この音は、ただ君の為に。   作:月の城

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お久しぶりです。

そしてごめんなさい……、もっと早く投稿するつもりが結局1ヶ月かかってしまいました。

自分の執筆速度の遅さと、またも言い訳ですが――あまりの暑さにダウンしている状態が続いています。
そんな状況下でも、なんとか頑張っていきたいと思いますのでよろしくお願いします。

新たに感想ありがとうございます!
返信の遅さに難がある作者ですが、寛大な心で許していただければ幸いです……。


9話

「ソロ部門……あぁ個人の部か。え、なに? お前、団体の部と両方出るつもりなの?」

「何でそうなるんですか? 俺が団体の部なんて出るわけないでしょ(・・・・・・・・・)

 

 最後の一言、寒気がするほど尖った一言だったのを涼香は感じ取ってしまった。

 自分の過去で起きた、(ひと)場面を思い出すほどに。

 

「俺が入部したのは、この前の全校朝会で彼らの演奏で気になる音があったから。そう志望動機にも記載したはずですよ? 彼らと一緒に全国を目指すために入部したわけではない、だから団体の部に俺の名前は書く必要はありませんよ」

 

 神崎が離れていた距離を詰めると、カバンの中から丁寧に折りたたまれた1枚の紙を俺に渡してきた。

 

「学校応募用紙はすでにこちらで記入していますので先に渡しておきます。必要なのは先生のチェックと許可ですので、駄目であれば早めに教えてください。一般応募で出しますので」

 

『よろしくお願いします』の一言を残して、さっさと帰っていった。

 聞きたいことがあったのだが、あの目は余計なことを喋るなとでも言わんばかりの目付きでとても聞ける雰囲気ではない。

 単純に嫌われているかとも思ったが、あの雰囲気に似た奴を知っている為おおよその予想は付く。

 

「はぁ~、マジで面倒くさくなってきやがったなぁ」

 

 ため息と共に、神崎から渡された紙を持ったまま職員室に入っていった。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 後日と言って、二日後に箏を学校に持っていく俺。

 時間のルーズさが右に出る者がいないと自負している身としては、今回は早く持ってきた方だ。

 ばっちゃんに無理言って、1面貸してもらったわけなんだけど……これが重い。

 

 楽器屋から学校までの距離を考えると、ヒッキーな俺の筋力じゃ時間がかかってしまってすでに放課後になってしまった。

 

 授業?

 そんなもの午前中だけ受けてあとはボイコットに決まってるだろ。

 お昼はちゃんと食べましたとも、ばっちゃんの味噌焼きおにぎり美味かった。

 

 やっと部室の前に着いたと思ったら、部屋の中から聞き覚えのある曲が聞こえてくる。

 

 正直言って下手くそすぎて参考(・・)にはならない。

 ならないけど、四苦八苦して弾いているのだろう。

 一昨日、美人少女が言っていた自分なりの六段というのを模索しているを感じる。

 

 

 ――お前みたいな適当に弾くやつと一緒に弾きたくない!!――

 

 

 ……ちょっと嫌なこと思い出したな。

 でもま、休憩がてら演奏が終わるまで外で休ませてもらうとしますかね。

 楽器を立てかけ、壁に背を預けるとそのまま座り込む。

 

 

 下手くそだけど…………、まぁ悪くはないかな。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 愛たちが六段を弾き終わって少し休憩していると、部室の扉が開いて先日部員になった神崎が箏を持って部屋に入ってきた。

 

「どうもお疲れ様です」

「お疲れ、ってかお前大丈夫か!? 大分汗かいてるけど?」

 

 空いているスペースに箏を置くと、カバンからタオルを出して顔を拭き始める。

 

「全然大丈夫じゃないです、暑いの苦手なのに何で今日に限ってこんなに暑いんですかね? ほんと、雪でも降ればいいのに」

「神奈川で雪って、変なこと言うなお前」

 

 タオルで拭いている手が一瞬止まったが、すぐに動き出した。

 

「では、改めまして1年の神崎孝介です。箏に関しては小さい頃から触っていますのでそこまで素人ではないと思っています。多少口の悪いところもありますが、今後ともよろしくお願いします」

 

 タオルを置いて急に挨拶を始めた神崎だったが、頭を下げたと同時に拍手で迎え入れた。

 

「よろしく~!!」

「これからよろしくな」

「一緒に頑張っていこうぜ」

 

 三人組のいつもの挨拶と共に、神崎が正座して武蔵に質問をした。

 

「来るときに何かを演奏しているようでしたけど、何を?」

「僕と鳳月さんと来栖さん以外で六段を弾いていたんだ。工藤君たちが自分なりの六段を考えて来たみたいでね、それを聴いてたんだ」

 

 神崎が左手を口元に当てて考えていると、ふと視線が来栖の指に向かった。

 来栖本人も突然見られて困惑していたが、神崎が視線を切ってまた武蔵に向かう。

 

