ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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大変お待たせしました。




第107局 格上

 

 

 

『きぃまったあああああ!!!開幕一閃!!!まず満貫の和了りを決めたのは晩成高校の2年生、巽由華だああ!!!』

 

 

『役満への手替わりがあるだけに、リーチとは行きづらい手でしたね。なまじ巽選手のような打ち手だと、役満も現実味を帯びますから』

 

 

ついに始まった決勝トーナメント1回戦。

その火蓋は由華の満貫によって切られた。

 

会場が熱狂に包まれる中、恭子は冷静に由華の手牌を観察している。

 

 

(巽由華の牌譜……その性質。2回も同卓したからこそわかるんや。今、巽は間違いなく最高の状態。このまま走らせたら……あかんやろ)

 

冷や汗が額に流れるのを自覚する。

恭子が戦った2回はいずれも、最初から最高の状態であることはなかった。

 

数々の牌譜を照らし合わせても、彼女がこの状態に入るきっかけはわからない。

ただ、この状態に入ってしまえば火力はもちろん、唯一由華の欠点である速度に関しても一段上がる。

 

恭子としては一打一打に目が離せなくなることは間違いなかった。

 

 

 

東2局 親 哩 ドラ{3}

 

 

5巡目。

 

 

哩も、由華の情報はしっかりと事前にチェック済み。

そうでなくても団体の決勝戦を最後まで見届けたのだから、彼女の脅威を知らないはずがない。

 

 

(火力はもともと高か。そいに速度のついてきよったか……)

 

手牌は丁寧に育て上げた面子手の一向聴。

真っすぐ打ちたいのはやまやまだが、瞳を燃やした由華の河が、それをさせてくれない。

 

 

仕方なく少し狭く打った一打。

 

それに続いてやえが切り出した{発}に、由華からの声がかかる。

 

 

 

「ポン」

 

 

「……!……由華、あんた……」

 

 

やえからの言葉に、しかし反応はない。

即座に捨て牌から{発}を拾うと、{九}を切り出した。

 

由華が鳴くということ。

それがどんな可能性を秘めているのか。

 

 

 

 

恭子 手牌

{③④⑤3356二二発} {⑧横⑧⑧} ツモ{2} 

 

 

 

(まさか……ウチがこの{発}を絞っとるのを感じたんか?)

 

団体戦での経験。

強者と相対したとき、必ずしも自分が欲しい牌が山にいるとは限らない。

 

可能な限りは確実に面前で。そしてもし、もう山にないのなら、鳴く。

 

由華の麻雀は、確実に変化していた。

 

 

 

そしてその変化した先。

鳴くという選択肢ができたことによって和了の可能性は高まる。

 

和了への可能性は高まって、そして鳴いたからといって、由華の長所が消えたわけではない。

 

 

 

 

「ツモ」

 

 

 

由華 手牌 

{一一一六六八八東東東} {発発横発} ツモ{八}

 

 

 

 

「4000、8000」

 

 

 

 

 

 

(倍満やと……?!)

 

 

 

 

 

『ば、倍満~~!!!!滅多に鳴かない巽選手が鳴いたその先!!なんとなんと倍満の和了で一気に大きなトップへと浮上します!!』

 

『これは……流石に他3人もこの展開は予想できていなかったのではないでしょうか。打点を作りにいかないとトップは厳しくなってきましたね』

 

 

由華の満貫、倍満の2連続和了。

3年生3人を相手に大きなリードを得た。

 

対して1番厳しくなったのは恭子だ。

やえや哩は元々面前派の打ち手で、打点を作ること自体は得意な打ち手。

 

しかし恭子は速度が売りであって、こと打点という観点では秀でているわけではない。なにせ恭子の平均打点はこのルールにあって4500点だ。

 

 

(高すぎるやろ流石に…‥)

 

燃える瞳を明確にやえに向けている由華に対し、恭子は一度息をつく。

 

 

(凡人やからって、蚊帳の外っちゅうんは少し寂しいもんやな)

 

この卓にいる当の本人以外の3人は恭子のことを凡人とはかけらも思っていないのだが、そんなことは露知らず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東3局 親 やえ

 

 

 

やえが配牌を眺めた後、視線を感じて顔を上げる。

後輩の由華の瞳は、真っすぐにやえを貫いていた。

 

 

(まったく……頼もしくって仕方ないわね……けど……)

 

1年前。

この会場で涙を流して無力感に苛まれた巽由華はもういない。

この1年、晩成高校の大将としてこれ以上ないほどに後輩を導き、そして成長してくれた。

 

やえにとってそれはなによりも嬉しく、充実した1年で。

この後輩達のおかげで今があると言っても過言ではない。

 

だからこそ、余計な心配をしてしまうもので。

 

 

(私ばっかりに構ってるとやられるわよ)

 

この卓に座っているのは、なにも2人だけではないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

7巡目 由華 手牌

{②②③③④⑧⑧⑧東東南南南} ツモ{東}

 

 

 

前巡哩から切られた{東}をスルー。そうしてもってきたこの{東}。

もともと面前混一の聴牌であることを考えても、この牌をスルーする打ち手は少なくないかもしれない。

 

そしてこの牌姿になってしまえば、切る牌は一つ。

すでにやえの聴牌打牌殺しは間に合っていて、今は待ち変えのタイミング。

 

 

(やえ先輩に()()()()られてる気はしない……けどなんだ。何かひっかかる)

