ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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第24局 意地

前半戦が終わった。

 

東場でかわし手が多く決まった影響もあって、点数状況にさほど大きな差はでなかったが、やはり南3局に白水哩が跳満を和了ったことは、他校にも大きなダメージを与えていた。あの様子で、リザベーションがかかってなかったと考えるのは軽率。

 

大将戦前半戦で、倍満、3倍満クラスは覚悟しなければいけなくなった。

これがリザベーションの怖いところである。

 

「きっつ……これ後半戦大丈夫かあ……?私……」

 

あまりの脱力感と倦怠感に、宮守の副将、臼沢塞は壁によっかかりながら休むことしかできなかった。本来なら控室に戻って休みたいのだが、生憎その元気もない。対局室を出た廊下で座り込むのがやっとだった。

 

(少し休もう……)

 

 

 

 

 

 

「……塞……塞」

 

誰かが呼ぶ声がする。

どうやら座り込んだまま少し眠っていてしまったらしい。

目を開けると、チームメイトの小瀬川が塞をのぞきこんでいた。

 

「……シロ?」

 

「肩か手……貸そうか?」

 

控室に戻ってこない塞を心配して、小瀬川は対局室まで様子を見に来ていた。

ちょうどお手洗いにも行きたかったし、と自分をごまかしつつ、対局室に来てみれば、塞が座り込んでいるのを見つけたという次第だ。

 

「いいよ……シロに介護されたらおしまいだわ」

 

パンパンとスカートについた埃を払いながら塞はゆっくりとその場で立ち上がる。

 

塞と小瀬川と胡桃は、宮守の中でも古い仲だ。もともと3人しかいなかった麻雀部。そこに留学生のエイスリンと、豊音が加わって悲願の団体戦に出ることができるようになったのは、3人にとって願ってもないことだった。

 

3人麻雀しかできなかった時期も長かった。それでも3人は麻雀部をやめようとは決して思わなかった。それはもちろん、3人が麻雀を好きだったのもあるし、なにより3人でいる時間が好きだったから。

 

「でも、シロが控室抜け出してまで来てくれるなんてね」

 

ニヤリと笑みを浮かべて、いつもダルそうな表情しかしない小瀬川をしたから覗き込む。

 

「……お小水のついでに……」

 

「心配して来てくれたんじゃないんだ?!」

 

もちろん、照れ隠しであることは薄々塞も気付いている。これだけ深い仲なのだ。それくらいはわかる。

 

「……頑張って」

 

だからこそ、このダルいダルいといつも面倒くさがりな友人が、応援してくれることがどれだけ珍しく、そして心の底から思っているのかが伝わる。

昔から不思議と小瀬川に心から応援されるというのは、どうしてか心が奮い立たされる。

 

「まあ、任せてよ!」

 

精神的なものだけではなんとかならないことはわかっている。

それでも、なんとか後半戦も頑張れそうだと思えたのは、きっと友人のおかげだろう。

 

 

 

 

 

 

 

『Dブロック2回戦はこれから後半戦に入ります!』

 

 

東1局 親 真屋

 

席順が変わって、起家は真屋になった。

南家に白水、西家に由子、北家に塞。

 

後半戦も、基本的に新道寺以外の3校のマークは、白水哩に向いていた。

当たり前の話だが、リザベーションをクリアされると、まず、コンボは止められないものとして考える。となれば、失点は通常の3倍以上だ。

何発も大きい打点をクリアされると、その時点で勝負がつきかねない。

 

(こん局の配牌は、よくなか。姫子のことば考ゆっぎ、無理して失敗はよくなかね)

 

対して哩も毎局リザベーションがかけられるわけではない。

リザベーションをかけて和了れなかった局は、姫子に入る配牌はひどいもの。良くても4向聴だ。

 

後輩のことを思うからこそ、無駄な失敗は許されない。

 

姫松以外の3校が、どうしても打点を作るために、腰が重くなる。

 

そうなれば、1人だけ、軽く和了ることができる人間がどうしても有利な展開になりやすい。

 

「ツモ。800、1600なのよ~」

 

由子 手牌 ドラ{5}

{②②④④6677二二三三西} ツモ{西}

 

(タンヤオの目をつぶしてまで和了りやすい字牌で待つのか……この常勝軍団の牙城、突き崩せるのか……?)

