あれ、わかりやすくていいですよね。
この作品も過去回想はたびたび出てくるので、そんなイメージをもっていただければ幸いです。
『常勝軍団姫松の影の仕事人、真瀬由子!!!白水哩の勝負手を役牌を絞って蹴りました!!白水選手の運が悪かったのは、上家に座るのが真瀬選手だったことでしょうか!』
「よしっ!由子!」
白水哩の勝負手を1300で蹴ることに成功したモニターの中の由子を見て、多恵もガッツポーズだ。
恭子もよしよし、と頷いている。
「どうやら白水の様子がおかしかったし、宮守は完全に白水をマークしにいっとるようやな。1回戦で沖縄の銘苅を完封したのは伊達じゃなさそうや」
「真瀬先輩!流石です!!」
最前列で応援する漫も喜んでいる。
そんな様子を見ながら、洋榎は由子の捨て牌を見つめる。
「白水の捨て牌に字牌が高い。そう思って役牌を重ねて待ちにしたんか。由子、流石のセンスやな」
由子の河には対子の手出しがある。白水が染め手に向かっているのを見て、役牌を絞って、結果的に自らの待ちにまで持って行った。点数を持ったトップ目としては完璧な打ち回しだ。
「由子は昔から本当にいい仕事するんだよねえ~」
多恵が思い出すのは、部活の後、今の3年生のメンバーで居残り麻雀をしていた時のことだった。
「ぎゃ~~また負けなのよ~」
由子の目がぐるぐるになっている。
洋榎、多恵、恭子というメンバーに囲まれて、由子はマイナスの日々が続いていた。
相手が悪い……といえばそれまでだが、部内のランキングはともかく、このメンバーと卓を囲むとどうもプラスに持っていくことができなかった。
「由子は考えすぎやと思うけどなあ……他のメンツで囲むより、圧倒的におもろいし、心配あらへんやろ」
「ウチもスランプはあったし、無理にこのバケモン2人に追い付こうとせんほうがええと思うで、由子」
由子がこのメンツを相手にしてなかなか勝てないことに不安を感じているのは他のメンバーも知っていた。このメンバーに勝てなければ、他校の猛者たちを相手にした時に、やられるがままになるのではないかと。
洋榎と恭子の意見ももちろん合っていて、このままでも由子はもちろん強い。要所要所で和了りをしっかりとものにすることで、大負けをしない、良い雀風が身についていた。
う~ん、と由子は考えていたが、もう下校時刻も近い。
洋榎が帰り支度を整える。
「おつかれさんさんさんころり~」
「洋榎、ウチも帰るわ。由子、多恵、ほなまた明日な。あんま考えすぎんで、由子は強いんやから」
恭子がそう言って教室を出ていく。
恭子と洋榎は由子を認めていた。だからこそ、励ましの言葉は心の底から思っていることなのだろう。
「そうは言っても……なのよ~」
由子の表情は珍しく優れない。
いつも笑顔でのほほんとしているのが由子だ。
(由子は確かに今のままでも強いけど……何か力になれるかな?)
少し思案した後、そうだ、と思いついたように多恵はもう一度由子が座る麻雀卓に腰掛ける。
「由子、清一色麻雀は2人でけっこうやったから、ちょっと由子に合う勉強しようか」
そういうと多恵は由子の前にある牌をカチャカチャと手際よく集める。
やえとやっていた清一色麻雀は、この姫松に入ってからも色んなメンバーでやっている。多面形の待ちを覚えるにはもってこいのゲームなのだ。
由子は驚いた表情でその様子を見つめている。
由子の前に、3枚ずつ1セットの牌が、3セット用意された。
「この河3種類見て、由子はどれが一番早そうで、どれが一番遅そうだと思う?捨て牌は全部手出しっていう条件、{西}はオタ風ね」
A{4五⑥} B{西中2} C{中西四}
並べられた牌をみて、BとCはそんなに変わらなさそう。
Aだけ重そうという感覚くらいが由子の感想だ。
「3枚じゃ難しいのよ~」
う~んと由子がうなっている。
もちろん、3枚では正確な読みができるわけではない。
それでも、相手の手牌の傾向を掴むことはできる。
多恵が得意としているデジタルの中には、こういった相手の捨て牌から相手の手牌の進行速度を読む方法がある。
相手の待ちを読む精度は、洋榎には遠く及ばないのだが。
「それじゃあ解説していこうか。正解はC→B→A。Cが1番早く、Aが1番遅い」
BとCの違いについては、単純な字牌の切り順から生まれるロジックだ。
役牌を先に切り、オタ風を後から切っているということは、自分が役牌を重ねるよりも、相手に重ねられたほうが嫌だ、という意思の表れだ。つまり、役牌がいらない、タンピン系の手であり、後に出てきた{四}はかなり真ん中に近い牌。
手牌進行はかなり早そうだ。
Aは典型的な重い手牌の時になりやすい捨て牌だ。国士無双を狙いつつ、対子が増えれば七対子。もしこの捨て牌で早い段階でリーチがかかろうものなら、まず七対子を疑うべきだろう。
これらの解説を聞いて、由子がなるほどなのよ~と難しい顔をしている。
「もちろん由子もなんとなくこうだろうな~っていうのは感覚としてあると思うんだ。それを明確に読みとして働かせることで、由子の麻雀はもっと強くなるんじゃないかな?」
由子は今まで、この3人を相手にするとき、全員の和了りを止めようとしている節があった。しかし麻雀は誰か1人が和了れば、その局は終了するゲーム。なにも全員を止める必要はない。
それを多恵は由子に伝えたかった。
「確かに、そうなのよ~。ありがとう多恵、明日からやってみるのよ~!」
自分らしい戦い方を見つけた由子の表情は、また朗らかないつもの調子に戻っていた。
南2局 親 哩
「ロン、2000よ~」
(また……!)
