ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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第29局 目の灯火

南3局 親 爽 ドラ{③}

 

Dブロック大将戦は前半戦の南3局。

副将戦前半戦の南3局での白水哩の和了りは、もちろん他3人の頭にも入っていた。

 

(副将戦で白水が和了ったんは跳満。もし6翻縛りをかけていたんやとしたら、来るのは3倍満や。やけど、あの手牌、仕掛けから見て、ウチと多恵の見解は一致しとる。おそらくは4翻縛り)

 

白水哩は南3局で、高目をツモ和了り、跳満としていた。

つまり、安目だと6翻に届かなかったということ。そして、安目でもよしとする前提の仕掛け。

 

過去の牌譜から見ても、6翻しばりとは考えにくかった。

 

5翻縛りは意味がないので、おそらくは4翻縛りではないか。

実際に対局していた由子とも話をして、多恵と恭子はそう結論付けた。

 

(だからなんや、って話ではあるんやけど、倍満ならギリギリ2着目には届かん。それをこの2人が良しとするかどうかや……)

 

気になるのは他家の動向。

今の時点での点数はこうなっていた。

 

東家 鶴田姫子  59800

南家 末原恭子 167500

西家 獅子原爽  88600

北家 姉帯豊音  84100

 

点数状況を踏まえて、恭子はチラリと、下家に座る爽を眺めた。

この有珠山の大将と、宮守の大将はなにをしてくるかわからない。

圧倒的リードがあるとはいえ、一分の隙も見せるつもりはなかった。

 

警戒を怠らず、恭子は2打目を切り出す。

 

その牌に、爽から声がかかる。

 

「ポン」

 

(親なんだよなあ……)

 

当然のボヤキだろう。ここでもし姫子に3倍満をツモられようものなら、自身は12000の出費だ。

やれることだけやって、回避を試みるのは、普通だろう。

 

そして何より、爽には心強い味方がいた。

 

(幸い、ホヤウは残ってる。アッコロも残っているから裏ドラの心配はないし、流石に時間かかるだろ)

 

ホヤウは他者からの干渉を無くす全体効果系の能力だ。

これでリザベーションを打ち消してくれれば、爽にとっては一番嬉しいし、打ち消せはしなくても、時間がかかってくれればそれで構わない。

 

この卓には速度に関しては高校1を争う逸材がいるんだし。

 

そんな願望を込めながら自身も和了に向かうために鳴きを入れた。

 

しかし。

 

 

「リーチ」

 

3巡目、爽の思惑とは裏腹に、あっという間に姫子からリーチが飛んできた。

 

(びよーーーん)

 

爽の顔が上に伸びる。

モニターをちゃんと見れば爽の顔がアホの子になっているのを視聴者からでも確認できた。

 

これでは、リザベーションが消えているとは、とても思えない。

それに、姫子の目には、確かな意志が宿っている。

 

 

(その程度で、部長との絆、消えるなんてあるわけなか!そがんことしようたって、無駄や!)

 

 

恭子も、はあ、とため息をついて現物を切り出す。

一応動けるような形にはしていたが、2向聴からではとてもじゃないが向かえない。

 

爽も諦めたように現物を切り出す。

 

もとより、この失点は頭に入れて対局に臨んでいた。

止められればうれしいが、止められないのであれば、次に向かうだけ。

 

それでも、悔しいものは悔しかった。

自身の力を完全に無効化されて、リーチを打たれているのだから。

 

豊音も現物を合わせた。

 

姫子の手が、山に伸びる。

 

対面に座る強い意志を持った姫子の目を見て、爽はふう、と下を向く。

 

 

(強いねい。これだけ叩いても、折れない瞳をしてる。なんていったっけ、そうだ)

 

 

 

 

 

 

 

汝の(たから)のある所には、汝の心もあるべし。

 

身の灯火は目なり。

 

この故に汝の目正しくば、全身あかるからんことを。

 

 

 

 

 

 

 

「ツモ!!!4000、8000!!!」

 

姫子 手牌 

{①②③④⑤⑥⑦⑧赤55678} ツモ{⑨}

 

 

(またちょっと意味違うってユキに怒られそうだ)

 

 

 

『決まったあああ!!!新道寺女子!最下位に沈んでいましたが、この1撃で、2着までは射程圏内に入りました!!

2着から4着までが5000点以内で争うデットヒート!準決勝進出を掴むのはどの高校か!!』

 

 

 

南4局 親 豊音 ドラ{7}

 

姫松以外の高校が団子状態。

豊音としては、ここの親番で、後半戦を少しでもリードして迎えたいところ。

 

(先負がつかえない……ここは後半のためにも、他の力は隠して和了りをとりにいくよ~)

 

複数の能力がある豊音だが、もしここで1つ使ってしまうと、休憩中に対策を取る時間を与えてしまうこととなる。

点数はもちろん欲しいが、それはなるべく避けたかった。

 

幸い、配牌も悪くない。普通に打って普通に和了りにいく第一打を打つ。

 

逆に、前半戦だいぶ削られたが、今の倍満で点数を取り戻した姫子。

しかしこれでは、鍵以外の場面では和了れていないこととなる。

 

周りの3年生がいくら強敵とはいえ、それは姫子としても許せないことだった。

 

 

(鍵のなくても、このオーラスで確実に和了ッ!2着で後半戦迎えっ……!)