 

全く七対子ぽさが無い河でしっかりと七対子をリーチもかけずダマで和了りきった由子。

後半戦も、そのスタイルは健在だ。

 

東2局は白水とリーチをかけた真屋の2人聴牌で流局、1本場になった。

 

 

 

東2局1本場 親 哩 ドラ{3}

 

哩 配牌

{東③赤⑤3七6西東5⑥二四9}

 

(ダブ東対子……良くはなか。ばってん、やるしかなか!リザベーション……3翻(スリー)!!)

 

この配牌なら4翻を狙ってもよさそうだが、最悪ドラの{3}が出ていくリスクも考えれば、ここは3翻にしておくのが無難な選択。

手牌を倒した哩を見て、対面に座る塞が逡巡する。

 

(大将戦で存在するかどうかわからない1本場か……仮に東2局の親が鶴田だったとしても、そこはトヨネに任せよう)

 

体力のことも考えて、ここは一旦スルー。

塞の能力も無尽蔵ではない。使いどころは常に考慮する必要がある。

 

 

 

8巡目

 

「ツモ!2100オール!」

 

哩 手牌

{赤⑤⑥567七七} {横三二四} {東横東東}

 

(くっそ……リザベーションの時のこの人の速さはいったいなんなんだ)

 

手牌も悪くなく、流しに行こうと鳴かれにくい初打に{東}を打ったのが災いしてしまった。

自身が和了りに行くなら仕方のないことなのだが、ここは哩の意地が上回る。

 

 

(ここまで、完全にやられっぱなし……どこかで良い配牌がくれば狙っていたのですが……待っているだけではダメのようですね)

 

わずかに卓の下の左手をさするのは、北家の真屋由暉子だ。

彼女は一日に一度だけ、左手を使うことで自らのツモの力を上げることができる。

制限回数つきな上に、必ず和了れる保証があるわけでもないこの能力は、同じく使いどころの難しい能力だ。

それに、と真屋は昨日の会話を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

「ユキ、2回戦は宮守女子の臼沢さんに気を付けて」

 

インターハイ初戦を終えて、旅館のお風呂で疲れをとったあとのミーティング中。

大将の爽から出てきた言葉は、真屋からすると意外な言葉だった。

 

「新道寺のエースではなく……ですか?」

 

Dブロック副将戦の目玉は、誰がどうみても新道寺のエース、白水哩に集まる。

だからこそ白水の和了りを止めるために、自分がなにかしら策をうたねばと思っていたところに爽からのこのアドバイス。

 

「もちろん白水さんも警戒は必要だけど、宮守の臼沢さん、どうやら相手の力を止める能力があるらしい。もしかしたら、ユキの力も」

 

「止める……?」

 

爽からのアドバイスは、にわかには信じがたいことだった。

鳴いてツモをずらすわけでもなく、ただただ止める。

そんなことが可能なのか。

 

「もちろん確定ではないんだけど~気を付けるに越したことはない。基本的には臼沢さんも白水さんを止めにかかるだろうけどね」

 

リザベーションを止めてくれるのであれば、大将である爽としてもありがたいことだ。

ユキにはその間を縫って上手く和了ってほしい……という願い。

 

「わかりました。精一杯、気を付けてみます……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(とは言ったものの……)

 

爽のアドバイスを思い出し、もう一度自身の点棒を確認する真屋。

後ろには爽がいる。楽観はできないが、最低限つなぐことさえできればなんとかしてくれるかもしれない。

そんな信頼が、有珠山の大将を務める爽にはあった。

 

しかし、爽に頼りきりにならないためにも、少しでも点棒は増やしておきたい。

真屋はどうにかしてこの力を使うタイミングをうかがっていた。

 

 

東2局 2本場 ドラ{2}

 

8巡目 真屋 手牌

{③③④赤⑤⑤244667七九} ツモ{2}

 

(ドラが重なって、七対子1向聴……!やるならここしかない……!)

