と、そんなわけで今回はロシア視点のお話になります。
いよいよ大規模な戦闘がドルフロ世界で勃発です!どうぞお楽しみ下さい!
新ソ連 クラスノヤルスク地方ディクソン近海
「アリスタロフ中将、予定通り全戦闘艦は所定位置に着きました。全艦砲撃準備よし」
「よろしい、では作戦開始予定時刻にて全戦闘艦は支援攻撃を開始せよ。支援攻撃開始400秒後に上陸部隊は順次発進し上陸せよ」
暖かい太陽の光に照らされ、満天の青空が広がるディクソンではアリスタロフ中将率いる旧ロシア政権派の残党軍が当初の予定通りディクソン近海に大規模な艦隊を集結させていた。
中将は元旧極東方面所属ロシア太平洋艦隊の旗艦であるガングート級戦艦セヴァストポリに乗艦しており、セヴァストポリのCICから全軍の指揮を執っている。
艦隊の主力である原子力正規空母アドミラル・チェルナヴィン級二番艦アドミラル・ゴルシコフは艦隊の後方(水平線の盾)の位置に就いている。アドミラル・ゴルシコフにはイヴァン提督が乗艦し指揮を執っている。
アリスタロフ中将の支持は厚く、空母を含めた戦闘艦だけでも集まった艦は42隻にも及ぶ。
ここに揚陸艦や補給艦等を含めると総勢113隻の大艦隊となる。
ちなみに余談ではあるが集結している艦隊の大半(艦隊の7割ほど)は先ほど記述した旧ロシア太平洋艦隊に所属していた艦挺だった。
アドミラル・ゴルシコフ等の一部の艦艇は北方艦隊から離脱して旧ロシア派艦隊に合流した艦艇だ。
なお新ソ連軍が保有する主力艦隊にはバルト艦隊、黒海艦隊、カスピ小艦隊、対欧州艦隊(しかし対欧州艦隊は第三次世界大戦時に当時のイギリス王立海軍第一艦隊との海戦で壊滅的被害を受けており、無傷な艦艇が少数しか残っていないことから現在では活動しておらず軍港基地で待機中である)の四つがある。
「それにしても変ね。ここまでの道中で潜水艦からの攻撃が無かった…。それとも私達が上陸支援のために砲撃するタイミングで来るのかしら?…いえ、こんな浅瀬で艦を沈めても座礁する程度で艦挺の攻撃能力は失われない。奴らが絶好の機会を見逃すなんて思えないのだけれどねぇ…」
現在、中将の艦隊がいる位置は第三次世界大戦の核攻撃によって小規模な地核変動が起きており、地形が盛り上がったことにより水深が浅くなっている。
そのために現在地では軍艦を完全に無力化することが難しくなっていた。
それゆえに艦隊に打撃を加えるチャンスは道中の移動時のみだったので、その時に備えて警戒していたアリスタロフ中将だったが何故か敵からの攻撃が一切なく無傷のまま指定ポイントまでたどり着いたことに違和感を感じている。
「中将、失礼します…」
「あら、ゴーストの隊長君じゃない。一体何のご用かしら?」
考え込む中将の元に国連軍の特殊部隊ゴーストの隊長である北条龍馬がやって来た。
「先ほどドイツのクーデター軍がドイツ領マクデブルクにある国連基地を襲撃しました」
「そう…予想よりも手が早いわねぇ」
龍馬は先ほど国連から入ったドイツによるクーデターの情報を中将に報告した。
中将は慌てる様子も無く、落ち着いた態度でこれから取るであろうドイツ軍の動きを予測する。
「マクデブルク基地は既に陥落し、ツァールトハイト・ヴァム・クラウンはドイツ東西の統一にほぼ成功。これでドイツのクーデター軍はドイツ国内に存在する他国の勢力を完全に排除したことになります」
「この分だと新ソ連に対して戦争を仕掛けるまで、そう時間は掛からないでしょうね」
「ええ…、さらに今回のドイツの動きを見て、アリストクラシー復権派が怪しい動きをしていると欧州各地から報告がありました」
アリストクラシーとは少数の特権的な貴族が支配階級となる貴族制度のことである。
完璧な人工知能によって国家の運営を任せようとするロクサット主義が欧州で広まったことにより欧州各国の王族や貴族等はその身分と権利を貴族制度廃止と共に剥奪された。
