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『先鋒戦決着です……!!高校トップクラスの打ち手によって激しい戦いが繰り広げられた先鋒戦は、最後の最後に、姫松高校倉橋多恵の数え役満で決着……!チャンピオン敗れました!!』
『ほんっと……クラリンは最後までクラリンだったねい……間違いなくインターハイ史上最高レベルの試合だったんじゃねえの?知らんけど!』
爆発した感情は、会場を揺らす。
いまだに熱気冷めやらぬ雰囲気の中で、確かに対局終了を示すブザーが鳴り響いた。
(勝った……のか)
多恵が、未だに騒ぐ心臓の鼓動を手で抑えつける。
最後の最後まで頭は冷静に動いていたが、極度の緊張から解放された身体は、少なからず多恵に異常を知らせていた。
「……お疲れ様でした……やな」
そんな中、小さく笑顔を見せたのは怜だった。
彼女は途中倒れるかもしれないほどに体力を疲弊していたが、今はどこかその疲労感が心地よいほどに感じられている。
頭痛や倦怠感の類はなく、やりきったという達成感が、怜の中にはあった。
(点数は減らしてもうたけど……私にできることはできたんやないかな……これも、皆のおかげやな)
怜の過ごしてきた千里山での日々は、無駄ではなかった。
そう思えるほどに充実した対局内容だったのかもしれない。
「……結局また多恵に最後やられちゃったわね……」
少し呆れたような表情で多恵を見つめるやえ。
その瞳は悔しさも見て取れるが、それ以上に楽しかったという満足感が確かにあるように見える。
「やえは……やっぱり強いよ……技術も、心も」
「ふん……なんの慰めにもならないわよ」
結局、やえはこの試合を通して一度も諦めなかった。
多恵はそのまっすぐなやえの気概に救われている。やはり小走やえという少女は、今も昔も、どこまでもまっすぐだった。
「ありがとう……ございました」
多恵の下家に座る照が、ゆっくりと頭を下げた。
いつもなら無表情に立ち去っていくはずの彼女が、名残惜しそうにその場に残っている。
じっくりと、最後の自分の手牌を見つめていた。
「チャンピオン、悪いケド……私はまだ勝てた気がしてないから、ちゃんと上がってくるのよ……個人戦」
「……うん」
スコア上は、やえは照を上回っている。
しかし最後に多恵が照からの直撃を取らなければ、そのスコアは逆転していた。
だからこその宣戦布告。
「はあ~疲れたわ……早くりゅーかの所行って休も……」
ゆっくりと怜が席を立とうとする。
そしてやえと多恵も、対局室を後にしようと椅子を引いた、その時だった。
「ありがとう」
ポツリと呟かれたその言葉に、3人の動きがいったん止まる。
注目は、未だその椅子に座ったままのチャンピオンに集まっていた。
照は顔を上げ、3人の顔を見渡す。
そして最後に、多恵の方をしっかりと見つめ。
少し、微笑みながらこう言った。
「麻雀って、楽しいんだね」
「多恵先輩~~!!!!」
「うわあ?!」
対局室を出るための大きな扉を開けると、そこには涙で顔をぐちゃぐちゃにした漫が待っていた。
その漫を受け止めて頭をなでていると、後ろには姫松のメンバー全員が迎えに来てくれている。
「リベンジ達成やないか。流石、ウチの認めた女や」
「ははは、ありがとう洋榎。皆のおかげだよ……」
洋榎と拳と拳をコツンとぶつける。
なかなか感情の幅がわかりにくい洋榎だが、この時ばかりはとても喜んでいるように見えた。
「多恵ちゃんナイストップ~!なのよ~!」
「由子!ありがとう!」
満面の笑みで近づいてくる由子とハイタッチを交わす。
くるくると踊るように喜ぶ由子の姿を見ると、多恵もつい嬉しくなってしまった。
「私感動しましだ~~~~」
「漫ちゃん、ありがとね。応援してくれてたんだよね」
未だに泣き止まない漫をあやす。
自分がたくさんのことを教えたことも大きいが、やはり漫は多恵を慕ってついてきてくれた。故に、今回の対局も必死で応援していてくれたのだろう。
漫をあやし終わると、一番奥から歩み寄ってくる影。
「恭子……」
恭子はうつむきがちに多恵に近づくと、そのままそっと多恵の背中に両手を回す。
「……心配、したんやからな」
「うん……ありがとう」
恭子は軽く握った拳を、多恵の脇腹に優しくぶつける。
