ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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どうやら昨日また日間20位以内あたりまで入っていたようです。
いつも読んで、応援してくださる皆さまのおかげです。
ありがとうございます。



第30局 鳴きの魔法

大将戦は後半戦に入る。

 

前半戦を終えての点数は

 

新道寺  75100

姫松  166200

有珠山  79900

宮守   78800

 

姫松を除く団子状態。

まだ確定ではないが、実況解説席も、暗に残り1席をかけた戦いだと言い始めている。

 

『ついに、泣いても笑ってもこの半荘が最後!準決勝進出をかけた戦いは、大将後半戦に入ります!前半戦は、有珠山高校がエース獅子原爽選手の活躍で点数を伸ばし、姫松以外の3校がほぼ並びです!

常勝軍団姫松の殿を務めます末原恭子選手は、きっちり前半戦オーラスで、半荘の収支をプラスにする貫禄の和了り!隙を見せません!さあ、準決勝に進出するのはどこの高校になるのでしょうか?!』

 

 

 

「よろしくお願いいたします」

 

「よろしくお願いします」

 

「よろしくね」

 

「よろしく~」

 

運命の後半戦の席順は、恭子が起家、姫子、爽、豊音の席順となった。

恭子がサイコロを回し、自動卓から山が上がってくる。

 

 

 

東1局 親 恭子 ドラ{7}

 

恭子 配牌

{①②⑦11699一七東南西白}

 

(……5向聴やな)

 

 

『起家は末原恭子選手でスタートです。しかし配牌が悪いですね。この局はおやすみで安牌を確保しにいく展開になりそうです』

 

 

東発の親になった恭子。その配牌は解説も言っているように、悪い。

 

南1局にはおそらくリザベーションがくるであろうことがわかっているので、恭子の親番は実質この1回だ。

 

とするとここでできる限り和了りたかったが、この配牌。

 

トップ目であることも考えれば、無難に{七}あたりから打って、安牌となる字牌たちを確保したいところ。

 

しかし、恭子はこの時、別の世界が視えていた。

 

1巡目、南家の姫子から放たれたのは{1}。

 

 

 

「ポン」

 

その声は、確かに恭子から発された。

実況席と、観客から困惑の声が上がる。

 

しかし対局者はそうではない。

ただでさえあれだけの速度を前半に見せつけられたのだ。

1副露とはいえ、開局直後にして場に緊張が走る。

 

次順、爽が河に放った{9}にも声がかかる。

 

「それもポンや」

 

トップ目親の2副露。

 

そして不気味な河。

対戦校3校が見つめる恭子の手牌は、深い闇の中のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、恭子、もうそれやるの」

 

姫松高校控室。多恵は恭子の仕掛けを見て驚いていた。

 

先ほど、休憩中に1度戻ってきた恭子の表情は、晴れなかった。

 

なんでも、有珠山と宮守の矛先が自分に向いていたら、この半荘はどうなるかわからなかったとのこと。

多恵からすれば、それでもプラスで終えれたのではないかと思うが、本人は納得いっていないらしい。

 

 

「いやいや、それでこそ恭子や。稼いだろって思ってるんやろ」

 

好戦的な笑みを浮かべるのは、洋榎だ。

 

恭子は、後半戦も守りには入らないと宣言した。

 

相当危なくならない限りは、攻める。

オーラスに役満条件も作らせないつもりだ、と。

 

その言葉を体現するようにトンパツの親、恭子は配牌5向聴から鳴いた。

 

普通なら悪手ともとれる鳴き。

しかしこれは恭子たちが2年生になる頃、多恵が助言した戦法だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あかん。勝たれへん」

 

恭子は頭を抱えていた。

 

2年になる少し前のこと。

1年の秋から頭角を現した恭子は、近畿大会でメンバー入りを果たし、春季大会もレギュラー入り確実と言われるまで成績を伸ばしていた。

 

1年夏からメンバーに入っているのが2人もいるようなとんでもない学年に入ってしまったものの、恭子の才能は、しっかりと花開いていた。

 

しかし、春の大会が始まる前、恭子の成績が少しずつ下降気味になった。

 

「恭子ちゃんは洋榎ちゃんと多恵ちゃんを意識しすぎなのよ~。個性が違うんやから、意識しても仕方がないと思うのよー」

 

「せやろか……」

 

由子の助言は、的を得ていた。

恭子は、確実にチームに貢献できていたが、もっと貢献する同級生2人の影響で、どうしてももっと上をと、雀風にブレが出てきていた。

 