その結果、歴史ある伝統や文化、民族としての存在理由が失ってしまうと不満を持ち反発した勢力が欧州全体で現れ始め、その勢力はアリストクラシー復権派または復古主義者と呼ばれている。
「ロクサット主義を母体とする汎欧州連合も黙ってはいないでしょうね」
「ええ…彼らにとっては何が何でも排除せざるを得ない脅威となるでしょう」
「欧州も荒れるわね…」
二人は、これから欧州で起きるであろう悲惨な未来を想像する。
「あぁ…そうそう。この後貴方達ゴーストにやってもらう任務のことなんだけど…こちらから戦術人形を一人そちらに同行させたいのだけれど良いかしら?」
「は、はぁ…我々の足を引っ張らないのであれば構いませんが…」
「なら大丈夫よ!実力に関しては申し分ないはずだから…じゃあ早速紹介するわね。VSKちゃん、こっちにいらっしゃい」
中将が近くにいる戦術人形を手招きして呼ぶ。
すると金髪のショートヘアの女性型人形が中将達の前に立つ。
「どう?うちの子は可愛いでしょう?宜しくして頂戴ね」
「中将、私は貴方の娘ではないのですが…。コホン、ご紹介に預かりました、VSKです。宜しくお願い致します」
「……宜しく頼むよ」
人形嫌いの龍馬は内心複雑な心境になりながらも、足手まといにならなければそれでいいか…と自身を納得させて業務的な笑みで対応する。
「爆撃隊による敵地上部隊への攻撃の成否は貴方達ゴーストと反逆小隊がレーダー施設を破壊できるかにかかっているわ、宜しく頼むわね」
「了解、大きな花火を上げてやりますよ」
そう答えると龍馬は仲間の元に戻るため部屋から退出した。
「それじゃあVSKちゃんも準備してらっしゃい」
「はい、必ず任務を果たしてみせます」
「期待しているわ…あ、でも貴女好みの童顔だからってゴーストの隊長君を襲っちゃダメよ?」
「なっ…しませんよ!?私をなんだと思っているのですか!?…失礼します!!!!」
中将にからかわれたVSKは顔を真っ赤にしながら部屋を出ていく。
「あらら…からかいすぎたかしら」
「今のは普通にセクハラですよ、ゴリラ中将」
「誰がゴリラだ、殺すぞ」
アリスタロフ中将に煽るような苦言をしながら現れたのはアンジェ達反逆小隊がカラ軍島で中将に初めて会った時に中将の側にいた側近だ。
「だって彼VSKちゃん好みの子供みたいな可愛い顔してるんだものー。アジア人は成人していても子供に見えるって本当ね~」
「はぁ…これが私の上官だと思うと本当に胃が痛みますね」
「どういう意味だコラ。そんなにアツい抱擁が欲しいか?あ?」
「…私はこれでも妻一筋ですので慎んで遠慮させて頂きます」
中将の色々危ない発言に頭を抱える側近。しかしこの軽口の言い合いからも二人が長い付き合いだということが伺える。
「中将、時間になりました」
「分かったわ」
そうこうしているうちにオペレーターから作戦開始時刻になったことを知らされる。
アリスタロフ中将はマイクを全軍に繋げ、待機中の全部隊に砲撃の号令を出す。
「全艦隊砲撃を開始せよ!現時刻を持ってオペレーション・PERVYY SHAG作戦を開始する!我が祖国の明日のために全身全霊を掛けて戦いなさい!」
「「「「ウラーーー!!!!」」」」
中将の声に応えるように旧ロシア派の全将兵が声を上げ、自身達の上陸を迎え撃つ為に決死の覚悟で待機しているであろう新ソ連軍がいる大地に向かって各艦の砲撃、ミサイルが数多く飛んでいく。
対して新ソ連軍も向かってくるミサイルや砲弾を迎撃用レーザー砲台で迎撃していく。しかし、やはり数が多い為全てを迎撃するには至らずに新ソ連軍の陣地に撃ち漏らした砲弾とミサイルが降り注ぐ。
次々と大地を揺らさんとする爆発が新ソ連軍の兵士や人形、無人兵器群を焦がしながら鳴り響く。
