ワールドフロントライン   作:K-Rex-V

3 / 7
第三話「緩やかに浸食する狂気」

「またこの島に来るなんてね」

「私は結構好きよ?この島ってとても綺麗じゃない?」

ため息混じりにそう呟くAR15と再び島の美しい景色を見れることに喜ぶAK12。

現在、反逆小隊とアンジェリアは旧ロシア派が拠点とする、あの島にまた来ていた。それは旧ロシア派残党のリーダーであるアリスタロフ中将からアンジェに会って取引をしたいと、アンジェリアの端末に秘匿メールで送られて来たからだ。

 

「内務省の者だな?アリスタロフ中将がお呼びだ、着いて来い」

十数人という少々大袈裟な人数で案内されるアンジェ達…旧ロシア軍人達は反逆小隊を信用しておらず、いつでも射殺できるように目を光らせていた。

数十分程歩き中将がいる部屋まで到着し、兵がドアをノックする。

「中将、失礼します。例の者達を連れて来ました」

「入っていいわよ~」

そう言われ、部屋に入ると…

 

「テロリスト達が住む楽園にようこそ!歓迎するわ!盛大に…ね?」

そこ居たのは女性というには、あまりにも大柄で筋肉質な体…薄く髪を残す程度には剃っている頭と眉は銀髪に染めており、少し薄く化粧もしている。唇には淡いピンク色の口紅をしていた。

 

「アリスタロフ中将…真面目な話をするときに女装はお辞め下さいとあれほど…」

「ちょっと!アリスタロフじゃないわ!アリスとお呼び!」

「中将、それは英国人の名前です」

「お黙り!」

部下に注意される目の前の化け物…いや、失礼…男はオカマだった。

 

「随分と個性的な趣味をお持ちのようで…ご存知の通り、私がアンジェリアです」

若干引きながらも挨拶をするアンジェ。

「あら嫌だわ!はしたない姿を見せてごめんなさい…私がここの残党軍を率いているアリス中将よぉ~」

「アリスではなく、アリスタロフ中将です」

挨拶しながらもしれっと自分好みの名前に変えようとするアリスタロフ中将だが、側近の部下に訂正される。

 

「んぅもう!細かい男はモテないわよ!」

「残念ながら私は既婚者ですので」

「知ってるわよ!…くっ、何で私には白馬の王子様が来ないのかしら!」

「筋肉モリモリマッチョメンの変態オカマだからでは?」

「誰が筋肉達磨の変態だこの野郎」

裏の性別がちょっと出ながらも、残党軍を仕切る将軍とは思えない会話を部下と繰り広げるアリスタロフ中将。

 

「中将、そろそろ本題に入っても良いでしょうか?」

無駄話が終わりそうにない中将達に話を切り出すアンジェ。

「そうねぇ…。まず貴方達を呼んだ理由は、現在内務省からMIA認定されてる貴方達がちょうど都合が良いから…ということを前提として話を聞いて頂戴ね?」

「………分かりました」

 

中将が部屋を暗くして、リモコンでスクリーンを起動させる。スクリーンにはロシアの地図が映し出される。

「私たちは現ロシア政府…新ソ連から政権を取り戻すという目的の為にクーデターを起こしている…ということは知ってるわね?」

「…勿論です」

中将の問いに頷くアンジェと反逆小隊の4人。

 

「貴方達には、これから2日後に決行する作戦に参加して欲しいの」

「…メリットは?」

「そうねぇ…これから襲撃する基地にリコリスのとある研究データが存在すると言ったら?」

「…ぜひ参加させて下さい」

「待って、まだどんな内容かすら聞いてないわよ?」

中将から提案されたメリットに作戦の参加を即決するアンジェにAR15が反対する。

 

「今説明するから落ち着いて。ヴォロンツォヴォの少し北…私達の島があるカラ海から見てちょっと手前側ね…そこにカーター将軍指揮下にあるД21基地があるのよ」

「確かに、あそこには要塞と化した基地があると聞いたことが…」

「そこに貴方達が欲しがってる…又は何かの役に立つデータがあるわ」

「本当に役に立つと良いのだけど…フフッ」

「止めなさい12」

 

中将が咳払いをし、話を続ける。

「私たちの目的はД21基地で何かの会議をするために複数の高級将校らが集まるみたいだから、そこを狙って一気に邪魔な将校を排除しようって話よ?簡単で分かりやすいでしょう?」

