ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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第36局 強気

Cブロックは副将戦へと移る。

現在のスコアは大方の予想を裏切り、中堅戦で晩成がトップを奪い返した。

 

晩成の控室も盛り上がっている。

そんな中で、1人小走やえは、固く拳を握りしめていた。

 

 

(私は、こんなにも強い子たちを信じてあげられなかったのか……!)

 

後悔の念がこみあげる。

あの時、自分だけの独りよがりな麻雀をやめていたら。

もっと楽な状態で後輩に繋ぐことができたのではないか。

 

去年までのトラウマがあったとはいえ、今年の後輩達の強さはやえも感じてはいた。

だからこそ、後輩に託すという選択肢がとれなかった自分が恥ずかしい。

 

 

「やえ先輩、そんな辛そうな顔しないでください」

 

隣にいた初瀬が、そんなやえの気持ちを知ってか、声をかける。

 

「そうですよ!初瀬の言う通りです。憧がトップ奪い返したんですから今は素直に喜びましょ?」

 

2年生の巽由華もソファに座るやえの肩にポンと両手を乗せた。

 

 

「初瀬……由華……」

 

「みんなも私も、去年までのこと、知ってます。やえ先輩は、あんな強い人たちの中で4万点稼いできたんだから十分ですよ」

 

親指を立てて、笑顔を見せる初瀬。

結果として、まだ下との点差も離れている。

あと4半荘。4半荘を終えれば、やえにとって初めての準決勝だ。

 

 

「それに、次があるんだから、次に向けて切り替えましょ!」

 

初瀬が立ち上がる。

その言葉は、心の底から出ていて。

 

準決勝進出を少しも疑っていないことが、わかる。

 

頼もしい後輩になってくれたものだと思いながら、副将戦に向かう初瀬を見送る。

 

 

「初瀬。あんたの相手はかなりの強者よ。気を付けなさい」

 

「はいっ!インターミドル王者と、臨海の決闘者さんと、裏鬼門の巫女ですね。頑張ります!」

 

出ていく扉の前、後ろを振り返って敬礼する初瀬。

副将戦は、中堅戦以上に厳しい戦いになる。

 

出ていった扉をみて、それでもやはり心配になってしまうやえ。

 

(いや、もうやめよう。今は信じる。それが先鋒の役目ってものよね)

 

 

先輩の夢は、後輩達に託された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナーイス憧!」

 

「初瀬!」

 

副将戦に向かう道の途中。

ちょうど帰ってきた憧と会った初瀬。

 

憧の成績はかなり良かった。

世界ランカーの風神を相手にしてこの成績は1年生としては破格。

憧の中堅戦のスコアは+20900。

この結果はメディアも無視はできないだろう。

 

 

「初瀬、まだ全然安心できる点差じゃないからね」

 

「わかってる。やばい連中が相手ってのもね」

 

真剣な表情の2人。

まだ大将戦が終わるまでは何が起こるかわからない。

麻雀とはそういうものだ。

 

それでも、守ることはしない。

憧はそれを示してくれた。

ならば自分にできることは。

 

 

「うしろにいるの由華先輩だし、まあ気楽にいくよ」

 

「おっけ!初瀬の強気でいっちゃってー?」

 

親指を立てて初瀬を送り出す。

 

私達の旅路は、まだ道半ばなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『Cブロック副将戦開始です!三尋木プロ、この対局のみどころはどこでしょう』

 

『わっかんねー。けど、前評判通りなら、晩成はかなりキツいはずだよねい。相手は強豪校のエースクラスと、インターミドルチャンピオンなんだからさ』

 

『ということは、晩成がここでかわされることもある……と?』

 

『いやーさっきの中堅戦見たっしょ?もうそういう次元じゃねーと思うよ?晩成が評判通りやられちまうのか、ひっくり返すか。ま、知らんけど』

 

 

 

 

 

東家に初瀬、南家に和、西家に初美、北家にメガンという並びで対局が始まる。

 

東パツ、まずはセオリー通りに攻めてきた和が満貫のツモ和了り。

 

