ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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第116局 園城寺怜の苦難

 

 

 一年前。千里山女子高校麻雀部部室。

 

 

 

 

 「とっくんとっくん~!」

 

 

 短パンに学ラン前開けというファッションで麻雀部の部室のドアを開けるのは、言わずと知れた千里山高校のエース、江口セーラ。

 彼女は高校に入ってすぐにレギュラーメンバーに選ばれると、一年生とは思えない力強い麻雀で他校の上級生を圧倒。千里山での地位を確固たるものにしていた。

 

 

 「セーラあんま大きな声出さんといて~」

 

 「ええ~なんでやあ?今から楽しい怜の特訓やで?」

 

 

 そんなセーラの後に続くのは、清水谷竜華と園城寺怜。

 高校に入る前から、この3人は共に麻雀を打ち、共に成長してきた。

 

 セーラは幼い頃から多恵や洋榎、やえといったメンバーと麻雀をよく打っていたのだが、ひょんなことから知り合ったのがこの怜と竜華で、こちらのメンバーで打つ麻雀もとても好きだった。

 

 竜華はメキメキと成長し、強豪千里山の中で一軍入り。練習試合でも成果を上げ始めている。

 対して怜はなかなか結果が出ず、苦しい状況をなんとか打開しようと努力を重ねていた。

 

 そんな二人を見ていて、セーラは二人の力になりたい。そう思うようになっている。

 

 

 (この気持ちが、多恵が最初オレと洋榎に抱いた感情なのかもしれへんな)

 

 

 小学生の時に出会った多恵。

 その出会いはセーラの人生を大きく変えた。

 同世代で自分とわたりあえる人間など洋榎ぐらいしかいないと思っていた時、突然現れたのが多恵だった。

 

 そして二人は見事に多恵にボコボコにされ、そして当然のように悔しがった。

 

 そこから何度も挑戦を繰り返していくうちに、多恵の方からも色々なアドバイスをもらえるようになったのだが、その時多恵が繰り返し言っていたことを、セーラは今でもよく覚えている。

 

 ちょうど、最初あまり笑顔を見せなかった多恵が、だんだんとセーラと洋榎にだけ笑顔を見せるようになってきた頃のことだ。

 

 

 

 『2人を見てて思うんだけど……麻雀ってさ……強くなりたいって意志が折れない限り、どこまででも強くなれるような……そんな気がするんだよね』

 

 

 

 当時は意味がよくわからなかったものだが、今となってみればその意志を持ち続けることがどれだけ難しいことかを知った。

 だからこそ、今怜と竜華の2人を見ていてあの時の多恵の言葉は、全くその通りだなと思うようになったのだ。

 

 

 

 

 

 

 「怜、それ通らんで?……ロン!」

 

 「ええ~……あかんわ……逆転されてもうた」

 

 「へへ~ん、怜は相変わらずヒキ弱いなあ!」

 

 

 何度も半荘を繰り返すが、怜はなかなかトップが取れない。

 今回もオーラスで竜華に逆転を許してしまった。

 

 

 「そもそも、リーチ判断が間違うてるわ。この前クラリンの動画でリーチ判断の勉強したやろ?」

 

 「それはそうやけえど……トップ目のリーチ判断、やっぱ難しいわ……」

 

 「そんなんやさかい、あんたは永遠に三軍なんやで?」

 

 「はあ……竜華は相変わらずきっついなあ……」

 

 怜が背もたれに体重を預ける。

 が、間髪入れずにセーラが怜の顔を覗き込んできた。

 

 

 「さ!次いこ次!」

 

 「え……また私でええん?」

 

 怜からすれば、一人だけ三軍の自分を入れてしまっていては他のメンバーの練習にならないのではないかと思っていた。

 だから自分はこのあたりで抜けさせてもらおうと思っていたのだが。

 

 対面に座る竜華が、さも当然のように次の配牌を上げる。

 

 

 「決まってるやん。これ、特訓やしな?」

 

 「とっくんとっくん~!」

 

