ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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本当にいつもご愛読ありがとうございます!

書き始めた当初は、『咲-Saki-』という、ハーメルンにおいては、どちらかというと可愛いキャラクター達との日常系が人気を博すジャンルで、作者が書きたい「熱い麻雀バトル」は受け入れられないのではないか、という葛藤もありました。

しかし、気付けばこんなにも沢山の感想と、高評価、そしてお気に入り登録。
本当に感謝してもしきれません。

これからも熱い展開を書いていこうと思っていますので、応援よろしくお願いします。






第51局 天より授かりしは

準決勝第二試合先鋒戦の前半が終わった。

 

 

点数状況

 

晩成 111000

姫松 108500

宮守  92400

清澄  88100

 

 

会場は前半戦オーラスの熱気にあてられて、未だざわついている。後半戦が待ち遠しいといった様子で、誰しもが余韻に浸っている。

 

 

 

そんな中。トボトボと会場から控室までの道をたどる影が一つ。

背中につけたマントも、どこか悲し気にはためいている。

 

点差は、思ったほどつかなかった。しかし、実感してしまった。恐ろしいほどの実力差。

少しでも2回戦の相手よりも弱いかもと思った自分を呪いたい。あの騎士は、容赦なくその剣先を自分に向けてきた。

ばっさりと両断された侍よりも恐ろしく、自身で身を切り裂かせるという無慈悲な一撃。

 

軽口を叩きあいながら出ていった強者2人を、優希は呆然と見送ることしかできなかった。

 

 

(勝てるのか……?)

 

弱気になる気持ちが、鎌首をもたげる。

恐怖に震える自身の体を、優希はそっと左手で覆った。

 

 

「……優希!」

 

声をかけられて、顔を上げる。

そこには、自身の中学からの友達である原村和と、その後ろで心配そうにこちらの様子を見る宮永咲の姿があった。

 

 

「和ちゃん、咲ちゃん……」

 

「優希ちゃん、大丈夫……?」

 

モニターで優希のオーラスの様子を見ていた久が、「迎えに行ってあげなさい」と助言したこともあって、2人は優希のことを迎えに来ていた。

黙ってしばらく床を見つめる優希に、和が歩み寄る。

 

和は、優希にあの事実を伝えようと思っていた。

 

 

「優希。姫松の倉橋多恵さんは……おそらくですが、あの、『クラリン先生』です」

 

ビク、と優希の背中が跳ねる。

 

驚きはしたが、同時に予感もあった。特にあの清一色。

動画で見た時と状況がよく似ていて、顔も知らないはずの「クラリン」に、多恵の姿がかぶって見えたのだ。

 

そうか、と納得して、優希は和に向き直る。

 

 

「……じゃあのどちゃんは『クラリン』を応援してもいいじぇ。私に気を使わなくていいんだじぇ」

 

呟くように、静かな声で優希の言葉は紡がれる。

 

その言葉に、咲と和が、一瞬顔を見合わせた。

しかしすぐに優希へと向き直る。

 

 

「……何を言っているんですか」

 

「和ちゃんは、その事実に気付いてからもずっと優希ちゃんを応援してたんだよ」

 

少しだけ怒気をはらんだ声。和にしては珍しいそれに、優希は驚いたような顔をする。

 

「クラリン」の動画を見ている時の和は常に楽しそうだった。勉強になると言っていたし、ネット麻雀配信回の時は、勝てば自分のことのように喜び、負ければ悔しがる。自らの対局以上にそんな一喜一憂する姿を見ていたからこそ、倉橋多恵が「クラリン」だと分かった今、優希は自然と、和が「クラリン」を応援するのだと思っていた。

 

和が前に出てきて、優希の手を取る。

咲も、優希のすぐ近くまで来ていた。

 

 

「……確かに、私はクラリン先生と他の誰かが麻雀を打つのであれば、クラリン先生を応援するでしょう。でも、例えば私がクラリン先生と直接試合をしていたとして、私がクラリン先生を応援するでしょうか?……しません。その時は私自身を応援します。優希は私達のチームメイトです。先鋒の片岡優希は私そのものみたいなものなんです」

 

「……気を遣ってるわけじゃないよ。優希ちゃんは本当に『私達』そのものなんだ」

 

次々と出てくる親友(チームメイト)からの言葉に、優希の目が段々と見開かれていく。

 

 

「優希には、私の代わりに師匠を超えてくることを許します」

 

少し茶目っ気も含めた和の言葉が、とても暖かくて。

 

 

だから、と2人は前置きをして、優希にこれ以上ない言葉をかけた。

 

 

 

 

 

「「応援しないわけがない!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰も迎えにこーへんのかーい!!!」

 

姫松高校控室の扉を勢いよく開けたのは、先鋒倉橋多恵である。

 

 

「多恵先輩!!お疲れ様です!!」

 

「おつかれなのよ~」

 

「おつかれさんさんさんころり~」

 

どうやら前半戦のハイライト映像を見ていたらしい姫松のメンバーは、モニターの前に皆集まっていた。

 

恭子が多恵の帰還にやっと気付いたようで、多恵の方に振り返ってくる。

 

 

「……多恵、やっぱ苦戦しとんな。後半戦、大丈夫なんか?」

 

多恵の終局時の持ち点は108500点持ちの2着目。晩成の小走やえの少し後ろを行く形になった。

予想よりも、点差はついていない。ラス目の優希の点棒が88100であることを考えると、まだまだ勝負はわからないといったところだろう。

 

恭子の予想よりも、下2チームと差が開いていない、というのが現状だった。

 

 

「……それなんだけどね。確かに、全員手強いことはわかってたし、全力でやってる……けど」

 

