ニワカは相手にならんよ(ガチ)   作:こーたろ

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アニメ限定のエイスリンの固有演出、可愛いですよね。
作者はすごく好きです。




第63局 アリガトウ

インターハイ準決勝は次鋒戦が続いている。

 

その次鋒戦を控室で見る高校の一つに、千里山女子高校があった。

 

千里山は既に決勝進出が確定しているものの、準決勝で白糸台にこっぴどくやられたこともあって、決勝に向けて更なる準備をしなければいけない状況。

ひとまずは、準決勝第二試合を見て、決勝で戦うチームの力量を見極めておくことは、千里山が優勝するための絶対条件だった。

 

その中でも、一際警戒をしなければならないのが、同じ大阪の姫松高校。

 

去年もインターハイ決勝まで残っているチームであり、白糸台の前に涙をのんだものの、準優勝という成績を残している高校。

 

その牙城をどう突き崩すか。

真剣な表情でメンバーが次鋒戦の対局を見守る中、千里山の次鋒を務める1年生が、口を開いた。

 

 

「……もし姫松に穴があるんとしたら、やっぱ次鋒じゃないですかね?」

 

「……まあ、1年生やし、情報は少ないわな」

 

泉の言葉に、セーラがモニターから目を離さずに相槌を打つ。

 

確かに姫松高校の中で、公式戦経験が少ない1年生が、次鋒の上重漫だ。

 

 

「上重、関西の新入生合宿でも成績パッとしなかったみたいですし、なんで強豪姫松のレギュラーなんか、わからんのですよね」

 

「泉、新入生合宿行ったんやっけ?」

 

「いえ、ウチは行ってないんですけど、同級生からデータ見してもろたんですよ」

 

泉は千里山の1軍のレギュラーになるのが早かったため、新入生合宿には同行していない。

本人もあまり行く必要性を感じていなかったし、もし他校で強い1年生がいるなら、後で牌譜を見せてもらえばいい、と思っていた。

 

そんな中で、関西最強と言われる姫松高校でレギュラーを務める1年生の噂を聞いた。

聞けば、関西の新入生合宿にも参加していたという。

 

どんな打ち手なのか気になり、さっそく泉は牌譜を見てみた。

 

しかし、その牌譜は不運な部分も多かったが、とても強豪校で1年生からレギュラーを務められるような実力があるとは思えないもので。

 

泉は疑問を抱えていたのだ。

 

 

「お、言うねえ。泉やって、他校からそう思われてるかもしれんぞ~?」

 

「そ、それはそうかもですけど!ウチは一応インターミドルの団体戦でも結果残してますし……」

 

ニヤリと笑いながらセーラが泉をからかう。

 

確かに泉はインターミドルの団体戦で結果を残し、1年生の中では自分はかなり強い部類に入る、と自負していたし、あながち間違いではない。

インターミドルチャンピオンである原村は仕方ないとしても、他の1年生で自分よりも強い打ち手がいる、と泉は信じていなかった。

 

だからこそ自分より強いかもしれない1年生の筆頭候補である姫松の漫は、しっかりとチェックしておかなければならないのだが。

 

先ほども、漫は海底の手番で手詰まりを起こして跳満の放銃に回っている。

 

 

そんな漫の様子に、モニターの前で首をかしげる泉。隣でそんな泉を見ていたセーラが目を細めて釘を刺した。

 

 

「強いかどうかは、決勝で確かめたらええやろ。自分の方が強いことを証明したいんやったら、戦って勝つ。それ以外に方法なんかないわ。……それに、準決勝であんだけ白糸台の弘世菫にやられたんやし、油断はすんなよ」

 

「それは……わかってます。決勝では負けません……!」

 

準決勝では、泉は白糸台の次鋒、弘世菫の前に完膚なきまでに抑え込まれている。

他のメンバーだって、白糸台よりも圧倒的に区間で点数を稼いだのは、中堅の江口セーラただ一人。

 

課題は山積みだ。

 

 

「それにな、この次鋒戦も……このまま終わるとは限らんで」

 

静かに泉とセーラのやり取りを聞いていた他のメンバーも、真剣な表情でモニターへと視線を移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さあ、次鋒戦は後半戦南場に入ります!ここまでは先鋒戦で点数を減らしていた宮守のペースといったところですかね?』

