南2局 親 竜華
恭子 17800
竜華 11000
やえ 40200
セーラ 31000
(2人にやられっぱなしや。このままじゃ終われん。……凡人が挑戦をやめたら勝てるわけないねん)
対局はほぼセーラとやえの叩きあいの様相を呈していた。
普通の麻雀であればどんなに技量が拮抗していても1人の独壇場になることもあるし、そこは運のゲーム。
しかしこちらの世界では少し違う。力が結果に直結することが多い。それは能力に由来する部分が大きく、この世界でのプロはアマチュアとの対局で負けることはほとんど無い。
(もう親番すら残ってへん。トップの小走との差は22400。一着順上げるにしても江口までは13200……。満貫2回は欲しい)
恭子 配牌 ドラ{④}
{②②④④⑥246二赤五八九南}
(この手牌はモノにせな……)
もう親番が残ってない恭子からすればこの手牌は仕上げたい。
しかし同じく後がない竜華もそうそうオリはないと想定されるので、愚形でのリーチは打ちづらい。
(恭子はこの手……どう見てるかな)
この3か月、多恵は恭子の麻雀を数多く見てきた。その中で恭子が得意とする雀風を模索しているのも。
6巡目。上家のセーラが切った{六}にほんの一瞬手が止まる。
恭子 手牌
{②②④④⑥456四赤五八八九}
「チー」
恭子は鳴きを選択した。
(この両面からチーか。思い切ったね)
この鳴きの精度の判断は難しい。平面だけを切り取るのであれば点差も考えると愚形2つが残るこの場面はややスルー有利に見える。しかしこの場面はそれだけでは語れない。親の竜華が1副露、今{六}を切ってきたセーラの河はもう既に濃い。もう聴牌が入っていてもおかしくなさそうだ。それに比べて自分の手牌はまだこの鳴きが入って1向聴。和了りを見るなら愚形残りとはいえ仕掛けるのがプラスに見えてくる。
(このあたりの鳴き判断、嗅覚は一級品だね)
多恵が前世で麻雀を打っていた時も鳴き判断は非常に苦労した要素の1つだった。結果が伴わなければもちろん叩かれるし、いちいちそんなことは気にしていられなかったが、鳴きの良し悪しは対局後に毎回精査しなければならない。
次順、セーラが持ってきた{赤⑤}をそのままツモ切って横に曲げる。
「リーチィ」
「チーや」
手元で右端に寄せておいた{④⑥}を倒して{②}を切る。
聴牌だ。
そして次順。
「ツモ、3000、6000や」
恭子 手牌
{②④456八八} {横赤⑤④⑥ 横六赤五四} ツモ{③}
「へえ、やるやんか」
セーラは恭子の和了り形と捨て牌を確認してから、自分の手牌を閉じた。
セーラ 手牌
{12399①②一二三七八九}
「さすがだね、恭子」
「いや、正直ウチもどっちが良かったんかはわからん。学校戻ったら多恵と今のシーン確認したいから牌譜起こしといてくれるか?」
「そう言うと思ったから、言われなくてもやってるよ」
多恵としても、恭子と共に勉強する時間は、貴重な時間だ。
経験は大事だが、その経験を、本当に良かったのかどうか確認することが、上達のコツ。
(きっと恭子の強さはここにあるんだな)
こんなやりとりを見ていて目に見えて怒っている方が1人。
「なによ……そんなもんでいい気になるんじゃないわよ!」
南三局も恭子が早仕掛けでセーラから3900を出あがり、やえの親番を蹴ることに成功する。オーラスを迎えて、点差は
恭子 33700
竜華 5000
やえ 37200
セーラ 24100
(よし、これでトップの小走には3500差。出あがりなら
とはいえ七対子ツモはあまり考慮したくないので、基本は3900ベースで考えることになるだろうと思いながら。
しかし9巡目、思いもよらずやえから声がかかる。
「リーチ」
(リーチやと?)
基本この状況でトップ目がリーチを打つメリットはあまりない。親から直撃でも食らおうもんなら一気に三着目まで落ちるリスクがある。
役がないとしてもツモ狙いのみで大人しめに局を進めるのがセオリーではある。
かといってリーチを打つという選択肢がないわけではない。他家の手に制限がかけられるし、恭子からすれば12000以上を打ってしまうと着順が落ちる。そしてなによりも。
(この状況での小走のリーチなんか、相当待ちがええに決まっとる……!)
やえ 手牌 ドラ{八}
{⑦⑧⑨55四五六七八東東東}
(勝てるもんなら勝ってみなさい。確実に仕留めてあげる)
もちろんそのことはわかっている恭子は攻めあぐねていた。
聴牌が入ってもその時出ていく牌があまりにも厳しい。
(くっ……直撃チャンスやのにこんなにも攻めにくいんか……!)
その時だった。
「ほな、行かしてもらおか」
「セーラあんた……!」
「リーチ」
強く切り出したセーラの宣言牌{赤五}に、やえから声がかかることはなかった。
「当たれへんやろ、この牌は」
「この……!」
ゆうゆうとリーチ棒を投げるセーラに対してやえが歯噛みする。
(あー、これはセーラまたやったな……)
同じことを思っているのか、ちょうど向かい側あたりにいる洋榎がニヤニヤしている。
恭子は横移動決着の可能性が出てきたのでオリ気味に打ちまわし。
その二巡後のことだった。
「ツモ」
この勝負を制したのは、セーラだった。
セーラ 手牌
{③③③⑥⑦⑧六六九九西西西} ツモ{六}
「4000オール……これで、総まくりやな」
最終結果
恭子 29700
竜華 1000
やえ 33200
セーラ 36100
「ああー!もう!あんたそんなことばっかりしてたらいつかめちゃくちゃなヘクり方するわよ!!!」
「なんやケチくさい。ウチは2000オール2回和了るより、4000オール一発型なんや」
そんなやりとりを聞きながら、恭子は力が抜けたようにふう、と一息つくと、自動卓の点数表示を眺めていた。
「これからもっとバケモンたちと戦わなあかんのに、ウチは平気なんやろか」
「なーにいってんの、私は恭子もたいがいバケモンだと思うよ」
後ろで見ていた多恵は恭子にそう声をかける。
「いやいやいや、多恵には言われたないわ!」
心外だとばかりにものすごい勢いで否定してくる恭子。
「いや、本当に。いつか恭子は私と洋榎を救ってくれる。それぐらいどんどん強くなる気がするんだよね」
これは多恵の本心だった。今は自分のことを凡人と卑下する恭子だが、持っている素質はここにいるメンバーになんら遜色ない、むしろいつ抜かれてもおかしくないとさえ多恵は感じていた。
研究熱心な姿勢と、その鳴きのセンス、嗅覚。前世のトッププロたちの美しい打ちまわしを見ているかのような錯覚にとらわれるのも、1度や2度のことではなかった。
「なんやそれ、むずがゆいわ!やめややめ!次行くで次!」
そんな様子を見ながらジト目でやえがこちらを見ていることに多恵と恭子はついぞ気付くことはなかった。
恭子って自分のこと凡人って言うけど全然凡人じゃないよね。