 

姫子も途中の放銃で一度は厳しい展開になったが、今姫子を支えているのは仲間の、先輩の存在。

 

1人ではないことが人並み以上に感じられる姫子だからこそ、まだ、その目の灯火は消えてはいない。

 

 

(さーて、アッコロとホヤウがいるうちに、最後に1発かましてやりますか)

 

それでも現状、有利なのは爽だろう。

全体効果系のホヤウで豊音を無力化し、アッコロで自身への強化も入っている。

 

現に、先ほども倍満はツモられたが、やはり姫子は手牌に萬子を抱えきることはできていなかった。

 

最初からアッコロを使ったことで、今回の手牌も、早い。

 

 

4巡目 豊音 手牌

{③④赤⑤赤⑤⑥78}  {横123} {発発横発}

 

姫子 手牌

{⑤⑥⑦⑧234赤55677七}

 

 爽 手牌 

{一二三四赤五七七八東東北北白}

 

思うように萬子がくっつかない姫子は索子を伸ばしにかかる。

 

豊音もあと一歩でなかなか手が入らない。

 

爽は大物手の2向聴だ。

他家が萬子を使えないことを考えると、かなり有利な状況。

 

タン、タン、タン、と卓に牌が切られる音だけが淡々と響く。

それだけで不思議と卓の緊張感が、見ている側にも伝わってくる。

 

 

6巡目、場は一斉に動く。

 

豊音 手牌

{③④赤⑤赤⑤⑥78}  {横123} {発発横発} ツモ{9}

 

(時間かかったけど、親満聴牌だよ~)

 

豊音が聴牌打牌で切り出したのは{⑥}。

{③⑥}が河に見えているし、赤は使いたい。

当然の判断だろう。

 

そこに食いついたのは、姫子だ。

 

「チー!」

 

姫子 手牌

{⑤⑥2344赤5677} {横⑥⑦⑧}

 

(面前で手ば組みたか。ばってん宮守はほぼ聴牌ばい。仕方なかね)

 

食い伸ばし。筒子の好形を活かして、喰いタンの満貫聴牌を入れる姫子。

2副露の親から{⑥}が出てきた。このあたりの速度読みは流石強豪校の大将。ばっちりだ。

 

そして姫子から出ていく牌は、{七}。

 

「ポーン」

 

これに爽が食いつく。

 

爽 手牌

{一二三四赤五東東北北北} {七横七七}

 

(これで間に合った。あとは不要な萬子を掴んで、誰かが放銃してくれるのを待つだけだね)

 

爽以外の3人はアッコロの影響で萬子が上手くつながらず、河には萬子が目立っている。

他家も聴牌となれば、不要な萬子は切るしかない。

半ばこの局の勝利を確信した爽。

 

一瞬の内に聴牌が入る。

3人とも、思うことは1つ。

 

(((めくり合い……!)))

 

後半戦の対局を左右する、大事な一局。

この手を和了った者が、準決勝進出に一歩近づくと言っても過言ではない。

 

それは何故か。

 

この局は点数以上におおきな意味合いを持っているからだ。

 

姫子は鍵以外での和了りという自信を。

豊音は能力を隠しきってのリードを。

爽は、おそらく帰ってしまう前最後のホヤウとアッコロを。

 

 

分かっているからこそ、見ている側も手に汗握るめくりあい。

 

聴牌者が多いほど、決着はすぐに着く。

 

手牌が、開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ツモ」

 

 

 

 

恭子 手牌

{①①②②③③⑦⑧⑨1145} ツモ{3}

 

 

 

「7本……13本」

 

 

 

(((姫松……!)))

 

 

 

『最後を締めたのは姫松のスピードスター末原恭子!!4人聴牌をあっさり制しました!!勝負は後半戦に移ります!!』

 

 

対局終了を知らせるブザーが鳴り響く。

前半戦終了だ。

 

 

結局、3校の団子状態は変わらず、姫松が圧倒的リードを保っている。

最後の和了りを決めた恭子が席を立つ。

 

「……凡人やからって、蚊帳の外に置かんといてや」

 

「よく言うよ……スピードスター末原さん。……じゃあ、後半戦で」

 

恭子と爽が控室に戻る。

はあ~、と伸びをしてから豊音も足早に戻っていった。

医務室の塞の様子を見に行くのだろう。

 

1人残された姫子も、点数を確認してから、控室に戻る。

 

 

(こん点数……部長に申し訳なかね……後半戦、必ず取り戻す……!)

 

 

残された卓の牌を無造作に掴み、握りしめる。

 

姫子の目の灯火は、まだまだ消えそうにない。

 

 


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