中将が気持ち悪いウインクをしながら説明する。

 

「貴方達に手伝って欲しい理由は、10日前に私達の内乱にドイツ軍が介入したから…そのときの戦闘で私達の同志も1人失なったわ」

「ドイツ軍が!?それはあり得ない!」

 

現在のドイツの悲惨な現状を知ってるアンジェは信じられずに驚愕する。

「私も最初は耳を疑ったわ…でも本当よ…同時刻にエストニア国境付近にある正規軍のプスコフ基地が襲われたわ」

「バカな…今のドイツに戦争する余裕なんて…」

ドイツは崩壊液による領土の環境汚染が酷く、他国に戦争を仕掛ける余裕など無いのだ。

「だから貴方達に協力して欲しいの…本当ならこの作戦も準備にもっと時間を掛けてから決行つもりだった…それを早める理由…貴方なら分かるでしょ?」

「ええ…」

 

最早ドイツは止まらない…ならばドイツが本格的にロシアに侵攻する前に、新ソ連政権と旧ロシア政権をまとめ上げ、ロシアに侵攻するであろうドイツにロシアの総力を上げて対処する必要があった。

「あの襲撃以来ドイツ軍が動いた様子は無いけど、予断を許さない状況よ」

「………」

「それにドイツ軍が攻めればカーター達は喜んで報復と称して世界大戦を始めるわ…それは絶対に阻止しないと」

「貴方達が政権を取れば、それを阻止出来ると?」

 

アンジェの問いに中将は頷く。

「新政府もね…一枚岩では無いのよ…戦争を望んでない政治家や将校もいるわ」

「分かりました…協力しましょう」

「ありがとう…乙女同士仲良くやりましょ?」

そう言いながら手を差し出す中将。

「乙女…?」

疑問を浮かべながらも中将の握手に応じた。

「何か言ったかしら…?」

「イイエ、ナンデモナイデス」

握手しながら威圧する中将に萎縮するアンジェリアだった。

 

一方ドイツのベルリン国会議事堂では、10日前にロシアに対して勝手に攻撃を命じたことの責任追及をすべく、閣下と呼ばれていたあの男の処罰を決める会議が行われていた。

「貴様!これは一体どういうことだ!」

「そうだ!勝手に軍を指揮し始めたと思えば…何故戦争を起こした!?」

「貴様のせいで我がドイツ連邦はロシアに滅ぼされる!どう責任を取るつもりだ!?」

「答えてもらおう…ツァールトハイト・ドゥム・クラウン国防大臣」

 

議事堂でツァールトハイトと呼ばれた男に向けて怒声が飛び交い、今にも人一人殺せそうなほどの殺気の籠った目を向けられている。しかし、ツァールトハイトは意にも介さないような態度で、冷汗さえ搔かずに狂気とも似た笑みをしていた。

「フフフッ……可笑しなことを言うものだ」

「何が可笑しい!?」

「ハハハハハッ‼…ドイツなどすでに滅んでるも同然ではないか」

「なんだと?」

まるで演劇を観ているかのように笑いながら、ドイツはすでに滅んでいると述べるツァールトハイトの言葉の真意を理解出来ず思考を停止してしまう議員達…。

「第三次世界大戦の事実上の敗戦によって他国の言いなりになり下がった我が国が、まだ生きていると?…笑わせる」

「そっ、それは…」

 

心当たりがある…いや、目から背け続けていたドイツの現状を指摘され、言葉に詰まる者、ツァールトハイトから視線を逸らす者達がいた。

「複数の他国に崩壊液による災害に対しての援助金…という名の一方的な我がドイツへの戦争賠償…しかも金だけでは飽き足らずに日用品や食料に労働者まで他国に送り続けてきた。これに耐えられる程、国民の心と体力はもう残っていないのだよ」

「……」

 

ツァールトハイトの口から放たれる悲惨な事実に言葉を失う議員達。ドイツは第三次世界大戦の敗戦に近い結果によって他国の搾取を黙って受け入れ続けている。

しかし国民は限界だ。崩壊液に汚染されていない限られた土地でようやく作物を育てたとしても、その半分もが他国に奪われる。

当然日用品も、体を温めるストーブの燃料でさえも…そのせいで毎年数多くの餓死者や凍死者、希望の見えないドイツに絶望し自殺する者が後を絶たない。

「奴らには交渉という選択肢は無い…むしろ反抗的な意見を出せば更なる搾取を求めてくるだろう。当然だ、彼らはあくまで勝者で我々は敗者なのだから」

「だからどうした…それが他国を攻撃する理由になるか!」

「なるさ…我々と違って国民は素直で単純な良い人達でね」

「まさか…貴様!?」

 

