ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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第135局 対上重漫包囲網

 

 

 

 『決まったああ!!後半戦挨拶代わりの跳満ツモ!!姫松高校上重漫!!後半戦から反撃開始です!』

 

 『っかあ!しっかり高目ツモかよ!気持ちいいねい!こりゃ後半戦面白くなってくるんじゃねえの?!』

 

  

 

 「漫ちゃんやったのよ~!」

 

 「おお!いい感じの和了りやな」

 

 次鋒後半戦が始まった直後の漫の和了りに、姫松高校の控室はにわかに色めき立っていた。

 漫の得意とする789が多い手牌。高目をツモって跳満。

 いわゆるゾーンのようなものに入ったであろうことは、控室の4人も感じていた。

 

 

 「前半戦はいい感じにおさえこまれてもうたからな……ここから頼むで、漫ちゃん」

 

 漫の元に行ってきた恭子が、抱えていたバインダーを机の上に置きながら厳しい表情でモニターを見つめる。

 漫にようやく火が点いた。それ自体はとても喜ばしいことではあったが、これはあくまでスタートライン。爆発した後は漫が蹂躙するだけであればそんなに楽なことはない。そしてそんな楽をさせてくれるメンバーが、この団体戦決勝にいるわけがない。

 

 

 「……油断はできないね。周りが漫ちゃんが爆発する可能性を考慮してないはずがないし、ここからは更に絞りが厳しくなると思ったほうがいい」

 

 「せやな。前半戦もやけど上家におるんがあの晩成のやろ~な~んかいい感じはせえへんよなあ~」

 

 多恵の言葉に賛同するのは、いつも通り椅子を逆側にして座り込む洋榎。 

 手に持ったボールペンを器用にぐるぐると手元で回しながら、浮かない顔で状況を観察していた。

 

 

 「それにな、漫ちゃんが爆発するんも、少し早ないか?」

 

 「主将も感じてましたか。実は私も感じました」

 

 「確かに、まだ後半戦始まったばかりなのよ~」

 

 漫の爆発は、何かしらのトリガーを経て爆発へとつながる。今回はいつも以上に気合が入っていたため、開幕から爆発したものと思われるが、彼女が東発から爆発した事例は未だにない。

 

 だからこそ、ここから先この状態を最後まで持たせることができるのかが、姫松のメンバーにとっての不安要素だった。

 

 

 「でも、信じるしかない。大丈夫!ここで仮に着順が落ちたとしても……洋榎がどーせ取り返してくれるよ」

 

 「あったりまえやないかい。んなんは決定じこーや。漫は気楽に打ったらええねん」

 

 洋榎がどや顔で背もたれに寄り掛かろうとして、背もたれが無いことに気付いて後ろから転げ落ちる。

 恭子が額に手をあてて呆れていた。

 

 モニター前のソファで、由子と多恵が隣合わせで座りながら固唾を飲んで漫を見守る。

 

 

 「漫ちゃんファイトなのよ~!」

 

 「……漫ちゃん、ここからが正念場だよ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東2局 親 紀子 ドラ{③}

 

 

 漫以外の3人が、漫の導火線に火が点いたことを確信した。

 多恵の読み通り、この事態を想定していないチームはない。

 

 

 (やっときたか……上重漫……!)

 

 弘世菫が、その目を静かに細めた。

 

 強豪白糸台高校の屋台骨である彼女が、この程度のことでうろたえるはずもない。

 菫が静かにその右手を引く。

 弓手が、狙いを定め弓を引き絞るように。

 

 

 

 5巡目 漫 手牌

 

 {⑦⑧⑧⑨⑨899七九九白白} ツモ{八}

 

 吹き荒れる風が、卓上を襲っている。

 

 漫の手牌は数牌の上に偏り、チャンタ系や刻子系の手役が色濃く見える形になっていた。

 この手になれば、漫の手は淀みなく動く。

 

 何を選べばいいのかが瞬時にわかり、それがたとえ裏目を引く形になっても動じない。

 

 先輩である多恵からも、自分でかなり良い状態になったと思ったら一度自分の感覚を信じて打牌しても良いというお墨付きをもらっていた。

 

 漫はさほど時間を要さずに{九}を切り出す。これで一向聴。

 

 

 「ポン」

 

 それに反応したのは、やはり上家に座る紀子だった。

 

 違和感を感じるその鳴きに、卓の雰囲気が一段階引き締まる。

 

 

 漫 手牌

 {⑦⑧⑧⑨⑨899七八九白白} ツモ{②}

 

 

