ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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第15局 片岡優希の苦難

清澄高校の控室では、緊張した空気がその場を支配していた。

2回戦は事情があって開始が遅れているが、そろそろ開始になるはずだ。

 

「じゃあ優希、最後に確認するけど、今日の相手はかなり厳しい相手よ。東場でかなりのリードを稼げなかったら……狙われるのは自分だと思ったほうがいいわ」

 

「わかってるじぇ」

 

清澄高校の一回戦の結果は、中堅までで点棒を荒稼ぎし、中堅の竹井久の怒涛の連荘でトバして通過という華々しいものだった。しかし、問題は2回戦。優勝を見据える部長の久は、ここからの試合は1戦たりとも油断はできないし、一瞬の隙が命取りになると感じていた。

そしてこれは最初の山場。先鋒の片岡優希が当たるのは、去年の個人戦決勝卓の2人、臨海女子の辻垣内智葉、晩成の小走やえ、そして強豪永水女子のエース、神代小蒔。

この絶望的な状況は、メディアでは「死の先鋒戦」等と騒がれていた。

 

「それでも、自分を曲げちゃだめよ。東場では自信をもって戦ってちょうだい。さすがのあのメンバーでも、最初の優希の速さにはついてこれないはずよ」

 

部長の言葉を聞きながら、ギリギリまで、同じく先鋒戦を戦っている自身の先輩、新道寺女子の花田煌の対局を優希は眺めていた。

煌も同じく、倉橋多恵という怪物を相手に、苦戦を強いられている。

それでも、煌の目にはいつまでも闘志が残っていた。

 

 

『ツモ。3900オールです』

 

『新道寺の花田煌!最後に意地を見せます!削られた点棒を少し回収しました!これは次鋒戦につながる和了となるでしょう!』

 

 

 

「優希!花田先輩が和了りましたよ!」

 

「流石だじぇ。花田先輩の勇気、確かに受け取ったじぇ!」

 

優希が立ち上がる。

その眼には怯えはない。長野で敗れた他校の分も背負って立つ優希には、1年生とはとても思えない頼もしさがあった。

 

「清澄高校、片岡優希さん、そろそろ準備お願いします」

 

係りの者が清澄の控室に来る。準備が整ったようだ。

 

「行ってくるじぇ!」

 

そう元気よく出ていく優希を、メンバーが口々に応援の言葉をかける。

そんな中にあって、まだ久は心配そうな表情をしていた。

 

「ゆーきも強くなったけえ、信じてみてええじゃろ」

 

次鋒で唯一の2年生、染谷まこが久の様子を見てそう声をかける。

 

「そうね……組み合わせ上仕方がないとはいえ、2回戦からこんなキツイ相手とやらせることになるなんて思わなくてね」

 

久は優希を決勝に向けてその能力をチューニングしていた。だからこそ、この2回戦は死闘となるであろうし、苦戦は免れない。5万点以上の差は覚悟していた。

 

(優希どうか、あなたのまっすぐな麻雀を打ち抜いて……)

 

死の先鋒戦が、始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(さて……なんとか少し取り戻しましたが、もう少し点数が欲しいですね……)

 

先鋒戦後半オーラス、新道寺の花田煌は3900オールをツモってなんとか点数を回復していた。しかし依然点差は開いたまま。どうにかしてもう少し稼いで次につなげたいと考えていた。

 

 

南4局 1本場 13巡目 親 花田 ドラ{①}

 

{②③③234赤五六六七七東東} ツモ{八}

 

(あら、巡目も巡目ですし、そろそろ鳴きも考えていたのですけれど、これはこれですばらですね)

 

「リーチします」

 

親の煌のリーチを受けて、対面の多恵は持ってきた牌を見て小さく呟く。

 

「20%……15.7%……」

 

そしてすぐに現物切り。

わずかにこぼれたその数字を、リーチ者の煌の耳は捉えていた。

 

(放銃率の計算ですね……相変わらずなんて恐ろしい頭してるんでしょう……敵ながらすばらです)

 

多恵のデジタル脳は他校にも有名で、特に押し引きに関する計算の速さは、プロでも対抗できる雀士は少ないのではないかといわれているほどだった。

オリながら手詰まり放銃もほとんどない上に、押してくるときはとことん押してくる。

 

勘違いされがちだが、実は麻雀において、「ベタオリ」というのは、±0の選択ではない。局収支としては(マイナス)の選択だ。麻雀の結果は横移動だけでなくツモが存在するのだから当たり前だが、意外とこの事実を知らない人は多い。

 

この事実をわかっているかどうかで、押し引きの基準は変わる。知ってから押しが強くなったという人も少なくないのではなかろうか。

 

今回多恵はそれら全てを考慮し、自身がトップ目であるということも踏まえて、オリを選択した。そしてその理由の1つには、上家の小瀬川がリーチの1発目に安牌ではない牌を切っていることもあった。

 

(小瀬川さん、押してきてますね……)

 

 

