ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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優希がガチモードの時に語尾のキャラ付け忘れてるの、結構好きです。




第18局 王者VS侍

死の先鋒戦。その前半戦が終わった。

前半戦を終えての各校の点数は

 

清澄 112800

晩成 119300

臨海 99300

永水 68600

 

となっていた。オーラスに智葉が跳満をツモって後半への布石を打って、前半戦は終了した。

 

 

 

 

「ゆーき!」

 

前半戦が終わり、一度控室に戻ってきた優希。

プラスで前半戦を終えたというのに、その表情はあまり浮かない。

 

「優希、よく踏ん張ってくれたわ。後半も大丈夫そう?」

 

「頑張るじぇ。ケド、臨海も晩成も、まだ本気じゃないように見えたじょ」

 

久の質問に対して、幾分不安そうに、優希はそう答えた。卓上で優希が感じていたプレッシャーは、並ではない。ただでさえ神をおろした小蒔と、小走やえのプレッシャーに耐えながら、対面からもいつ刃が向けられるかわからないのだ。この感覚は、外から見ている人にはわからない、とてつもない圧力となって、優希に襲い掛かっていた。

 

「優希!タコス用意したぞ!」

 

「でかした京太郎!!」

 

そんな中でも、タコスへの反応は早い。

唯一の男子部員須賀京太郎が用意した特製タコスを奪い取るなり食べ始める。

そんな優希を見て、チームメイトも少し安心したようだ。

 

「優希ちゃん、頑張ってね」

 

「任せるじょ!!」

 

チームメイトの宮永咲からの応援の言葉に勢いよく返事をするその姿は、さっきまでの不安な表情はない。すぐにこうして気持ちを切り替えられるのも、優希の強さなのだろう。

元気になってタコスを頬張る優希を見て、部長の久は優希に最後の確認をした。

 

「点数を見ればわかると思うけど、あなたの卓にいるのは小走やえ。あの事には、常に注意を払っておいてね」

 

タコスを食べ終わった優希は久のその言葉に、真剣な表情で頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全員が、同じ卓に戻ってくる。

開始予定時間はもうすぐだ。

 

「タコス(ちから)フルチャージだじょ!!」

 

優希が元気よく椅子を回転させた。

その表情は、もうやる気満々といった感じである。

 

「なるほど、お前のその力の源は、タコスというわけだな」

 

智葉が真面目に、優希の言葉を捉えて納得している。

智葉はオカルトな部分に寛容だった。

 

「いや、あんたなんで納得してんのよ……」

 

「なに、そういうのも悪くないだろう。小走、お前だって大事そうにポケットになにか握りしめているじゃないか。そういう心の支えはアリだろう」

 

「こ、これはそういうんじゃないわよ!!タコスと一緒にしないでほしいわ!」

 

急に顔色を変えたやえが、プイと明後日の方向を向く。

 

優希が「タ、タコスを馬鹿にされた……?!」と驚愕しているのはそれはそれ。

終始笑顔で小蒔もそんな様子を眺めている。

 

 

 

 

しかし、穏やかな空気はここまで。

互いが互いを削りあう、後半戦が始まろうとしていた。

 

『先鋒戦後半戦スタートです!前半戦はまさかまさかの清澄高校の1年生、片岡優希が善戦!プラスで後半戦を迎えます!対して厳しくなっているのは永水女子のエース、神代小蒔!ここから点数を戻せるでしょうか!そしてそして小走やえと辻垣内智葉がこのまま黙っているはずもありません!』

 

 

 

 

東1局 親 優希 ドラ{④}

 

(清澄の東場女改めタコス女……やはりまた起家か)

 

配牌を受け取って、智葉は思考を走らせる。

その表情に、先ほどまでの空気はない。

 

2巡目

 

「リーチだじょ!!!」

 

(流石に早すぎるわね……)

 

