ワールドフロントライン   作:K-Rex-V

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第四話「アリスタロフ中将の計画」

-Д21基地強襲作戦前日-

 

「さて、以前からいる者達は知っているでしょうけど、最近来たばかりの新入り向けに改めて作戦概要を伝えるわ」

 

アリスタロフ中将が陸・海・空のトップと、それぞれの参謀達や主力部隊の隊長達に加えてアンジェリアを含む反逆小隊のメンバーを集め、ついに明日に決行される作戦内容を説明していた。

 

「まず本作戦の最重要目標はД21基地に集結する7人の高級将校の殺害よ。

その中でも陸軍大将アレクサンドル・レオニート、参謀本部情報総局長官イリイチ・アントノーヴナ上級大将、ヴィクトル・アナ―トリー国防相の3人は必ず殺して頂戴。

この3人は軍内部での発言力が高く、それ故にルクセト連合反対派のまとめ役を担っている大物達よ。

彼らを排除すれば、新ソ連政府内部のルクセト連合反対派の求心力を一気に削ぐことが出来るわ。

それに彼らは13年前の反乱を主導した者達でもある。

これまでに散っていった同志達の為にも、絶対に逃してはならない敵よ。」

 

アリスタロフ中将の発言に、旧ロシア派の者達は散っていった同志達を脳裏に浮かべながら頷く。

「第二目標は同基地内で保管されているリコリスの研究データね…

但し、これは何のデータなのかはまだ分かってないの。

その為、データの奪取はあくまでサブ目標とする。

最優先は高級将校達の殺害。…まぁ、とは言うものの、私もあのリコリスが何を研究していたかは気になるからね…出来れば確保して欲しいわ。

リコリスの研究データについては、そこにいる反逆小隊に任せるわ」

 

だが反逆小隊の名前が出た途端に複数の方向から鋭い視線がアンジェリア達に突き刺さる。

彼らにとっては反逆小隊とは、自分たちが幾多の犠牲を払って計画した作戦に突然、何の代償も無く横から介入してきた余所者である。

しかも、彼女らは元新ソ連政府内務省という胡散臭い肩書きを持つ者達であり、スパイの疑いがある…。

そのため彼らは、未だに反逆小隊を信用せず必要以上に警戒している。

「止しなさい…彼女達は味方よ」

「ですが中将…やはり私はこの作戦に彼女達を使うことは反対です!」

「貴方の気持ちも分かるけど、今はこらえなさい…今回の作戦には電子戦に強い戦術人形が少しでも多く必要なの…」

「それは重々承知しておりますが…」

「なら聞き分けなさいな…彼女達が裏切ることは無いと、私が保証するわ」

「…貴方がそう仰るのなら……」

 

「はぁ…先が思いやられるわね」

「12…私語は包しみなさい」

「はいはい、了解よ」

反逆小隊が作戦に加わることに不満を訴えた者が、引き下がっていくのを確認したアリスタロフ中将は作戦の説明を再開した。

 

「……続いてД21基地までの進行ルートを説明するわね。

まず、カラ海に集結中の揚陸艦含む艦隊をディクソン港に向かわせ、機甲師団と歩兵部隊を上陸させる。

ただ、敵もその辺は予測しているわ。ディクソンに航行中に艦隊は襲撃されると考えた方が自然ね…イヴァン提督、稼働出来る空母の数は?」

 

中将が自分の斜め右側にいる60代くらいの男性に尋ねる。

「現在、正規空母のゴルシコフ1隻と重航空巡洋艦クズネツフォフ級2隻が航行可能です」

 

「そう…ならゴルシコフを旗艦として艦隊を編成して頂戴。今から、その空母3隻が艦隊の要よ。

敵が航空戦力で襲って来た場合を想定して、空母に精鋭部隊を載せて対処させなさい。

敵の潜水艦にも十分警戒して頂戴。

護衛する揚陸艦の損害は陸軍の上陸完了まで一つも許さないわ」

 

「はっ!我らロシア海軍の誇りにかけて!」

イヴァン提督がロシア海軍の魂を、その腕に乗せながら敬礼する。

 