 「ええ~?!」

 

 

 申し訳ないという気持ちはありつつも、怜にとっても、この時間は大切だった。

 勝てる、勝てないはともかくとして、このメンバーで一緒に麻雀を打てる。それだけで怜は楽しかったのだ。

 

 

 「それにしてもこの前のクラリンの動画、めっちゃ勉強になったやんな?」

 

 「そやな。頭悪い私にもわかりやすかったわ」

 

 「怜は理解力も弱いからなあ~!」

 

 「それはセーラに言われたないわあ」

 

 前日の帰り道、竜華と一緒に見たクラリンの動画。タイトルには『押し引きを考えよう!トップ目のリーチ判断!』と可愛い文字で書いてあったその動画は、怜からしてもとても分かりやすい内容だった。

 

 

 「ホンマにクラリンて何者なんやろなあ……女の子みたいやし、ウチ、一緒に打ってみたいわ!」

 

 「ええ~……私はええわ。あんなすごい人の相手つとまらへんよ」

 

 「じゃあまずは相手になるところまで行かなあかんな!」

 

 ニヒヒと笑うセーラの笑顔がまぶしい。

 

 どこまでも前向きなセーラの姿勢を尊敬しながらも、怜は少し物思いに耽った。

 

 

 (私に、クラリンみたいな知識があれば、皆と一緒に戦えるんかな……)

 

 

 この時は、まだクラリンと自分が対局をすることになるなど、怜は考えもしなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 南3局 親 多恵

 

 

 

 (私はクラリンみたいにはなれへんかった。……けど、相手になるところまでは、皆が連れてきてくれたんや)

 

 団体先鋒戦。

 その前半戦は佳境を迎えている。

 

 長く続きそうだった晩成の王者、やえの親番をなんとか流し、次は南3局。

 

 姫松の先鋒倉橋多恵……クラリンの親番だ。

 

 

 (少しでも稼いで皆に繋ぐ。千里山の皆で全国制覇する夢を、私は諦めへん)

 

 幸い、体力的な面での不調はまだ出ていない。

 先ほどの二巡先(ダブル)で少し目に疲労は感じるが、その程度だ。

 

 

 

 

 

 

 「リーチ」

 

 

 

 

 しかし恐れていた事態は、すぐに訪れた。

 

 上家に座る多恵が発声すると同時、洗練された動きで流れるように牌を横に向ける。

 

 

 

 『姫松倉橋多恵選手!9巡目リーチ!親ですしこれはなかなか強烈ですね!』

 

 『リーチ打たれて嫌な相手ってかなりいると思うケド、クラリンはトップクラスなんじゃねえの?知らんけど!』

 

 『それもそうでしょう。何と言っても倉橋選手はリーチ成功率日本一の選手ですからね……!』

 

 

 多恵から打たれたリーチに、やえが少し表情を曇らせる。

 

 

 やえ 手牌 ドラ{4}

 {②④⑥⑦⑧三四五七七八八八} 

 

 

 (……園城寺が先だと思ったんだけど……多恵に読み違えさせられたわね……)

 

 多恵の河に派手さはなく、あまり速度が感じられるものではなかった故に、先に濃い牌が出始めた怜をマークしてしまっていた。

 

 そうして許してしまったリーチ。やえからしても、多恵に先にリーチを打たれたらまずいことを知っているが故に、厳しい状況。

 

 

 怜が、ツモってきた牌を手牌の上に乗せた。

 

 

 怜 手牌

 {②③③⑦⑧⑨4588五六七} ツモ{⑨}

 

 

 怜は持ってきた安牌の{⑨}を切るか悩んだ後、一巡先の未来を視る。

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 5本の剣が、怜の体を貫いた。

 

 

 

 

 『ツモ』

 

 

 多恵 手牌

 {赤⑤⑥⑦2345666一二三} ツモ{1}

 

 

 

 『6000オール』

 

 

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 (……ッ!何もせんとクラリンが一発ツモで6000オール……鳴ける牌は……!)

