FAIRLY TAIL〜妖精軍師に愛されし者〜   作:しぐ

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最初の部分は書き上げていますので連続投稿します。


育み

「完成だな」

 

「……ですね」

 

 明らかに下手くそな小屋が出来上がった。

 俺もメイビスも大工の経験なんてないし、木を削り出してどうにかこうにか形に出来た。

 

「この板を貼り付けて、完成っと」

 

 メイビスが書いた妖精の尻尾(フェアリーテイル)支部の看板を貼り付けて完成だ。扉を開けて入ると二人分の寝るスペースに、机一個分の広さしかない小さい小屋だ。うーん狭い。

 

「狭いですね」

 

「そうだな」

 

「……でも、ここが今日から私たちの家、なんですね」

 

「ああ、そうだな」

 

「ラクナと私だけの……私、妖精の尻尾(フェアリーテイル)が出来た時ぐらい嬉しいです」

 

「……ああ、それはよかった」

 

 空っぽの部屋でここまで感動してくれるとは作った甲斐があるってもんだ。後ろで足をぱたぱたさせているだけのメイビスに少しは手伝わせれば良かった気がする。いや、気にするまい。

 

「次は、家具を作らないとな」

 

 ベッドに、机に……うーん、素人には難しい気がするのだが。

 

「そうですね、頑張りましょう!」

 

 胸の前でガッツポーズを決めるメイビスを見てれば頑張ろうかって気分になる。その小ささと相まって愛玩動物的な立ち位置で癒しを与えてくれるのだろうか。無差別に死を撒き散らしている点を除けば。

 

「むっ、今よくないことを考えましたね」

 

「よくわかったな。背が小さいなって思ってたんだ」

 

 わしゃわしゃと撫でると、子供扱いしないでください!と吠えた。目一杯跳ねても俺の胸にも届かないメイビスなのだ。充分子供である。

 

「やっぱり! 私にはお見通しなんですから!」

 

「ははは、悪いな。事実なもんで」

 

 何はともあれ、家を整えねば。

 

 

 

 

「……まずいぞ、メイビス」

 

「緊急事態ですね」

 

 何を隠そう、俺たちお金が無いのである。俺はともかくメイビスは何も持たずに飛び出してきてしまった模様。お金を持って出てくる暇も無かったのだろう。それは仕方ないが、ふかふかのベッドで寝たい俺たちの夢を阻むのは金である。

 

 今度はメイビスにも手伝ってもらってこれまた不恰好なベッドと机を完成させたが、さすがに布団などの作り方は知らない。例えお金があったとしてももう日が沈んでいるから買えないだろうが。

 

「私は、このままでも大丈夫ですよ」

 

「……なら、いいんだけど」

 

「こうすればいいんです」

 

 木のベッドに寝転がったメイビスに手招きされて寝転がる。ぎゅっと抱きしめられて、微笑まれた。

 

「ねっ、暖かいでしょう?」

 

「……いや、敢えて何も言うまい」

 

 暖かい。背が小さいだのなんだのと言っておいてアレだが、女性特有のちょっと高めの体温と身体の柔らかさ。そして極めつけはさらに柔らかい慎ましやかな胸……ぬかった。最高である。

 

「腕を貸そう」

 

「わーい」

 

 布団を提供してくれたのなら俺は枕を提供しよう。ギブアンドテイクは基本だ。柔らかい布団に対してゴツい腕は少し釣り合っていない感じはするがこの際気にしない。

 

「ラクナの腕も、暖かいです。……暖かい」

 

「そりゃよかった」

 

 今日はもう寝よう。明日の事は明日考える。行き当たりばったりな生活だが、メイビスと一緒なら、楽しくやれそうな気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 それからしばらく経って。

 

「今日のご飯は何ですか?」

 

「なんかこう……色々煮込んだやつ」

 

「美味しそうです!」

 

 そうだろうか。しばらく食べていれば慣れるが最初はまあ酷いもんだった。二人一緒に吹き出した時は笑ったな。

 

「むっ、ラクナ。腕上げましたね!」

 

「しばらくやっていれば、多少はね」

 

 無ければ無いなりに工夫は出来るようになる。ちなみにメイビスは今俺の背に乗っかってバタバタしている。肩口から顔を出して調理の現場を覗き込んでいるんだが、割と邪魔だ。楽しそうならよしとしようか。

 

「……せめて殺してしまった命、有効活用しないとですね」

 

「メイビスのおかげで狩りが楽になるな……いや待て、冗談だ。睨むな睨むな」

 

 俺は場を和ませようと……抓るな。叩くな。蹴るな!痛くは無いがかなり鬱陶しい。

 

 基本的に狩りに出るのは俺だが、この近辺に迷い込んだ動物やたまに運動する時に運悪く遭遇してしまった動物など、メイビスに近付いてしまった動物たちはなるべく食べるようにしている。それがせめてもの有効活用で、一番メイビスの心に負担をかけないだろう。死を、正当化出来るのだから。

 

「……本当に」

 

「…………」

 

 だが、人は別だ。頻度は低いがこの辺りにも人は現れる。盗賊などの悪い奴らならまだどうとでも言い訳は効くが、狩りにやってきた善良な市民、依頼を受ける為にこの近くを通った魔導士などを殺してしまった時のメイビスの消耗具合は見てて心が痛くなる。

 抱きしめて、ひたすら宥めるしかない。俺がいる。俺は生きていると、そう何度も伝えてようやく正気を取り戻してくれる。

 

「ここは落ち着きます」

 

「俺の背にリラクゼーション効果は無かった気がするけど」

 

「……そう言う事じゃありません」

 

 ぷいとそっぽをむかれた。そろそろ出来上がりますよ、お嬢様。

 

「あれ、調味料使いました?」

 

「ああ、うん。ちょっとね」

 

 魔導士の死体を漁ったら色々ゲットしたから適当に使ってみたんだけど、いい感じの味付けになったようだ。ただ、死体漁りをしたってのは確実にメイビスに負担をかける。

 俺自身は何の抵抗も無いのでルンルンで漁る。メイビスは優しいから、殺したくないものまで殺して、耐えられるとは思えない。向こうから金がやってくるのだ、お得だろう。口に出す事はできないけれど。

 

「美味しいです」

 

「……お、本当だ。さすが調味料」

 

 適当でもなにかと美味しくしてくれるのが調味料である。これぞ人類の叡智。スープの味が一気に濃くなった。調味料って凄い。

 

「支部も、充実してきましたね」

 

「おう、生活方面にな」

 

 机は食事をする時にしか使ってないし、物が増えてきたから雑多な感じが出てきた。生活感が出てきたと言えばいいのか。申し訳程度に壁に設置されたリクエストボードに依頼書が貼られた事は無い。ボードの上に書いてある文字は、メイビスの手書きである。自信作です!と胸を張っていた。

 

「いずれ大量の依頼書で埋まりますよ!」

 

「……その依頼消化するの俺以外いるの?」

 

「…………支部長命令です。その時は全部片付けてください」

 

「めんどくせえ!」

 

「そんな事言わないでくださいよ!?」

 

「うおっ、飛び掛かってくるな!鬱陶しい」

 

 未来の事を話せるなら大丈夫だろう。日を跨ぐ度に、メイビスの心は回復し、消耗している。メイビスがそこにいる限り死はばら撒かれる。無差別に、限りなく。

 いつまで保つのかわからないけれど、俺はいつまでも付き合おう。ああ、そんなの抜きにしても、メイビスといるのはとても楽しい。こんな事を考えるのはメイビスに失礼かもしれないけれど、とても、心が満たされるんだ。


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