ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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第46局 東風の神

初めて会った時は、なんて騒がしい女の子なんだろうと思った。

 

 

「ちょっと待ちなさい!もう一回!もう一回よ!」

 

 

 

 

 

何度も何度も。負ける度に悔しそうに歯噛みして、それでも彼女は、自分の居場所をしらみつぶしに探して、ひたすらに挑戦を繰り返した。

 

 

「ぐ、偶然ね。こんなところにいたのね……」

 

何度負けても挑んでくるその姿勢。

負けても、運が悪いとか、相手がズルいとか、そんな弱音は一度も吐かずに彼女は向かってきた。

 

そんな彼女と卓を囲む内に、「麻雀しかない」と、無感情に麻雀と向き合っていた自分の心が、少しずつ溶けていくような気がして。

 

 

「……もしよかったら、私の行ってる麻雀教室、来る?」

 

気が付けば誘っていた。

 

最初は麻雀が好きな子なんだな、としか思っていなかった。

 

けど、その認識はどこかずれていたのを、後に多恵は知った。

 

 

この子は、

 

小走やえという女の子は、ただひたすらに負けず嫌いだったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

準決勝からの特設ステージ。

大きな部屋の真ん中。少し高く作られた場所に純白の自動卓がポツンと1つ置かれている。

 

 

(すぐに対戦するだろうと思っていた高校団体戦でのやえとの試合。まさか3年で初めて対戦するなんてね。……そしておそらく、この大会が最後)

 

やえの瞳を真っすぐに捉える。

 

ここで対局できるのは素直に嬉しい。だが、2人とも、高校(チーム)を背負っている。

勝ちを譲る気は、無い。そしてそれでこそ、楽しめる。

 

 

 

 

 

 

 

「はあ……ダル……」

 

そんな中を、ゆっくりと階段を上がってきたのは、宮守女子の小瀬川白望。

2回戦で既に多恵の実力を実感していて、なおかつやえの対戦している所も見ていた白望としては、思わず口癖の「ダル」がでてしまうのも仕方がないだろう。

 

 

「小瀬川さん。今日もよろしくね」

 

「あんたには……よろしくされたくないかな……」

 

「そ、そんな……」

 

多恵の挨拶を華麗にスルーし、さっと卓に着く白望。

多恵が固まっているのを見て、やえがクスクスと笑っていた。

 

 

 

 

「3年生方、よろしくだじぇ」

 

「あら、2回戦とはビジュアルが違うじゃない」

 

最後に姿を現したのは、清澄高校の1年生、片岡優希だ。

唯一の1年生だが、他3人も、もちろん優希のことを侮ってなどいない。

むしろ、最初は1番の警戒対象だろう。

 

優希は今日は髪型を低めのツインテールにして、背中にはマントがたなびいている。

その髪型はどこか、新道寺の先鋒と似ていて、多恵は小さく笑みを浮かべた。

 

 

「強敵との戦い方を、先輩から学んだんだじぇ。そして今日はタコス運も悪くない」

 

「タコス運……?」

 

どや顔で卓につく優希。タコスに運が絡むとは初めて聞いたやえは、困惑の表情だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「始めようか」

 

多恵の一言で、全員が場決めの牌を引く。

この場決めは親決めではなく、単純に席を決めるために、風牌を引く。

だから「東」を引いたからといって起家になる、というわけではない。

 

やえが前に出て、最初の1枚を引きに行く。

 

 

「言っとくけど。私ここで東引いて負けたことないから」

 

その言葉に一瞬、緊張が走る。

この場には東風の神、片岡優希がいるのにも関わらず、自ら東を引くと言ったやえ。

優希は場決めでも東を引く確率がかなり高い。

 

それはやえも知っているはずだ。

 

確率は4分の1。単純な話なら、だが。

 

 

 

そうしてやえは引いた牌を、自らの顔の前に掲げる。

 

 

その牌は、「東」だった。

 

 

少し優希の顔が引き攣る。

しかし多恵は動じない。

 

 

「じゃあ今日で、そのジンクスは終わりだね」

 

「……やれるものならやってみなさい、多恵」

 

それぞれの席につく。

部屋の中心である自動卓の箇所以外のライトが全て消えた。

 

スポットライトが少しまぶしい。

 

 

「「「「よろしくお願いします」」」」

 

先鋒戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さあ、皆さんお待ちかねの先鋒戦がついに始まりました!この対局、やはり想定されるのは、晩成の小走やえ選手と、姫松の倉橋多恵選手の叩きあいでしょうか?』

 

『いやあ……そうとも限らねえんじゃねえの?ホラ、また清澄の1年生が起家だよ。配牌見てみな』

 

 

準決勝第二試合、先鋒戦が始まった。

場所はやえが東の席を勝ち取ったものの、親決めのサイコロ2度振りで、やはり起家は優希になる。

 

 

(この清澄の1年生。東場の得点力が異常だ。やえもだけど、まずはこの子を要注意だな)

 

多恵も2回戦の映像は見ている。東場ではやえと対等にやりあっていたのだから警戒は必須だろう。

 

 

 

東1局 親 優希

 

優希 配牌 ドラ{3}

{12345678三三四赤五五} ツモ{六}

 

 

「リーチだじぇ!」

 

 

開幕一閃。

まずは挨拶代わりとばかりに優希から放たれた{五}は、迷わず横を向いた。

 

 

(強烈……!)

