ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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第12局 姫松初陣

嵐のような晩成の1回戦が終わり、やえは、控室へと戻ろうと帰路を歩いていた。そこに、目の前から走ってくる後輩の姿が映る。

 

「やえさーん!」

 

「アコ……べつに控室戻るんだし待っててくれてもよかったのに」

 

「あんなすごい試合見ていてもたってもいられなくて!マジですごかったですよ!緑一色聴牌したときなんて控室大盛り上がりだったんですから!!」

 

興奮冷めやらぬといった様子で、アコが矢継ぎ早にまくしたてる。

普段はここまでテンションを上げることは少ない憧だったが、大会記録を打ち立てて、そればかりか1人で相手校を蹴散らしてしまったのだから、この興奮も仕方がないだろう。

 

「運がよかったわ。本来ならアコの中堅戦くらいまでは全国の雰囲気経験させてあげたかったけど、まあ、それはこれから、ね」

 

「はあ~!マジかっこよすぎですよ……」

 

新子憧は小走やえの麻雀をみて晩成を志した。その張本人がこれだけ全国の舞台で暴れまわっている。アコは改めてやえさんはすごい人だなと実感していた。

そしてそんなやり取りをしていると、後ろから人影が近づいてきた。

 

「良い後輩ができたんだね、やえ」

 

「……多恵……」

 

「え、嘘、倉橋多恵……?」

 

ササっと隠れる必要もないのになぜかやえの後ろに隠れてしまったアコ。姫松高校の制服に、膝くらいまであるスカート、特徴的な短めの銀髪をなびかせるのは、雑誌などでよく見かける、倉橋多恵その人だった。アコももちろん、やえと多恵が旧知の仲であることは知っていたが、生で見るのは初めてだった。

 

「一回戦突破おめでとう。面前緑一色なんて驚いたよ。絶対ポンするって決めた牌絶対河に出てこない説が、よもやいい方向に転がるとはね……」

 

決め顔で顎に手をやる多恵を見て、アコはこの人何言っているんだろうと思った。

 

「一応、いまのところはあんたにお礼言っておくわ。でもね、準決勝であったら敵同士よ、首を洗って待ってなさい」

 

「……お礼言われるようなことあったっけ?」

 

はて?と首をかしげる多恵に対して、やえは若干恥ずかしそうに俯きながら何かをごにょごにょと呟いた。

 

「……あなたにもらった{8}のおかげで……なんか{8}がしっかり重なってくれた気がして……」

 

「いや、ありえないっしょ」

 

「あんたぶっ殺すわよ!?」

 

ハハっと笑い飛ばした多恵に対して、やえは拳を握りしめてくってかかろうとするが、後輩のアコが諫める。

 

「でも、持っててくれたんだ、お守り」

 

「フン!もう次からは持って行かないわ!あんたに呪いかけられてるかもしれないしね!」

 

そういうと、「アコ行くわよ」と後輩を連れて控室へと戻っていくやえ。

その後ろ姿を見えなくなるまで、多恵は眺めていた。

 

(いい仲間を得たんだね。やえのその強さが、次の試合でも折れませんように……)

 

多恵は知っていた。晩成が次に当たる2回戦が、過酷なものになるだろうということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姫松高校控室。

初戦である2回戦を前にして、姫松の面々は緊張した面持ちで控室に集まっていた。

 

「以上が、2回戦の対戦相手のデータまとめや。一応、区間ごとに相手の資料まとめておいたから、しっかりと各自目を通しておいて」

 

いつも通りの恰好に、教鞭のような棒を用いて説明してくれたのは末原恭子。

我らが姫松高校が2回戦で当たる相手は、北九州の強豪、新道寺女子、岩手の宮守女子、そして南北海道の有珠山高校だ。

 

「宮守女子のところは沖縄の真嘉比がくると思ってたけど、宮守強かったね」

 

「完全に銘苅を完封してた。確実にあれは何かしてると思うわ。だから副将の由子は新道寺の白水に気をつけつつ、もし白水の動きが何らかの理由で遅い場合は……一気に前に出てええで」

 

「了解なのよ~やっつけるのよ~」

 

両手をワンツーと突き出す由子もやる気満々だ。

その様子を見て、もう一度全体を見渡して、恭子が話す。

 

「明日の先鋒戦、おそらく多恵は3校から徹底マークを受けるはずや。ウチも多恵がそれで完全に抑え込まれることはほぼ無いとは思ってるけどな、麻雀は何があるんかわからん。先鋒戦でリードを奪えなかったとしても、うろたえない。いつも通りに打てば、ウチらは負けん」

 