《こちら第二防衛線からHQ!敵の集中砲撃によって第一防衛線にいる人形共が吹き飛んだ!至急反撃の許可を!》
《こちらHQ、反撃を許可する。旧ロシア派の連中を盛大に歓迎してやれ!》
新ソ連軍の無線通りに新ソ連軍のレーザー砲台やロケット車両、ミサイルが旧ロシア派の艦隊に向かって反撃を開始する。
《艦尾VLS開け!ミサイルを迎撃!対レーザー用攪乱幕の展開も急げ!》
《くそっ!迎撃しきれない!近接防御開始!対ショック姿勢を取れ!》
旧ロシア艦隊も迎撃処置を取り、対レーザー用攪乱幕でレーザーの威力を減衰させ、VLSでミサイルやロケット弾を撃墜させるが、それでも撃ち落としきれなかった新ソ連軍の攻撃が迫り来る。
近接防御としてCIWSを起動し、各艦に搭載されているコールチクCIWS等の30mmによる圧倒的な弾幕にて迎撃するが、それでも迎撃を掻い潜った幾つかの攻撃が旧ロシア派の艦に命中する。
《こちら駆逐艦マルスカーヤ・ズヴィズダー!右舷に被弾!浸水発生!行動不能!だが砲撃はまだ出来るぞ!引き続き支援を続行する!》
《スィゾーンも被弾した!航行速度が低下した為一旦隊列から離れ後続に道を空ける!》
新ソ連軍の攻撃によって旧ロシア派の艦艇に大小はあれど被害が出始める。
だがそろそろ砲撃開始から400秒が経とうとする。
《HQより全揚陸艦へ、砲撃から400秒が経過した!各艦は前進し各上陸部隊を発進させよ。繰り返す、前進し各上陸部隊を発進させよ》
オペレーターの指示によって多数のイワン・ロゴフ級揚陸艦が座礁しないギリギリまで浜辺に近づこうと前進し始める。
《こちら揚陸艦ファザーン、敵の砲火が激しい!このままでは揚陸艇を出せない!狙い撃ちにされてる!》
《駆逐艦シチートだ、我が艦が盾になる!貴艦はそのまま進まれたし!》
一隻の揚陸艦が敵の集中砲火を喰らい足止めされていると、ウダロイ-Ⅱ級駆逐艦シチ―トが揚陸艦ファザーンを守る為にファザーンの進路を塞がない程度に前に出て盾となり敵の攻撃を受け止めている。
戦艦セヴァストポリ CIC室内
「駆逐艦シチート、被弾!艦首大破!尚も戦闘継続中!」
「ミサイル接近!近接防御開始!」
「放射線濃度上昇!レーダーアウト!近接データリンクに切り替えろ!急げッ!」
CIC室内にてオペレーター達の緊迫した声が飛び交う。
「中将!各揚陸艦から揚陸艇が発進!上陸を開始しました!」
「輸送ヘリ部隊も順次発進させなさい。それと同時にゴーストと反逆小隊にも出撃許可を出しておいて」
「はっ!」
「さぁ、お手並み拝見といこうかしら」
アリスタロフ中将は腕を組み、CICのモニターを見つめながら不敵に笑みを浮かべた。
新ソ連軍・旧ロシア軍の両軍の砲撃が飛び交う中、軍の標準作戦人形キュクロープスを乗せた輸送ヘリMi-8MTVの大群が陸を目指して空母や強襲揚陸艦から飛んでいく。
その中にはゴーストと反逆小隊を乗せたヘリMi-35M(ハインド)の姿もあり、戦艦セヴァストポリのヘリポートから飛び立っていく。
そして陸を目指し飛んでいる多数のヘリの下には数多くの揚陸艦から発進した揚陸艇が自律型無人戦車テュポーンを乗せて陸地まで海を進んでいく。
《砲撃で機体が揺れる。衝撃に備えておけよ》
「おいおい、乗客の皆様に快適な空の旅をお届けするのがお前の役目だろ?」
《こんな戦場で無茶言うな!》
ヘリを操縦しているゴースト6からの警告に対し、隊長である北条龍馬は煽りジョークで返す。この様子からもゴーストのメンバー達から緊張した姿は見られず、むしろ音楽をつけてリラックスさえしている隊員もいた。
彼らゴーストは皆それぞれデザインの違うスカルマスクを被り、ヘルメットのNVG(ナイトビジョン)の位置を調整する者、仲間のバックパックからお気に入りのお菓子を取り出す者など、激しい砲撃によって揺れる中、自分たちが乗っているヘリが落ちるなどとは微塵も心配していない様子だった。