多恵の言葉に、赤坂監督代行も耳を傾ける。本調子は出せている。のに、なかなか点数が伸びない。

大きな点数移動が多かった先鋒戦だが、最終結果は比較的平らなスコアに落ち着いてしまっている。

 

これは、やえと多恵が感じていることでもあった。

 

多恵が少し口を閉ざし、言いにくそうにしているのを感じてか、洋榎がフォローを入れた。

 

 

「せやな。おかしいとは思ってるんや。やえと多恵がいて、東場に暴れまわるルーキーちゃんがいて、ここまで点差が動かんのは気持ちが悪い。……その要因は主に連荘ができてないことにあるんちゃうか?」

 

連荘の少なさ。暴れまわるかに思われた優希の東場の親をダメージ少な目に抑え、南場に入っても多恵ややえが連荘することが少なく、大きな点数変動には至らなかった。

 

多恵は、このようなスタイルを得意とする打ち手を、良く知っている。

 

高火力に囲まれても、成績を落とさない人物を。

 

 

「やえがまだ本調子じゃなくて、片岡さんもまだ上があるってのはあるかもだけど……少しだけ……少しだけだけど、洋榎が卓にいるような感覚だった……かな」

 

その言葉に、全員が息をのんだ。

そうなると、誰が何をやっているのか。

 

 

 

洋榎が、口を開いた。

 

 

「宮守……何かやっとるな」

 

静かに目を細めた多恵が、うん、と頷く。

 

 

どうやら後半戦は、もっと全力でかからなければならないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『以上が、前半のハイライトになります!いやあ……痺れるオーラスでしたね。片岡選手はあの手牌から{8}を選んでの跳満放銃となりましたが、咏プロ、あの時「良い選択をした」とおっしゃってましたよね?』

 

『そうだねい。あのコは、あの時本能的に自分の手牌が全て当たることを察した。じゃあその中で最悪の結果を生まないものはどれか……最後まで思考をやめなかった。あそこでテキトーに切るのは簡単だけど、まだ戦う意志があることを証明してみせたんだ。こりゃ、後半戦も面白いものが見れるかもよ?しらんけど!』

 

実況解説席で、またケラケラと咏が笑う。

その通りで、優希にも、白望にも、戦う意志は強く残っている。

そう簡単にトップは渡さない。この後の戦いを、楽にはさせない。

 

 

 

 

対局が始まる。

 

選手たちが席にそろった。

 

 

『さあ、お待たせしました。準決勝第二試合先鋒戦、後半戦のスタートです!!』

 

 

会場も緊張感につつまれる。4校の命運を分ける、先鋒後半戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

東1局 親 優希 ドラ{3}

 

 

サイコロが回る。優希はまたしても起家を勝ち取っていた。

 

東風の神。

その闘牌は、多恵と恭子もしっかりとチェックし、そのうえで、恭子が県予選から比較しても、優希が段々と東場での速さが上がっていることに言及していた。

 

 

『このバケモンも、おそらく常識外の生物。どうやら清澄の部長の手で決勝向けにチューニングされてるように見えますが……なにがあるんかわからんのが麻雀。準決勝でとてつもない爆発をすることもあり得ます』

 

 

 

恭子の言葉を思い出しながら、配牌を受け取る多恵。

警戒の色は、全く消えていない。

 

 

 

 

そんな警戒の中で、優希が呼吸を整える。

 

目を閉じて、先ほどの休憩中のできごとを思い出していた。

 

 

 

 

 

『応援しない、わけがない!』

 

 

 

 

優希は、和と咲に、そう言われた。

 

控室に戻ってみれば、京太郎がこれ以上ない特製タコスを作ってくれていた。

 

味は……格別だった。

 

 

(私は「みんな」なんだ……負けられないじぇ……!!)

 

優希の目に、光が宿る。

 

 

 

 

 

 

―――確固たる信念がある打ち手に、牌は応える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わざわざ和と咲を迎えに行かせた甲斐があったかもね」

 

 

清澄の控室に座る、久の表情が変わる。

本来なら、決勝に向けて調整はしたかった。だが、このままではきっととてつもない量の点棒をむしり取られることになりかねない。

 

最高峰の雀士2人を同時に相手しているのだ。もうなりふり構ってはいられない。

 

 

「さあ、見せつけてきて。あなたの……信念を」

 

久が優希の姿を見つめる。

やれることはやった。確証はない。けれど、優希ならやってくれる気がする。

 

 

 

いつもお転婆でうるさくて、落ち着きのない少女は、今や頼もしい、清澄のエース区間を担当するスーパールーキーへと成長したから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――ゆーき!あなたになら、『先生』を倒せます!

 

 

――――優希ちゃん!優希ちゃんなら勝てるよ!

 

 

――――仇を取る準備はできとるけえ、思いっきりやってきんさい。

 

 

――――俺の特製タコス食ったんだからな!ぶちかましてこいっ!

 

 

――――片岡さん……あなたのその姿勢、とても、とてもすばらですよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

想いが、信念が、力と変わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

押し寄せるような突風が、対局者3人の背後を突き抜けた。

 

 

 

 

「「「……?!」」」

 

白望は左手で頭を押さえ、顔を伏せた。

 

やえの理牌の手が止まった。本能的になにかを感じたのだろう。

 

多恵も目を見開いて、その顔を驚愕に染めている。

 

 

 

 

 

 

 

優希が、手牌を。

 

 

 

 

 

 

前に倒した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は運が良いみたいだじぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優希 ()()

{①②③⑥⑦⑦⑧⑧⑨66三三三} 

 

 

 

 

 

 

「16000オールッ……!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――それを人は、天から恵まれた和了り(天和)と呼ぶ。

 

 


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