ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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一瞬でしたが日間ランキング16位まで上がっていたようです……!
読者のみなさんのおかげです。
今後ともよろしくお願いします!




第13局 持ち時間

2回戦の先鋒戦。

多恵はどの高校よりも早く、卓についていた。

 

インターハイの卓に着くと、いつも多恵は前世のリーグ戦を思い出していた。孤立した自動卓。たくさんの放送用のカメラ。

 

(多分この雰囲気には、1番慣れている)

 

目を閉じて集中を高めていると、続々と他の席に他校の選手が姿を現す。

 

「倉橋さん、とても準備が早いようで、すばらです」

 

新道寺女子高校のすばらちゃん……こと花田煌は、すばらという口癖が特徴的な2年生。強豪ゆえに何度か会ったことはあるが、あまり話したことはない。しかし強豪校の先鋒戦に指名される選手だ。油断はできないだろう。

 

「花田さん、今日はよろしくね」

 

場決めが終わり、各々の席に着く。

 

 

「インターハイ6日目!先鋒戦対局開始です!」

 

 

「「「「よろしくお願いします」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東1局 親 小瀬川 ドラ{②}

 

 

(いやはや、あまり北家は好きではないのですが……仕方ありませんね)

 

花田煌は自分の手牌を確認して、両面ターツはあるものの、四向聴なのを確認する。そして少し字牌の重なりを期待しながら浮いている一九牌の処理から入った。

 

(私は捨てゴマ。ここでの役割は、倉橋さんのいる姫松とあまり点差をつけられずに次につなぐこと……もちろん上回ることができたらすばらなのでしょうけど……)

 

対面に座る倉橋を少し見やりながら、そんなことを考える。

倉橋多恵は去年の化け物揃いの個人戦決勝卓の1人だ。楽観視はできない。

 

 

しかし意外にも4巡目、西家に座る有珠山高校の先鋒、本内成香の表情が明るくなった。

 

「リーチします!」

 

先制は有珠山だ。

 

本内 捨て牌

 

{西⑤八横2}

 

(4巡目ですか……ここは素直に現物としましょうか)

 

煌は手牌に安全牌として抱えていた{西}を切る。

そして親の宮守女子、小瀬川白望の手番。ツモってきた牌を見て、ため息をつきながら少しだけ考えている。

 

「はあ……ダル……」

 

(ええ~……まだ始まったばかりなのですが……)

 

煌のそんな心の叫びは悲しいかな誰にも届きはしない。

 

「……どうすか」

 

そうして小瀬川が切り出した牌は{5}だった。

 

(片スジとはいえ、どまんなか!す、すばらです……)

 

「チー」

 

手牌の{46}を倒して打{2}とするのは、多恵。

有珠山の本内が、持ってきた牌を、悲しそうにツモ切る。この選手は表情が豊かなので、聴牌速度が比較的読みやすい。

 

(そうして流れてきたこの{⑥}もしかして当たり牌であったりするのでしょうか)

 

そう煌が考えていた矢先、対面の多恵がツモってきた牌を置き、手牌を開く。

 

「ツモ。500、1000」

 

多恵 手牌 

{③④④④四赤五六六七八} {横546}

 

(ん~……一発消しに協力してくれたのかと思ったけど……シンプルに自分で和了りにいったのか)

 

小瀬川からすると、本内が一発でツモりそうだったので、多恵に一発を消してほしいというアピールだったが、多恵からしてみれば「急所で聴牌で出ていく牌は安牌」という鳴かない理由がなかったので鳴いただけだった。

 

(やっぱり3面張ですか……)

 

本内は空振りしてしまった自分の手牌を悲しそうにパタンと閉じた。

 

本内 手牌

 

{②②②⑦⑧55789南南南}

 

 

東2局 親 多恵 ドラ{南}

 

 

(さーて、まず一発目の山場ですね……)

 

(倉橋さんの親……怖いです)

 

