アルカディア号になって艦これの世界にお邪魔してみた 作:Archangel
ですがこの主人公にそんな崇高な理念なんてありましたっけ?
北大路邸玄関
黒塗りのハイヤーが止まり愛娘である花火が護衛艦と共に降りてきた。
約3ヶ月振りの再会、見たところ元気でやってくれているようで何よりでもある。
ところが驚くことに三人目が助手席から降りてきたのだ。
黒い衣服に黒いマント。
胸には大きな髑髏、腰には西洋剣と銃という物騒な出で立ち、しかもあれは…。
私と同じ男ではないか?!
隣では妻も驚いた顔でその男を見つめている。
ハイヤーに乗っていた時は分からなかったが、たいそう背が高い。
男はそのまま何も言わず娘と護衛艦娘二人分の荷物を手に持った。
(男の少ない世界だというのに女である娘の荷物を持ってくれるだと?!)
「花火、コチラの方は…。」
「お父様、お母様、お久しぶりです。彼はアルカディア号さん。足柄と共に私の護衛という事で柱島から来て頂きました。彼は唯一の男性艦なんです。」
「まあ、それはそれは。ようこそいらっしゃいました。」
「北大路提督の御父上と御母堂であらせられるか。提督殿にはいつもお世話になっている。今回、提督殿から直々に護衛任務を拝命し同行させて頂く事となったアルカディア号だ。」
全力で任務を全うすることを誓おう、そう言うとアルカディアとやらは剣を抜いて前に掲げた。
数多の戦地、いや死地を越えてきたのだろう、意志の強さが宿る目をしている。
(でかしたぞ、花火! この世の中、自分のカで男性を見つけて来るとは。しかも男性艦ときたか! さすがに気分が高揚するな。)
ついてこいとだけ告げ踵を返す。
後で聞こえる妻の声も実に嬉しそうだ。
「ん? あれは…。」
門から玄関へ向かう途中、後ろでアルカディアの訝しそうな声が聞こえた次の瞬間…。
「危ない!」
という叫びと共に彼が石畳みを外れ脇にあるツツジの茂みに頭を突っ込んだ。
全員ポカンとしていると彼は茂みの中から青白い子供を引き摺り出した。
いや、それは体系こそ子供ではあるものの、形としては異形ともいえる存在。
頭が牛鬼のようになっており、一目見て人間では無い事が分かる。
「PT小鬼?!」
もう一人の
「アルカディアさん、他には?!」
「今のところコイツだけだ。だが襲撃が失敗した以上、再度、刺客が来る可能性が高い。足柄、油断するな。」
何という事だ。
娘と会えた事で浮かれていた私達と違い彼は警戒を怠ってはいなかったのだ。
足柄と花火の荷物に付着したを叩き落としながら彼が石畳に戻って来た。
なるほど、両手が塞がっていたため彼は頭突きという手段を取ったのか!
「PT子鬼は我々が通り過きた後、後ろから狙うつもりだったのだろう。大した武器は持っていないが、それは艦娘に対してだ。相手が人間であれば十分な脅威となる。」
人間…、それはすなわち
改めてゾッとする。
娘も怯えてしまったのだろう、ピッタリとアルカディア殿に身を寄せている。
とにかく彼には感謝せねばならない。
出会って早々だが私は彼に信頼を寄せ始めていたのである。
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北大路邸居間
娘の荷物を部屋へと運んでもらったあと、彼と足柄にも居間に来てもらった。
緊張から喉が渇いていたのだろう、何杯もお茶をお代わりするアルカディア殿。
「お父様、お母様。北大路花火、ただいま戻りました。」
ややあって、正座した花火が私達に帰宅を告げる。
「うむ…。」
「元気そうで安心しました。お父様はブルーメール家のお嬢さんの下で働いてもらえれば家から通えるのにといつも仰っているのですよ。」
「そうですか。でも私も一つの泊地を任されていますし、多くの艦娘達がいるのでそれを捨てていく事は出来ません。」
その代わり、月一の提督会議の帰りには出来るだけ戻るように致しますと約束してくれた。
何とも残念な事だが、ハッキリと娘が自分の意見を言えるようになったのだ。
これも成長の証。
さらに表情や話し方などからも婚約者であるフィリップの死を乗り越えてくれたとみえる。
ん、アルカディア殿の様子が少しおかしい。
何か先程からソワソワと落ち着きが無いのだ。
娘の近祝報告を聞いていると、やおら彼が少し失礼すると部屋から出て行ってしまった。
「どうしたというのでしょう? 何か気に障る事でもあったのでしようか?」
「いえ、そんなことは無いと思いますけれど…。」
妻と花火が首を捻る。
「そうよね、でも心なしか落ち着きが無かったような…。」
もう一人の護衛艦娘である足柄とやらも私と同じ事を感じていたようだ。
「そうそう、提督ったらアルカディアさんに正室に選ばれたのよ。」
「あ、足柄?!」
「あら、あらあら。じゃあ孫の顔を見る事が出来る日も近いという事かしら(笑)?」
「も、もう、お母様ったら!」
妻の言葉に娘は真っ赤になって顔を覆ってしまった。
しかし、初係か。
さらに気分が高揚するな。
ましてやそれが男児なら尚更である。
さすがの私もニヤけ顔が止められそうにない。
そう思った時、明らかに人間のモノとは違う叫び声が響き渡った!
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北大路亭中庭
全員で居間から飛び出す。
廊下の先、中庭の厠前にいるアルカディア殿を見て我々は再び驚愕する事となったのだ。
厠の扉は開かれており、彼の手に握られた西洋剣の先には何と先程とは別個体のPT子鬼とやらが串刺しになっていたのである。
成程、先ほどからアルカディア殿がソワソワしていたのはこれか!
アルカディア殿はまだ刺客がどこかに潜んでいるのが分かっていたのだ。
この中庭にある厠は私達家人はおろか使用人でさえも滅多に使うことは無い。
PT子鬼とやらはそれを分かってここに忍んでいたのであろう。
それを発見したという訳か。
「一つお聞きしたい。アルカディア殿には近くにという事が分かっておられたのか?」
「ああ、そう遠い場所なはずが無い。」
そう遠い場所なはずがない?!
なんと、彼は刺客が居間の近くに隠れる事まで予測していたというのか?!
我々が言葉も出ない位感心している間に彼は井戸水でPT子鬼の血を洗い流していた。
「御父上、万全を期し今宵は北大路提督自室の前で待機させてもらう。螢、アルカディア号の全レーダーの常時作動を頼む。」
娘の自室前で待機、そしてレーダー?とやらの常時作動。
寝ずの番をしてくれるというのか、胸が熱いな!
「正道さん?」
感心していると妻が私に耳打ちしてきた。
ふむ、なるほど…。
「アルカディア殿、申し訳ないが万全を期すというのであれば娘の部屋の中で待機していてもらいたい。」
いや、それは…、と言葉に詰まるアルカディア殿であったが、君に拒否権は無いのだ。
妻の言うように間違いが起きる可能性は出来るだけ多い方が良い。
娘も、その方が…、安心できます(ぽっ)と頬を赤らめている。
それにアルカディア殿は素晴らしい活躍で横須賀、いやこの日ノ本を救った義賊だというではないか。
いや、何から何まで気に入った。
君には是が非でも娘と一緒になっていただこう。
※花火さんのお父上に早々に気に入られてしまったアルカディア号、次回はアルカディア号視点のお話になります。