 

本来ならもっと早い段階で使いたかったが、仮に止められた時も考えると、ある程度まとまった形にしてから使いたいと真屋は思っていた。

今がその時。

 

真屋の左手が光り輝く。

 

「左手を、使ってもいいでしょうか」

 

通常、麻雀において左手を使うのは余り褒められた行為ではない。

左手を使うのは理牌の時だけで、基本の打牌は右手でするのがマナーだ。

しかし、1局きりであれば、止めるのはそれこそマナーにうるさい鹿倉胡桃か倉橋多恵くらいのものだろう。

 

真屋の言葉に、塞の表情が曇る。

有珠山との点差はそこそこある。この能力はまだつかみどころがなく、回数制限が何回なのかもよくわかっていない。

更にまだ白水がリザベーションをしてくることを考えると、体力的にキツい。

 

(ここも1度、様子を見る。地区大会では満貫もあったし、ツモなら削られるのは新道寺だ)

 

既に白水の対策で体力をかなり削られている塞。

まだ丸々1半荘残っていると考えると、ここで消耗はしたくない。

 

「……止める理由もなか」

 

もちろん哩も真屋の力はある程度把握している。

自身の親番でやられるのは余り歓迎できないが、哩には止める方法もない。

 

紋章が刻まれた左手で、真屋が牌をツモってくる。

 

「リーチします」

 

「……チー」

 

宣言牌として切られた{④}を見て、下家に座る哩が鳴きを入れた。

しかし、その鳴きは一発という役を消す効力のみに留まる。

 

 

 

「ツモ!!4200、8200です!」

 

真屋 手牌 ドラ{2} 裏ドラ{九}

{③③赤⑤⑤224466七七九} ツモ{九}

 

(裏ドラばっちりなのよ~)

 

(やっぱ、ツモられよるか)

 

(倍満……ツモならギリギリ許容範囲か……)

 

 

 

 

 

 

東3局は塞がそうそうに和了りをものにし、東4局。

 

東4局 親 塞 ドラ{1}

 

哩 配牌

{⑨西1七653四②98二7}

 

配牌から一気通貫ドラ1くらいは見えそうな手牌。

迷いなく哩は手牌を閉じる。

 

(リザベーション……!)

 

鎖の絡まる音。自らの体に縛りをかける哩。

その動きを感じ取って、対面で理牌していた塞はとっさにモノクルをかけなおす。

 

(まったまた私の親番でぇ~~!!させるか!今度こそ塞ぐ!!)

 

モノクルが光る。

能力を塞ぐ大岩は、またしても哩の上に降り注いだ。

わずかに表情を歪める哩。

 

(しゃーしか!必ず突き破る……!そいで、姫子につなぐッ……!)

 

先ほどと同じように、哩は大岩めがけて、姫子の声がする方向に鍵を投げつけようとする。

 

(そうはさせるか……!!)

 

今度は塞が抑えつける番だった。

モノクルをかけ、荘厳な衣装を身にまとった塞は、鍵を投げようとした哩の腕を無理やり抑えつける。※イメージの話です

 

(いい加減にしんしゃい!この鍵ば姫子につなぐ……!こっちには負けられん理由があっとよ……!)

 

(負けられない理由なんて、仲間のためで十分でしょうが!!)

 

意地と意地のぶつかり合い。

両者1歩も譲らないこの局の軍配は、

 

「ロン!3900……!」

 

5巡目 塞 手牌

{34赤57778} {横九九九} {白横白白} ロン{8}

 

(リザベーションばかけられんかったばってん、逆に良かった思うしかなかか……)

 

塞に上がった。

息も絶え絶え。もう目視では手牌が何の牌かもわからなくなってきた塞は、盲牌でなんの牌かを確認するほどになってきていた。

 

(キツさ限界……だけどまだ最低でも5局残ってる……やらなきゃ……!)

 

仲間のため、自分のため。

 

塞と哩の闘志は少しも消えてはいない。

 

 







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