アリスタロフ中将のД21基地攻略作戦の説明が終わり、部屋から退出したアンジェリア達反逆小隊達は、国連軍の極秘精鋭特殊部隊『ゴースト』に会うため中将が呼んだ案内役の兵士に従って歩いていた。
「着きました…こちらの部屋です」
「ええ…ありがとう」
ゴースト達がいる部屋にたどり着き、役目を終えた案内の兵士はアンジェ達に敬礼し、もと来た道に戻っていく。
そしてアンジェリアは事前に渡されていたカードキーで扉のロックを解除し、部屋に入る…そしてM4達も後に続いた。
「邪魔するわ」
そう言ってアンジェ達が部屋に入ると、突然現れた来訪者を威圧するかのような視線が突き刺さる。
部屋には室内という空間にも関わらず、スカルが描かれている目出し帽(フェイスマスク)を被ったゴーストの兵士達が約30人程いた。
その部屋はとても広く、銃やドローンなどの装備品を整備する部屋となっている。
「あんたらは……」
「久しぶりね、彼はいるかしら?」
「隊長なら奥の部屋だ…ちっ…疫病神が来やがった…」
「ずいぶんな言い様ね…まっ、いいわ」
「ハッ!いいか?下手な真似はするなよ?…俺達がどういう存在かは知ってるだろ?」
「ええ、もちろん」
国連軍の特殊部隊である『ゴースト』は基本的に極秘とされているため存在を知るものは少ないが、その存在を知る者からは国境や人種を問わず選りすぐりの精鋭を集め、任務にも忠実であり、時には自身の死すら厭わない忠誠心がある世界最強の特殊部隊の一つとまで認知され、非常に恐れられている部隊である。
しかし、そんな恐るべきゴーストから威圧の目と脅しの言葉を向けられても、アンジェは特段気にせずに飄々とした態度で言われた通りに奥の部屋へと向かう。
そんなアンジェを見て、M4とAR15とAK12とAN94の4人は依然として反逆小隊に嫌悪の目を向けてくるゴースト達に警戒しながらもアンジェに続いていく。
奥の部屋に入ると、そこには他のゴースト達と違い、スカルマスクを被っておらず、素顔をさらしている、隊長というには比較的若い20代くらいの男がいた。
そんな男の前には大きい檻があり、その檻の中には3頭のヴェロキラプトルがいる。このヴェロキラプトルこそゴーストの隊長である彼が助け出した恐竜だ。
「久しぶりね…龍馬…」
「そうだね…久しぶりだね」
彼の名は『北条 龍馬(ほうじょう りゅうま)』。
名前から分かる通り、日本人だ。
顔つきは日本人らしく童顔で、体つきも軍人というには極端に華奢で体格のいい軍人と格闘すれば骨が折れそうな印象を受けるほどには腕や足が細い……しかし若いながらも、その優秀な戦術能力と部隊の統率力からゴーストの隊長を任せられている。
「G&Kにスパイとして指揮官になり、皆を裏切った気分はどうかしら?」
「黙れ、AK12」
龍馬は過去に怪我を負って国連軍を退役したという経歴でG&Kの指揮官に転職したが、実際には国連軍を退役しておらず、ゴーストに所属したままであり、スパイとしてG&Kに入社していた。そして、ある時に彼は用済みになったG&Kから人知れずこっそりと姿を消した。
そのことをAK12から口にされたが、彼はそのことをあまり思い出したくないのかAK12を睨んだ。
「はぁ…で、いったい僕に何の用だ?…まさか世間話をするために来たわけじゃないだろう?」
「えぇそうね。私も回りくどいのは嫌いだから率直に聞くわ…貴方達ほどの精鋭がどうして新ソ連ではなく勝つ見込みがほぼ無い旧ロシア派に加担しているの?」
「中将から聞いてないのか?」
「ルクセト連合の加盟と……」
「そういうこと…もちろん新ソ連の政府が連合入りを目指しているのは知ってる。
けど新ソ連の軍部は違う…あくまで汎ヨーロッパ連合とは敵対するべきという考えの軍人が多い…だからこそカーター達はクーデターを起こした。
そして、政府はカーターを排除しようにも軍部を動かせない…なぜならカーター達以外の他の軍人もほとんどがカーター達と同じく継戦派だから…クーデターを起こしてないだけで裏ではカーター達に支援しているさ」
「やけに詳しいのね…さすが国連といったところか…」
アンジェは国連の情報収集能力の高さに感心していた。恐らくアンジェが元いた国家保安局にもスパイがいただろうと当たりをつけながら…。
「正規軍はクーデター軍と化したカーターの部隊を見つけても何もせず素通りさせるだろう…それどころか資金や装備、人員まで貸すだろうね。だが政府は表向きにはクーデターも起こしていない他の軍人を処罰することはできない…ますます、カーターへの支援は止まらないわけだ」