「随分と余裕そうね…。慢心するのは勝手だけど私達を巻き込まないで頂戴」
同じヘリに同乗しているAR15から冷たい目と非難の声がゴースト達に向けられる。
今回の作戦にゴースト1~6の6人と反逆小隊からはM4とAR15の二人が投入されたが、依然として険悪なムードが漂い、同じく同乗しているVSKはただ困惑しているしかなかった。
「落ち着けよ、お嬢ちゃん。こんな戦場は飽きる程潜ってるんだ。少しは余裕にもなるだろう」
「まぁ待てゴースト3、初めての本物の戦場でAR15は不安なのさ」
「ハハハハハッ、それは気付かなかったぜ!悪かったなお嬢ちゃん!」
「貴方達覚えてなさい…いつか地獄に落としてやるから」
態度を直す気のないゴースト3とゴースト4からの煽りにキレるAR15。
「地獄か…安心しろ、僕達が地獄に落ちることはもうとっくの昔に決まってるよ」
だがAR15の脅し文句に突然自虐のようなことを言うゴーストの隊長。
その言葉が気になったM4が口を開く。
「あの…それってどういう意味なんですか?」
「僕達がどれだけ人を殺したと思ってる。…天国なんてものには行けるわけがないだろう?」
そう言う龍馬の表情はスカルマスクによって隠されているせいで、よく分からないが唯一マスクに隠されていない目は悲しげに揺れていた。
「さぁ、そろそろ無駄話は終わりにしよう。この上陸作戦はД21基地進行のための重要な足掛かりとなる。気合入れていけ」
龍馬は気を入れなおすために話を切り上げ、部下達やM4とAR15、VSKに活を入れる。
《今から敵の第三防衛線を突っ切る!着陸に備えておけ!》
ヘリを操縦するゴースト6から現時点で対空砲火がもっとも激しい第三防衛線に突入するとの知らせが入る。ここを抜ければ目標のLZ(ランディングゾーン)まで後わずかだ。
「了解した!聞いたか野郎共!パーティー会場にお邪魔する用意はいいか?」
「勿論です!ドレスコードも見ての通りバッチリですよ!」
ゴーストリーダーである龍馬の声にゴースト2がユーモアたっぷりに自身が身に着けているショルダーアーマー付きタクティカルベストを指しながら答える。
「きゃっ!」
すると彼らが乗るヘリの右隣を飛行していたヘリが敵のミサイルの直撃を受け、爆発しながら残骸が墜落していく。
その衝撃がゴースト達が乗るヘリにも伝わり激しく揺れ、VSKが転倒しそうになるも隣にいたゴースト5がVSKを支えていた。
「あ、ありがとうございます…」
「気にするな…レディーファーストってやつさ」
「は、はぁ…」
そう言うとゴースト5はVSKの腰に回していた手を離した。
《快適な空の旅をお楽しみ中のお客様へ、当機は間もなく着陸いたします!忘れ物などが無いようお降りしやがれ!》
ヘリパイロットを務めているゴースト6から、からかい混じりの連絡が入る。
敵の第三防衛線を突破したのと同時に機体は旧ロシア派のヘリの集団から静かに外れ、敵に見つからないように少し迂回する形で目的のLZ(ランディングゾーン)まで目指す。
「口の悪い機長だな!」
「何が快適な空の旅だ!もう一遍その言葉を辞書で引き直して来い!」
だが、ゴースト3とゴースト4から苦情が入る。
《エコノミークラスごときがうるせぇ!上質なサービスが欲しいならファーストクラスを取ってから出直してきな!》
「エコノミー席だからって差別するような機長がいるなんて問題ね…」
ゴースト6のエコノミー差別発言に呆れながらツッコミを入れるM4。
だがそのM4にAR15が、問題はそこじゃないわよ!?と更に突っ込まれることになる。
「お前ら口を動かす前に手を動かせ!各自装備のチェック!戦闘準備!」
「了解、ボス」
龍馬の一言でゴースト達の空気が変わる。