 嫌なツモだ。紀子の鳴きで手元に来たのは、ドラそばの{②}。流石にまだ聴牌しているとは考えにくいが、漫の良いツモを少しいじられたようで、いい気分はしない。

 あいにくそう言った流れのようなものを信じる打ち手は姫松には少ないが、逆にそれは絶対にありえない、と思考放棄をする人間も姫松にはいない。

 

 持ってきた{②}をそのまま切る。特に声はかからなかった。

 

 

 

 10巡目 漫 手牌

 

 {⑦⑧⑧⑨⑨99七八九白白白} ツモ{9}

 

 聴牌を入れていた漫の手元に、待ち変化の牌が来る。

 

 {⑦}を切ればツモり三暗刻の聴牌に取ることができるが、チャンタと一盃口が消える。

 普通に考えたらここは持ってきた{9}をそのまま切りたいところ。

 

 漫が盤面を一瞥した。

 もう早い巡目とは言えなくなってきて、上家の紀子の捨て牌も濃くなってきている。

 

 

 (晩成はタンヤオ仕掛けやし、この牌は当たらん……けど、その思考に突っ込んでくるんが……)

 

 今度はちらりと、逆側に座る菫へと目を向けた。

 菫の捨て牌は一見大人しく見えるが、中張牌が程よく切れていて、狙いを端牌に絞っているように見える。

 

 

 

 菫 手牌

 {①②③12378東東東南南} 

 

 

 (飛び込んで来い姫松。必ず捉える)

 

 菫の手牌は、やはり端牌と字牌の多い手牌になっていた。

 菫の狙いは変わらない。できる限りこの次鋒戦で姫松の点数を削ること。

 

 

 ({9}は打てない……)

 

 漫が持ってきた{9}を手中に収めて、次の選択肢を辿る。そうすると次の打牌候補になってくるのは{白}だ。白という役を手放すことになるが、チャンタと一盃口は保持したまま、安全に聴牌を確保することができる。

 

 {⑦}切りも無くはない。上の方の数牌が来ることが分かっている今の漫の状態なら、ツモり三暗刻は無理な役ではない。

 白もあることから出和了りもできるし、その選択肢は確かにあった。気がかりがあるとすれば、{⑦}が紀子に通っていないということくらいか。

 

 

 (せやったら{白}切りでええ。ツモればどっちにしろ満貫や)

 

 力強く{白}を切り出していく。

 

 瞬間、漫の真横を一本の矢が通り抜けた。

 上手く菫と紀子の当たり牌を避けて、聴牌を維持。

 

 これ以上ない結果に見える。

 

 だからだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 「ロン」

 

 

 

 

 

 その弓矢の後方から、懐に潜り込んできていた3人目の刺客の姿に気付けなかった。

 

 

 

 

 

 

 泉 手牌

 {③③⑤赤⑤4466五赤五六六白} ロン{白}

 

 

 

 「12000」

 

 

 

 (は……?!)

 

 

 勢いよく振りぬかれた泉の短剣に、漫の導火線が容赦なく切り落とされる。

 

 

 

 『決まったああ?!?!虎視眈々と自分の出番を伺っていた二条泉!!これ以上ないタイミングで勝負手を姫松にぶつけました!!!』

 

 『……全員の狙いが端牌に絞られて、中張牌が重なりやすくなってたねい……白糸台と晩成の河に切られている中張牌から、山に余っている中張牌を根気強く重ね続け、待ちはタンヤオを捨てて余る牌に狙いを定めた……こりゃかなり良い和了りなんじゃねえの?見直したぜ千里山の1年生』

 

 『シャープシューター弘世菫がいる卓で、まさにシャープシューターのような狙いをすませた一撃!この和了で千里山が一気に点数を伸ばします!』

 

 『低打点だった前半戦とは打って変わって跳満跳満……こりゃ後半戦は荒れるぜえ。知らんけど!』

 

 

 

 漫の目が驚愕に見開かれる。

 タンヤオの役を捨てての{白}待ち。自身が暗刻で持ち続けていたら絶対に河には出てこない牌で、泉は待っていたというのか。

 というよりそもそも、河が普通過ぎて七対子をやっているような河には見えなかった。

 

 (クソッ……やられた……!)

 

 

 

 

 

 

 東3局 親 漫

 

 漫 配牌

 {②⑧⑨⑨137899七発中} ツモ{九}

 

 

 (……くそ……もう落ち始めてる……!)

 

 変わらず数牌の上の方が多い手牌だが、東1局のような手役が色濃く見えるような手牌ではない。

 

 ここらでもう一度大きな和了りを手にしないと、勢いが完全に殺されてしまうかもしれない。

 わずかに点き続けている導火線の火を絶やさないためにも、漫は必死でこの手の可能性を追っていた。

 

 

 

 

 4巡目。

 

 

 「ポン」

 

 

 それを分かっているからこそ、菫は動く。

 役牌の{中}を漫から鳴いて、軽やかに仕掛け出しだ。手牌から{②}を切っていって、ゆっくりと手を膝の上へと戻す。

 洗練された淀みない動き。

 

 

 (させるか……!)