普段とは打って変わって、どこか神聖な雰囲気すら漂わせる多恵の親番がやってきた。本人は前世の時もそうだったが、対局中の姿はまるで感情が通っていないかのような表情で打牌をする。どんなことがあっても、対局が終わるまでは感情が表に出ないのが、多恵の特徴だった。

元々は河と自分の手牌を冷静に見極める故に表情が薄くなっていたが、この世界に来て、その集中力は普通の人間を超越した感覚を得ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新道寺女子高校控室。

 

「部長。姫松の倉橋って何が強いとですかね?」

 

新道寺の大将、鶴田姫子は、敬愛する先輩である副将の白水哩にそう尋ねた。

 

「リーチ成功率」

 

真剣な面持ちで白水はそう答えた。

 

「多面待ちになっとっけん、まあツモる。何度も対局したことのあっけど、あいつはとんでもなく打牌ミスが少ないけん、聴牌速度も常人より遥かに早か。気付いたら……追い付かれとる。そしてヤツにリーチを打たれたら……まあ勝てん」

 

その言葉に、確かにと思う。倉橋のリーチ成功率は、異常な数値を叩き出している。通常の麻雀なら、リーチ成功率は大体50%強。2回に1回は和了れるかな、といったところだ。しかし、多恵の数値は、実に80%。流局がほとんどなく、負けているのはリーチ勝負の一部。しかしそれも自身の待ちが強いのでほとんど負けがない。

 

この数値は、1巡先が見えているのではないかといわれている千里山の園城寺すらも上回り、文句なしの全国1位。倉橋多恵の異常さは、実はここにある。

 

 

そしてだからこそ多恵はリーチを打たせてくれない晩成の王者とか、和了り牌を吸収しまくる守りの化身とは相性が悪かった。

 

「花田大丈夫ですかね……?」

 

心配そうにモニターの中に映る、同級生の先鋒を見やる鶴田だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ロン。3900」

 

多恵 手牌 ドラ{南} 裏ドラ{①}

 

{①②③3444567八八八} ロン{3}

 

「はい……」

 

(やはりこうなってしまいますか……良形4面張)

 

リーチに成功した煌だったが、1巡後に親の多恵から打たれたリーチに捕まってしまった。

 

(今は打点が低くて助かりましたが……倉橋さんはその性質上、打点も平気で上がってきますし……)

 

 

 

東2局1本場 10巡目

 

ビクッと{②}を切った本内の手が止まる。

瞬間、本内は4本の剣が多恵から自身に向かって飛んでくるような幻覚を……見た気がした。

 

「ロン。12300」

 

 

多恵 手牌 ドラ{六}

 

{③④赤⑤⑤⑥⑥⑥西西西} {横白白白}

 

「えーダル……」

 

(混一……やはりそう来ましたか)

 

倉橋多恵の高打点は染め手が多い。しかしこれがまた止めるのが難しく、ほとんど多面待ちで聴牌してくるので、染め手と分かった瞬間、ほとんどその色の牌が切りにくくなってしまう。

 

 

東2局2本場7巡目 ドラ{③}

 

(このままではまずいですね……早くこの親番を落とさないと……)

 

煌がそんなことを考えつつ、いつもの笑顔にわずかながら汗をかいていたそんな時、下家の小瀬川の手が止まる。

 

小瀬川 手牌 

 

{③④⑤⑦⑧3455五七八九} ツモ{六}

 

「……ちょいタンマ」

 

(出ましたね……)

 

小瀬川白望という選手の特徴は、迷うと点数が高くなる。地方対局でも1回戦でも、この「ちょいタンマ」の後に高い手を和了っていた。

 

(怖いです……)

 

本内もそれは知っていて、警戒心をあらわにする。

そんななか多恵はロボットのように固まったまま、打牌を待っていた。

しかし、意外と今回の長考は長く、小瀬川は右手を額にやって下を向きながら考えて、20秒くらいが経過していた。

そしてようやく。

 