それまで他愛もないお喋りを繰り広げていたゴースト達は、歴戦のプロが発する特有のプレッシャーを出しながら装備のチェックを開始する。
「緊張感が…」
VSKは仕事モードに切り替わった彼らから感じる突然の重圧に驚きつつも、緊張感の切り替えが上手い軍人は総じて優秀な者が多いと聞いたことがあるのを思い出した。
《LZに到達!周囲に敵影無し!降りろ降りろ降りろ!》
ヘリが目的のLZ(ランディングゾーン)に到着し、機体の両サイドのハッチを開き、そこから最初に龍馬を先頭に、ゴースト5以外のゴースト達が降りて周囲の警戒をしながらエリアの安全を確保する。
それに続くような形でM4、AR15、VSKの三人も機体から降りる。
「エリアクリア!ゴースト2、先行して敵がいないか調べろ」
周囲の安全を確認した龍馬は更に前方に敵がいないか確認するためにゴースト2に先行偵察を命じる。
これは突然の接敵によって部隊に損害を出さないようにするためだ。
「ゴースト6、もうヘリを出していいぞ。セーフポイントまで退避しろ。ゴースト5、ヘリの守りは任せたぞ」
《ゴースト6、了解!帰りはちゃんと拾ってやるから安心しろ》
《そっちも無事でな》
そして先程まで彼らが乗っていたハインドは徐々に高度を上げ、予定していた待機ポイントに飛び去っていた。
「さて…これからどうするわけなの?」
AR15は飛び去って行ったハインドを見つめつつ龍馬に問いかける。
「できる限り敵との接触を避けつつレーダー施設を目指す。爆撃予定時刻まで後一時間しかない。急ぎ足で行く」
「了解よ…あれから腕が鈍ってないか拝見させてもらうわ」
「勝手に言ってろ…チッ…そこを動くなよ」
龍馬は嫌味を言いながら自身を睨みつけるAR15に突然、手にしているアサルトライフル『Honey Badger(ハニーバジャー) 』の銃口を向ける。
「はぁ!?ちょ…」
AR15は抗議の声を上げるが、その声は龍馬が発砲したことによって中断させられる。
放たれた弾丸はAR15の顔の左横の空間を通り過ぎ、バシュッと肉を貫通する音が響き鮮血が飛び散る。
するとAR15の後ろに突然、何もなかった空間から新ソ連兵の姿が現れては糸が切れたように地面に倒れる。
「光学迷彩だ…ゴースト4、そいつを調べろ」
そう言われて倒れた新ソ連兵の元へ行き、身体をまさぐりながら身元を調べるゴースト4。
「光学迷彩持ちがなんでこんなところに…」
「人間が光学迷彩を見破るなんて…すごい…」
貴重な光学迷彩を装備した者が何故一人で居たのか、どうして自分の真後ろに居たのかを考えこむAR15。
一方VSKは龍馬が光学迷彩を瞬時に見破ったことに驚き、素直に称賛した。
「ボス、どうやらコイツは部隊からはぐれたようだ。今もコイツが持ってた無線から仲間と思わしき声が聞こえる。お前は今どこに居るんだ!返事をしろ!ってな」
「そうか…ならこっちの存在は敵にバレたと考えたほうがいいな…」
身元を調べ終えたゴースト4から光学迷彩持ちの新ソ連兵がはぐれ者で無線機を所持していることを聞いた龍馬はすぐにゴースト達の存在が敵側に報告されたと考えた。
「いや、その心配はないぜ。この無線機は故障してるみたいだ。受信は出来るが送信が出来ない…多分砲撃でも喰らったんだろうさ」
「そいつは朗報だ…運が味方してくれたな」
ゴースト4から無線機が故障していることを聞き、龍馬はスカルマスクの下で笑みを浮かべる。
「あ、あの…光学迷彩を装備しているってことは敵も特殊部隊を投入していると考えていいのでしょうか?」
VSKが疑問に思ったことをゴースト達に聞く。
「そりゃそうだろう…僕達のような何らかの特殊部隊が裏をかくことくらい敵も分かってるさ。待ち伏せ用の部隊として配置されてたんだろう」
龍馬は遠回しに敵も馬鹿ではないという。
「だが無念にも敵の砲撃に遭い、部隊はバラバラになったってところか?嫌だねぇ…」