清澄はまだ準決勝進出ラインまで遠い。

もちろん攻めてくるだろう。

 

東2は初美が3900を和了り、迎えた東3局。

 

 

「リーチ」

 

この局も和が早い。

その頬はわずかに上気していて、熱を帯びている。

 

 

(憧が言ってた。のどっちモードってやつか)

 

ツモ切りの動作も非常に早く、打牌選択によどみがない。

流石というべきか、この状況でもやれる最大の手筋をたどってくる。

 

そんな中でも余裕の表情を浮かべるのは、メガンだ。

 

 

(明華が油断シテ点数は削られましタガ……ワタシはそう甘くはありまセンヨ……)

 

「チー」

 

初美から出てきた牌を鳴いて、聴牌をとるメガン。

 

 

(さて……決闘(デュエル)……!)

 

メガンの能力は、自身が聴牌したときのみ、相手の聴牌を察知できるというもの。

そこから1対1の状況を作れば、メガンは相手から直取りをとりやすくなる。

 

今回のターゲットは和。

 

リーチを先にかけている和は、これをよけられない。

西部劇に登場するガンマンのような恰好をしたメガンから放たれた弾丸が、天使のどっちの横腹を貫く。

 

 

「ロン!8000点デス!」

 

 

 

メガン 手牌 ドラ{七}

{④赤⑤⑥67888七七} {横324}  ロン{5}

 

 

 

「はい」

 

和の表情に変化はない。

追いかけて、潰された。それだけとしか思っていないだろう。

 

そして、メガンの親がやってくる。

メガンの親ということは同時に、薄墨初美が北家だ。

 

 

(さテ……このミコさんは北家の時に注意なんでシタネ……)

 

流石のメガンも、ここは最善の注意を払う。

親を手放すのは痛いが、ここは席順上仕方がない。

東と北を鳴かれない間だけ攻めようと思っていた。

 

 

「ポンですよ~!」

 

和が東を切る。

すかさずそれに食いついた初美。

 

 

(まあ1枚目はいいか……もう北は切れない。北が来たら店じまいだね)

 

手なりに進めている初瀬。

初美の小四喜を警戒して、こちらも字牌は切りにくい状況。

 

しかし、次巡、卓に衝撃が走る。

 

 

「それもポンですよ~!」

 

「?!」

 

初瀬は危うく変な声が出そうだった。

和が北を切り、初美が鳴いた。

メガンも、初瀬も表情が明らかに変わる。

 

(え、この子わかってないの?!それとももう相当な手を聴牌してる……?)

 

これが仕方なく切っているのならまだいい。

 

しかし理解しないで本当に切っているのだとしたら、これから先の戦い方は初美が北家の時だけ変わってくる。

 

荘厳な音楽が鳴り響く。

和楽器特有の静謐とした音楽が、その場を支配する。

永水以外にとって、嫌な風が吹いてきた。

 

 

 

(困りましタネ……)

 

いい迷惑なのは親のメガンだ。

流局ならまだしも、ここで小四喜など和了られたら親の自分は16000点の失点。

とうてい看過できるものではない。

 

 

「チー」

 

ちょうど初美から鳴ける牌が出てきたので、聴牌かどうかだけ確認する。

メガンは自身が聴牌さえすれば、他家の聴牌を確認できる。

これでまだ初美が聴牌していなければ、その間だけは自身も和了りに向かうことができる。親が続くので初美が北家なのは変わらないが、次も東と北が鳴けるとは限らない。

 

しかし、そうして目にした光景は。

 

 

「……っク?!」

 

 

幼女がランチャーを構えていた。

自分の身の丈より明らかに大きい砲身を持つソレは、容姿と余りにもかけ離れている。

 

これはもう決闘などと言ってる場合ではない。明らかに聴牌している。

こんなのとやりあったら、風穴が空く程度では済まされない。

 

 

(おとなしくオリまショウ……ツモられたら運が悪かったと思うしかありまセン)

 

予想以上に初美の聴牌が早かった。

初美が聴牌するまでは流しにいこうと思っていたメガンだが、これを見て聴牌を崩し、オリる。

 