「多恵がこけて、つられてスズもこけたとしても絶対的エース洋榎ちゃんがボッコボコにしたるわ、安心してええで」

 

「なんでウチもこける前提なんですか!多恵先輩がコケても、ウチも頑張りますよ!」

 

「皆どうして私をコケさせようとするの……?」

 

後ろに手を組みながら洋榎がニヤリと笑い、漫が反論する。漫は最初の何日かは緊張して浮足立っていたが、メンバーと話したり、応援にきた同級生たちも合流して、気持ち的にも余裕ができたようだ。

 

「主将や皆にはそんなに心配してません。そんなことより、自分が心配ですわ。大将戦はおそらく未知数な相手との勝負になるでしょうし……」

 

珍しく恭子が弱気な発言をして、全員の視線が恭子に集まる。

 

「でも、凡人の自分がどこまでやれるんか、楽しみではあります」

 

その言葉に全員の表情が和らぐ。

 

(ほんと、頼もしい仲間たちに恵まれたもんだ)

 

姫松高校の夏のインターハイ初陣は、もうすぐそこまで迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

インターハイ6日目。

昨日からシード校が登場し、2回戦がスタート。第1シードの白糸台と、第4シードの千里山はそれぞれ順当に駒を進め、5日目の試合結果は、大方の予想通りとなっていた。

今日は第2シードの姫松と、第3シードの臨海女子が初戦を迎えることとなる。

 

 

「インターハイも6日目!ついにシード校全てが出揃うこととなります。野依プロ、今日の見どころはどういったところでしょう」

 

「……ぜんぶ!」

 

「またですか……」

 

黒髪ロングで怒っている表情がデフォルトのプロ雀士、野依理沙プロ。どうしてこの人を解説にしたのかとネットでは話題だが、村吉アナウンサーとの相性は良く、評判も実は悪くない。

 

「まずは出場校を紹介します。南北海道代表、有珠山高校!1回戦では副将戦と大将戦で点数を稼ぎ、2回戦へと駒を進めました!」

 

画面には、有珠山高校の面々が映っていた。副将の生徒だけ制服がフリッフリでかわいらしいので、カメラに長く捉えられている。

 

「続きまして、北九州の強豪、新道寺女子高校!同じくダブルエースを副将と大将に置く高校です。鶴姫コンボは相手校にとって脅威となるでしょう」

 

続いて、新道寺女子。副将の白水哩と、大将鶴田姫子の強力なコンボが有名なチームで、毎年、インターハイでもベスト8にはよく入ってくる強豪校だ。

 

「岩手からは、宮守女子高校!1回戦では沖縄の強豪真嘉比を抑えて、2回戦進出です!強豪校を相手に、ダークホースとして立ち塞がるか!」

 

宮守女子は次鋒のエイスリンが得点源で、副将の臼沢塞が抑え込んで、大将の姉帯豊音でシャットアウトというパターンで勝ち上がってきた高校だ。

 

「そしてそして、優勝候補の一角、姫松高校です!守りの化身、愛宕洋榎を姫松伝統のエース区間、中堅に置き、先鋒には昨年の個人戦3位の、倉橋多恵が座る盤石の布陣!今年こそは王者白糸台を倒しての悲願の初優勝を狙います!」

 

実は洋榎はこの守りの化身という2つ名を気に入っているが、多恵はいつも「いや、攻撃もするやん」と面白くないことを言っていた。

 

自信満々といった表情で先頭を歩くエース愛宕洋榎に、カメラが集まる。その姿を見て、多恵は前世のことを少し思い出していた。

 

(前世でもあんな風にめちゃくちゃ強いチームメイトがいて、ほんと苦しいときは頼ってばっかりだった。リーダー、最後まで頼りっぱなしで結果残せなくてごめんなさい。けどこっちでは、リーダーみたいに、みんなに頼られる雀士になってみせますよ……。なーんて、リーダーのことだから、今でも俺のことなんか気にせず点棒かき集めてんだろうなあ……)

 

多恵の元いたチームのリーダーは強い人だった。自分を曲げず、信じた道を歩く。この世界と違い、運の要素が本当に強いゲームで、自分の信じた道と心中することがどれだけ難しいことなのか、多恵はよくわかっていた。

 

だからこそ、多恵も自分を曲げない。曲げるわけには、いかない。

 

(ここから始まるんだ。必ずこのインターハイで、宮永照を……白糸台を倒す……!)

 

 

 

仲間は心強く、背負う想いもある。ライバルはたくさん。支えてくれる人もいる。

 

さあ、始めよう。ここから頂点への長い旅路が始まるのだから。

 

 

 

 

 




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