「先に聞いておきたいんですが、以前に邦楽祭に出るという言葉を聞きましたけど、それは高校生関東邦楽祭で間違いないですか?」

「うん、その邦楽祭で間違いないよ」

「神崎君も一緒にその大会で頑張ろうね!」

 

 光太が乗り出して神崎の手を掴んで振り回す。

 男女なら美しい光景になるかもしれないが、生憎と男同士。

 神崎が光太の手から自身の手を引き抜くと、拒絶の言葉を放つ。

 

「悪いんだけどそれは無理、邦楽祭の団体の部がある日って用事があるんだよね」

「えっ……?」

 

 光太が唖然とした表情で神崎を見ているが、神崎は持ってきた箏を調弦しながら続きを話し始める。

 

「もっと正確に言えば、今後の団体戦には一切出場しませんのでそのつもりでいてください」

 

 調弦が終わったのか、片耳(・・)にイヤホンを挿して箏の前に座り直す。

 

「ちょっと待てよ、それはどういうことだ? 俺らと一緒に箏を弾かないってことか?」

 

 愛が神崎を睨んでいるが、神崎はそれを意にも介さず箏に視線を向け続ける。

 

「そうは言っていないよ。練習で一緒に弾く分には問題ないけど、大きな大会とかそういった公式の手合いには出ないってだけ」

 

 

 一音。

 

 

 箏を鳴らし再び左手を口元に当てるが、何かを考えているかのようでイヤホンを外してさとわに視線を向ける。

 

「まどろっこしいのは面倒だし、率直に言うね。君たちのような下手くそと一緒に演奏したくないんだ」

「なんだと!」

 

 実康と通孝が腰を上げたが、愛が腕を前に出してそれを止める。

 二人は何かを言いたそうだったが、神崎の方に視線を向けて黙っている愛を見て大人しくまた腰を落とした。

 

「正確には鳳月さん? 君の演奏が飛びぬけて際立っているせいで俺にはひどく不協和音に聞こえてしまう」

「それはただ単にお前の耳が変だっていうことだろう」

「……そうだね、そう言われてしまえば何も言い返せないな。というわけで、そんな俺の耳だと君たちとの演奏に合わせることが出来ないから団体戦には出ないってこと」

「だったら俺らと一緒に練習すればそんなこともなくなるって」

 

 光太がめげずに、再び神崎に呼びかけると軽くため息をつかれる。

 

「だったら、今一緒に弾いてみようか? 君たちが全校朝会の時に弾いていた『龍星群』でいいかな」

「『龍星群』って、お前弾けるの?」

 

 愛が鋭い目付きで尋ねるが、愛に視線を向けると無表情で瞼を降ろした。

 

「それに関しては問題ないよ。去年に直した(・・・)ばかりだから、さっき聴いたのですぐに弾けるし」

「直した?」

 

 武蔵の言葉に答えることもなく、神崎はカバンからボイスレコーダーを取り出した。

 

「後、ぶしつけながらすみません。この部活の間皆さんが弾く曲を録音させてほしいのですがよろしいですか?」

 

 随分と勝手に話が進んでいく状況に姫呂がキレた。

 

「さっきから聞いてればあんた何様なの!? つか、ところどころ敬語とタメ口が混ざっているのも気持ち悪いし」

 

 一瞬だけ姫呂に目を向けた神崎だったが、すぐに視線を外して口を開く。

 

「そういえば、貴方はあの場にいなかったですね。口の悪さに関してはこの人たちに最初に言ってましたよ? そこにいる水原君に部活に誘われた時にね。敬語の方は、まぁこれをメインで話しているから話慣れてこうなったとしか言えないですね。それに――」

 

 愛に向かって今度は鋭い視線を向けると、以前交わした言葉をもう一度紡ぐ。

 

「一緒に弾くって約束は、俺が君たちの演奏を聴かせてもらって気に入ったら(・・・・・・)という約束だったはずだ。元々入部届は出すつもりだったから、君たちの全校朝会の時の演奏は、正直判断に困っててね。こっちのほうが手っ取り早い」

 

 愛と神崎が睨み合う状況が少し続いて、その緊迫した状況が一変したのは第三者の声だった。

 

「やりましょう」

「鳳月?」

「どちらにしろ、このままでは埒が明かないわ。それに下校時間がもうすぐだから、あと一曲しか弾けないのだったら神崎君の腕を知る為にも一度は一緒に弾いた方がいいと思う」

 

 その言葉に、周りが言いたいことを呑み込んだのか、姫呂以外の全員が調弦を取る為にそれぞれ座り始める。

 

「あと、弾く前に一つだけ。途中で何があっても、最後までそのまま通しで弾いてください」

「どうして?」

「演奏を途中で止めてしまったら、――判断できなくなってしまうので」

 

 

 

 

 そして、七人で弾いた『龍星群』を聴いていた姫呂は、全校朝会の時に聞いたものと違いひどくずれた曲だと演奏後に武蔵たちに語った。

 

 

 

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