何度も、何度も。
それだけで恭子がどれだけ自分の心配をしてくれていたかが、多恵にはわかった。
両目を腫らした恭子を安心させるように、多恵も恭子の背中をなでる。
多恵はひとまず自分の仕事を達成できたことを、この瞬間になって感じていた。
「そういうのは控室でやってもらっていいかしら……?」
晩成の王者が、とてつもないオーラを纏ってそこに立っていた。
「こ、小走?!」
「私も先鋒戦にいたんだからいることくらいわかってるでしょうがこの凡人女……!」
あまりの殺気に思わず飛びのく恭子。
やえの怒りは既に頂点に達していた。
「前々からあんたは本当に気に食わないのよねえ……この手で潰さないと気が済まないわ……!」
「やえすてーいすてーい」
「洋榎は黙ってなさい!!」
ここぞとばかりに茶化しに入った洋榎を、片手で制するやえ。
「いいわ……今ここであんたを物理的にぼっこぼ「やえせんぱーーーーい!!」ちょっと由華!今大事な所で」
一歩一歩恭子に近づこうとしていたやえだったが、由華に後ろから抱き着かれたことでその動きを止める。
「大事なところなのはわかりますけど……大丈夫ですから、やえ先輩」
やえが軽く振り返ってみれば、いつもの好戦的な由華の表情。
その瞳は恭子をしっかりととらえていた。
「末原さんをぼっこぼこにするのは……私の役目ですから」
「……言ってくれるやないか」
バチバチと火花散る二人。
そんな中でやえが後ろを見てみれば、晩成のメンバーも全員でやえのことを迎えに来ていた。
「「やえ先輩~~!お疲れ様でしたああ!!」」
「あんたらもひっつくんじゃないわよ!それに私は一着じゃなかったんだからいいのよ出迎えなんてしなくて……!」
ひっついてきた後輩三人を引きはがすやえ。
確かにやえの言葉通り、やえは晩成にトップをもたらすことはできなかった。
故に、やえは控室に戻ったら謝ろうと思っていたのだ。
しかし。
「やえ先輩。関係ないんですよ」
「紀子……」
「やえ先輩が、最後まで楽しく団体戦を打ち切ってくれた……それだけで、私達には十分すぎるんです」
唯一やえにひっつかなかった紀子が笑顔でそう言ったことに、やえが目を丸くする。
「そうですよ!!まだまだこれからです!やえ先輩を優勝させるために、私達がいるんですから!」
「任せてください……この後は、私達が絶対にやえ先輩を優勝させます……!」
憧と初瀬が、やえの前でそう言い切る。
「ほお~それは聞き捨てならんなあ~なあ由子?」
「そうよ~?聞き捨てならんのよ~!」
これに黙っていないのは、姫松の中堅と副将……洋榎と由子だ。
「威勢がいいのは構へんけどなあ……ホンマにウチに勝てる気でいるんか?そこの1年坊」
「1年坊じゃありません!私は新子憧!準決勝はダメだったけど……今度こそあなたを倒すんだから!」
「初瀬ちゃんはとっても強いのよ~!ウチも負けちゃうかもしれへんのよ~!」
「今度も絶対に……ってあれ?なんか違くない?真瀬さん流れ間違えてません?」
やんややんや。
対局室の扉の前で騒がしくなってしまった姫松と晩成のメンバー。
そろそろ次鋒戦の時間ということもありしばらくしてからお互いがお互いの控室へと戻っていく。
その最後に、やえが多恵を指さした。
「多恵。この勝負はあんたの勝ち……けどね」
「
晩成の5人が、やえを真ん中に置いて並んでいる。
その姿は、昔から考えれば想像もできないことだった。
「望むところだね」
多恵も笑顔でその言葉に返す。
メンバーに関しては、こっちだって負けちゃいない。
団体戦は、始まったばかり。
決勝戦の行方は、まだわからない。
宮永照は、ゆっくりと廊下を歩いていた。
初めて知る、敗北の味。
しかしそれは決して負の感情ではなく……むしろ照は何か自分の中から湧き出る感情に、感動すら覚えていた。
手のひらを、開いて握る。
そんな、時。
「テルー?」
前から、影。
「どうしたの、テルー?テルは、最強……そうだよね?」
「……淡」
白糸台の一年生、大星淡の目は、震えていた。
「テルが負けるなんて……たまたまだよね?」
「……」
「そっか、そうだよね、たまたまじゃなきゃおかしいもんね。でも大丈夫。テルには、私がいるから」
淡が、照の手を握る。
「テルが一番強いってことは、私が証明してくるから」
決勝戦の行方は、まだわからない。