優希が捨て牌を横に曲げた。今度は2巡目だ。

このままでは一発でツモられると感じたのか、また智葉とやえが最低限の一発消しをする。

しかし、今吹いているのは東の風。そして東家に座るは東風の風神、片岡優希だ。その程度のずらしでは、もちろん止まらない。

 

「ツモだじぇ!2600オールッ!」

 

優希 手牌 

 

{③④⑤⑥⑦789一二三四四} ツモ{②}

 

ふっ、と智葉が挑戦的な笑みを浮かべる。

 

(なかなか止まない風だな……)

 

『清澄の片岡優希!今回も東場で暴れるのかあ!?』

 

 

 

1本場も、優希が主導権を握る。

 

「リーチだじぇ!」

 

2巡目。全く衰えを知らない優希のもとに吹き荒れる風が、同卓者を巻き込む。

 

「ツモ!」

 

優希 手牌 ドラ{⑥}

{②③④⑦⑧123567西西} ツモ{⑨}

 

「1300は1400オールだじぇ!」

 

点棒の受け渡しが行われ、優希はまだまだといった顔。

 

 

 

その表情を一瞥すると、やえは、ふう、とまた深い呼吸をした。

 

東1局 2本場 ドラ{7}

 

優希 配牌

{①②③④赤⑤5678三四五北北}

 

(来たっ!ダブルリーチ!)

 

もはやその勢いは誰にも止められないのか。

文字通り東1局で終わらせんといった勢いの配牌は、今回も優希の手元に舞い降りた。

このダブルリーチをツモれば、跳満スタート。

6200オールは大きなアドバンテージとなる。

勢いよく優希は手牌の{8}を横に曲げた。

 

「ダブルリーチだじょ!」

 

配牌で聴牌し、1打目に立直を打つと役が付く。

 

同じように。

 

 

 

 

「ロン」

 

 

 

 

「じょ?!」

 

他者の1打目で和了っても、役が付く。

 

暴風は無理やり止められた。

王者の手によって、また無理やり叩き落される。

 

清澄の控室で見ている久は「うそでしょ……」と呟いていた。

いくら宣言牌を捉える王者とはいえ、ダブルリーチを砕かれるとは思っていなかった。

 

「人和は確か倍満よね。16600」

 

やえ 手牌

{①②③④⑤⑥67三三五五五} ロン{8}

 

『れ、人和だああ!!!今大会初の人和が飛び出しました!!晩成の王者小走やえ!片岡優希の連荘の流れを叩き切りました!!』

 

(やっと、()()()()わ)

 

流石の優希もダブルリーチは何度も打ってきたとはいえ、人和をされたのは人生で初めてのことだった。

 

(この女……!東場の私の速さに合わせられるのか?!)

 

動揺もあったが、まだ東場が終わったわけではない。

優希の好配牌は変わらない。

 

東2局 親 やえ ドラ{二}

 

5巡目 優希 手牌

{②③④⑤⑥⑦⑧一二三三四四} ツモ{②}

 

(よし、聴牌しなおしたじょ……)

 

5巡目だが、優希の捨て牌には{⑥}がある。

優希はやえに狙われているであろう宣言牌だった{三}を手牌に収め、

違う形での聴牌にこぎつけた。高くもなった。

{一}を曲げる。

 

「リー「ロン」っ?!」

 

やえ 手牌

{③③④④⑤赤⑤一一赤五六七東東} ロン{一}

 

「7700」

 

かわしきったと思った牌が捉えられた。

捨て牌を見ると、2巡前のやえの手出しは{二}。

 

(追いかけてきたのか……?!)