 

 このままだと多恵に18000の和了をされてしまう。

 なんとかその未来を避けるために、怜はまず下家の照が鳴ける牌を探した。

 照もおそらく多恵にツモられてしまう流れは感じていて、鳴ける牌を切れば鳴いてくれるはず。

 

 必死に勉強してきた手牌読みを駆使して、怜が照の鳴けそうな牌を選び抜く。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 『……チー』

 

 

 (よし……!ここなら鳴けるんか……!)

 

 

 見事照が鳴いてくれる牌を選べた怜。

 照が鳴いてくれる牌が分かったのでひとまず安心した怜だったが。

 

 

 

 

 『ツモ』

 

 

 

 それでも容赦なく騎士の剣は飛んできた。

 

 

 

 

 多恵 手牌

 {赤⑤⑥⑦2345666一二三} ツモ{4}

 

 

 

 『6000オール』

 

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 (ズラしても……和了るんか……!)

 

 

 未来視を終えた怜が歯噛みする。

 一巡先だけの未来視とはいえ、同じ巡目で何度も使えるわけではない。

 

 ズキズキと痛み出した頭を押さえつつ、怜がこの場での最適解を探る。

 

 

 (どっちみち6000オール……!それなら……!)

 

 後の頼みはやえ。

 とはいえやえは怜の下家ではないので、鳴けるとしたら「ポン」のみ。

 

 怜は必死に場に2枚切れていない、それでいてやえが持っていそうな牌を探す。

 

 

 

 (このくらいのピンチ……去年も経験したわ……この程度であかんってなったら、弱い三軍の時の私のまんまや……特訓特訓って、こんな弱い私に付き合ってくれた皆に応えたい……!)

 

 左手で痛む頭を押さえつつ、怜の右手が二度三度手牌の端から端までを右往左往する。

 

 鳴いてもらえる可能性は低い。そもそもポン材を持っていないことだってあり得る。

 それでも、怜は考えることをやめなかった。

 

 

 (結局あかんくても、納得のいく牌を……)

 

 

 怜が答えを出す。

 

 

 選んだ牌は、{七}だった。

 

 

 

 

 

 

 「……ポン」

 

 

 

 

 

 

 照が山に手を伸ばす寸前で、やえから声がかかる。

 

 

 (よし……!)

 

 怜の読みが的中した。

 {七}はやえの雀頭。照から鳴ける牌が出てくるかどうか分からないやえからしても、ここは鳴かざるを得ない所。

 かなりの難しい選択を見事的中させ、対面から鳴いてもらうことに成功する。

 

 ひとまず一巡最悪の未来を回避できた怜は安堵の息をついて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ツモ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 正確無比に振るわれた剣によって薙ぎ払われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 多恵 手牌

 {赤⑤⑥⑦2345666一二三} ツモ{2}

 

 

 

 

 

 

 

 

「4000オール」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『やはりツモってきた!!姫松の先鋒倉橋多恵!!安定の5面張で4000オールです!!!』

 

 『ひゅう~!よかったねえバイーンしなくて!』

 

 『……なんですか、それ』

 

 

 会場からこの日一番の歓声が上がる。

 

 

 怜は寒気がして伸びた背筋のまま、多恵の手牌を眺めた。

 

 

 (どこに鳴いてもらってもツモ……!どないすんねんこれ……)

 

 

 

 結果的に打点が下がったので怜の選択は正解ではあったのだが、それでも確実にツモってくる多恵のリーチに、怜はため息をついた。

 

 

 (やっぱり、これだけやったら足りんか……)

 

 背もたれに体重を預け、わずかにでも体力を回復させようと目を閉じる怜。

 

 相手は強大。 

 自分の席に臨海の辻垣内智葉が座れば、去年の個人戦決勝卓なのだ。

 

 全力以上で臨まなければ、勝利は無い。

 

 

 

 

 

 (……ごめんな、竜華。約束、守れへんかも)

 

 

 

 

 怜の覚悟は、対局前から決まっていた。

 

 

 

 

 

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