(姫松の真瀬さん。徹底してますね……)
早い巡目でまた白水の親番を落とすことに成功した由子。
全ての牌を真ん中に落とす作業をしながら、ぎゅ、と拳を握って由子は目の前の強敵たちを見据える。
(みんなの教えが、生きてるのよ~)
多恵から戦術を、洋榎から当たり牌察知を、恭子から鳴きの技術を。
全員から教わった力が、確実に今の自分の力になっている。
どんな相手でも、仲間に比べれば強くない。
そう思えるだけの経験が、由子を支えていた。
南3局 親 塞
(正直、白水がこれ以上和了れないのなら、2着のウチが姫松と共同で局流しってのも悪くないんだけど……白水も真屋もこのままで終わるはずないし、私としても点数は欲しい)
そう思いながら塞は理牌をする。
注目するのは上家に座る白水哩だ。
先ほどは由子の協力もあってうまく止めることができた。
そしてそこからは配牌が思うような形ではないのか、リザベーションをかける様子は見られない。
しかしこの雀士は北部九州最強の高校で3年間エースを務め続けている猛者。
3年間というのが何を示すのかといえば、もちろん姫子がいない時だってエースを張ってきたということだ。
素の雀力は推してしるべしだろう。
(来るか……?絶対的エース白水哩……!)
哩 配牌 ドラ{9}
{95①東赤5一9東西⑦⑦七5}
(ドラ3……悪なか。手は重いばってん、……やるしかなか!)
哩が手を閉じる。
先ほどは止められた。しかし1回や2回でくじけるほど、哩はヤワな雀士ではなかった。
(リザベーション……!
瞬間、塞のモノクルが光る。
(また私の親で……!させるか!塞ぐ……!)
また哩の上空に大きな岩が降り注ぐ。姫子とのリンクを遮断されるような、それ。
わずらわしそうに振り払おうとする哩だが、いつもは確かに感じられた感覚が、切られてしまう。
(姫子……!どこにおると……!?)
その心の叫びは通常なら届かない。
しかし。
(部長……!!)
遠くから、姫子の声が聞こえた気がした。
いつもそばで聞いていた声。
2人の深く結ばれた絆は、不可能を可能にする。
哩の目に確かな炎が宿る。
(せからしか!!姫子とん絆。誰にも邪魔はさせん!!!)
哩が上空に向けて
金色に輝く和了りへの鍵は、ギリギリギリと岩を打ち砕かんと突き進む。
「まずい」
熊倉監督がそう小さく呟いたのを、胡桃が辛うじて聞き届けた。
(くっ……?!)
ピシ、とモノクルにヒビが入ったのを見て、とっさに塞がモノクルを外す。
上家に座る哩から放たれるプレッシャーは、先ほどまでの比ではなかった。
(嘘……?!まだ2回目なんだけど?!銘苅の時だってこんなことはなかったのに……化け物め…!)
既に塞の体力はかなり削られている。荒い息をどうにか整えながら、それでも塞はやれることを模索する。
リザベーションの効果自体は止められなくても、和了りそのものを止めれば問題ない。
震える手を抑えつけて、必死に打牌をする。
しかし白水哩という雀士は、そう甘くはない。
南3局 10巡目
「ツモ!!3000、6000!!」
哩 手牌
{赤55599⑦⑦} {一横一一} {横東東東} ツモ{9}
(跳満?!くっそ……トヨネ、3倍満がくるかも……ごめん……)
もうすでに塞の体力は限界だ。
わずかに視界がぼやけてきている。
哩の目には炎が浮き出ている。
(リザベーション、クリア!!姫子への
わあっ!と新道寺の控室が盛り上がる。
苦しい展開の中で、リザベーションが決まったことに、メンバーも大歓喜だ。
「部長……!南3局、倍満キー……!」
姫子のもとに、この半荘2本目の光り輝く
哩さん強すぎるのにあまり強い相手と当たったことなかったので、当てたらどうなるのかなと想像が膨らみます。