ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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泉ちゃんはまだ入学していないので、今回はお休みです。




咲日和 千里山の巻①

「なあ、竜華はどっち派や?」

 

 

突然の問い。

 

今日は病室で寝込んでいる怜のために、病院にお見舞いにきた千里山のメンバー。

 

ノックして部屋に入ると、寝ながらスマートフォンを片手に持ち、耳にはそのスマートフォンから伸びたイヤホンを装着した怜の姿が。

 

メンバーの訪問に気づいた怜はイヤホンを外し、開口一番竜華に冒頭の問いを投げかけたのだった。

 

 

「どっち派て…………そやな……猫派かな!」

 

「いやいや……やっぱり面前派やろ!!」

 

「そんなベタな質問してへんよ……」

 

はあ……と失望のため息をつかれ、軽くショックを受ける竜華とセーラ。そもそもこんな質問で内容を当てろというほうが酷な話なのではあるが。

 

お見舞いに持ってきたりんごと飲み物の類を机の上に置き、ベッドの隣に用意されている丸椅子に腰かける千里山の面々。

一番怜の顔の近くに座った竜華に、怜はスマートフォンの画面を見せる。

 

 

「これやこれ」

 

「おお!はやりんやん!」

 

はやりん。「牌のおねえさん」として注目を集める瑞原はやりプロ(28)の愛称である。

怜が見せてきたのはその「牌のお姉さん」こと、はやりの大手動画サイトの動画。タイトルには『みんなで楽しく麻雀!』と書かれている。

サムネイルに映る彼女は、とても28歳とは思えないほどロリロリなコスチュームに身を包んでいた。

 

 

「はやりん最近よう教育テレビで見るなあ?」

 

「いやでも流石にこの格好キツすぎませんか……?」

 

セーラがそういえば、という風にスマートフォンをいじり、フナQこと千里山女子2年生、船久保浩子がその年齢の割にキツすぎる格好と言動に言及する。

確かに語尾に「はやっ?!」とかつけてるあたり、あまりにもあざとすぎるのだが、子供たちには大の人気で、麻雀普及に一役買っていることも事実。

 

しかし、これでは本題の怜の冒頭の質問につながらない。

 

 

「そんで?はやりん派に対抗するもう1つの派閥はなんなん?」

 

「それはもちろん……こっちやろ」

 

怜は器用にスマートフォンを操作し、自身のアカウントで登録しているチャンネルを1つ示す。

 

 

「クラリン!ウチ知ってるでこの子!」

 

「ああ、クラリンですか」

 

「っふ……!」

 

『クラリン麻雀教室』。「牌のおねえさん」ほどではないにしろ、最近麻雀好きにはもっぱらの噂を呼ぶ、動画チャンネルだ。

はやりんが教育チャンネルなどで名を馳せている中、麻雀を動画サイトでわかりやすく解説、という新しいジャンルを切り開いたクラリンは、いわば麻雀動画主の先駆けと言える。

はやりんもその流れに乗って最近動画を出し始めたが、まだクラリンほどの本数を出すには至っていない。

 

ここにいるメンバーは全員クラリンの存在を知っていた。セーラだけが何故か噴き出して下を向いてしまったが。

 

そんなセーラをよそに、怜が話を進める。

 

 

「最近よう2つのチャンネル見るんやけどな?どっちも面白いんよ。せやから、皆はどっち派なんかなーって思ってな?」

 

「そういうことですか。それやったらウチはクラリンですかね。クラリンはウチが見てもホンマに勉強になること多いんですよ」

 

怜の質問に対して、お見舞いのりんごを剥き始めた浩子が答える。

この2つのチャンネルを比較する上で1番の違いは、「難易度」だろう。

 

はやりんのチャンネルは麻雀を好きになってもらう「とっかかり」を作ることに特化している。流石「牌のおねえさん」を長年(?)やっているだけあって、そのスタイルで右に出るものはおそらくいないだろう。親しみやすいキャラクターも相まって、はやりんを見て麻雀に興味を持った、という小学生も少なくない。

 

ではクラリンのほうはどうか。こちらも最初は初心者向けの麻雀解説が多かった。それだけでもかなり注目を集めたは集めたのだが、もっと驚くべきはその後。

「上級者向け」と題してクラリンが始めた動画投稿は、まさに玄人達を唸らせるものであった。たまにプロの実際の対局の場面を検討し、いかにこの打牌が優れているかなどの解説もしてくれる。

外見は明らかになっていないが、動画配信を始めた当時、明らかに幼い女の子の声であったこともあり、知識量とのギャップに多くのファンを獲得したクラリン。

 

言わずもがな、麻雀チャンネルにおいて『クラリン麻雀教室』よりもチャンネル登録者数が多いチャンネルは存在しない。

それだけ圧倒的な視聴者を集めているのだった。

 

 

その観点を比較すると、もう十分麻雀研究を進めている浩子からすれば、クラリンの方に軍配が上がるのは自然な流れと言えた。

 

 

「ふなQやったら、せやろなあ……竜華はどうや?」

 

「ええ?せやなあ……ウチははやりんの方が好きかもしれん」

 

「そら意外やな」

 

