ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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誤字報告、いつも助かっています。ありがとうございます。


……牌画像変換ツールが、プレビューで反映されてるか確認できないのが嫌すぎる……運営様、頼むからプレビュー画面に牌画像変換ツールを反映する仕様にしてくだされ……。





第62局 策略

丸瀬紀子は苦労人だ。

 

 

元々彼女の気性が大人しめなこともあるが、彼女の所属する晩成高校麻雀部では常に常識人としての枠を確立していた。

 

晩成の王者たるやえに、少々過剰に忠誠を誓っている下級生たちの中で、唯一常識の範囲での尊敬を示しているともいえよう。

 

 

だからといって、他のメンバーに比べて彼女が今年にかける想いが薄い訳では、ない。

 

彼女は去年、インターハイの舞台で団体戦に出場することはなかった。

1年生で出場できること自体が難しいことであり、去年も1年生で出場していたのは巽由華1人だけ。

 

彼女は、去年由華がボロボロにされ、晩成が敗れるその瞬間を、会場で見守ることしかできなかった。

 

帰り際、泣き崩れるメンバーを、一人一人慰める王者の姿をその目に焼き付けた。

 

拳を、強く握った。

 

己の無力さを噛み締めた。

 

 

 

(来年。あの人に、あんな顔させちゃダメだ)

 

奇しくも、今年晩成の団体戦メンバーに名を連ねるやえ以外の4人は、あの時間、場所は違えども、同じことを胸に誓ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロン」

 

漫の肩が、一瞬震えた。

 

 

南1局 8巡目 親 漫 

 

紀子 手牌 ドラ{5}

{567一一南南}  {横⑤④⑥} {横678} ロン{南}

 

 

「2000」

 

 

「……はい」

 

(その捨て牌と鳴きで、役牌バックかいな……)

 

 

巧みに河を操作し、食いタンに見える仕掛けで、漫から直撃を打ち取った紀子。

 

前半戦は南場に入っている。

 

東3局はまこの軽い和了り、東4局はエイスリンの満貫のツモ和了り。

 

そしてこの南1局は早い仕掛けからの役牌バックで紀子が和了りをモノにした。

 

点棒を払った漫が、ゆっくりと息を吐く。

 

 

(落ち着け……親が落ちたとはいえ、まだ前半戦や。大きな失点にはつながってへん。安そうな子型には、打ち込んでもええって末原先輩も言うとったんや)

 

姫松の基本方針は変わらない。

漫の爆発にはもちろん期待しているが、ダメだった時に、大きな失点をしないことが大事。

 

恭子からの指示は、子には強気に出ていいが、親には打つな、という至ってシンプルなものだった。

 

それはそれとして、漫は今和了りをモノにした紀子を見やる。

 

 

(……晩成の丸瀬は役牌バックも平気で仕掛けてくる……末原先輩とは違ったタイプの、鳴きを得意とする打ち手や)

 

紀子はどちらかと言えば鳴きタイプの打ち手。晩成の中堅である憧や、姫松の大将である恭子ほど副露率が高いわけではないが、重い手でも積極的にしかけてくる。

今回のような役牌バックも多い。

 

恐らくエイスリンが圧倒的に速いことも考慮して、これからも紀子は速攻型で攻めてくるだろう。

 

そしてもう一つの特徴は。

 

 

(性格悪いねんなあ……この人の麻雀……)

 

紀子の得意な展開にさせないように、こちらにも注意を払わなければいけないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

南2局 親 まこ

 

エイスリンが、手牌を開く。

 

エイスリン 手牌 ドラ{9}

{①③⑤⑥⑧⑨28三三八発中}

 

配牌は良くもないが、そこまで悪いわけでもない。

普通の打ち手にとってはそう映る。

 

しかしエイスリンにとってみれば、とても良い配牌だ。

 

エイスリンは理想の牌譜を、卓上に描き出す。

可愛らしいフォントで描かれた牌たちは、彼女の手によって踊りだす。

 

 

 

エイスリン 理想手牌

 

{①②③⑤⑥⑦⑧⑨789三三} ツモ{④}

 

 

 

(ウン!……ミエルヨ!)