 

『んまーそうだねい。それに点数減らしてるとはいえ、晩成も上手くゲーム展開作れてるんじゃねえのー?』

 

 

次鋒戦は後半戦に突入している。

 

後半戦の席順は、東家にまこ、南家に漫、西家に紀子、北家にエイスリンの並び順になっていた。

 

 

 

点数状況

 

清澄  86400

姫松  96600

晩成 115000

宮守 102000

 

 

 

 

一息ついた漫が、配牌を睨みつける。

 

南1局 親 まこ

 

漫 配牌 ドラ{西}

{②④⑦⑨89二三四五六九南} 

 

 

(あかん……宮守が早すぎる……それに、清澄と晩成の変な鳴きのせいでなんか調子崩されっぱなしや……)

 

強敵。

2回戦の時だって、相手が弱かったわけではない。

しかし2回戦の時は明らかに自分の調子も良くなかった。

 

しかし今は、頭はしっかりと働いて、冷静に局面を見れている。

 

なのに、和了れない。点棒が減っていく。

 

漫は点数表示を今一度確認した。

残りは、南場のみ。

 

 

(多恵先輩からもらった点棒、こんなに減らしてしもた……このままじゃ、多恵先輩のデコにも……それだけは阻止せなあかん……!)

 

反省は後でやる。

今はとにかく、最大限できることを。

 

配牌は悪いが、それでも漫は、一打目を切り出した。

 

 

 

6巡目。

 

 

「チー」

 

「?!」

 

エイスリンから出た{九}をチーしたのは、親のまこだ。

 

エイスリンは前半戦は調子よく点数を稼いだが、後半戦で下家がまこになってから調子が悪い。

鳴きによってペースを乱され、なかなか和了れずにいる。

 

 

まこ 手牌

{④⑤456二三四五六}  {横九七八}

 

 

(また留学生が和了りそうな流れじゃ……この留学生、異常なまでに手が早いんか)

 

まこの不可解な鳴きに、エイスリンの手がわずかに震える。

後半戦に入ってからはずっとこの調子で、エイスリンの思い描いた牌譜にどうしてもなってくれない。

 

 

(……モウイッカイ……!)

 

それでもエイスリンは諦めない。

鳴かれたことを加味しつつ、ここからできる最速の和了りを目指す。

 

 

エイスリン 予想手牌

{②③④⑤⑥34赤5三四五西西} ツモ{⑦}

 

 

可愛らしいフォントで描かれた牌たちが、エイスリンの周りを踊る。

最初の理想形は三色までついていたが、その理想形はまこによって阻止されてしまった。

 

それでも、跳満の形をもう一度作り直す。

 

手牌が伸びる。

彼女が描き出す純粋な理想形に、牌達の方から手によって来るように。

 

しかし、それをまたしても、阻む者がいる。

 

 

「ポン」

 

「?!」

 

今度は、エイスリンの上家に座る紀子が{⑨}のポンから入る。

 

 

(マタ……!?)

 

エイスリンの理想形にヒビが入り、大きな音をたてて崩れ去る。

 

 

9巡目 エイスリン 手牌

{②③④⑤⑥34三五八九西西} ツモ{一}

 

 

カタカタと、エイスリンの手が震える。

その表情は涙をこらえているようにも見えた。

 

 

まこ 手牌

{④④456二三四五六} {横九七八}

 

 

 

『宮守のエイスリン選手、清澄の当たり牌である{一}を掴まされました。そのまま切ると放銃ですが、大丈夫でしょうか?』

 

『んまー普通に打てば出ない牌だけどねえ……さっきっからこのコ、鳴かれると脆くて、手役に固執するきらいがあるから、切っちゃうかもねえ?』

 

咏の解説は少しだけ違っていて、エイスリンは決して手役に固執しているわけではない。

 

自身の描いた理想形を壊されても、その理想形を追いかけようとすると、手役に固執しているように見えるだけなのだ。

 

 

エイスリンが、膝の上でぎゅっとスカートを握る。

 

後半戦から放銃に回るケースが多くなり、弱気になっていたエイスリン。

 

{一}に、手がかかる。

 

その瞬間。

 

 

 

 

 

 

『エイちゃん!』 

 

 

 

 

 

(……!)

