ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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第33局 反省

全員の呼吸が荒い。

姫松はオリ気味。

であればこの局を制した者が準決勝への権利を得られる。

 

全員聴牌は覚悟の上。

永遠にも感じられるその時を、観客も、控室も固唾を飲んで見守っていた。

 

そして、必ず、終わりは来る。

 

 

 

「ツモ……!」

 

開かれたのは。

 

 

 

 

 

 

豊音 手牌

{⑥⑦⑧66三四五六七}  {横423}  ツモ{二}

 

 

 

 

 

 

 

 

 

豊音の手牌だった。

 

 

 

 

最終結果

 

姫松 163200

宮守  83200

新道寺 80600

有珠山 73000

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こんなに長く感じた1局があったでしょうか!!!大接戦を制したのは、宮守女子、姉帯豊音!!これを受けて、2回戦Dブロックからの勝ち上がりは、姫松高校と、宮守女子高校に決定です!!!』

 

 

 

 

 

 

対局終了を意味するブザーが鳴り響く。

恭子は、一息つくと、自身の手牌を閉じた。

どこが勝ってもおかしくなかった。ただ、豊音に関しては、オーラス1打目をチーした時に、諦めたような気配を感じていた。

ふっきれたのか、それとも。

 

(支える何かがあったのかもしれんな)

 

喜ぶ、というより安堵の表情を浮かべる豊音を見て、恭子はそんなことを思った。

麻雀は1人でやる競技。だからこそ、ここぞという時の仲間の存在の大きさは、測り知れない。

強敵が残ったな、と恭子は思った。

 

 

「いやあ~っ!……楽しかったな」

 

大きく伸びをして、天井を見上げる爽。

彼女もまた、悔しさよりも、明るいいい表情をしていた。

もとより出れるはずのなかったインターハイ。

この舞台でここまで楽しい対局ができたことは、爽にとっては願ってもいないことだった。

 

吹っ切れていそうな爽に、恭子が声をかける。

 

「獅子原、バケモンすぎや。最後だってバカでかい手張ってたんちゃうんか」

 

「和了れてもいない手を対局者に見せるのはマナー違反だよん。いや~強かったよ、末原さん」

 

(ま、それでも欲はでちゃうけどねぃ。ここまできたら準決勝、行ってみたかったなあ)

 

彼女の大将戦トータルスコアは、+22800。

文句なく大将戦区間トップの成績だ。

大会運営も、このメンバーでこの成績は爽を放ってはおかないだろう。

 

「……ッ!」

 

一向に上を向かないのは、姫子だ。

彼女の制服のスカートに、大粒の涙が落ちる。

 

終わってしまった。哩と戦える最後のインターハイが。

北九州の強豪として、全国2位の姫松と当たったとはいえ、2回戦で姿を消すなどあってはならないことだった。

 

 

(……)

 

恭子はその場を静かに去る。

今の姫子に声をかけるなど、その言葉がなんであったにしろ侮辱になりかねない。

励ましも、賞賛も、無意味だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま戻りました」

 

扉を開けた先では、姫松のメンバーが恭子の帰りを待っていた。

 

「おかえり~」

 

「お帰り~!お疲れ様!」

 

「おかえりなのよ~」

 

モニターではDブロック2回戦のハイライト映像が流れている。

これだけ接戦の試合だったのだ。ハイライトも長くなるだろう。

 

「予想以上に強かったわ。普通の麻雀させてーな……」

 

ソファに腰を下ろす恭子。

あれだけの猛者たちを相手にしていたのだ。疲労困憊なのも仕方がない。

 

「恭子は一番疲労があるだろうからゆっくり休んで。対戦校の研究はこっちでやってるから」

 

多恵がソファに座った恭子に対して後ろからのぞきこむように声をかける。

表情には明らかに疲れが見える。どれだけ疲れていても準決勝の日程は待ってくれないのだ。

 

 