確固たる信念を持つ打ち手には牌が応える……。

逆に言えば芯のない、ブレる麻雀には牌もついてこない。

ゆるやかにスランプに陥った恭子は、春季大会もさしたる活躍はできなかった。

 

 

そして、春季大会中。善野監督が倒れた。

 

 

恭子が敬愛してやまない善野監督の突然の離脱に、恭子は精神に大きなダメージを負う。

 

 

 

ある日の放課後。

洋榎を見習って、洗牌を自分から志願して行っていた多恵は、奥のパソコンルームで牌譜とにらめっこする恭子を見つけた。

 

暗い部屋でパソコンと対峙する恭子に、後ろから声をかける。

 

「きょーこ、あんまり根詰めすぎると、体に毒やで?」

 

「……多恵か」

 

周りが皆関西出身なもので、多恵もエセ関西弁がたまに出る。

 

「今のままじゃあかんねん。善野監督に報いるためにも、2年のインターハイは結果残さな……」

 

そう話す恭子の目には、くっきりとクマができていた。

 

ここ最近の恭子は部内の格下相手にも負ける対局が増えていた。

麻雀なのだから格下にも負けることはあれど、その頻度が増えれば増えるほど、レギュラーからは当然遠ざかる。

 

多恵もどうにかして恭子を救いたい……そう思い、いくつも恭子に助言はしてきた。

しかし、未だに結果には結びついていない。

 

「……言い訳やないんやけど、最近、明らかに配牌の平均向聴数が落ちとる。平均からこんなに下回ることなんてあるんか」

 

「……配牌悪い時国士に向かって1巡目に持ってない字牌ポンされて萎えるあるあるだね」

 

空気を変えようとした多恵の麻雀あるあるに、恭子はジト目を返すだけだ。

 

ははは……と多恵は乾いた笑いを漏らす。

 

最近、恭子はどこにぶつけていいのかもわからない、漠然とした怒りを感じていた。

 

配牌を呪うのは弱者の発想。

とはいえ、ここまで配牌が悪いと恨み言の1つでも言いたくなる気持ちは麻雀打ちなら誰もがわかる感覚だろう。

 

そもそも恭子の雀風は、鳴きを駆使して先手をとる、速度の麻雀だ。

なにも役が見えない配牌では、自然と戦うのは難しくなる。

 

その様子を見て、多恵は恭子の見ていたパソコンの牌譜を眺める。

 

そしてしばらくすると、多恵はなにかを見つけたようにマウスを操作して、いくつかの対局をピックアップした。

 

 

「恭子。これを見て。この2つの配牌、確かに悪い。……けど、私の知り合いに、こんなゴミ配牌でも、魔法がかかったように和了りにつなげちゃう人を私は知ってるんだ」

 

「……なんやそれ」

 

恭子は半信半疑といった顔。

 

多恵が思い出しているのは前世の麻雀界。

多様な雀士がいた中で、一際騒がれていたトッププロの中に、鳴きを武器にして数々の場面を打開した雀士がいた。

 

 

「鳴きは、早く和了るための手段だけじゃないんだよ。例えばこの配牌、見てみて」

 

多恵が指をさすのは、ピックアップした中でも悪い配牌。ボロボロの5向聴。字牌対子も無ければ、萬子に2対子あるだけだ。

 

「この局面、対面から出た{二}、恭子はスルーしてるね」

 

「当たり前や、こんなの鳴いたら防御力は下がるわ和了りも遠いわ、手牌の可能性まで消してまう。バカ(ホン)や」

 

バカ(ホン)とは、負けが込んだ雀士が、投げやりになって染め手に走る行為のことを指す。

フリー雀荘で負けが込んでいる人によくみられる現象だ。

 

「確かに、そう見えるかもしれないね。けど、これをポンするっていう選択肢を、恭子には持ってほしい」

 

恭子はいまだに納得がいっておらず、ええ……といった表情だ。

 

「ようは、相手を牽制するってこと。恭子の雀風は速攻型。部内の人間はもちろん、これから先恭子が研究されてきたら、どこの高校もそう思う。だからこそ、この{二}をしかけて、例えば、その後下家から出てきた{九}をチーして、打{白}とする」

 

カチ、カチ、とマウスを操作する多恵。

恭子はその様子を食い入るように見つめていた。

 

「2副露した後で手出しの{東}。さあ、これ恭子対局者側だったら、この手牌どう評価する?」

 

「……少なくとも。染め手の聴牌か1向聴やな」

 

