点数変動のミスとかあればご指摘いただけると幸いです。
合宿の最終結果。最終日の今日は午前中までに全対局を終了し、すでにその結果が出ていた。前日までの成績を含め、上位6人卓はセーラがトップ、やえはかなり巻き返したものの、2着で全対局を終了した。
「トップ取りの麻雀はやっぱこの2人が強いねえ」
「最終収支だと勝てたりもするんやけどな」
多恵と洋榎はスコアシートを眺めている。幼少期からの仲である4人だと、やはり火力の高いセーラとやえがトップの偉い、ウマオカありのルールで強かった。逆に多恵と洋榎は着順操作に長けており、とくに洋榎などは他家を使った動きなどもできるので団体戦でその真価を発揮する。
「ま、今回はセーラに勝ちを譲ってあげるわ。ただ、大会じゃこうはいかないからね!」
「なんやー、さっきまでめちゃくちゃ悔しそうやったやん」
「く、悔しくないわよ!」
あいも変わらず騒がしいやりとりを眺めていた多恵はその奥で1人思案にふける恭子の姿を見つめていた。
(恭子にとってはいい刺激になってくれたかもな。同世代の強い雀士たちとこれだけ善戦できたのは自信にしてほしい)
そんな考えを知ってか知らずか洋榎にポンと肩を叩かれる。
「前から思っとったんやけど……多恵っておかんなんか?」
「子供いないのにおかんとはこれ一体……」
そんな中、清水谷竜華も、今回の合宿で良い刺激をもらえた1人であった。今回の成績こそ奮わなかったものの、随所にその才能の片鱗を見せていた。
「りゅーか、なかなかええモン持っとると思わん?」
「清水谷さんか、そうだね。あの途中で見せた集中力をもっと持続させることができたら……まあ私たちにとっては厄介になるかもね」
北大阪と南大阪なので、インターハイの出場権を争うことはないが、千里山とはこれからいくらでも戦う機会はあるだろう。もし次戦う時にあれほどの集中力を持続させる打ち手になっていたら……そしてあと1、2人、千里山に強い選手が入ってきてしまったら、姫松としては脅威となることは間違いない。
「ま、もちろん1、2年でもバンバン試合出るつもりやけど、勝負はウチらが3年になった時やな。多恵の恐ろしいほどの強さは身に染みて知っとる。でもな、最後のインターハイは必ずウチが千里山を優勝に導くんや」
「それはこっちも譲れないな。まあ少なくともここから3年は私達の時代にしてみせよう」
「なーに勝手に話進めてんのよ!インターハイ優勝はこの小走やえ率いる晩成なんだから!!!!」
こうして1年時の合同合宿は終了した。
そして舞台は2年後へと移る。
それぞれの目標を胸に、少女たちは歩き始めた。
彼女たちは経験をつみ、努力し、研鑽し、お互いに高めあった。
時にとんでもない強者が同学年にいることを知っても、4人のその心は、想いは折れることはなかった。
少女達の想いは、最後のインターハイにぶつかりあう。
――季節は過ぎ……
3年の春、姫松高校は春季大会も難なく突破し、夏のシード権を得ていた。多恵たちに残された最後のインターハイ、最後の夏に向けてそれぞれが準備の時期。
ここ、姫松高校麻雀部では、部員たちが集まる場所の他に、Aチームが集まってミーティングを行うミーティングルームがあり、最近のもっぱらのたまり場となっていた。
恭子がパソコンで部員の牌譜をまとめている中、洋榎が勢いよく部屋に入ってくる。
「どっせーーーーーーい!」
「なんですか、主将。あまりうるさくせんといてくれます?」
「びっくりなのよ~」
昨年の秋、代替わりで姫松高校麻雀部の主将に就任した愛宕洋榎。主将を誰に任せるかとなったとき、多恵と洋榎と恭子に票が割れたのだが、恭子と多恵が洋榎を推薦したため、洋榎が主将に就任している。そんな我らが主将は今日も今日とてうるさかった。