「いや、大丈夫や。みんなが点数稼いでくれたおかげで余裕持って打てたわ」

 

恭子の本心だった。もし仮に点差が無い、または1万点以内だった場合、標的にされていたのは自分だっただろう。

もし仮にそうなっていたら、自分はあの面子を相手に勝ち切ることができただろうか。

こんなのは想像でしかないし答えはでない。

それでも恭子は苦戦は免れなかったであろうことは容易に想像ができてしまった。

 

「それなんやけど~」

 

先鋒戦から大将戦までの牌譜を見ていた赤阪監督がこちらの会話を聞いてフラッと選手たちのほうへ来る。

赤阪監督は基本3年生たちを信頼していて、あまり打ち方について口を出してこない。

それよりも次の対戦相手を見てそれにあった練習相手をチューンしてくれることが、選手たちにとってはとてもありがたかった。

 

「大将を末原ちゃんに任せたときに~点数マイナスになったら罰ゲーム~とか言うてなかった~?」

 

思い出すのは初めて恭子が大将に任命されたときのこと。

点数計算と条件戦の強さに秀でた恭子が大将に任命されるのは割と予定調和だったが、恭子自身が自信をもっていなかったために、自らつけた枷。

みんなが作ってくれた点数を減らしたら、罰ゲームを受ける……と。

 

「確かに、恭子の大将戦区間スコアはー2800やな」

 

恭子が公式戦で点数を減らして帰ってくるのはいつぶりだろう。

多恵もそういえばといった様子で考える。

それだけ、今回の相手は強敵揃いだったということに他ならない。

 

 

「そ、それは去年の話やないですか!2年生で大将任された時に決めたきまりであって今は……」

 

確かに、今大会が始まる時にはメンバーも誰1人覚えていなかった。

もう十分自覚を持って戦えているし、そんな枷を負う必要はないと。

 

そもそも麻雀でマイナスになったら罰ゲームという条件は厳しすぎる。

 

しかし、そこを忘れないのが赤阪郁乃。

そしてもう1人、目を輝かせている人物がいた。

 

「え!!末原先輩もデコに油性ですか?!」

 

「油性なのよ~」

 

何故か由子もノリノリだ。

恭子は思った。漫ちゃんはともかく、私なにか恨み買うようなことしたっけ、と。

疑心暗鬼になる恭子に、後ろから怪しい影も近づいてくる。

 

「因果応報……!」

 

「多恵?!顔怖っ?!」

 

多恵も恨みを忘れていなかった。

 

しかしそれらの怨念は、赤坂監督によって止められる。

 

「油性もええけど~末原ちゃんにはとっておきがあるんよ~」

 

赤阪監督の言葉に、動きを止める一同。

多恵ももうキャップを外して準備万端だった油性ペンをひっこめる。

 

恭子はものすごく嫌な予感がしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃじゃーん!!」

 

可愛い恭子がいた。

いつものできる女っぽいパンツ姿ではなく、可愛らしいスカート。

髪には大きめのリボンがついている。

 

「お~」

 

「末原先輩!!めちゃくちゃ可愛いですよ!」

 

洋榎と由子は感嘆の声を上げ、漫もおおはしゃぎだ。滅多に恭子のこんな姿は見れない。同級生に見せなきゃ!とケータイを構えた漫はひっぱたかれていた。

その速度は、まさにスピードスター。

 

罰ゲーム?と思われるかもしれないが、当の本人はめちゃくちゃ嫌がっていた。

 

「……死にたい」

 

静かに右下を向く恭子。表情は明らかに死んでいる。

人生1番の屈辱だ。

追い打ちをかけるように赤阪監督から驚きの一言が飛び出す。

 

「これで~次の準決勝は出てもらおうかな~」

 

「え、ちょ、は?!話違いますよ?!」

 

今この瞬間ですら地獄なのに、この格好でテレビ対局に出るということは、恭子にとっては生き地獄同然だ。

 