「ただ、敵もディクソンに大軍を配置するはずよ。…上陸戦となれば消耗戦となるのは必須。

であれば最初の上陸はキュクロープスで構成されている人形部隊になるわね。

一番槍を頼めず、ごめんなさいね」

「とんでもない!陸軍としては中将のご配慮に感謝申し上げます」

Д21基地到達まで、陸軍の損耗は最小限に抑えたい旧ロシア軍としては、陸軍の初戦となるディクソン上陸戦で人形に盾になってもらう必要がある。

 

「そして、敵は我々の上陸の食い止めに失敗したとき、Д21基地前方に戦線を引き直す。

そこで艦隊を半分に分けるわ。片方は我々がいる本島に一度帰還し、そこで陸軍の増援部隊を乗せ再度輸送する。もう片方はエニセイ湾に移動し、そこからД21基地を襲撃する味方の支援をする…これで地上部隊はある程度の支援を受けつつ進軍できるはずよ」

「しかし、そんな悠長にしていては上級大将達の脱出を許してしまうのでは?」

アンジェリアは誰もが思うであろう疑問を口にする。

 

「あの基地は強固な要塞…下手な場所に逃げ込むよりも、あそこに留まって地下シェルターにでもいた方が安全なのよ」

 

さらに彼らには基地に立て籠る最大の理由が別にあった。

「それにね…あの基地は施設内の至るところに上級将校達のホログラムを出すことができるの…あれはダミーとしては完成度が高くてね。機械によるサーモグラフィや声紋認識では完璧に誤魔化されて、直接肌に触れでもしない限り、本人かどうか判別が出来ないのよ」

「それではどうやってターゲットを判別するのですか?」

 

基地のホログラムは無数に出現させることが可能であり、敵と戦闘を行いながら人海戦術で上級将校達を探す余裕は無く、ホログラムの突破は事実上不可能に近い。

「ホログラムでは匂いは誤魔化せないわ。…とはいえ、鉄の雨が降り注ぐ過酷な戦場では軍用犬は少々能力不足が否めない…だから太古の動物に頼ることにしたわ」

「太古の動物…?」

その言葉を聞き、その場にいたアンジェリア達反逆小隊以外の皆は中将が過労で、とうとう頭がおかしくなったのかという目で中将を見ていた。

 

「ちょっと!私は大真面目に言ってるのよ!

…昔にね、お金儲けの為に恐竜を蘇らせようと、太平洋のとある島に研究施設を建てた馬鹿がいたのよ。

まっ、恐竜のクローンは大量生産出来たけど、案の定恐竜達が暴走して島は恐竜達の楽園に…

そこで国連軍が島に調査隊を派遣したのだけど、そこで何匹かラプトルの子供を勝手に保護した部隊があるそうなの。

だから国連軍にルクセト連合加盟を条件に、その噂の部隊を貸してくれることになったのよ~」

 

その話を聞いてアンジェリアの顔がひきつった。

「あら…貴方この話知ってるの?」

「えぇ…知ってるもなにも…島から勝手に恐竜を持ち出した人物とは、深い知り合いですから…」

まるで頭が痛そうにアンジェリアが言う。

「そ、そう…まぁ、恐竜なら嗅覚も優れているし、犬よりかは戦場に耐えられるはずだから。

…まさかこんなことで太古の生き物とお目にかかれるとは思っても無かったけど」

 

「恐竜というワード一つでB級映画みたいな雰囲気になりそうね」

「M4…そういうジョークも言えるようになったのね」

冗談一つ言えなかったM4がジョークを口にすし、ほんの少しだけ驚くAR15。

「…ということは、またあの人に会えるのか」

「少しは人形嫌いが治ってると良いのだけど…」

勝手に恐竜を連れ出した人物を思い出しながら、少し嬉しそうに微笑むAN94とは対称的に面倒くさそうな表情をするAK12。

 

「知ってるなら丁度良いわ…あとで国連軍の特殊部隊がいる区画まで案内してあげる」

「え、えぇ…ありがとうございます」

知り合いなら積もる話もあるだろうと、中将はアンジェリアに気を遣ったが、彼女は気まずそうに答える。

「基地内部のマップについては後で、それぞれの端末にデータを送っておくわ。各部隊で確認しておいて頂戴。

…ということで解散よ。各自、明日に備えて休みなさいな」

 