初瀬もベタオリ、和も2副露を見て、その上家ということもあってか抑え気味だ。

このまま何事もなく流局。

初瀬とメガンはそれを祈るばかりだったが。

 

 

 

 

 

「ツモ、8000、16000ですよ~!」

 

 

 

 

初美 手牌 ドラ{3}

{23南南南西西} {横北北北} {横東東東} ツモ{1}

 

 

 

 

 

『永水女子薄墨初美選手!この大会2度目の役満小四喜のツモ和了り!!一気に他校との点差を縮めました!!』

 

『これは強烈だねい!』

 

 

役満成就。

 

初美の強烈な1撃が決まった。

 

 

(小四喜。部長が気を付けてと言っていましたが……なかなかの偶然ですね……)

 

 

点数状況が一気に詰まる。

 

 

点数状況

 

晩成  137400

清澄   84200

永水   55200

臨海  123200

 

 

 

南1局 親 初瀬

 

(これは南場の親が心配ですガ……とりあえず点数は稼いでおきたいでスネ)

 

南1局も先制は和。

点数がまだ足りない和は、攻撃の手を緩めない。

リーチと打ってでてきた。

 

メガン 手牌 ドラ{⑥}

{②③④⑥⑦⑧赤5578二二三} ツモ{5}

 

メガンはとりあえず聴牌をとる打{三}とする。

メガンの目に映ったのは原村和1人。どうやらメガン含めて2人聴牌のようだ。

能力の特性上、メガンは一度ダマにとって、誰が聴牌かを確認するケースが多い。

 

 

(デハ……行かせてもらいまスカ)

 

次巡、メガンは持ってきた牌をそのまま横に曲げた。

 

 

「リーチデス!」

 

決闘(デュエル)!)

 

一歩、また一歩。メガンと和の距離が離れていく。

さながら果たし合い。

メガンが求めていたのは、こういうスリルのある勝負。

 

どちらに軍配が上がるか……。

 

そう思っていた矢先。

 

 

(ン?)

 

親の初瀬が、メガンにも和にも通ってない{4}を素知らぬ顔でツモ切ってきた。

 

 

 

初瀬 手牌

{③③④④⑤赤⑤⑦⑧234三四}

 

 

『晩成の岡橋初瀬、2家リーチ入っているのにも関わらず、安牌かのように{4}切りましたね……』

 

『ひえ~晩成の子たちおっかなー!普通なら共通現物切ってオリちゃいそうだけど……勝負手と見たら全部行く……決めてるのかもね、知らんけど』

 

 

メガンはその能力の特性上、まだ初瀬が聴牌でないことを知っている。

それでいてこの打牌。

聴牌ならまだしも、1向聴で、2人に通っていない真ん中付近の牌を切ってきたのだ。

 

決闘中にも関わらず、メガンは冷や汗が流れるのを感じる。

 

 

次巡。

 

 

「リーチ」

 

バシッと初瀬から切られたのは{⑧}。これもどちらにも切れていない牌だ。

鋭い瞳が、メガンを捉える。

 

 

(割り込みとは随分マナーがなっていませンネ……!って、なんデスかソレ……!)

 

決闘中に颯爽と馬にのって無理やり割り込んできた初瀬。

和も珍しく少しだけ眉根を寄せる。

 

持っているのは明らかに決闘用のピストルではない。

 

サブマシンガン。近距離で殴り合う、銃撃戦の近距離武器。

 

 

「ロン!」

 

ダダダダダダ、と西部劇には似つかないとんでもない量の弾丸が、メガンを打ち抜いた。

 

 

 

 

「18000!」

 

 

初瀬 手牌

{③③④④⑤赤⑤⑦⑦234三四} ロン{二}

 

 

 

 

(この……!いい度胸デス。去年の憂さ晴らしにハラムラを叩くつもりでしタガ……まとめて叩きのめしてあげまショウ)

 

圧倒的に興味がなかった初瀬に、メガンの目が初めて行った瞬間だった。

 

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