 

 

流石のやえといえども、初っ端からこの状態に入った由華の速度についてくるにはもう少し時間がかかりそうだった。

だから、今稼ぎたい。

持ってきた{東}になにか違和感を感じながらも、由華はツモり四暗刻の聴牌を取る。

 

 

一撃で勝負を決めかねない聴牌が由華に入ったと同時。

 

 

 

 

 

「ロンや」

 

 

 

 

 

 

 

 

由華の視線が、弾かれるように下家へと向く。

 

 

 

 

 

 

 

恭子 手牌

{③赤⑤⑥⑥345二三四} {横三四五}

 

 

 

 

 

「3900や」

 

 

 

 

 

 

 

『お、恐ろしい聴牌が入りましたが、出ていく牌で放銃……!姫松のスピードスター末原恭子!ここは辛くも和了りを手にしました!!』

 

『しかし不思議な手順でしたね……聴牌からの鳴き、待ちを悪くする手替わり……この{④}を捉えるためのことだとしたら、最初から余る牌がわかっていたとしか思えません』

 

 

 

 

 

由華が驚いたような表情で恭子の河を見る。

連続で手出しが続いており、とても最終形がその形になっているとは思わなかった。

 

そんな由華の様子を見て、やえが手牌を閉じながらため息をつく。

 

 

「やっぱあんた気に食わないわね……その相手に合わせた柔軟な打ち回し……多恵と打ってるみたいで気持ち悪いわ」

 

「遠まわしに多恵もディスるのやめえや……」

 

 

やえの言葉に、哩も少し共感していた。

今の局、恭子がいつもの最速を目指すスタイルであれば、違った聴牌形になっていただろう。しかし、状況に対応し、現状一番脅威である由華から余る牌を狙いに行った。

 

それが、この場においての『最速』である、と。

 

 

(倉橋ん打ち方に似とる。デジタル名乗っくせに状況適応能力高すぎっよ)

 

だが、それは哩にとっても得意な分野。

 

大きく息を吸い込んだ哩の視線が、意識が、深くに沈んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東4局 親 由華 8巡目

 

 

由華の調子は最高に近い。

いつもは面前で進める影響で少し聴牌が遅れそうな手牌でも、次々と有効牌が入ってくる。

 

 

由華 手牌

{一二二四赤五六九九九東東南南} ツモ{東}

 

聴牌。

前巡哩から切られた{東}が、案の定自分の所へやってくる。

 

 

(リーチか?……いや)

 

リーチを打っても良いのだが、そうすることよりも出た後にツモって三暗刻に仕上げるほうが高くなる。

 

そう結論付けた由華は、迷いなく{一}を河へと送り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロン」

 

 

 

 

 

瞬間、一番警戒していなかった場所から、和了を告げる声。

 

 

 

 

 

 

 

哩 手牌

{二三四五六七八九中中中北北} ロン {一}

 

 

 

 

「12000」

 

 

 

 

 

『決まったああああ!!!新道寺女子の大エース白水哩!!!息をひそめていたところから一閃!!!大きな跳満和了です!!』

 

『これは完全に……巽選手を狙いましたね……』

 

 

 

打点の高さに、流石に表情を歪める由華。

警戒を怠ったか、とその目が、今和了を告げられた哩の河へと向く。

 

 

 

哩 河

{⑨⑧白発①1}

{6八東}

 

 

 

萬子の混一にはあまり見えない捨て牌。

 

そこで、やっと由華が気付いた。

 

先ほどから少し感じていた一つの違和感。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(私が……!私に有効牌を()()ていたのか……?!白水哩……!!)

 

 

 

 

 

 

前局、哩から切られた{東}を手中に収めて、恭子への3900の放銃。

そして今局、同じく哩から切られた{東}を引き入れての、この放銃。

 

哩の手形を見れば、どう考えても生牌の{東}を後に回す必要はない。

とすれば、意味することは一つ。

 

 

聴牌をいれさせられたのだ。

余る{一}をおびき出すために。

 

 

 

 

 

 

 

 

「由華。よく周りを見なさい」

 

 

 

 

 

 

 

由華がやえの言葉によって、卓へと下げていた視線を上げる。

 

対面に座るは、北九州の強豪で3年間エースを務め上げ、あの倉橋多恵からも一目置かれる存在。

下家に座るは、大将戦で何度も悔しい想いをさせられた、高校最速を誇る打ち手。

 

 

 

 

 

「ここにいるのはもれなく、あんたが本気を出して敵うかどうかの相手。……由華、あんまり私をがっかりさせないでよ?」

 

 

 

 

由華の体が小さく震える。

 

少し忘れていたのかもしれない。

団体戦はともかく、この個人戦にいるのは間違いなく格上の3人。

 

一つ息を吐いた由華。

 

次の瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァン!と、少し甲高い音が、対局室に響く。

 

 

 

ぎょっとしたような目で由華を見るのは、恭子と哩。

 

そんな中、ニヤリと笑ったのはやえ。

 

 

 

 

「いいわ由華、そうよ。そうでなくちゃ」

 

 

 

 

全力で自身の両頬をぶっ叩いた由華が、前を見る。

 

 

「……全力で挑ませてもらいます」

 

 

そうだ。

こんなことで折れていたら、晩成王者の剣は名乗れない。

 

 







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団体戦決勝の実況解説は

  • すこやかペア
  • 知らんけどペア

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