お開きとなり、中将に敬礼して退出していく軍人達…反逆小隊も後に続いて退出する。

そして部屋にたった一人残ったアリスタロフ中将…。

 

「カーター達の戦争を再開させたいっていう気持ちは分かるけどね…私はあの子の願いを優先させてもらうわ」

 

そう静かに決意を口にする中将…胸ポケットから写真を取り出して、写真を見つめ、悲しそうに微笑んだ。

 

 

 

「ユーリ、聞いたか!俺達スラーヴァ隊は爆撃隊の護衛だってよ!」

「ああ、さっき聞いたよディミトリ…また面倒な任務を回されたね」

「はぁ~毎度こんな任務ばっかりで嫌になっちまうよ…」

そう愚痴るディミトリ達はスラーヴァ隊や他の隊の機体がズラリと並んで置かれている格納庫で自身の乗る機体を眺めていた。

 

「ユーリ!ディミトリ!」

すると格納庫の入り口から男が現れ、二人の名前を呼びながらユーリ達の方へ駆け寄っていく。

 

「アイツは…」

「アレグなのか!?」

 

「ああ!アレグだ!また二人に会えて嬉しいぜ!」

 

「ボクも会えて嬉しいよアレグ」

「またそのツラを拝めるなんてな!」

 

ユーリとディミトリはアレグとハグを交わしながら戦友との再開を喜んでいた。

アレグはザヴォディーラ隊の6番として、この島の防衛初戦から参加していた。

 

「そういえばマトヴェイの旦那は元気にしているのか?」

「マトヴェイは……」

ディミトリからザヴォディーラ7であるマトヴェイの名前が出た途端、アレグの顔が暗く沈み始める。

それだけで二人はマトヴェイが戦死したことを悟る。

 

「そっか…マトヴェイさんは逝ったのか…」

「あの旦那が…」

「すまねぇ…マトヴェイは俺を庇って…」

「いいんだ…お前は生きてくれたんだ…」

「息子のように思ってたアレグを救って死ねたんだ…マトヴェイさんも本望だったと思うよ」

二人からの言葉に静かに泣くアレグ。

 

「なぁアレグ…旦那からボルシチ教わってたよな?」

「あ、ああ…」

「ならボルシチを作ってくれよ…皆で食べようぜ!…勿論、旦那の分も作ってな…」

「いいねぇ…ボクもマトヴェイさん直伝のボルシチは大好きなんだ」

「お前らなぁ…そういえばあの日…後でボルシチを馳走してやるって約束してたっけな…たくっ、しょうがねぇな!皆を呼んでこい!たらふく食わせてやるよ!」

「よし!早速準備しよう!」

「俺はザヴォディーラとスラーヴァの奴らを呼んでくるぜ!」

 

その日の夜、ザヴォディーラ隊とスラーヴァの隊の全員が集まって再開を祝したパーティーが開かれた。

皆が座っている、それぞれのテーブルにはアレグが作ったボルシチが置かれている…しかし、ボルシチは誰も座っていないはずの空席にも置かれていた。

それはマトヴェイ含む両隊の戦死者達の分だった。

久しぶりの友人達との再開を楽しみながらも、ふとマトヴェイの遺影が置かれている席を見てみると、ほんの一瞬だがマトヴェイがアレグが作ったボルシチを嬉しそうに食べている姿が見えた気がした。

 

 

 

 

 

機密情報‐A4703

 

 

カラ人工群島ザジヴレーニイ基地

 

カラ海にある人工によって造られた複数の島々によって構成された軍事基地。

元々は大戦前に自然再生活動のために緑豊かな島として造られた。

だが、三次世界大戦が始まると、この島の有用性に気付いたロシア政府が島を軍事利用しようと陸海空すべての機能を兼ね備えた基地を建設した。

現在はアリスタロフ中将率いる旧ロシア派残党軍に軍事拠点として利用されている。

新ソ連正規軍に制圧目標として指定されているが、その自然を利用した防衛術は幾度も正規軍を返り討ちにしており、未だかつてその防衛網の突破を許したことがない要塞である。

 


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