 

(逃がすわけないでしょ)

 

優希がかわしに来ていることをわかって、更にその先で待つことに成功したやえ。

こうなると手が付けられない。

 

「リーチ」

 

1本場はやえから曲げに来た。

優希も同巡聴牌するが、出ていく牌が厳しく、回らざるを得ない。

他2人も2巡回らされる。そして2巡あれば、

 

「ツモ。6100オール」

 

やえ 手牌 ドラ{八}

{①②③34567五六七八八} ツモ{8}

 

小走やえはツモってくる。

 

『決まったああ!!晩成高校小走やえ!人和から圧巻の3連続和了です!!』

 

くっと歯噛みする対面の優希を見て、智葉は東場は優希がやりあってくれると思っていたが、そこまで頼ってもいられないと感じていた。

 

(これ以上小走とも離されるのはあまりいただけないな)

 

 

東2局2本場。

 

これは流しに行ったほうがいいと判断した智葉が動く。

 

「ポン」

 

「ポン」

 

5巡目 智葉 手牌 ドラ{④}

{②③④⑤⑥⑥西西} {白横白白} {⑨横⑨⑨}

 

対面から2鳴きすることで、やえの手番を飛ばしつつ、{⑥}を切れば3面張の混一の聴牌。

流石は昨年の個人戦準優勝者。

 

やえの下家ということを十分に活かして、やえの親番を刈りに行った。

抜き身の刀が王の首を狙って鞘から抜かれる。

智葉が1歩踏み込み、王者の背後に美しい刀身が迫る。

 

 

「ロン」

 

瞬間、智葉の目が一瞬細まる。

去年と違ったのは、やえの支配力だった。

自らに向けられた抜き身の刀を振り返りざまにむんずと素手で掴み取る。

手を血だらけにしながら王者は暗殺の刀を砕いた。

 

やえ 手牌 

{⑤⑦33567四五五六六七} ロン{⑥}

 

「7700は8300……邪魔をするな、辻垣内…ッ!」

 

もはや狂気に見えた。右目を光らせ、手を血みどろにしながら自らを抑え込みにきた王者の姿に、智葉は思わず自身の考えを改める。

 

「……なるほど、去年の間合いで踏み込めば、()られるのはむしろこちらというわけか……」

 

凶暴な視線を向けてくるやえに対して、眼鏡をかけなおして智葉は思考を巡らせる。

 

(冷静さがついたかと思ったがむしろ逆、狂気にも満ちた圧倒的力。しかしその脆さ、どこかで出し抜けるか……?)

 

『辻垣内智葉からも一閃!止まりません小走やえ!!』

 

 

 

東2局 3本場 ドラ{一}

 

やえの連荘が続いているとはいえ、場はまだ東場。

 

「チーだじぇ!」

 

2巡目にして、また東の風が吹き荒れる。

 

(鬱陶しい風ね……!)

 

流石のやえも、毎回3巡程度で手ができるわけではない。力の性質上、相手によって手牌の相対的速度も上がるが、だからといって毎回先手を取れるわけでもない。

だからこそ心を折りたかったのだが、この東場娘はそうはいかないらしい。

いっそのことノーテンリーチでも打ってやろうかと放送対局ではありえない発想もしたが、流石にちょんぼ扱いにされてしまうのでできるはずもなく。

 

「ツモだじぇ!300、500の3本場だじぇ!」

 

優希の必死の仕掛けが、実を結ぶ。

 

優希 手牌

{④⑤⑥⑦⑧三三456} {横①②③} ツモ{⑨}

 

(その形から両面チー。一見ありえない悪手に見えるからこそ、かいくぐったか)

 

『小走やえの連荘を止めたのは清澄の片岡優希!!まだまだ諦めてはいません!』

 

(まだ東場……やれるじょ……!)

 

優希が一向に衰えない闘志を燃やす。

 

 

と、点棒をいつまでもくれない小蒔に、優希が違和感を覚える。

 

「あ、あの、巫女さん、600点欲しいじょ」

 

「……あ、ああすみません!寝てました!」

 

あたふたと点棒を払い出す小蒔を見て、寝てた?という疑問符を浮かべるのは優希。

 

対照的に、ニヤと凶暴な笑みをやえが見せたことを、智葉は見逃さなかった。

 




咲シリーズで人和は見たことが無かったので、倍満ルールを適用させていただきました。


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