 

理想的な牌の伸び方。

 

エイスリンは配牌から見える範囲での理想形を形にする。

誰もが道中で一気通貫を捨てそうな手牌でも、エイスリンには関係がない。

 

描いた通りに手牌が伸びる。

 

 

 

5巡目 エイスリン 手牌

{①②③⑤⑥⑦⑧⑨278三三} ツモ{9}

 

 

「リーチ!」

 

エイスリンが手牌を曲げた。

するすると伸びる手牌は、見ていて気持ちが良い。

 

対局者としては、たまったものではないが。

 

 

(相変わらず早すぎやろ……ウィッシュアートは今、子型や……とはいえ、エイスリンのリーチは打点も高いことが多い……ここは素直にオリとくか)

 

漫も手牌は悪くなかったが、相手が早すぎる。

ここはエイスリンの現物である{2}を切り出した。

 

その牌を見逃さないのが、漫の下家に座る、まこ。

 

 

「チー」

 

まこが手牌を晒す。

 

 

まこ 手牌

{②③⑧⑨566889西} {横213}

 

 

 

『これも……随分無理そうな形から鳴きましたね……とりあえずの一発消しというところでしょうか?』

 

『いやー知らんし!……けどま一発消しだけ、なんて南場の親で和了り目捨ててまでやるよーなことじゃねーだろー?』

 

まこの鳴きで、エイスリンの理想形にヒビが入る。

 

エイスリンは少し怪訝そうな表情を浮かべたが、まだ有利は変わらない。

 

 

(ダイジョーブ、ツモレルヨ……!)

 

まことエイスリンの視線が交錯する。

 

 

その様子を、紀子が静かに眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

17巡目。

 

エイスリンからの早いリーチを受けて、早期決着するかに見えた局は最終巡目までもつれている。

 

それはエイスリンの理想形を邪魔しながら、自身も和了りに向かって3鳴きしているまこが大きな要因だった。

 

エイスリンにツモられるはずの流れを、上手く潰している。

 

 

 

漫 手牌

{④④⑥⑥447赤五五六六九白} ツモ{三}

 

 

(うっ……!)

 

漫の安牌が尽きた。

早々に手牌の形は崩している漫だったが、ここまではなんとか安牌らしきものを切ってこれた。

 

だが、ここにきて完璧な手詰まり。

幸い、このツモ番が漫の最後の切り番。海底は漫の上家である紀子がツモって終わる残り枚数。

 

ここを切り抜けられれば、問題ない。

 

 

(考えろ……考えるんや)

 

ベタ降りの技術も、多恵からたくさん教わった。

なんとなく安全そう、ではなく、どこが手牌の中で一番安全なのかを丁寧に考える作業。

 

必死に漫は、情報をかき集める。

 

 

(3鳴きしてる清澄の最後の切り出しが、ウィッシュアートに通っていない{8}……まず間違いなく聴牌やろ。役を作りに行ったとすれば混一。この{47}と、生牌の{白}は切れない……)

 

まこの手牌は、混一模様。

もちろんエイスリンにも通っていないこのあたりの牌は、切れない。

 

漫の手が、索子と字牌を除外する。

 

 

(捨て牌に{八}が4枚見えとるから、この{九}はノーチャンスの牌や……せやけど、生牌なんよなあ……シャンポンがあるとすれば切りにくい……)

 

あと候補にあがるとすれば、端牌の{九}。しかしこの牌が生牌なのが、漫に気持ち悪さを感じさせていた。

 

 

(他の牌は無スジだらけ……{①}が通っていて、手牌と合わせて{⑥}が3枚見えとるから、{④}もワンチャンスの牌やけど……)

 

{①}が通っていて{①④}の形が否定され、{⑥}が3枚見えているので{④⑦}待ちも少し考えにくい。

 

漫の手が、手牌を彷徨う。

 

その時、ふと、試合前に恭子が言っていたことを思い出した。

 

 

 

 

『宮守の留学生やけど……和了率の高さは、最終形の形の良さが一番の理由や。宮守のリーチは、基本的に両面以上やと思ったほうがええ。逆に言えば、スジひっかけや、地獄単騎なんかは少なめやから、読みやすいかもしれんな』

 

 

 

恭子の言葉を信じ、エイスリンの手牌が両面待ちになっているとしたら。

 

 

(……信じますよ……末原先輩……!)

 

 

 

漫が、手牌から強く切り出したのは、{九}だった。

 

 

エイスリンから、声はかからない。

 

 

 

(通った……!)

 

九死に一生を得た漫。

 

後はツモが紀子まで回って、終局。

聴牌濃厚の2人に残されたツモ番も、1回ずつだ。

 

まこが和了れる一縷の望みにかけてツモるが、持ってきたのは自身の和了り牌ではなく、エイスリンの現物である{東}。

 

 

(まあ、和了りを阻止して聴牌とれただけでも、及第点じゃろ)

 

ふぅ、と一息ついて、まこがそのまま{東}を切り出す。

 

そして、回ってきたのはエイスリン最後のツモ番。

 

 

(キテ……!)