ゴースト3がわざとらしく両手を上げながら話す。
「コイツ第4独立特殊任務旅団の奴か…」
ゴースト4が新ソ連兵のワッペンを見て彼の所属する部隊の正体に気付いた。
「スペツナズ…?こんな防衛戦にも投入されるのね…」
「それだけこの緒戦が重要ってことよ…気を引き締めなさい」
M4は敵の死体がスペツナズということに驚いた。
しかしAR15はこの戦いがどれだけ国の命運を懸けた重要な戦いなのかを自分に言い聞かせるようにM4にも注意を促す。
「……」
そうして二人が喋っている間に龍馬は死んだスペツナズの兵士を見て、彼が銃ではなく、ナイフを握っていることに気が付いたが特に口に出す必要がないと考え話さなかった。
《こちらゴースト2、200M先まで進んだが敵は見当たらない…恐らく進んでも大丈夫だろう》
先行していたゴースト2から連絡が入り、周囲に敵無しとの報告が入る。
「了解、こっちは今、光学迷彩のスペツナズに襲われた…無力化はしたが他に仲間がいる。十分に警戒しながら待機してくれ」
《了解 最大限の警戒で当たります》
ゴースト2との通信を終えた龍馬は仲間の方へと振り返る。
「7分もロスした…いつまでもグズグズしてないで急ごう…レーダ施設に侵入後は最短方法で制圧する…AR15、M4、VSKもそれでいいな?」
「了解…つまりドンパチしてやればいいってことでしょ」
「SOPMODⅡが居れば喜びそうな話ね」
「私もそれで大丈夫です」
龍馬が提案した案に戦術人形の三人は特に否定することもなく同意した。
「それに早く帰らないとお腹を空かせた連中がいるからな…」
今にも消え入りそうな声でボソリと呟くが、龍馬はすぐさま歩き出し、部下達もそれに続いて行く。
だがその声は戦術人形の三人には聞こえていた。
「あの…今のは…」
ゴースト達とは今回が初対面で付き合いが短いVSKは何のことか分からなかったために反逆小隊の2人に聞いてみた。
「ああ…VSKは知らないんだっけ?中将が言ってた例の切り札のことよ」
「彼らが軍用犬の代わりとして飼っている恐竜…ラプトルでしたか…やっぱりおとぎ話では無いんですね」
恐竜というものがクローン技術で復活していたなんてことは、ただの与太話だろうと信じていなかったVSKだったがAR15からの冗談を言っていない真剣な目を見て、自分が間違っていたことを自覚した。
「おい!何してるんだ!置いてくぞ!」
龍馬が動かない三人に向かって叫ぶ。
「悪かったわね!今行くわよ!」
彼女達も亡霊達の後に続くように先を急いで激しい爆音が未だ鳴り響く大地を駆けて行った。
ソルジャーレコード
マルコヴナ・オーシプ曹長 KIA
コールサイン:不明
AEG;28
所属:新ソ連軍第4独立特殊任務旅団第34独立任務支隊
第三次世界大戦を経験していない若き兵士。
元は第92独立自動車化狙撃旅団に所属していたが、同部隊が大型ELIDとの交戦で壊滅したためスペツナズの試験を受けて合格し、第4独立特殊任務旅団へと転属した。
旧ロシア政権派を自称する(真偽は不明)テロリスト集団によって両親と幼い弟を失った過去があり、旧ロシア政権派残党軍によるディクソン上陸作戦を阻止する作戦に参加した際も家族の敵討ちだ…と己を鼓舞していた。
しかし同部隊は、敵部隊による奇襲攻撃を阻止するために第3防衛線からの迂回ルートにて待ち伏せしていたが敵のガングート級戦艦セヴァストポリによる砲撃が着弾したため急ぎ撤退をした。
だが敵の砲撃に身を晒されながらの撤退だったためにマルコヴナ曹長だけ部隊からはぐれてしまった。
さらに彼にとって最悪なことに砲撃の衝撃で無線機と銃が破損してしまった。
彼の所属する同部隊が賢明にマルコヴナ曹長を探したが、無念にも…何者かに頭部を撃ち抜かれた状態で遺体として発見された。
