ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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第17局 王者の貫禄

東2局。

 

優希が手放したくなかった東発の親番は落ちてしまった。しかし、優希の特性は東場である以上はまだ生きている。

 

(親が落ちてもまだ東場は東場……まだいけるじぇ……!)

 

その意志を表しているかのように、優希の配牌はまだ衰えてはいなかった。

 

4巡目 優希 手牌 ドラ{9}

 

{123456889三四八八} ツモ{五}

 

この手形から、優希は迷いなく{8}を選ぶ。一気通貫とドラがつくので、待ちは悪いが打点は十分だ。ここはまだダマで5200(ゴンニー)を拾いにいく場面じゃない。そう思った優希は捨て牌を横に曲げる。

 

「リー「ロン」」

 

しかしその宣言牌は、()によって砕かれる。

 

やえ 手牌

 

{⑦⑧⑨23479七八九南南} ロン{8}

 

「7700」

 

「ぐっ……」

 

ガッと頭を上から押さえつけられるかのような感覚。そんな圧力を感じながら優希は押さえつけてくる相手を見る。抑えつけてきた相手、小走やえは右目を光らせて、腕組みをしてこちらを見ていた。

 

相手を勝負の土台にまできっちり上げて、そして潰す。小走やえという雀士の、いや、王者の打ち筋だった。

 

 

(東場の私が、もう追い越されてるのか……?!)

 

 

 

その瞬間だった。場の空気が明らかに変わったのは。

 

跳ねるように、智葉と、やえが北家を見る。優希もただ事ではなさそうな雰囲気に、息をのんだ。

 

「へえ、やっとお目覚めってわけね」

 

声をかけられた相手、小蒔は何も言葉を発さない。しかし先ほどまでとは明らかに違う眼をしていた。

 

東2局 1本場

 

(巫女さんが怖い感じに……要警戒だじょ……)

 

篠笛の荘厳な音が響き渡る。

なにか人を超越したナニカがこの場に降りてきているような、感覚。

 

全員がこの局は明らかに様子のおかしい小蒔に集中していた。

それでもなお、6巡目にして、その手は開かれる。

 

「ツモ」

 

小蒔 手牌 ドラ {6}

 

{②②②③③赤⑤⑥⑥⑦⑦⑧⑧⑨} ツモ{④}

 

「4100、8100」

 

(清一色?!)

 

(これが、霧島の巫女の力か)

 

 

『強烈な清一色が決まったあああ!!一気にこれで永水女子が原点以上に回復します!』

 

 

ぎゅと、優希が自身の手を膝の上において、制服のスカートを掴む。

 

(まだ東3局……東場のはずなのに……東場で私が、引く?)

 

優希の心に、わずかな迷いが生じていた。圧倒的な強者たちを目の前にして、揺らぐ心。まだ自分が戦える舞台であるはずなのに、好き勝手に和了られている。それは優希にとって、普通ならありえないことだった。

 

(……ここで引いたとして、南場はもっとひどくなる。なら、まだ攻めるのはやめないじぇ……!)

 

目に力が宿る。

友達のため、自分のため、まだ、諦めない。

 

 

東3局 親 智葉

 

「ツモだじぇ!」

 

優希 手牌

 

{赤⑤⑥⑦56778赤五六七北北} ツモ{9}

 

「3000、6000!」

 

 

 

東4局 親 小蒔

 

「ツモ。2000、4000!」

 

優希 手牌

 

{233445白白発発} {横南南南} ツモ{白}

 

(この1年……私の宣言牌の縛りを逃れるために、1度聴牌外してるわね……)

 

やえが心底煩わしそうに優希を睨めつける。

やえの能力から逃れるために、優希は聴牌即リーチとはいかず、いったん崩してから和了りにむかっていた。もちろん、この策を授けたのは部長の久なのだが。

 

 

『清澄高校の片岡優希!この強敵を前にして、この1年生はまったく物怖じしません!和了りを重ねて、トップを維持します!』

 

 

「南入、だな」

 

智葉が確認するようにそう言った。

 

「言われなくても、重々承知だじょ」

 

パチンと、起家マークを「東」から「南」へとひっくり返す優希。

この動作は、優希が十全に戦える戦場ではなくなってしまったことを表していた。

 

(東場女の暴れを小走と巫女がそこそこ抑えてくれた。この点差なら問題ない)

 

(ここからは守って守って守り抜く。カッチンコッチンだじょ……!)