 

(こいつ……また東場で暴れる気か)

 

(ダルいのが多いなあ……)

 

はぁ、と深いため息をつくのは、南家の小瀬川。

2回戦でもやったなあこれ、と思いながら切るのは、危なそうな{六}。入り目だ。

 

いきなりの危険牌に、優希の表情も若干曇る。

 

 

「チー」

 

西家の多恵が鳴く。

親のダブリー相手に手牌を短くするのは愚行だし、この場合はデジタルに打つなら絶対に鳴かないほうがいい。

一発消しは、安全牌の余裕があるときに行うもの。しかし多恵はここは鳴きとした。

 

デジタルではない。この世界に来て培った感覚が、多恵の中で警鐘を鳴らしている。

 

 

「……あんたがダブリー相手に一発消しするの、初めて見たわ」

 

片目を開いて、やえが西家の多恵を見る。長年一緒に打ってきた仲。何度もセーラのダブリーに落ち着いて対処する多恵を見てきた。だからこそ、意外に思う。

 

 

(それだけこの清澄の東場タコス娘が危険……ってことね)

 

やえは{六}を合わせる。

現物だ。

 

次巡。

 

 

「ツモ!まずは6000オールだじぇ!!」

 

優希 手牌

{12345678三三四赤五六} ツモ{6}

 

 

 

『清澄高校片岡優希!まずは先制パンチの6000オールです!!2回戦もそうでしたが、東場の彼女はイキイキとしていますね』

 

『東場での個人戦最高得点保持者……東風の神、片岡優希。さあ、その力がどこまで全国トップクラスの王者と騎士に通用するのか……』

 

とても面白いものを見るように、咏が扇子を口に当てた。

 

 

 

東1局1本場 1巡目 ドラ{4}

 

多恵 手牌

{③④⑤⑦2345七七七東北} ツモ{6}

 

(……)

 

 

好配牌。優希が今回はダブリーではなかった。

多恵は東場に神速を見せる優希を見やる。

 

多恵は試合前に、優希のデータを眺めていた恭子が助言してきたことを思い出していた。

 

 

『清澄の片岡ですが……この娘。ダブリーができる時に、形の変化を待つということを一度もしていません。ダブリーを打ってこなかったら、聴牌はしていないと見て大丈夫そうです』

 

 

(恭子のデータを信じるなら、片岡さんはまだテンパってはない)

 

だとすれば、この手牌なら十分対抗できる。

思考は一瞬。

多恵は手牌から{東}を切り出した。

 

 

「ポンだじぇ!」

 

その{東}に飛びついたのは、優希。

 

 

(字牌の切り順。セオリーならダブ東切りだけど、もしかしたら、今の状況なら北からの方がよかったのか……?)

 

基本的に、自身が面前で早そうな手なら、役牌を自身で重ねるメリットが少ないので、先に切ってしまった方が良い。

逆に、手牌が重そうなら、自身で重ねるメリットも大きい上に、相手に手牌を進めさせないために持つほうが良い。

 

たかが1巡の差とあなどるなかれ。麻雀という競技は、1牌の後先が、命運を分ける。

 

 

次巡、多恵が持ってきた牌は、{2}だった。

多恵は{北}を打つ。

 

 

「ツモだじぇ!2000は2100オール!」

 

優希 手牌

{⑦⑧⑨34二三四八八} {東横東東} ツモ{5}

 

 

『2連続和了!!強者を相手にしても、全く怖気づいていません片岡優希!』

 

『良い和了りだったねい。さて、鳴きが入っていない本来のツモを知っている姫松の騎士が何を思うか。今後の展開に影響するかもだよ?知らんけど!』

 

 

多恵の手元に来た{2}は、本来は優希のツモ。

多恵が東を切っていなかったら、{2}は優希の手牌に入って聴牌。

 

 

(字牌の切り順は間違ってなかった。そしてきっと、どちらにせよ止められてない)

 

積み棒を取り出す優希を見ながら、東場での強さに改めて驚く多恵。わかってはいたが、もう一度、気を引き締めなおした。

 

優希の深紅のマントがたなびく。

 

 

「ここに山を築く」

 

2本目の積み棒を自身の右側に置きながら、優希が口を開いた。

 

その目は、微塵もハッタリをかましているようには見えない。

紡がれる言葉に、やえはまたか、と優希をにらみつける。

 

それでも優希はひるまない。

 

 

「今度こそ、誰にも賽は振らせない……!!!」

 

 

東風の神が、王者と騎士に牙を剥く。

 

多恵とやえが静かに目を合わせる。

どうやら簡単に、2人で楽しませてはくれなさそうだ。

 

 

 

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