実際は、手牌の中はまだバラバラ。とても聴牌には程遠い。

しかし、対局者を錯覚させることはできる。

上家などは、もう萬子は切りにくい。

 

「……せやけど、これで勝負手入ってる人間からリーチ打たれたらどないすんねん?」

 

恭子の疑問ももっともだ。鳴く、という行為は手牌を短くするということ。

 

面前進行よりも選べる打牌の種類が減る分、防御力は激減する。

 

もちろん多恵もそのことは分かっていた。

 

だからこそ、前世のトッププロが使っていた方法を伝授する。

これは自分でも上手く使いこなせなかった技。

 

「安牌を手の中に集めながら、進行するんだよ。これは高等技術。どこが1番早いかを見極め、そこの安牌と、共通現物を確保しながらの進行……下手な人がやれば自爆する。現に私も怖くてなかなかできない」

 

でも、とつけて、多恵はパソコンに向けていた目を、恭子に向ける。

その目は真剣そのものだった。

 

「恭子なら、できると思う。誰よりも鳴きという技術に傾倒し、研究を続ける恭子なら」

 

思わず恭子も一瞬息をのむ。

 

(もともと多恵はお人よしやとは思ってたけど、筋金入りやな……)

 

目を閉じる。言われたことは簡単なことではない。

鳴くということは手牌の方針をある程度決めることになる。

 

鳴きを駆使するということは、自分の感覚と心中できなければ、なし得ない。

 

 

「わかった。やってみるわ」

 

 

結果的に、恭子はスランプを脱した。

それは多恵のおかげではないだろうし、多恵自身もそんな風には思っていない。

 

恭子は自分自身の力で、善野監督から受け継いだ超早和了りを、昇華させ、赤坂監督に買ってもらったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東1局は15巡目。

 

爽は怒っていた。

 

 

(スピードスター末原さんがすぐにツモ和了るかとおもったら、全然和了らないじゃん!!!!)

 

この局は早々にあきらめ、次の局からカムイを使うか判断しようと思っていたのだから当然だ。

 

恭子は早々と3副露し、手牌は4枚。

聴牌濃厚だと思った3者は、現物と、索子以外を次々打ち出す。

 

しかし、待てど暮らせど恭子から和了りの声は聞かれない。

それどころか11巡目には手出しで{③}が出てきた。

 

(染まってないの~?)

 

索子と字牌を絞っていた上家の豊音も流石に不審がっている。

 

姫子も不要な索子をなんとかくっつけて形にしてはいたが、あいにく、もう巡目が深すぎる。

 

 

(どがんなっとっと?!形式聴牌ばとるしかなか……!)

 

16巡目、恭子から手出しで{3}が出た。

下家の姫子がそれに食いつく。

 

「チー!」

 

切り出したのは安牌の{⑨}。

形式聴牌だ。

 

 

(毎回早和了りができるわけやない。そん時のために多恵から1つの引き出しをもらったんや。これは前半戦の幻影をつかった目くらまし)

 

恭子がこの技術を使えるのは自身の雀風も深くかかわってくる。

超早和了りの印象が強い恭子だからこそ、こういった変化球に、周りは対応ができない。

オリを選ぶ。

 

 

そして、17巡目。

 

「ツモや!6000オール!」

 

恭子 手牌

{6677} {西西横西} {9横99} {横111} ツモ{6}

 

歓声があがった。 

誰もが配牌を見てあきらめた手牌を、親跳に仕上げてしまったことに、観客も熱狂する。

 

『私たちは何を見せられたのでしょうか……スピードスター末原恭子!あの配牌を跳満に仕上げられる雀士が、この世界で一体何人いるでしょうか!』

 

恭子の人気は高い。

現実離れした奇跡を生む打ち手より、自分でもここまでは努力でたどりつけるんじゃないかと人々に思わせる打ち方が、全国でも人気だった。

 

 

爽がその和了形を見て冷や汗をかく。

 

(完全にやられた。最終手出しの{3}も和了形にまったく関係がないってことは、正真正銘さっき聴牌したんだ。早いと錯覚させて、その実、手牌はボロボロだったってことか)

 

完全に出し抜かれた格好となった3校。今までの牌譜にも恭子がこのような打ち方をするという記録はない。

また1つ、恭子の仕掛けの可能性として考慮に入れなければならなくなった。

 

 

 

 

(さあ、普通の麻雀しようや……バケモンども!)

 

どこまでも凡人を極めし凡人が、化け物たちの前に立ちふさがる。

 

 

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