 

エイスリンが思いを込めて手を伸ばすが、持ってきた牌は{一}。

 

和了り牌ではない。

 

エイスリンが少し悲しそうな表情でその牌を切った。

 

最初の流れのまま行けば大体エイスリンが和了りそうな場面ではあったが、上手くまこが鳴いたことで、ツモる流れを阻止した形。

 

 

あとは海底を紀子がツモって終局。

 

 

 

 

 

 

 

 

の、はずだった。

 

 

 

 

「チー」

 

 

 

「「「?!」」」

 

 

 

紀子が海底牌をツモりに行くことはなかった。

 

ここまでベタオリをしているようにしか見えなかった紀子が動いたことで、3人に動揺が走る。

 

 

紀子は、エイスリンの切った{一}を河から拾うと、完全安牌である{西}を流れるように切り出した。

 

 

 

紀子 手牌

{①①③④45六七七白白}  {横一二三}

 

 

『晩成高校丸瀬選手、エイスリン選手の切った{一}を両面チー……形式聴牌ではないですが、このチーは?』

 

『どー見ても、「嫌がらせ」のチーだよねえ?知らんけど!』

 

 

海底のツモ番が、下家である漫へと渡る。

 

紀子の狙いは、それ(海底)

 

強かに、紀子は漫の手詰まりを見抜いていた。

 

 

(どうやら姫松さん苦しんでたし……もう少し苦しんでもらおうかな)

 

(……晩成……!)

 

 

紀子は、漫が安牌を絞りだすことに苦労していることを見抜き、わざと海底のツモ番をわたした。

晩成としては、今競っている姫松が放銃に回ってくれるのなら、そんなに嬉しいことは無い。

 

自分が和了れなくても、削る方法はある。

 

漫が恨めしそうな表情で、海底へと手を伸ばす。

 

 

 

(また性格の悪い真似を……!安牌や……安牌なら問題あらへん……!)

 

 

漫 手牌

{④④⑥⑥447三赤五五六六白} ツモ{7}

 

 

(ぐっ……!)

 

つかまされたのは、危険牌。

 

漫は持ってきた牌を少しだけ忌々しそうに卓に擦り付ける。

 

 

(最悪なのは親の清澄への放銃……{47白}は切れない……{三五六}は否定できる要素がなにもあらへん……無スジや……とすると……)

 

漫の額に、大粒の汗が伝う。

 

この海底牌で放銃するわけにはいかない。

そう思えば思うほど、全ての牌が危なく見えてくる。

 

 

一度、背もたれに体重を預ける。

いっそこの持ってきた牌をそのまま切ってしまおうかと、そんな考えが頭をよぎる。

 

それこそ偶然の一牌だから、と言い訳をして。

 

 

(そんなんは、あかん。多恵先輩が許してくれるわけない。……この手牌の中で、一番当たらない牌を選ぶんや……!)

 

思考を放棄しかけた身体と、頭を起こす。

 

 

 

考えることをやめたら、ただの凡人。自分に厳しく、後輩にも厳しいあの大将の先輩は、いつもそう言っていた。

 

 

そして、考えること更に30秒ほど。

 

 

(これや、これしかない……!一番手牌の中で安全な牌……!)

 

漫が、一枚の牌を手に取る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

多恵が控室で、腕を組みながら漫の様子を見守っている。

 

 

「うん。漫ちゃん、本当によく勉強したもんね……」

 

今までなら、すぐに思考をやめて、生牌の{白}を切っていたに違いない。

しかし、親のまこにその牌で振り込めば、最悪の結果は免れない。

 

だからこそ、考え抜いた。

必死に頭を働かせて、情報をかき集めて。

 

 

自らの教えが活きている、と誇らしく思う反面。

 

多恵が、目を閉じる。

 

 

 

「……それが正解にならないのが、麻雀の悲しいところなんだよね……」

 

 

 

 

 

漫の選んだ牌は、{④}だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正しい道を選べば、必ず勝てるわけではない。

 

麻雀とは、そういう競技なのだ。

 

 

ここは、紀子の策略が漫を引きずり落とした。

 

 

 

 

 

「ロン!」

 

甲高い声が響く。

 

 

 

エイスリン 手牌 

{①②③⑤⑥⑦⑧⑨789三三}  ロン{④}

 

 

 

 

無情にもエイスリンに開かれた手牌を見て、漫は自分の顔から血の気が引いていくのを感じていた。

 

 

 

 

 

 

点数状況

 

姫松 104600

清澄  77400

宮守 100000

晩成 118000

 

 

 

 

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