「迷ったけど……これで」

 

と{九}を打った。

 

しかし、今度は多恵がすぐツモりにいかない。

一瞬の沈黙と静寂が場を包み、どうしたのかといった表情で3人が多恵を見つめている。

 

「長考はなるべく15秒以内でお願いします!」

 

「え……ダル……」

 

突然怒られた小瀬川は意外な指摘に困惑していた。

ネット麻雀出身の多恵は、実は長考にうるさかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宮守女子高校 控室

 

 

「シロ怒られてる!」

 

宮守女子高校の控室。大将の姉帯豊音は、長身にハットを被る、特徴的なシルエットだった。対局を見ながら、宮守の熊倉監督はモニターに映る多恵を見ていた。

 

「倉橋多恵……多面待ちを活かして和了りをとる……だけど、恐ろしいのはもっとその奥深くにあるのかもね……」

 

その深刻そうな発言を聞いて、心配そうに画面を眺めるのが、副将の臼沢塞だけというのも宮守らしいといえばらしい風景だった。

 

 

 

 

 

「ツモ。3200、6200」

 

小瀬川 手牌

 

{③④⑤⑦⑧34赤555五六七} ツモ{⑥}

 

結局東2局2本場は小瀬川が制した。

 

(迷ったのは{九}でしたね……牌効率に従うのでしたら間違いなく落とさなさそうなところ……)

 

流局を挟んで東4局1本場。煌の親番がやってきた。

 

(今の所良いとこなし……すばらな親番にしたいですね)

 

そんな願いを込めながらサイコロを回す煌。

 

花田煌 配牌 ドラ{6}

 

{①①②5689一三五東東西}

 

(手が重いですね……ダブ東があるのが救いでしょうか)

 

親番なこともあってシンプルに{西}から切り出していく煌。

しかしそんなときに限ってダブ東がなかなか姿を見せてくれず、9巡目、下家の小瀬川が「ちょいタンマ」からリーチがかかる。

 

(あらら……またですか。ダブ東が鳴けないならこの手もダメですかね……)

 

しかしそんな思いとは裏腹に、対面の多恵からペロっと{東}が出てきた

 

「……ポン!」

 

出てくるとは思っていなかった煌は慌てて発声すると、安牌の{②}を切る。まだ一向聴だ。

 

「ポン!」

 

するとすぐにまた多恵から{①}が出てきて、それをポンして聴牌をとる煌。

危険牌を切ってきた煌の河をちらりと見やり、そして持ってきた牌をみて、小瀬川が小さく「ダル……」と呟いたのを、聞こえたのは煌だけだった。

 

「……ロン、5800は6100です」

 

煌 手牌

{56788五五} {①横①① 東横東東} ロン{8}

 

(アシスト……。トップ目の倉橋さんからすると早く局を流したいでしょうに、それほど小瀬川さんの手が良かったのでしょうか)

 

 

 

 

 

 

 

 

姫松高校 控室

 

「多恵ええ感じやん」

 

またまたいつもの椅子逆座りスタイルで、洋榎がそう口にする。

 

「そうですね。多恵には今日で手の内をすべて見せる必要はないと伝えましたが……問題なさそうですね」

 

「また宮守の子が和了りそうだったけど~多恵ちゃんの速度読みとピントは絶妙やねえ~」

 

赤阪監督代行も満足そうだ。

 

多恵はこっちに来て、洋榎から他家を使っての動きをさんざん勉強した。もともと速度読みは得意だった多恵は飲み込みも早く、すぐに実践で使えるようになった。

モニターの前では漫と由子が「多恵先輩頑張れー!」「がんばるのよ~!」と必死で応援している。近すぎて後ろにいるメンバーは見にくくて仕方がない。

 

「さあ多恵、まだまだ足りひんやろ。もっと稼いでくれてええんやで」

 

そんな期待も込めた恭子のまなざしが、モニターの中の多恵を捉えていた。

 

 

 

 


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