そして15巡目。

 

小瀬川が持ってきた牌を見て、気持ち顔を上げる。

 

「深いところにいたなあ……ツモ。3100、6100」

 

小瀬川 手牌

 

{①①②②③③23789西西} ツモ{1}

 

「す、すばら……」

 

 

『先鋒戦大決着ゥー!!!先鋒戦を制したのはやはり姫松高校の倉橋多恵!!2位の高校に5万点以上の差をつけて、その圧倒的な実力を見せつけました!!』

 

「「「「ありがとうございました」」」」

 

 

先鋒戦終了時 点数

 

小瀬川 94500

多恵  150900

本内  54700

花田  99900

 

 

(原点……にはギリギリ届きませんでしたか……)

 

はあ~!と大きな伸びをしている多恵を見て、対局中とは大違いですね、などと思う。

 

「あんた……強いね……」

 

背もたれによっかかりすぎて、もうそろそろ椅子から転げ落ちるんじゃないかというほど脱力している小瀬川。

 

「小瀬川さんも強かったよ、感覚で麻雀を打つって言うほど簡単なことじゃないからね」

 

お世辞でいってるわけでもなさそうな多恵の真剣な言葉に、しかし小瀬川からの反応はない。体力を使い切ったようだ。

 

 

「シロ!コウタイ!」

 

しばらくして、そんな小瀬川の頭をポンと叩いたのは、宮守の次鋒、エイスリンだった。

 

2人のやり取りを眺めてから、煌と多恵の2人は、同時に卓を後にする。ちなみに有珠山の本内は対局が終わるやいなや、すぐに控室へ逃げ帰ってしまっていた。

 

帰りの廊下で。

 

「倉橋さん、とてもすばらな対局内容でしたね」

 

「いや、花田さんこそ、他の対局者を使った和了、流石だったよ。それにね、花田さんからは、絶対に次が逆転してくれるっていうチームメイトへの信頼を感じたかな」

 

多恵の本心だった。インターハイや前世のリーグ戦。数えきれない想いを背負った雀士は強い。こっちでも、前世でも同じだった。

そして多恵は前世では、決死の想いで人生を麻雀にかけている人たちに、1歩及ばなかった。

その時味わった劣等感は、今もぬぐい切れていない。

 

しかし実は、多恵はもうこっちでたくさんの想いを背負っていた。

 

迎えに来た漫の姿を見て、「それじゃ」と多恵は漫の方へ向かっていく。

多恵の後ろ姿を見て、煌はフフフと少し笑った。

 

(倉橋さん。あなたこそ、十分チームメイトを信頼しているように見えましたよ……その心意気、すばらです。しかし次は負けませんよ)

 

 

 

 

 

 

突っ込んできた漫を抱きとめてはまずいと反射的にハイタッチで多恵が迎え入れる。

 

「多恵先輩!流石です!5万点以上も差をつけるなんて!」

 

キラキラとした目を向けてくる漫。

 

「終盤親落ちてからは少し控えめになっちゃったけど、かなりプラスにできてよかったよ。だから漫ちゃん、今日は頼むね?」

 

「はい!任せてください!」

 

そう意気込む漫の様子は頼もしい。

 

姫松はこのオーダーになってから何度も練習試合をしている。

その練習試合の中で、漫が爆発できる条件を恭子と一緒に多恵は研究した。

その結果、多恵がしっかりと稼いで帰ってきたときのほうが、漫が爆発することが多いことがわかっていた。もちろん、対戦相手の強さにも影響は受けるのだが。

 

メンタルに起因する漫の能力は調整が難しい。ちょっとでも漫が戦いやすいように、多恵はなるべく点数を稼いで帰ってこようといつも思うようになっていた。

 

「宮守のエイスリンちゃん、気を付けてね」

 

「がんばります……デコに油性は勘弁なんで……」

 

流石の漫も、初戦には緊張しているようだ。次鋒戦には、地方予選でとんでもない和了率を叩き出した宮守のエイスリンがいる。漫も油断はできない。

団体戦のメンバーに入ってから、漫は成績が悪いと恭子から油性ペンで額に落書きをされるという割とひどい愛の嫌がらせを受けている。

 

「期待して待っててええですからね!」

 

そう言って駆けていく漫。

最後まで見送って、多恵は改めて姫松の控室に向かう。

 

 

 

 

その途中、向こう側から歩いてくる人物に、多恵は見覚えがあった。

多恵は、自身が今いる場所が、ちょうど同じく2回戦の別会場の近くであることに気付く。

 

極限まで集中力を高めて、右目には光が宿っている。

コツ、コツ、と歩みを進めてくるのは、晩成の王者、小走やえだった。

 

(気合入りまくりだね)

 

交わす言葉はない。多恵は目を閉じて歩き出し、やえも多恵の存在など気にも留めずすれ違い、その場を去る。

並々ならぬ覚悟が感じられるその後ろ姿は、さながら戦場へ赴く戦士だった。

 

 

 

 

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