 

 

仲間の、声がした。

 

 

エイスリンはハッと、先鋒戦での白望の闘牌を思い出す。

 

あんなに必死で白望が麻雀をする姿なんて、エイスリンは見たことがなかった。

 

理由は、わかっている。

 

だからこそ。

 

 

 

 

 

(アキラメチャ……ダメ……!)

 

エイスリンが前を向く。

切りそうになった牌を手に戻した。

必死で目を閉じ、もう一度自身の理想形を探し出す。

 

エイスリンは、麻雀経験は決して長くない。

宮守に豊音が来たタイミングで、ちょうどよく居合わせてそこから麻雀を習った。

 

最初は麻雀のルールは難しく、覚えるのには苦労したが、なによりも、留学生である自分を仲間に入れてくれたメンバーとやる麻雀が、たまらなく好きだった。

 

 

(モウイッカイ……モウイッカイ……!)

 

だから、まだ遊んでいたい。

皆で遊ぶ団体戦を、終わらせたくない。

 

麻雀に対する理解度はここにいるメンバーで一番低いかもしれない。

 

しかし、麻雀を心から楽しみ、麻雀を好きである気持ちは、ここにいるメンバーの誰にだって負けやしない。

 

 

エイスリンの周りで踊りだす牌達を、必死でエイスリンが追いかける。

 

和了り牌に、精一杯手を伸ばす。

 

 

 

(マッテ……!!)

 

力の限り伸ばしたその指の先。

 

和了り牌に、エイスリンの想いが届く。

 

 

 

 

 

 

 

 

白望の戦いを見て、エイスリンには伝えたかったことがある。

 

日本語は難しく、絵で描いて伝えたほうが楽なこともあるけれど。

 

それでも、この気持ちだけは言葉で伝えたいから。

 

 

 

 

 

 

『私を、仲間に入れてくれて、アリガトウ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ツモ!!」

 

 

 

 

 

エイスリン 手牌

{①②③④⑤⑥34赤5一三西西}  ツモ{二}

 

 

 

 

不格好で良い。綺麗じゃなくていい。理想の形じゃなくていい。

 

今はただ、仲間のために。

 

 

「2000、4000デス!」

 

 

仲間を愛するエイスリンの心に、牌が応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

南2局 親 漫

 

漫が顔面蒼白になりながら、点棒を払う。

いよいよ、最後の親番だ。

 

ここで稼げなければ、いよいよ自身のマイナスは免れない。

 

 

(あかん……ウィッシュアートまで本調子になってきた……このままじゃ……負け……負け……る……?)

 

漫の目から、光が消える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方そのころ、姫松高校の控室では、多恵の絶叫が響き渡っていた。

 

 

「漫ちゃーーーーーん!!!!!」

 

必死の形相で、モニターであるテレビを両手でつかむ多恵。

 

画面の先では、宮守のエイスリンが執念でツモ和了り、2着との点差は更に開いた。

 

 

「4着とも僅差なのよ~……」

 

無論、4着である清澄とも点差は近い。

 

 

 

絶叫する多恵の後ろで。

 

キュポン、と、何かのフタを外す、音がした。

 

 

多恵の額に、冷や汗が流れる。

 

 

 

「……残念やなあ……あんな劇的な試合をして、きっと試合後もたっっっくさんインタビューくるやろになあ……」

 

悪魔の声。

 

ギギギギギ、という擬音が聞こえてきそうなほど機械的な動きで、多恵が後ろに振り返る。

 

 

「全国に、デコに落書きされた姿が映ってまうなんてなあ……」

 

「嫌だああああ!!!!漫ちゃーーーーーん!!!!」

 

半泣きで漫の様子を見守る多恵。

 

それを見て、ゲラゲラと笑っていた洋榎だったが、ふと、真剣な表情に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

漫が、配牌を開ける。

 

 

(………!)

 

 

漫 配牌 ドラ{②}

{⑦⑦⑧⑨⑨5799四八九北} ツモ{七}

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

控え室で、洋榎がニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

「……導火線に、火ぃついたで」

 

 

 

 

周りには強者ばかり。

 

絶対に負けられないという想い。

 

大好きな先輩から受け継いだその心の燈火は。

 

 

 

大きな爆弾の導火線に、火をつけた。

 

 

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