設定解説のオマケコーナー
ゴースト3「えー初めましてゴースト3だ」
ゴースト4「え…自己紹介からするのか!?あー…ゴースト4だ、宜しくな」
ゴースト3「このコーナーでは毎回ワールドフロントラインの登場キャラに時系列やオリジナル兵器、国家の情勢と思惑などを軽~く語らせるコーナー…だそうだ(台本を読みながら)」
ゴースト4「それを俺達がやるのか?何も聞いてないんだが…」
ゴースト3「俺もだ…まぁ作者から台本渡されてるし大丈夫だろう」
ゴースト4「お、おう…で今回は何を解説するんだ?」
ゴースト3「今回は絶賛活躍中の旧ロシア政権派残党軍についてだ」
ゴースト4「アリスタロフ中将が率いる組織だな」
ゴースト3「そうだ…オリジナルのドルフロ本編ではほぼ無いに等しい組織らしいんだが、俺たちの世界では大規模な軍事力を保有している」
ゴースト4「もはや残党とは言えない組織力だよな…何か理由でもあるのか?」
ゴースト3「ああ…そもそもドルフロ本編では第三次世界大戦が始まる数年前くらいに新ソ連勢力がクーデターを起こしてロシア政権が倒れるという形になるらしい」
(*本編で新ソ連勢力がいつクーデターを起こしたのかは正確な日付が出ていないので、この情報は間違っている可能性もあります。誰か詳しい人いませんか…切実)
ゴースト4「だが、そこに俺たちの世界ではアリスタロフ中将という特異点があるわけだ」
ゴースト3「その通りだ…アリスタロフ中将は軍内部でも国民からも支持が厚い人物でな…同期のカーター将軍やクルーガー社長と比べてもメディア受けが良かったそうだ」
ゴースト4「だがそのせいで新ソ連勢力はクーデターを起こそうにもロシア政権派のアリスタロフ中将がいるせいで本編通りに起こせなかったのか」
ゴースト3「クーデターやっても軍部を掌握出来ていなければ意味がないからな。当時は新ソ連政権派とロシア政権派で軍部は5:5の比率で支持が分かれていたそうだ」
ゴースト4「それは確かにクーデターを起こす側にとっても確実な勝利は難しそうだな…」
ゴースト3「しかし、そんな中で第三次世界大戦が勃発した…対アメリカ戦のために一時首都のモスクワから離れてシベリアに移動したんだ」
ゴースト4「ロシア政権派の中心人物が首都から離れてしまったのか」
ゴースト3「その隙をついてカーター将軍率いる新ソ連政権派閥の軍がクーデターをおこしてロシア連邦が崩壊したというわけだ」
ゴースト4「だけどアリスタロフ中将はまだ死んでいない…なら…」
ゴースト3「そう…ならまだ希望はある…まだ残存する旧ロシア政権派の軍人達はそう思ったんだ」
ゴースト4「そしてアリスタロフ中将自身も諦めていなかった」
ゴースト3「新ソ連は選民思想が激しいからな…等級が高い国民じゃなければ安全な都市で生活できない…そういうところが中将にとって気に入らなかったらしい」
ゴースト4「その結果泥沼の内戦が続くわけか…救えないな」
ゴースト3「ちなみに第一話で旧ロシア政権派残党軍がカラ軍島で集合するまでは各地で散り散りにちらばっていて大規模な組織的行動はほとんどなかったらしい」
ゴースト4「なるほど…恐らく主にゲリラ戦が主要な戦い方だったんだろうな」
ゴースト3「ああ、そんな感じだ…と、台本には他にも色々情報が載っているが後はワールドフロントライン本編で出す予定だそうだから、ここまでみたいだ」
ゴースト4「じゃあ、そろそろお別れの時間ってわけか」
ゴースト3「これを見ている皆、ここまで見てくれてありがとうな!面白いと感じたら是非とも感想を送ってくれ!またな!」
ゴースト4「ちなみに作者は超亀更新だから期待せずゆっくり待ってくれよな!またどこかで会おう!あばよ!」
ゴースト3「…それにしても何で俺たちがやらされたんだろうな…」
ゴースト4「本当だよ…戦術人形ですらないぞ俺たち…」