断固お断りといった感じの恭子に、後ろからポンポンと肩を叩くのが1人。

 

後ろを振り向くと、まじめな顔で多恵が立っていた。突然サムズアップすると、一言。

 

「……世界一可愛い」

 

「~~~~~~!!!!////」

 

耐え切れないといった様子で思い切りリボンを外し、机にたたきつける恭子。

 

「何ゆーとんねん恥ずかしい!!ウチに可愛さとか、いらんのや!!」

 

「えーめちゃくちゃ可愛いのにー……」

 

多恵は割と本心だった。

男の感覚などほぼ消え去っているにも関わらず、一瞬目を奪われるほど。

 

いつも着飾らない恭子のギャップも相まって、とても可憐な印象を抱かせる。

 

多恵のデジタル脳は冷静に分析していた。

 

「でもデコに油性よりええやないですか!末原先輩がそのカッコで出てくれるなら、ウチ頑張りますよ!」

 

屈託のない笑顔でそう言われては、恭子も力が抜ける。

諦めたように壁に手をついて一言。

 

「……準決勝だけやからな……」

 

わーいとメンバー全員で喜んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

モニター内でもハイライトが終わり、赤阪監督と、エースということで洋榎がインタビューに駆り出された。

控室には残りのメンバーでモニターを眺めている。

 

Dブロックは終わったが、Cブロックは自動卓の故障などトラブルも相次ぎ、まだ中堅戦が始まったところだ。

次の対戦相手をマークするという意味でも、研究は欠かせない。

先ほどまでの雰囲気はなくなり、一転、真剣な表情でモニターを眺めるメンバー。

 

「まだギリギリ、晩成がもちこたえとるな。けど、もし例年通りの力しかないようやと……食われるやろな」

 

恭子の意見はもっともだった。

先鋒戦の様子は見れなかったが、どうやらやえが稼いだ点数は4万点ほど。

臨海女子もかなり離れていることもあって、他校の矛先は明らかに2位の晩成に向かっている。

 

「晩成のオーダー、ここから1年生2人なのよ~」

 

大会パンフレットを見ながら、由子が少し驚いたようにメンバー表を見つめる。

麻雀はあまり学年が関係ない競技なので珍しいことではないが、3年が先鋒の小走やえだけというのは珍しかった。

 

「1年生……って、あれ、やっぱり憧か……!」

 

1人だけの下級生ということもあって、お茶を淹れに行っていた漫が戻ってくる。

モニターで戦う晩成の生徒を見て、漫が目を見開いた。

 

「漫、知ってるの?」

 

「合同合宿でちょっと……」

 

関西の高校は、1年生同士の交流もかねて合同合宿が行われる。

漫は実はその時に憧と対局経験があった。

 

「新子は、強いです。タイプとしては、末原先輩と同じ鳴き重視なんですけど、本質はちょっと違うっていうか……」

 

恭子がその言葉を受けて、晩成の1年生を見つめる。

正直恭子は晩成が2回戦を勝ち上がるのは厳しいだろうと考えていた。

やはり総合力で臨海と永水に劣る、と。

 

しかしもし仮に晩成が上がってくるとしたら、2回戦のような展開は望めない。

2回戦で大量リードを稼いだ多恵だが、もし晩成と当たるならやり合う相手は、言わずと知れた晩成の王者だ。

苦戦を強いられるだろう。

 

当の多恵は、真剣な表情で。

けど、どこかに期待しているような眼差し。

 

「……やえ、やえがやってきたことがどのような変化を後輩にもたらしたのか。見させてもらうよ」

 

 

どんな相手でも死力は尽くす。

 

けど、団体戦の先鋒戦で、親友のやえと戦える日が来るのなら。

 

多恵にとって、そんなに嬉しいことはなかった。

 

 






恭子のスーパー凡人スタイル、世界一可愛いですよね(?)


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