「もちろんクラリンの動画も見とるし、すごいなーって思うで?せやけど、はやりんが笑顔で麻雀の布教活動?してるん見るほうがええかなあ……」

 

竜華の答えも一理あるだろう。なにも勉強することだけが麻雀の楽しさではない。

楽しむ麻雀を知ってもらうとっかかりを作ってくれるのは、ありがたいことと言えた。

 

 

「竜華らしくてええな。ウチもそう思うわ」

 

にっこりと怜が笑う。

 

それに対して竜華が満足気に笑顔を返し、そしてまた1つ疑問を投げかけた。

 

 

「せやけど、クラリンっていったい何者なんやろな?ネットで調べても女流プロ説とか、学生説とか、色々出てきてまうんよな」

 

「まああれだけの知識ですし、プロと思うほうが自然やと思いますけどね?デジタル思考が強い女流プロとかが候補に挙がってますよ」

 

言いながら、剥き終わったりんごを浩子が配る。

 

それにしても、と怜が続ける。

 

 

「どっかで聞いたことあるような気するんよなあ……クラリンの声……」

 

「そら……そらそやろな……ふふっ……」

 

ずっと笑いをこらえていたセーラがやっと口を開いた。

その言葉に、全員がセーラの方を注視する。

 

先ほどまでは触れなかったが、笑いをこらえ続けるセーラを、怜は流石に不審がっていた。

 

それに加え、クラリンの正体を知っているかのような口ぶりをされては、流石に聞かないわけにはいかない。

 

 

「なんや、セーラ。クラリンが誰か知っとるんか??」

 

「……オレやなくても、ここにいるみんな知っとる奴やで」

 

ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべるセーラから出た発言に、全員が色めき立つ。

あのクラリンの正体を知っているというのだ。気にならないわけがない。

 

 

「それホンマですか??そんなん公表したらとてつもないニュースになりますよ?」

 

「ええー!セーラ教えてや!」

 

それも知っている人と言われれば尚更だ。怜は冷静になって全員が知っている人物を洗い出す。

 

怜が1つの答えをはじき出した。

 

 

「まさか……監督か……!」

 

 

「いや、それはないです」

 

 

浩子が即答する。

 

千里山の監督は洋榎の母、愛宕雅枝だ。雅枝があの歳でクラリンのようなネット用語を並べていると思うと……。考えただけで雅枝が叔母にあたる浩子は寒気がした。

 

 

「じゃあ教えたる。けど、考えてみ?あのクラリンの清一色とかの異常な待ち把握の速さ……仮に高校生で1人だけできるとしたら誰やと思う?」

 

クラリンが恐ろしいほどの知識を持っているのは誰もが知っている。その中でも群を抜いて優れているのは、清一色への造詣の深さ。すぐに形を理解し、待ちを確認し、鳴くところを確定させる。

その姿を何度も見てきたし、そこだけを切り取った動画が最近は出回って、初心者から上級者まで度肝を抜かれている。

 

それができる高校生……ともなれば自然と答えは限られる。

 

 

「……まさか」

 

「ええ……高校生であんなんできるのなんかウチ的には臨海の辻垣内さんか姫松の……倉橋さんくらいしか……え、えええ?!」

 

怜は気付いた。竜華も怜の反応で気付いたようだ。

 

この声。どこかで聞いたことがあると思ったら、何度か対戦もしたことがある姫松の先鋒。

 

そして多恵とセーラが幼馴染であるというのも、理解を早める一助となっていた。

 

 

「そのまさかや。クラリンは倉橋多恵……。まあアイツも身内には大して隠してへんし、ええんちゃう?なんならネットで少しずつバレとるしな」

 

「た、たしかに……放銃率の計算とか、鳴き判断、リーチ効率……その全てをとっても高校トップクラスとの呼び声高い倉橋多恵なら……納得できます」

 

浩子も冷静に考えてみれば、むしろ何故その選択肢がなかったのか不思議になるほどクラリンと多恵の共通点は多かった。

浩子は親戚の家に突然現れた多恵と、何度も対局している。

 

それなりに話した仲で、多恵の実力も嫌というほどわかっているのに、浩子はクラリンと多恵を結びつけたことはなかった。

 

一同が騒然とする中、そうか……と、何か納得するように頷いた浩子。

 

しかし、すぐにその表情は悪い笑みへと変わる。

眼鏡がキラリと光った。

 

 

「せやったら話は早いですね。多恵さんはウチにとっても身内やけど、今回ばかりは負けられへんわけですし、……じっくり動画見て研究させてもらいましょか……」

 

「お、おう……確かに、せやな……」

 

(あ、なんか多恵すまん)

 

 

ドヤ顔で暴露したはいいものの、ちょっと友達を売ってしまったような気分になってバツの悪いセーラであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くしゅん!」

 

 

「どないした、多恵風邪か?」

 

隣で本を読んでいた恭子が多恵を心配してポケットティッシュを差し出す。

 

それを受け取り、鼻をかみおわった多恵は何故か胸を張った。

 

 

「……誰かが私を……噂してる!」

 

「とんだ自意識過剰やな」

 

恭子はやっぱりげんなりした。

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