いつもありがとうございます。ついにお気に入り登録数が5000件を突破しました。
咲というジャンルでここまでお気に入り件数を重ねられると思っていなかったので、本当に嬉しいです!
そしてもう一つ、10評価の数も300を超えました!10評価が赤バーになるの、夢だったんですよね……。
もし最近お気に入り登録したよ、って方で、評価してやってもいいよ、って方は是非、高評価の方もよろしくお願いします!
いよいよ団体戦も佳境。
年末までには、終わらせる予定ですので、あと少しお付き合いいただければと思います。
それでは、どうぞ。
「恭子、清一色麻雀やろうよ」
「ええ~、あれ苦手やねんな」
「苦手だからこそ克服するんじゃない!」
高校2年生の頃の話。
大会の牌譜を検討したいという恭子の意見を受けて部活の練習後に多恵の部屋に集まった二人。
長くなった牌譜検討を終えて、小休憩。
温かい紅茶を飲んで一息ついていたところで多恵からの提案。
笑顔の多恵に対して恭子は思わずため息をついた。
もう夜は遅い。
こうなることもよくあったので、家には事前に連絡を入れている。
いつも家族に生暖かい目で見送られるのは癪にさわるが、許してもらえるならまあ、どうでもいい。
「ウチ結局鳴くねんな。面前清一色になんてほぼならへん」
「ええ~でも上家が絶対絞るマンだったら鳴けないかもよ?」
「いや誰やねんソイツ……」
いそいそと準備を始める多恵を手伝ってしまっている時点で、やることはまあ決まってしまっている。
文句を言いながらも、恭子は多恵とやる清一色麻雀が嫌いではなかった。
勉強になるし、と自分に言い聞かせながら。
なれた手つきで山を積む2人。
サイコロは回さず、じゃんけんで勝った方が親というなんともいきあたりばったりなルールで。
じゃんけんに勝った恭子が4枚ずつ手牌を手元に引き寄せる。
「あ~……これは聴牌、やな。待ちは……ん~……?」
全てが索子の牌で、恭子の目の前の手牌は14枚になった。
2人は特殊ルールで理牌無しで行っているので、牌姿が非常にわかりにくい。
「これが一番広いか……ほい」
「それローン!」
「毎回こうなってへん???なあ????」
ウキウキ顔で手牌を開いた多恵の手牌を見ても、即座に待ちはわからない。
「恭子の手牌見せて?」
「ん?ああ~、これや。多分この{69}待ちが一番広いんちゃうかな?」
「え~と……?あー!恭子選手不正解です!{8}を切った{479}待ちの方が1枚多いです!!」
「なんでそんなんすぐわかるねんバケモンか」
恭子は多恵の指摘を受けて渋々理牌を始めたが、もうどうせ多恵の言っていることは正しいんだろうなと思っている。
このての指摘で多恵が間違っていたことなんてない。今まで一度もだ。
それぐらい目の前の少女は牌姿に強い。恐ろしいほどに。
「ホンマや……{7}の暗刻上手く使えんかったなあ……」
「まあでも本当に1枚差なんだけどね」
差が一枚とか、大事なのはそこではない。少なくとも恭子はそう思った。
その待ちに気付けるか気付けないか。それで勝負は決まる。理牌できれば最適解にたどり着けた自信はあるが……それはただの言い訳。
悔しさをかみしめながら、大きく伸びを一つ。
「ウチが面前清一色聴牌することなんて公式戦にあるんやろか」
「まあだいたいその前に鳴ける牌鳴きそうだよね」
「せやな……そもそも大体狙わんしな」
「混一の方が守備力あるもんね……まあでも、形に強くなるのは大切だから!」
「それ言われるとなんも言えへんねんなあ……」
ガチャガチャと牌を手で混ぜる音が響く。
結局日付が変わるまで、その音が鳴りやむことはなかった。
決勝大将後半戦 東三局 1本場 点数状況
1位 晩成 巽由華 130300
2位 姫松 末原恭子 126200
3位 千里山 清水谷竜華 111500
4位 白糸台 大星淡 32000
東三局 1本場 親 恭子
恭子 手牌 ドラ{③}
{②③⑧77789二三五七南西} ツモ{二}
(そーいや、そんなこともあったな……索子の形が、あん時によう似とるわ)
去年の記憶。
麻雀が上手くなりたくて、とにかく多恵とともに特訓してた頃の記憶が、ふと蘇った。
結局、公式戦でここまで面前清一色を和了った機会はない。けれど、あの頃の日々があったから、形に強くなったなとは思う。
(そんなこと考えられとるくらいには、落ち着いて打ててるんやな、きっと)
状況は東の3局1本場。地力で持ってきた親番で、そしてその親番で1回和了ったものの、恭子の表情は晴れない。
(ホンマに親番で1回和了ったやつの点数か?全然増えてへんやんけ……)
和了った点数は2900。リーチを受けたから仕方なく仕掛けられる方向へシフトチェンジしただけという恭子の感覚だが、見ている側からすればとんでもない手順をやってのけた。
一向聴から食い変えのチー。比較的安全な牌で回れるとはいえ、なかなか思い切って仕掛けるのには胆力がいる。
だからこそ周りは恭子への警戒心を現在進行形で高めているのだが、当の本人はそれを全く理解していない。
(まだ、足りひんな。巽と清水谷の火力を考えたら……そして大星が万が一とんでもないのやってきた時のこと考えたら、とりあえずここでトップになっとかなあかん)