 

それぞれの思惑を胸に、南場が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

永水女子高校控室。

 

「おかしいのですよ?姫様には割と高位の神様をおろしましたよね?」

 

日焼けした体に、はだけまくりの巫女服を着た幼い女の子は、永水女子の副将、薄墨初美だ。

先鋒の神代小蒔には、本当は少しずつ強い神様をおろすことで、決勝にむけてローテーションさせるつもりだったのだが、2回戦の相手が強力だということがわかって、現状できる中では強い神様をおろした。それでいてなお、なかなか点数を稼ぐという状況には至っていない。

 

「それだけあそこにいる子たちが、強いということなのでしょうね……」

 

「……」

 

大将の石戸霞が心配そうに手を頬にあて、同じく中堅の滝見春も黒糖をかじりながら心配そうに画面を見つめている。

 

「もし小蒔ちゃんがそこまで稼げなかったとしても、どうにかしましょう。それぐらいなら、私達六女仙にできるはずです」

 

「それでも、姫様には頑張ってほしいですね……」

 

霞の言葉にみながうなずいてから、次鋒の狩宿巴は小蒔を案じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

南1局 親 優希

 

優希はここからの自分の立ち回りは重々承知していた。ここから先は防御優先。仮にトップから落ちたとしても、それは東場で稼げなかった自分が悪い。放銃は避けるように徹底して守り抜くつもりだった。

しかし、先ほどからずっと、様子のおかしい北家の小蒔の河が、また不気味なものになっていた。

 

(またまた巫女さんが怖いかんじに……)

 

「リーチ」

 

意識が本当にこちらにあるのかも怪しい表情で、小蒔がリーチを宣言する。

智葉とやえに特に動きはない、そして動きが無ければ当然

 

「ツモ」

 

ツモ和了る。

 

小蒔 手牌

{①②③④④④⑥⑦⑦⑦⑨⑨⑨} ツモ{⑧}

 

「4000、8000」

 

(また清一色だじょ?!)

 

(めんどうね……)

 

『決まったあ!!永水女子の神代小蒔!この半荘2度目の面前清一色ツモです!』

 

点棒の受け渡しが行われ、南2局。

やえの親番を迎える。

 

ふう、やえは一息ついて、対面に座る神代小蒔をにらみつける。

 

(私の親番でも同じようにやれると思わないでよ……)

 

 

 

南2局 親 やえ ドラ{④}

 

8巡目 小蒔 手牌

{②③③④④⑥⑥⑦⑦⑧⑧⑨東} ツモ{②}

 

(どうやらまた霧島の巫女の手にとんでもないのが入ってるな……しかし)

 

智葉は一瞬、これ以上暴れさせるわけにはいかないか、と自ら行動しようとして、やめた。理由は明白で、この場にいる王は、簡単にそんな和了を許すわけがないからだ。

小蒔は流れるように、立直を宣言する。

 

「リーチ」

 

「ロン」

 

刹那、小蒔も上から抑えつけられるような感覚に表情を歪めた。

その宣言牌は、通らない。

この場を統べるのは私だといわんばかりに、王の手によって、神までもが地に叩き落される。

 

 

やえ 手牌

 

{123456789東東発発} ロン{東}

 

18000(インパチ)

 

『トップの神代小蒔から一閃!!王者小走やえが、神を引きずりおろします!!」

 

「……道を示すのはね、神じゃない。王1人よ」

 

やえの言葉に、しかし小蒔から反応はない。

先ほどまでと同じように、虚ろな表情が続いているだけだ。

 

 

南2局 1本場

 

小蒔は変わらない。同じように手組みをする。

それはそうだ。自身に下りてきている神がそうするのだから。

今までもこう打って勝ってきたし、こんなイレギュラーは記憶にない。

たまたまさっきは刺さってしまっただけかもしれない。

 

だから、止められない。

小蒔のリーチがかかる。王の手によって導かれたように。

 

「リーチ」

 

「ロン」

 

その牌を王者の鉄槌が狙いすませて砕きにかかる。

 

やえ 手牌 ドラ{⑦}

{⑦⑦⑧⑧⑨⑨1112378} ロン{9}

 

(またおやっぱねだじょ……!)

 

(去年に比べて1撃1撃が重いな。小走)

 

「18300」

 

連続のインパチであっという間にやえがトップに躍り出た。

 

 

 

南2局 2本場

 

「リーチ」

 

今度はやえが打って出た。それはそうだ。飛び込んできてくれるのであれば、リーチを打たない理由はない。意識が介在しているのかどうかは知らないが、やえにとってこれ以上のカモはない。

 

(全て吐き出せ。楽にしてあげるわ)

 

凶暴なやえの瞳が、わずかに揺らぎだした小蒔の目を捉える。今の打ち方におびえているような手の震え方。

 

しかし、小蒔がやえのリーチ後に牌をツモってくることはなかった。

 

王者の覇道に待ったをかけるのは、鋭い剣閃。

 

「ツモ。1200、2200」

 

手牌を開き、軽く上家のやえを見る。

 

(そのくらいにしてもらおうか。小走)

 

(辻垣内……!)

 

視線の交錯は一瞬。

臨海にしても、これ以上晩成に暴れられるのは看過できない。次鋒以降のメンツに任せてもいいが……智葉にはこの暴君を止められる自信もあった。

 

 

死の先鋒戦はまだ前半戦だ。

 


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