ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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第49局 最高の世代

清澄高校控室。

 

優希が多恵の清一色に放銃してから数分後。

 

顔面蒼白になりながら自身のスマートフォンを必死に操作する和に、清澄メンバーはどう声をかけたらいいのか分からずにいた。

 

 

「で、でも、もしかしたら別人かもしれないし……」

 

「……そう……かもしれません……」

 

咲の声掛けに対しても反応が遅れてしまうほど、今の和は切羽詰まっている。

確かに、別人である可能性は残っている。しかし、和の脳が、記憶が、倉橋多恵がクラリンだと言っている。

 

和は、今までも沢山のプロの対局を目にしてきた。

 

恐ろしいほどの豪運で和了りまくるプロ、不思議な待ちで和了りをモノにするプロ、いつの間にか勝ってしまっているような、試合巧者のプロ。

そのどれもに、和は興味をそそられなかった。何故か。

 

答えは簡単。その全てが、和からしたら『偶然に頼りすぎている』から。100回やって、損することのほうが多い選択など、和は認めない。魅力を感じない。

そんな達観した視点で見ていたある日、動画でクラリンを見つけた。

 

衝撃が走った。これこそが和が求めていた麻雀観だった。どうしてこの人はトッププロと名乗らないんだろうと心底疑問に思った。

これほどの実力を持っている人が、プロでないはずがない。いや、言い換えればこういう人こそが日本を背負って立つプロになるべきだ、とすら考えていた。

 

今まで、クラリンの上級編の動画を見なかった日は無い。

それほどまでに師と仰いで尊敬する存在。

 

 

そしてそれが今、自身の前に立ちふさがる。

高校生だと知る。

 

頭が全く追い付いていなかった。確かにネットでそういった書き込みは以前もあったが、和は信じなかった。

 

高校のインターハイの映像も、そこまで興味がなかった。

だから、姫松に強い人がいるくらいの認識でしかなかったのだ。

 

 

(SNSで……私のように気付いた人はいるのでしょうか……)

 

震える指で、自身のスマホのSNSを開く。

検索で「クラリン」としてみた。たくさんの投稿が、和の目に情報として入ってくる。

 

 

:今の姫松の倉橋の清一色、マジでクラリンみたいだったな。本当にクラリンなんじゃねえの? #インターハイ #姫松

 

:クラリンの動画見てるみたいだったな……姫松つえええ  #インターハイ

 

:あの河で清一色刺さっちゃうとか清澄の1年生可哀想だなw クラリンじゃあるまいしw  #インターハイ

 

:クラリンが姫松の先鋒って説、このまえどっかの掲示板で見たけど、いよいよ信憑性高まってきたな

 

 

沢山の視聴者が、クラリンが多恵ではないかと疑っていた。

今まで、和はその説を信じなかったが故に、クラリン高校生説の書き込みを見ることは無かったが、今度はインターネットで、過去の掲示板を探す。

 

そうしていると、和は一つのスレに辿りついた。

 

 

 

【Vやねん姫松】今年こそ全国優勝【姫松応援スレ】

 

 

 

346:名無し雀士@個人応援は個人スレで

 

よっしゃ!トップから直撃で2着順アップ!やっぱ倉橋頼りになるな

 

 

348:名無し雀士@個人応援は個人スレで

 

いや今の倉橋の清一色ヤバすぎwwwwプロでもあの河作りとノータイム切りできねえよwww俺なら宮守から出た五で10秒長考するわww

 

 

351:名無し雀士@個人応援は個人スレで

 

今の清一色は比較的簡単な部類だろ。宮守から切られた5m鳴いても待ち増えないのなんかすぐわかるやん。

 

 

358:名無し雀士@個人応援は個人スレで

 

>>>351 カン3m待ちから 2m3m待ちに増えます。クラリンの動画でも見て勉強し直してこい。

 

 

360:名無し雀士@個人応援は個人スレで

 

>>>351 これはガチで恥ずかしいやつや

 

 

368:名無し雀士@個人応援は個人スレで

 

クラリンで思い出したけどマジで今の和了りクラリンの動画見てるみたいだったな。

 

 

370:名無し雀士@個人応援は個人スレで

 

>>>368 ワイもそれ思た。テンション上がっちゃってスルーしちゃってたけど、そもそもあのレベルの判断とか普通高校生にできんの?

 

 

372:名無し雀士@個人応援は個人スレで

 

この前プロの対局で清一色テンパってないのに誤ロンしてる動画見たゾ

 

 

374:名無し雀士@個人応援は個人スレで

 

>>>372 見てくれだけのお飾りプロなんかいくらでもいるからな。それこそこの倉橋とかのがよっぽど強いよ。

 

 

377:名無し雀士@個人応援は個人スレで

 

冗談抜きで倉橋クラリンなんじゃね?言われてみればかなり声似てるし。たまに暇つぶしにやる小手返しのやり方とかも似てるよな。

 

 

379:名無し雀士@個人応援は個人スレで

 

倉橋がクラリンだったら逆に納得できるよな。さっきの清一色もこんなことできるのクラリンくらいだろって思ってたし。

 

 

 

 

 

 

 

