ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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みんな大好き漫ちゃん登場回です。

(※原作では上重漫は2年生ですが、この作品では1年生設定になっています。ご了承ください……)





第6局 上重漫発見

春の大会が一段落し、姫松高校麻雀部では、新入生の実力を見定める新人戦が行われていた。新入生を一ヵ所に集め、OB会の方にも対局に参加してもらいながら、監督とレギュラー陣で戦力になりそうな1年生をピックアップしていく。

 

 

「多恵。そっちはどうやった」

 

「うーん、今のところまだ目ぼしい子は見つかってないかなあ」

 

多恵と恭子は赤阪監督代行に頼まれて、対局している所を周りながら気になった選手を報告する役目を担っていた。こういうのは直感が大事だと思った多恵は最初洋榎に頼もうかと思ったのだが、「いや、めんどいやん」と一蹴されてしまった。

 

 

(それでいいんか我らが主将は……ん?)

 

洋榎の飽き性な部分は昔から変わらないので、もう諦めもついている多恵。

そしてそんな中、一人の選手の後ろを通った多恵はその異質な手牌に思わず立ち止まる。

 

 

(名前は…上重……すず、でいいのかな?ここの卓はOBの方が2人入ってくれてる卓か……)

 

漫はラス目、トップには3万点ほどの差をつけられ、後のない南場の親番を迎えていた。

 

 

10巡目 漫 手牌 ドラ{⑨}

{⑦⑦⑧⑧⑨⑨899七九九九} ツモ{八}

 

 

(とんでもねえ手牌だ。ダマ24000(ニーヨンマルゼット)なんかくらったら泡吹いちゃうよ……)

 

 

「リーチ」

 

(おろ)

 

宣言牌として切った牌は{9}だった。それはそうだろう。三色と純全帯を確約させるにはこちらの待ちを選んだほうがよさそうに見える。

 

そのことよりも、多恵からするとこのペン{7}をリーチすることが意外だった。点差はあるとはいえ、このダマ親倍は確実に仕留めたいところ。宣言牌が{9}だと関連牌になってそうな{78}あたりは出にくくなる。ラス目の親に進んで突っ込んでくるような人間もこの卓にはいないだろう。

 

 

そして次順、持ってきたのは{9}だった。裏目。痛恨である。しかし漫はなにごともなかったかのようにそのまま切る。

 

 

(あるよね~……ペン待ちかシャボか悩んでリーチ打つと必ず逆持ってくる説……)

 

麻雀は選択の連続。こっちが良い、と思ってもなかなかそのようにいってくれないのが麻雀というゲームだ。

 

しかし、漫はそうは思っていなかった。

 

 

「ツモ、8000オール……です」

 

すぐに見事{7}を引き和了り、総まくりの親倍ツモを決めていた。

 

 

(へえ……)

 

別になんてことのない、運よくペン{7}待ちにとっても、{六九9}待ちにとっていても和了れていたという事実がそこに残っているように見える。

 

しかし多恵はこの時のこの上重漫という1年生が平然とリーチ後の{9}に頓着していなかったことが気になった。

デジタルに徹する打ち手であっても、待ち取りをミスすることはある。麻雀とはそういうゲームだから。

しかしそれだけで片付けられるほど人間の脳というものは上手くできていない。

 

こっちにしておけば……というたらればの感情が、少しは表に出てしまう。それが大きな舞台であれば尚更。

 

あまりそういうことを気にしない打ち手なんだなあ、と思えばそれまでだが、どうやらこの1年生にはそれ以外の理由がありそうな、そんな気がしていた。

 

 

「恭子、あそこの上重漫って子の今日の戦績見てもいい?」

 

「あのおさげの子か?もうしょっぱなから負けまくって同級生にイジられてたで」

 

「へえ……」

 

恭子から戦績のデータを預かると、それを眺める。確かに序盤3半荘はほとんどトビラスのような形。特に打牌に問題があるわけではなさそうだが、ただただついていなかった。そして先ほどの半荘で初トップ……。

 

 

「恭子」

 

「なんや、ニヤニヤして」

 

「もしかしたらこの子、私達に足りなかったもう一押しをしてくれる子になってくれるかもよ」

 

ええー……と、恭子はとても信じられないといった様子でいつものジト目を多恵に向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコン、と部屋をノックする音が響く。

その日の下校時刻、直々に多恵は件の1年生をミーティングルームに呼んでいた。

 

「し、新入部員の上重漫です!」

 

「ええよ~入り~」

 

扉を開けて入ってきたのは、ガチガチに緊張した黒髪おさげが特徴の女子生徒、上重漫である。

 

「失礼します!」

 

「そんな固くならなくていいよ、由子、紅茶まだあったよね?」

 

「たくさんなのよ~」

 

多恵はそう言って漫をソファに促し、由子に紅茶を頼んだ。

座っても落ち着かない様子の漫はいきなり知らない土地に捨てられた子犬のよう。

 

 

「ごめんね、急に呼び出して。ちょっと今日の対局見てて、とても興味が出たから教えてほしいことがあるんだけど……いいかな?」

 

「は、はい!私がお答えできることであれば!」

 

(退部だけは……退部だけは勘弁してください……!)

