーイの言葉を皮切りに、可愛い系男子とおデブ、ギャル娘が美人女子に声をかけていく。
「おーい、大丈夫か倉田ぁ?」
滝浪先生が呆然としている眼鏡先輩に笑いながら聞いているけど、あれは聞こえていないな。
あ~あ、楽しそうな顔しちゃって。
そう、今のが六段という
弾き手は違えど、楽譜を覚え、曲想から練り込み、それを弾き込んで初めて人に届く
それを知ったところから初めてスタートラインに立てるんだ。
どうだい、眼鏡君――イケメン男子?
音楽って面白いだろう?
「どうしたらそんな風に弾けるようになんのか、教えてくれ!!」
イケメン男子が美人女子の前に正座で座り、いい顔……真っ直ぐな眼をしながら頼み込んだ。
「――同じように弾く必要なんてないわよ」
イケメン男子の顔が死んだ。
「え、や、そんなショック受けるような話じゃなくて……、今のはあくまでも私なりの六段だから。みんなはそれぞれ、
「分かった! で、それはどうやって弾くんだ?」
生き返った。
ああいうのって、
そんな風に思って見ていたら、滝浪先生がいいことを言った。
「なぁ、お前鳳月っつったっけ? お前がそうやってサラッと言ってることって、こいつらにしちゃすげー高度なことだと思うけど」
「あ゛!? うっせぇな、てめぇ話に入ってくんなよ!」
「あー、はいはい。邪魔者はそろそろ退散すっか。いーもん聴けたし」
滝浪先生が指摘したことで、眼鏡君とイケメン男子以外で固まっていた人たちの表情が崩れた。
そう、君たちみたいに曖昧でも理解できた人たちと違って、音楽という分野に入って間もない人たちに美人女子が言ったことは、時と場合によって悪意となってしまう。
今回の場を見てる限りだと、最終的に滝浪先生がヒール役になって部屋を出ていくみたいだ。
しかし、イケメン男子の怒りようだと滝浪先生と前に何かあったのかな? 他の人たちもさっきまでの固い表情からやる気にシフトしたみたいだし。
「あ、倉田。大会はちゃんと申し込んどいてやっからがんばれよ~」
バタンっと扉を閉めるとともに、イケメン男子たちが騒ぎ出す。
「おっしゃ、やるぜ!!」
「うおお、なんかすげー燃えてきたァア!!」
「やる気あるところにすみません、今日はこれで失礼してもよろしいですか?」
箏を弾こうとしていた全員が手を止めて俺を見て来る。
「もしかして、うるさかったかな?」
眼鏡君が苦笑いしながら聞いてくるけど、大丈夫ですよ。
見てて面白いので、この騒がしさは大して気になりませんから。
「いえ、部室に箏が足りないようですので後日に持ってきてから参加させていただこうかなと。それに滝浪センセーに伝え忘れたこともあったのを思い出しましたし」
失礼しましたの一言で部室を出て滝浪先生を探すと、幸いにも職員室に辿り着く前に見つけることが出来た。
職員室の中にまで入るのはさすがに面倒だったから、凄い助かる。
「滝浪センセー」
俺の声に反応したのか、足を止めて嫌そうな顔をして振り向く。
そこまで嫌がらんでもいいじゃん、まだ何もしてないよ?
「何の用だ、問題児?」
「滝浪センセーに一つお願いがあって追いかけて来たってのに、……反応が冷たい」
「気持ち悪いからさっさと話せ」
おちゃらけた雰囲気を消し、先生の顔を見る。
「邦楽祭の個人の部、俺の名前でエントリーしてください」