「これ見てみいや!この雑誌!!」
そう言ってバン!と机にたたきつけた雑誌。『ウィークリー麻雀トゥデイ』と週刊なのか日刊なのかよくわからない名前の雑誌の表紙には白糸台高校の宮永照が笑顔で写っている。
(宮永……照。俺の、越えなければいけない壁……)
多恵にとって、宮永照は因縁の相手になっていた。
宮永照とは、昨年の個人戦優勝者であり、今年の団体戦も白糸台高校が優勝候補筆頭とというのが世間の認識。
昨年の個人決勝卓は白糸台の宮永照、臨海女子の辻垣内智葉、姫松の倉橋多恵、晩成の小走やえと、異例の2年生のみの決勝卓だった。ちなみに多恵は宮永照と辻垣内智葉に敗れ、個人3位で昨年を終えた。
こっちの世界で同世代で今まで勝てていないのはこの2人だけ。
(この2人を倒せなきゃ、俺はこっちに来た意味がない。必ず、この世界で頂点に立ってみせる)
それだけに10年に一度の代と呼ばれるほど今年のインターハイの注目度は異常に高く、メディアも大盛り上がりである。
「それで、この雑誌がどうしたの?」
「姫松の特集ページや、これ、読んでみい!」
そういわれて2、3ページ後ろに丁度我らが姫松高校の特集ページが掲載されていた。
写真には洋榎を中心として姫松の春大会のメンバーが写っている。
それを読めと言われたのでしぶしぶ多恵が拾って読みあげる。
「えーなになに、姫松高校の団体戦の予想オーダーはこれだ。昨年惜しくも白糸台高校に敗れ、2年連続の準優勝となった関西の雄、姫松高校。今年も白糸台に続いて優勝候補に挙げられる。悲願の優勝へのカギは、エース倉橋多恵がどこまでチャンピオン宮永照を抑えられるかにかかっている……」
「そこや!そこ!!!」
ビシッと人差し指をこちらに向ける洋榎。
「絹~、姫松高校の伝統はエースをどこに置くんやったかなあ??」
絹、と呼ばれた眼鏡の少女、愛宕絹恵は洋榎の妹だ。昨年姫松高校に入学した絹恵は、メキメキと実力を伸ばし、今ではレギュラー争いの1人となっている。
ちなみに多恵は小さい頃からよく洋榎の家に麻雀を打ちにいっていたので、絹恵とも仲が良かった。
「中堅……やんな?」
「じゃあウチらの今の中堅は誰や?」
「……お姉ちゃんやな」
何かを察したように絹恵は呆れたように返事を返す。
「せや!せやろ!つまり、姫松のエースはウチやろがあ!!」
ぐわーーーーーと雑誌をぐしゃぐしゃにし始める洋榎。
それに見かねて多恵がソファ越しに声をかける。
「私も姫松のエースは洋榎だと思ってるよ!!」
「まあ、冗談なんやけどな」
「さいですか……」
二重人格なんかこいつは。と思わせる身替わりの速さである。
実際洋榎はエースが誰かということにそれほど頓着していない。それだけ、洋榎は多恵を認めているし、多恵もまた洋榎を認めていた。ただ単純に、ライバルとなる高校に対して、先鋒に多恵を持ってくるのが1番勝率が高いと踏んでいるのが、姫松の善野監督だった。
「善野監督はウチらが全国優勝できると信じとる。今年こそ、今年こそ必ず善野監督に優勝を持って帰るんや」
「うん……そうだね」
(俺を拾ってくれた善野監督に、しっかりと恩返ししなきゃだしな)
姫松高校の善野監督は多恵達が2年の春、持病が悪化し、倒れた。
命に別状はなかったものの、そのまま指揮をとるのは困難と判断され、赤阪監督代行が今の実質の指揮権を握っている。
特に恭子と多恵は善野監督に受けた恩が大きく、善野監督に優勝を届けようと、優勝への想いは大きかった。
「絶対に今年優勝や。白糸台も、千里山も、全部倒して全国優勝へ。行くぞ姫松ファイ、オーーー!!!」
「そんな掛け声初めて聞いたわ」
洋榎の気合の掛け声に反応できたのは、辛うじて由子が「おーなのよ~」と発した程度だった。
運命の夏は近い。