 

漫からするとこの呼び出しは何を言われるのか分かったものではない。お前は下手すぎるから退部しろとでも言われるかと思っていた。

 

漫は自分の麻雀に、自信を持てていない。名門姫松に来たからには、頑張ろうと思ってもちろん来ているのだが、初日から感じるあまりのレベルの高さに、正直心が折れかけていた。

 

漫が改めて部屋を見渡すと、どうやら監督は不在で、愛宕洋榎主将含む3年生のレギュラーしか部屋にはいなかった。

とても退部勧告をされる雰囲気ではない。

 

 

「今日の4戦目、ラス目の親番で8000オールをツモった時、覚えてる?」

 

「あ、はい。もうラス続きでどうにかしなきゃって思って親番に臨みました」

 

漫からすると意外にも、呼び出しの理由は今日の対局内容だった。

 

 

「リーチした直後、待ちに取らなかった{9}を持ってきたとき、あんまり気にしてなかったみたいだけど、そんなことない?」

 

多恵はこの時の漫の心情を知りたかった。聞いてみたところ、基本的にはよく顔に出るタイプの打ち手の漫。多恵はあの後の対局も見ていたが、親倍をツモ和了った時とは雰囲気が異なっていた。

 

 

「あ、あの時は調子いいなって思いました……」

 

「へえ、一見裏目を引いたように見えるけど、上重さんはそうは思わなかったんだね?」

 

「あ、あの、変かもですけど、ウチ、調子がええ時は上の方の数字が良く来てくれるんです……だから、{9}持ってきて、裏目やったけど調子ええ感じやーって思ってました」

 

少し恥ずかしいのかうつむき気味に漫はそう答えた。

 

当たり前だが、こんな話、普通は笑い飛ばされて終わりだ。どっかの誰かさんなら「そんなオカルトありえません」の一言で片づけられてしまうだろう。

しかし、能力という存在に少しずつ気付いている多恵は予想以上の返答に思わず口角を上げる。

 

 

(やっぱりな。あの特有の雰囲気はスポーツ選手のゾーンに近い。最高の状態に近づくとこの子は真価を発揮するんだろう。問題は、どうやってゾーンに持っていくか……)

 

「上重さん、ちょっと急かもしれないんだけど、私の特訓、これから先受けてみない?」

 

「え、えええええええ?!そ、そんなんお、恐れ多いというか、申し訳ないというか……!」

 

突然昨年の全国個人戦3位の打ち手から個別特訓してみないかと誘われたら1年生ならだれでも困惑するだろう。嬉しいことはうれしいのだが、自分がそんなことをしてもらえる価値があるとは漫はまだ思えていなかった。

 

 

「う、ウチ成績もからっきしだし、ご期待に添えるかどうか……」

 

「私が、やらせてほしいの。上重さんの才能をもっと伸ばしてみたい」

 

「ッ……!せやったら、よ、よろしくお願いします!!」

 

「よし、決まり。じゃあ明日からよろしくね~!」

 

大変機嫌よく、その場を去った多恵。

 

 

(やったぜこれは良い子を見つけたかもしれない……!どうやってこの能力を活かすか……俺自身精一杯努力しなきゃ上重さんに失礼だからな……!)

 

その多恵が出ていった直後。

顔を赤らめながら今起きたことが現実なのか確かめるためにとりあえずほっぺたをつねってみる漫。

 

あんな直球にお願いされたら断ることなんてできるはずもない。

そんな漫の横に麻雀部の主将、愛宕洋榎が腰かけてきた。

 

 

「面白いやっちゃろ。多恵は」

 

ガハハーと、とてもわざとらしく笑う洋榎。

漫も姫松のネットの記事等を読んで、この2人が旧知の仲であることは知っていた。

 

 

「どうして倉橋先輩は、ウチなんかにチャンスをくれたんですかね……?」

 

「あいつの考えることはウチにもよーわからん。わからんけどな、あいつめちゃくちゃ麻雀好きやねん。せやから、漫ちゃんの麻雀見てて、面白そうって思ったんちゃう?」

 

「お、おもろいって、大事なんですかね?」

 

「さあ……ウチはようわからんけどな、見てる人をワクワクさせる麻雀を打つヤツが好きやー、とはよく言うとったで」

 

「ワクワクさせる……麻雀」

 

自分の手を見ながら漫は自分にそんな力があるのだろうかと、まだ半信半疑だった。今まで自分の麻雀をそのように言ってくれる人はいなかったし、多恵が自分のどんなところを評価してくれたのか、まだ理解ができていなかった。

 

 

「主将って、倉橋先輩と幼馴染なんですよね?初めて会った時からあんな人だったんですか?」

 

「いやあ、初めて会った時は、こいつ麻雀やってておもろいんかなあって思ったで。表情も薄くてなあ」

 

 

漫は今の多恵しか見たことがなかったので、意外に思った。他の部員と麻雀を打ってるときはとても楽しそうだし、麻雀談義をしているときなど特に目が輝いている。

 

 

「少し昔話になってまうけどな」

 

そう前置きして洋恵が語ってくれたのは、洋榎と多恵が出会った時の話だった。

洋榎が多恵に初めて会ったのは小学4年の頃。しかし普通に出会ったわけではない。それはもう衝撃的な出会いだった。

 

 

 

 

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