 

 漫も自身の手牌が厳しいことは感じている。

 しかしツモは悪くない。まだ戦える。

 

 

 11巡目。

 

 

 

 「リーチ」

 

 場に千点棒を投げたのは、泉だった。場に{3}を切り出して、強気な表情で全員を睨みつける。

 

 

 泉 手牌 ドラ{4}

 {④④⑤赤⑤⑥⑥⑦⑧22赤五六七}

 

 

 (周りが中張牌を使わないおかげで手作りがタンピン系に絞れるのはありがたいわ。この手も決める……!)

 

 

 セーラ仕込みの腰を据えた高打点手作りが、ここにきて勢いを増している。

 泉が千里山の面々から伝えられた漫の爆発対策。

 

 それは、より早く中張牌で和了れというものだった。

 

 (準決勝で身に染みてわかった。ウチはまだ弱い。それも認めて、前に進まなあかん。けどな、やっぱりウチにも譲れんもんはあるねん。同世代に負けたくないという気持ち。中学で、原村和に負けた。だからもう2度と、同じ思いはしたくないと思った。原村と対戦することはできひんかったけど……同じ1年の上重には、負けん……!)

 

 漫と他2校は漫から和了りを取るために端牌や字牌を使った進行が多くなる。

 となれば、中張牌が山に残っているかどうかは、普段よりもわかりやすい。

 

 先ほどの局はたまたま七対子になったために待ちを漫から余りそうな字牌にしたが、今度は関係なくツモりにいく。

 

 泉の胸に宿った千里山の魂が、漫の爆発によって燃え盛っていた。

 

 

 

 『勢いが止まらない二条泉!赤を2枚引き連れて先制リーチ!最高目をツモれば裏1で倍満の聴牌です!』

 

 『このへん、千里山の中堅と打ち方似てるよねえ~。タンヤオ確定の鳴きはせず、面前で高打点進行。なまじ前半戦が低打点が多かっただけに、前半戦の遅れなんかすぐに取り返せるかもしれねえぜい』

 

 

 前半戦とはまるで違う展開に、会場も盛り上がりを見せる。

 打点に比例するように、会場の熱気が上がっていく。

 

 

 

 同巡 漫 手牌

 {⑦⑧⑨⑨1378999七九} ツモ{八}

 

 

 (周りが早い……いや、ウチが遅いんか)

 

 

 

 漫の手番。先制できればカン{2}待ちという意表を突いた待ちで出和了りも期待できるかと思っていたが、こうなってしまってはその計画も白紙に戻すほかない。

 自分でツモりにくい悪待ちなど、追っかけでぶつけるには分が悪すぎる。

 

 泉は今にもツモりそうな勢いだ。

 

 泉に{13}のターツはどちらも通っている。

 周る意味も込めて、まずは{1}から切り出した。

 

 {3}は今通った牌。今後狙われる前に、先に{1}から処理していく。

 

 

 

 

 「ロン」

 

 

 か細く灯っていた導火線の炎を、容赦なく弓矢が切り裂いた。

 

 

  

 菫 手牌

 {234赤56789西西} {横中中中} ロン{1}

 

 

 

 「8000」

 

 

 

 ({147}待ち……?!)

 

 

 

 『しかし今度は弘世菫!!高目一通の聴牌、リーチ者の現物でしっかりと打ち取ってみせました!!!』

 

 『姫松は厳しいねい……これで東場の親が落ちた。あとは南場の親でどれだけ取り返せるかが大事になってくるケド……メンタルの方は大丈夫かあ?知らんけど!』

 

 

 またしても手痛い放銃となってしまった漫。

 しかし咏が危惧しているほど、漫の精神状態が悪いわけではなかった。

 

 漫が首を横にぶんぶんと振り、漫のトレードマークであるお下げが同時に揺れる。

 

 

 (くっそお……!次の最善って切り替えてはいるけど、もうそろそろあかん……!南場の親番まで……どうにか状態を保つんやウチ……!!)

 

 放銃するごとに、漫の手牌は落ちている。

 この放銃でおそらく、次の局もあまり良い手は期待できないだろう。

 

 しかしそれでも、漫は諦めない。こんなところで諦めて良いはずがない。

 

 漫は大きく息を吸い込んで、正面を睨み据えた。

 

 まだ炎は燃え尽きていない。

 

 次鋒戦も佳境。

 ここからが漫の最後の正念場だった。

 

 

 

 

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