(やっぱり……私以外にも、疑っている人が多い……)

 

顔が青ざめている和を見ながら、久も自身の頭の中で考えを巡らせる。

幸いまだ前半戦だ。そうとわかれば休憩中に優希になにか対策を伝えられるかもしれない。

 

 

(もし倉橋多恵がクラリンだとして。そうすると流石に今の優希だと厳しいかも……本来なら、姫松の得点源である先鋒の倉橋さんを優希の和了りで抑えて、次鋒の1年生はまこならどうにかできると思っていた……だけど……)

 

久と仲が良いプロ雀士の藤田が、クラリンの話題を振った時の言葉を久は良く覚えていた。

 

 

『動画見たけど……あれはもう勉強したらああなれるとかそういう次元じゃない。ハッキリ言って、人間の脳にできるレベルを超えてる。それでもってプロの間でもクラリンが一体誰なのか、わかっちゃいない』

 

 

プロ雀士から見ても、異常な存在。

そのクラリンがあの多面待ちを駆使する倉橋多恵だとするならば。

 

 

(鬼に金棒どころじゃない。まさに与えられるべくして与えられたかのような、これ以上ない力……)

 

久は、同学年である多恵の対局を何度も見てきた。

そしてその力は、ある程度把握している。だからこそ、恐怖を抱く。

 

 

(今までも十分脅威には感じていたけれど、これは更にその警戒度を上げないといけないみたいね……)

 

冷静になれてはいるが、もし和の話が本当だとするならば、状況は更に悪くなったと言ってもいい。

姫松の得点源である先鋒次鋒を封じ込め、姫松よりも点数を持った状況で中堅戦を迎えられれば、十分勝機はあると思っていた。

 

しかし、東場の優希ともやりあえてしまうクラリンのような得点力がある、というのは流石に想定外。

そしてこのまま自由に打たせて姫松に点を持たせてしまえばどうなるか。

 

 

(防御力でいえばぶっちぎりの全国1位の中堅以降を、削りきるのは厳しすぎるわ……!)

 

 

 

曰く、中堅の守りの化身は、中学時代に120局連続無放銃という恐ろしい記録を樹立し、高校からは差し込み以外の放銃は皆無だという。

 

曰く、副将の仕事人は、団体公式戦でマイナスになった記録が1つもないという。

 

曰く、大将のスピードスターは、こと速さという点で、全国でも1,2を争う存在だという。

 

 

このメンバーから点棒をむしり取れるか、と聞かれたら、流石の久も「はい」とは言えない。

 

 

ひとまず、今考えなければならないのは優希への助言。

恐ろしい相手が更に恐ろしいことがわかってしまったのだ。久としても焦りはある。

 

が、諦めるわけにはいかない。久はどんな時もいつだって最善策を考えてきた。

 

 

(なにか、優希のトリガーになってくれれば……)

 

久は優希の力の手綱を上手く握っている。そしてこの調子でいけばチャンピオンともわたりあえるだろう、とも。

しかしそれはこの準決勝を突破できればのこと。今ここで負けてしまえば、何もかもが水の泡だ。

だからこそ、優希の最高の状態を引き出す、「何か」が欲しい。

 

必死に頭を回転させながら、久は未だ錯乱状態にある和を見やるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、姫松高校控室では。

 

多恵の清一色の和了りを見て、椅子を前後に揺らしながら笑う洋榎の姿があった。

 

 

「はっはっは。多恵もう隠す気ないやろあれ」

 

「行儀悪いんで椅子ちゃんと座ってくださいよ部長……」

 

モニターから少し離れた机で、メモを取りながら観戦する恭子が、洋榎の女子高生あるまじき姿を諫める。

 

 

「そろそろ記者からも聞かれそうやし~、堂々と発表したほうがええんちゃう~?」

 

「まあ、本人も別に無理に隠したいわけやないって言ってましたしね」

 

由子が淹れたお茶を飲みながら恭子に提案する赤坂監督代行。

 

もともとメディアにもクラリンバレしつつある最近だったが、この和了りでその信憑性は更に高まったことだろう。

勘の良いプロやクラリンファンには今ので完全に気付くことだってありうる。

それだけ今の多恵は「良い状態」である、とも言えるのだが。

 

 

「東場はちょっとヒヤヒヤしましたけど、多恵先輩いつも通りで安心しました!」

 

「それもそうなのよ~」

 

一番モニターに近いソファで観戦する由子と漫の2人も、多恵の「らしい」和了りに胸をなでおろす。

東場はあまりにも荒場で、多恵の勝負手が流されることも何回かあった。心配になるのも、無理はない。

 

 

「確かに今日の相手は多恵も苦戦するだろうとは思っていますが」

 

しかしこの2人は違った。

椅子を前後に揺らしすぎて後ろ向きにひっくり返った愛宕洋榎と。その様子を呆れきった目で見つめながら話す末原恭子。

 

モニターの方に視線をやって、恭子はニヤリと笑って断言して見せた。

 

 

「……この程度でウチの多恵を抑え込めると思ったら大間違いやで」

 

 

 

 

 

――――常勝軍団姫松、その過去最高とも言われる世代に、死角はない。

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