「そう…私達は現状カーター達に対抗するだけの戦力がまったく足らないわ」
「だからこそ国家保安局は軍とは指揮系統の違うAK12やAN94のような戦術人形を使った」
「それでも彼らには一歩及ばなかった…その結果がこれよ」
アンジェはコーラップス爆弾によって出来た自身の傷痕を指す。
「どうやってもアイツらに敵わないと…私はあの爆弾を使ったわ」
「そしてアンジェは国家保安局からも追われるようになった。
そして国連はこの一連の出来事を知り、他の介入なくして新ソ連のルクセト連合入りは不可能と判断した。
そこで目をつけたのが政権争いに敗れてなお徹底抗戦を続ける旧ロシア派だ」
「待って。そもそも国連はどうして新ソ連を連合に加盟させようと?国連にとってはルクセト連合なんて邪魔な存在でしょう?そこに新ソ連を入れるなんて敵に塩を送ってるようなものじゃない」
突然AR15が至極当然の疑問を投げる。
すると龍馬は一度ため息を吐きながらもそれに答える。
「答える義理はない…と、言いたいところだけど…僕とアンジェの仲だ…答えに近しいヒントは言おう。
外側から直接殴り合わせるよりも、時にはある程度権限を保有した者が内部から足を引っ張る方が厄介ということだよ」
「それをアリスタロフ中将達は…」
中将らが受け入れたか問おうとしたAN94に龍馬は頷く。
「もちろん中将達にも承諾を得てる。だからこそ我々ゴーストが来たんだ。
…初めての経験だよ…外部の人間に指名されて呼ばれるなんて…。
基本的に高級将校でもゴーストを知る者は少ないけど、どうやら中将はしっていたらしい…しかも先代のゴーストのことも…ね」
「それはまさか戦時中に…?」
「ああ、そうだよM4。先代のゴースト達は今のゴーストよりも強かった。
どんな物量をぶつけても、いかなる戦術を持ち得ようと先代のゴーストには通用しなかった…中将はそう言っていたよ」
第三次世界大戦時中にアリスタロフ中将は先代のゴースト達と戦ったことがあった。当時、中将が指揮を取っていた前線で、ある機甲大隊が突然正体不明の敵部隊によって奇襲を受け、40%以上の損害を出したと報告を受けた。
その機甲大隊は敗走中だった敵アメリカ軍の部隊を追撃するために、最新の戦車に迫撃砲や、当時はまだ試作段階だった重装型戦術人形まで投入されていたにも関わらずに…。
相手はたったの60名ほどの人数だったらしい。今のゴースト達と同じく皆スカルマスクを着用していた。それが先代のゴースト達だった。
その後も中将は所属不明の敵部隊を撃退するため、策を練り、討伐部隊を送ったが先代のゴースト達は神出鬼没で、ことごとく撃退された。
やがて、その情報は他の部隊にも伝わり、恐怖が伝染した。スカルマスクを被った謎の部隊は死神が、この世に送った生きる亡霊だと…。
「貴方達よりも強いって……」
今のゴースト達の実力を知るAK12は信じられないとばかりに顔を引きつらせる。
「この子達まで出せと言われたときは流石に困ったけどね」
そう言いながら龍馬は3頭のヴェロキラプトルを優しく見つめる。ちょうど寝る時間なのか3頭で仲良く固まって寝ていた。
「普通だったら驚くべきなんでしょうけど…何故だろう…慣れてしまった自分がいるわ」
そう言ってため息を吐くAR15。
本来なら絶滅しているはずの恐竜が目の前にいるとなれば大騒ぎどころの話ではないのだが、アンジェを含む反逆小隊と、ここには居ない404のメンバーは以前にもゴーストと作戦を共にしたことがあり、その際にヴェロキラプトル達の恐るべき能力を嫌と言うほど見てしまった。
「またこの子達と一緒に動くのね……。この子達の…その…敵の殺し方ってなんかグロいのよねぇ…」
その時の光景を思い出して顔を青くするアンジェリア。
「まぁね…。僕の部下達も最初の頃は、しばらく肉は食べたくないって言ってたよ」
「でしょうね」
苦笑しながら答える龍馬につられて同じく苦笑を浮かべながら同意するアンジェ。この光景だけだったら、2人は仲良のいい友人同士に見えるだろう。会話内容は別に置いとくとして…。
「おっと…聞き忘れるところだった。今回の作戦で投入する、そっちの戦力を聞いてもいいか?」
龍馬は作戦時に効率よく部隊を動かすために、アンジェリアに作戦に参加する戦力を問う。
その意図に気づいたアンジェリアは包み隠さずに自分たちの戦力の全てを伝える。