油断はない。どころかまだ2位なのだ。追う立場。
恭子は手牌から{南}を持ち上げて、内切りで切り出した。
『麻雀における速度って難しいよなあ』
『……と、言いますと?』
『いやほら、がむしゃらに鳴きまくれば早いんだったら楽じゃん?手牌短くなった方の勝ち、みたいな。知らんけど』
『……言い方はあれですがまあ、鳴くということは手が進んでいるんですしよほど変なことがなければ速くはなってるんじゃないですか?』
『んにゃ。実はそうでもねえんだよな。聴牌に近いのはそれでいいかもしれねえけど……麻雀は和了がゴールのゲームだ。最終的に和了れなきゃ、意味なんてないんだよ。知らんけど』
咏の言葉の意味を針生アナが掴みかねている間に、淡から{二}が出る。恭子の対子の牌だ。
『例えば今出た{二}。ポンすれば手牌短くなるけどこれは鳴かない。タンヤオが確定していないブロックがあって、ドラも使い切れるかわからないからだよねい』
『……流石にあそこから鳴く人はあまりいなさそうですかね?』
4巡目 恭子 手牌
{②③777889二二三五七} ツモ{③}
『おっと、末原選手ドラが重なりましたね』
『いやーいいとこ引くね。これでまた仕掛ける可能性出てきたんじゃねえの?知らんけど』
直後、下家の由華から{8}。
「ポン」
これを恭子は軽快に仕掛けた。
場に走る緊張感を、恭子だけは感じていない。
(また……また間に合わないのか?オリ……?いやでも大星は打点狙いで遅い。清水谷さんも、捨て牌を見る限り手牌はそこまでよくない……!私が、私が前に出ないと……!)
焦りは感じている。
この永遠にも感じられる親番を乗り越えなければ、晩成の優勝はない。
けれど、もう一度南場にこの恭子の親番があると考えると気が遠くなる思いだった。
『{8}ポン……!今回はここから仕掛けます末原恭子選手!{69}受けがあって一盃口等の手役も狙える可能性がありそうですが、ここはポン……!』
『ま~このあたりがスピードスターたる所以だよなあ。ドラの{③}が重なって打点がある程度保証された。タンヤオ未確定ブロックでもなくなった』
『末原選手は副露率が高いことで有名ですが……意外と鳴き一通や鳴き三色の仕掛けは少ないんですよね』
『まあ、そうだろうな。鳴き一通も鳴き三色も、絶対に必要な牌が出てきちまう。その点タンヤオは例えば必要な牌をカンされたとしても他にブロックを求めに行ける……そういう自由度の高さが、末原ちゃんの麻雀の強さだろうな。知らんけど!』
7巡目 恭子 手牌
{③③777二二三五七} {横888} ツモ{四}
『聴牌!これでシャンポン待ちの聴牌です末原選手!早い早い。今度は先制聴牌を入れました!』
『いや、ちょっと待てこれもしかすると……』
恭子はあらかじめ決めていたかのごとく。
ツモって来た{四}を手の中に収めると{二}を軽やかに切り出した。
『え?!シャンポン受けに取らず!カン{六}に取りました末原選手!』
『っかあ~!なるほどねい。驚くほどリアリストだわ末原ちゃん。女子高生はもっと夢見た方が良いよ~』
『後半は意味わかりませんが……これでもドラの{③}を持ってきたり他から出たら痛くないですか?』
『そら多少はいてえかもしれねえけど……場はドラ色の筒子がすげえ高くて、萬子と索子が相対的に安い。{二}は既に1枚切れていて残り1枚で、{六}は生牌。{③}はやすやすと場に出る牌じゃねえから、{二}1枚に頼るのは心もとない。そんでもってもし仮にドラを持ってきちまったり出た時は……ポンして{7}を切ってやればいい。そうだろ?』
『な、なるほど……雀頭を取り換えられるからこその選択……!』
『ま、ドラは私達はもう山にないことを知ってるからなあ。この末原ちゃんの選択は―――』
「ツモ」
恭子 手牌
{③③777二三四五七} {横888} ツモ{六}
「2000は2100オール、やな」
『大正解、ってことなんじゃねえの?知らんけど!』
『しっかりと山に3枚残ってました{六}……!ツモり上げて連荘です末原選手!!そしてこの和了りで……!』
決勝大将後半戦 東3局 2本場 点数状況
1位 姫松 末原恭子 132500
2位 晩成 巽由華 128200
3位 千里山 清水谷竜華 109400
4位 白糸台 大星淡 29900
『逆転!!!姫松が玉座を奪い返しました!!!』
『さあデッドヒートだ。一瞬たりとも、目を離すんじゃねえぞ……?』
東3局 2本場 親 恭子 ドラ{9}
前局となにも変わらず。
ただどこか寂しそうに理牌をする恭子に集まる鋭い視線。
このままやられっぱなしになれば、勝負が決まる。
いつもどおりの恭子とは違い、そんな感覚が残り3校には確かにあった。
どこかで勝負する必要がある。
どれだけ前に出てこられて、リーチがかかろうとも真っすぐに打ち抜く勝負局を作る必要がある。
全員がそれを理解したうえで、一つ息を吐いてから―――手牌を開いた。
由華 配牌
{②②⑥11一二三白白中南南}
竜華 配牌
{⑥⑦⑧⑨45789二二四六}
淡 配牌
{③④13999六八九白発発}
(((ここで止める……!)))
大将後半戦は大きな山場を迎えていた。