男の言っている意味が分かった議員達はその顔を驚愕の表情でツァールトハイトに畏怖する。

「なに…少々ドイツ各地を回って国民に顔も知らない赤の他人に搾取され死ぬか、愛する家族や友人達のために死ぬか天秤にかけてもらっただけだよ」

この会議が行われるまでの間、ツァールトハイトはドイツの各地で狂気的な演説を行い、国民にどんな死に方が良いか選択させ支持を集めていた。

「こ、国民まで巻き込んで一体何がしたい!?」

「違うな…国民はもう巻き込まれているのだよ。そこを履き違えてもらっては困るねぇ」

「き、詭弁だ!そんなものは!」

「では国民はいつまで耐えればいい…最後の一人が息絶えるまでか?否、今こそ文字通り死力を尽くし、奴らの圧政から解放されるべきなのだ!」

「いや、お前はただ戦争がしたいだけだ!!」

「やはり分かりえないか…」

 

今だにドイツの現状を打開しようとせず、むしろ諦めている議員達に失望の色を見せるツァールトハイトは突然指をパチンと鳴らした。

すると扉が勢い良く開き、室内に武装した軍人が大勢なだれ込み、議員達を取り囲みながら銃を向ける。部屋に入ってきた者の中には戦術人形も数名程いた。

「貴様ら…これは国家反逆罪だぞ!分かっているのか!?」

「家族が苦しむ姿を見るのはもうたくさんだ…閣下、ご命令を」

 

閣下と呼ばれたツァールトハイトはゆっくりと席から立ち上がり、配下の兵達に命ずる。

「彼らは敗北主義者だ…殺せ」

「はっ!」

「よ、止せ!やめっ」

 

議員達が助けを求めるも銃声が無慈悲に鳴り響き、弾丸に身体を貫かれ、顔の肉や内臓や指などを削がれながら悲鳴を上げる。やがて議員達は息絶え、部屋は血の匂いでむせ返った。

「これでやっと前に進める…そうは思わないか?G36C」

そう問い掛けながらG36Cと呼んだ少女がいる方向に振り返る。ある事情から戦術人形でありながらも姉のG36と共にツァールトハイトに付き従っていた。

「私には分かりません…ただツァールトハイト様のご命令に従うまでですわ」

「ハァ…思考を止めるなど愚の骨頂だ。…これだから側だけ人間そっくりの人形は嫌いなんだ」

「……申し訳ございませんわ」

 

元来与えられた役割をこなすことしか想定されていない人形に、人間と同じように自分で複雑かつ論理的に思考しろというのも酷な話だが、そんなことはツァールトハイトには知ったことではなかった。

「まぁいいさ…老害共は始末できたんだ。…伍長、後片付けは任せた」

「はっ!お任せ下さい!」

 

伍長と呼んだ兵におびただしい程に血が飛び散っている部屋の掃除を命令し、ツァールトハイトはG36Cを含む数人の部下と共に部屋から退出した。

「さぁ…戦争を始めよう!我々を虐げてきた者達に目に物を見せてやるのだ!」

ツァールトハイトは高らかにそう宣言し、ただ一人高笑いをあげていた。

 

 

 

パイロットレコード

デニス・バルリング少尉 KIA

コールサイン:オプファー2

AEG:19

所属:ドイツ空軍第3空軍師団第1戦闘飛行隊

AIRCRAFT:ユーロファイター タイフーン EF-2000

過去にE.L.I.Dから襲われている村を発見し、村を守るためにE.L.I.Dに果敢に攻撃を仕掛け、見事に村の防衛に成功した。この功績が称えられ【ドイツ防衛名誉賞】が授与された。

彼の父は第二次労働者派遣でフランスに派遣されており、過酷な労働によって死亡している。彼に残された家族は足の不自由な母とまだ年幼い弟のみであり、最期の出撃前にはドイツは救われると、俺達は解放されるんだと語り、家族を安心させようとしていた。

 




何か分からない用語や単語があれば感想の方で受け付けていますので、気軽にご質問下さい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。