「今いる私達5人と、今ここにはいない404小隊の4人…あと新顔が2人ほどね。そっちは?」
「なるほど…こっちは僕を含めて34人のゴーストにラプトルが3頭。それに小型飛行ドローンも多数ある」
「多いわね。確か貴方達って6人ずつのチームでしょ?」
「そうだね…本来なら世界各地に少数を派遣して行動するはずの僕らゴーストが、これだけ召集されるのは珍しい」
国連軍の特殊部隊であるゴーストは、少数精鋭で潜入・救出・暗殺・強襲などのミッションをこなす前提での運用になる。
それには一人育て上げるのに莫大な費用と訓練時間を掛ける必要がある。そのためゴーストは一人歩兵一個小隊ほどの実力を有している。
そんなゴースト達が34人も呼び出されるということは、今回の任務が如何に大規模な任務だということか想像に難くない。
「分かってると思うけど、今回の作戦は激しい戦闘は避けられない…多くの死者が出るだろう。それを想定した上で行動して欲しい」
「ええ…分かってるわ」
「OKだ。じゃあ、悪いけどもう自分の部屋に帰ってくれないかな?まだ他にやることが残っているっていうのもあるけど、ゴースト隊員のほとんどは人形嫌いばかりだから…僕も含めてね」
そう言って龍馬はM4達4人を見る。だが彼女達はゴースト達が人形嫌いだということは以前から知っていたので特段驚いた様子は見られなかった。
「ええ、知ってるわ。さっきも熱烈な歓迎を受けたばかりだからね」
AK12は、フフフと笑いながら部屋に入った時のゴースト達の態度を思い出す。
「だろうね…この前の作戦で仲間のガイルとマッコイの2人が死んだんだ」
そう言って顔を暗くさせる龍馬。そしてアンジェリア達はガイルとマッコイとは以前の作戦で共に行動したゴースト隊員であり、酷く驚いた。ガイルとマッコイは龍馬とは訓練生時代の同期で共にゴーストに入隊した仲である。
「重要情報を持った特権階級の人形を救出する任務だった。だけど、その人形はどうしようもないクズだった。
敵に追われながら回収地点に向かっていた時に、あいつは突然一緒に逃げていた自分の秘書の足を撃った。囮にするためだったらしい…僕らはそれを責めたけど、奴は聞く耳をもたなかったよ」
龍馬は当時を思い出し、怒りに感情を囚われながらも、ひと呼吸して気持ちを落ち着かせ、話の続きを語る。
「そしてヤツにとって口答えする僕らが邪魔だったんだろう。わざと敵に見つかり自律ドローンを引き連れてきた。それで口封じをするつもりだったんだ。それで激しい交戦状態になり…2人は死んだ」
「人形嫌いにしては、いつもよりもおかしいとは思ってたけど…そんな事情があったのね」
アンジェリア達は顔見知りのガイルとマッコイの悲劇的な戦死に少し複雑な表情を浮かべる。
「そんなこともあったせいで、今僕らは機嫌が悪いんだ。お互いのためにも長居はしない方がいい」
「そうね。そうさせてもらうわ」
アンジェリアは龍馬に背を向けて部屋の出入口へと歩く。M4とAR15、AK12の3人もすぐにアンジェの後に続くが、AN94だけは龍馬を少し不安そうな瞳で見つめてからアンジェ達の後を追い去っていく。
機密情報―A000061
国連の最精鋭極秘特殊部隊「ゴースト」についての調査報告
ゴーストととは 、一人ひとり違うデザインのスカルマスクを着用した精鋭中の精鋭部隊だ。
彼らゴーストは、主だって軍を派遣できないような任務に少数精鋭として任務を行う。
それゆえに彼らには十全なサポート及び潤沢な資金が用意されている。装備も最新鋭から開発段階の試作品まで使用が可能。
そして彼らは、その恩恵を得るに十二分な実力を保有している。
単独行動でも任務をこなせるよう訓練されているゴーストだが、仲間達との連携によってこそ真価を発揮する。彼らは一人で歩兵一個小隊並みの戦闘力を誇っており、一個部隊での戦闘能力は歩兵一個中隊規模までになる。
忠誠心も高く任務にも従順。模範的軍人と言えるだろう。さらに彼らゴーストにはあらゆる打算的な賄賂が通用しない。
それは彼らの根底には、常人では対処不可能な世界各地のあらゆる悪事から力無き民を守り世界を安寧へと導くという信条があるからだ。
それゆえに最近の調査では、一部の腐敗しきった上層部や特権階級に不満を抱いているゴースト隊員が少なくないということが判明した。
もしも彼らの不満が高まり、クーデターが発生した場合に備えて、ゴーストの抑止力となる対ゴースト用のカウンタウェイト部隊の編成を提案する。