アニメ限定のエイスリンの固有演出、可愛いですよね。
作者はすごく好きです。
インターハイ準決勝は次鋒戦が続いている。
その次鋒戦を控室で見る高校の一つに、千里山女子高校があった。
千里山は既に決勝進出が確定しているものの、準決勝で白糸台にこっぴどくやられたこともあって、決勝に向けて更なる準備をしなければいけない状況。
ひとまずは、準決勝第二試合を見て、決勝で戦うチームの力量を見極めておくことは、千里山が優勝するための絶対条件だった。
その中でも、一際警戒をしなければならないのが、同じ大阪の姫松高校。
去年もインターハイ決勝まで残っているチームであり、白糸台の前に涙をのんだものの、準優勝という成績を残している高校。
その牙城をどう突き崩すか。
真剣な表情でメンバーが次鋒戦の対局を見守る中、千里山の次鋒を務める1年生が、口を開いた。
「……もし姫松に穴があるんとしたら、やっぱ次鋒じゃないですかね?」
「……まあ、1年生やし、情報は少ないわな」
泉の言葉に、セーラがモニターから目を離さずに相槌を打つ。
確かに姫松高校の中で、公式戦経験が少ない1年生が、次鋒の上重漫だ。
「上重、関西の新入生合宿でも成績パッとしなかったみたいですし、なんで強豪姫松のレギュラーなんか、わからんのですよね」
「泉、新入生合宿行ったんやっけ?」
「いえ、ウチは行ってないんですけど、同級生からデータ見してもろたんですよ」
泉は千里山の1軍のレギュラーになるのが早かったため、新入生合宿には同行していない。
本人もあまり行く必要性を感じていなかったし、もし他校で強い1年生がいるなら、後で牌譜を見せてもらえばいい、と思っていた。
そんな中で、関西最強と言われる姫松高校でレギュラーを務める1年生の噂を聞いた。
聞けば、関西の新入生合宿にも参加していたという。
どんな打ち手なのか気になり、さっそく泉は牌譜を見てみた。
しかし、その牌譜は不運な部分も多かったが、とても強豪校で1年生からレギュラーを務められるような実力があるとは思えないもので。
泉は疑問を抱えていたのだ。
「お、言うねえ。泉やって、他校からそう思われてるかもしれんぞ~?」
「そ、それはそうかもですけど!ウチは一応インターミドルの団体戦でも結果残してますし……」
ニヤリと笑いながらセーラが泉をからかう。
確かに泉はインターミドルの団体戦で結果を残し、1年生の中では自分はかなり強い部類に入る、と自負していたし、あながち間違いではない。
インターミドルチャンピオンである原村は仕方ないとしても、他の1年生で自分よりも強い打ち手がいる、と泉は信じていなかった。
だからこそ自分より強いかもしれない1年生の筆頭候補である姫松の漫は、しっかりとチェックしておかなければならないのだが。
先ほども、漫は海底の手番で手詰まりを起こして跳満の放銃に回っている。
そんな漫の様子に、モニターの前で首をかしげる泉。隣でそんな泉を見ていたセーラが目を細めて釘を刺した。
「強いかどうかは、決勝で確かめたらええやろ。自分の方が強いことを証明したいんやったら、戦って勝つ。それ以外に方法なんかないわ。……それに、準決勝であんだけ白糸台の弘世菫にやられたんやし、油断はすんなよ」
「それは……わかってます。決勝では負けません……!」
準決勝では、泉は白糸台の次鋒、弘世菫の前に完膚なきまでに抑え込まれている。
他のメンバーだって、白糸台よりも圧倒的に区間で点数を稼いだのは、中堅の江口セーラただ一人。
課題は山積みだ。
「それにな、この次鋒戦も……このまま終わるとは限らんで」
静かに泉とセーラのやり取りを聞いていた他のメンバーも、真剣な表情でモニターへと視線を移した。
『さあ、次鋒戦は後半戦南場に入ります!ここまでは先鋒戦で点数を減らしていた宮守のペースといったところですかね?』
『んまーそうだねい。それに点数減らしてるとはいえ、晩成も上手くゲーム展開作れてるんじゃねえのー?』
次鋒戦は後半戦に突入している。
後半戦の席順は、東家にまこ、南家に漫、西家に紀子、北家にエイスリンの並び順になっていた。
点数状況
清澄 86400
姫松 96600
晩成 115000
宮守 102000
一息ついた漫が、配牌を睨みつける。
南1局 親 まこ
漫 配牌 ドラ{西}
{②④⑦⑨89二三四五六九南}
(あかん……宮守が早すぎる……それに、清澄と晩成の変な鳴きのせいでなんか調子崩されっぱなしや……)
強敵。
2回戦の時だって、相手が弱かったわけではない。
しかし2回戦の時は明らかに自分の調子も良くなかった。
しかし今は、頭はしっかりと働いて、冷静に局面を見れている。
なのに、和了れない。点棒が減っていく。
漫は点数表示を今一度確認した。
残りは、南場のみ。
(多恵先輩からもらった点棒、こんなに減らしてしもた……このままじゃ、多恵先輩のデコにも……それだけは阻止せなあかん……!)
反省は後でやる。
今はとにかく、最大限できることを。
配牌は悪いが、それでも漫は、一打目を切り出した。
6巡目。
「チー」
「?!」
エイスリンから出た{九}をチーしたのは、親のまこだ。
エイスリンは前半戦は調子よく点数を稼いだが、後半戦で下家がまこになってから調子が悪い。
鳴きによってペースを乱され、なかなか和了れずにいる。
まこ 手牌
{④⑤456二三四五六} {横九七八}
(また留学生が和了りそうな流れじゃ……この留学生、異常なまでに手が早いんか)
まこの不可解な鳴きに、エイスリンの手がわずかに震える。
後半戦に入ってからはずっとこの調子で、エイスリンの思い描いた牌譜にどうしてもなってくれない。
(……モウイッカイ……!)
それでもエイスリンは諦めない。
鳴かれたことを加味しつつ、ここからできる最速の和了りを目指す。
エイスリン 予想手牌
{②③④⑤⑥34赤5三四五西西} ツモ{⑦}
可愛らしいフォントで描かれた牌たちが、エイスリンの周りを踊る。
最初の理想形は三色までついていたが、その理想形はまこによって阻止されてしまった。
それでも、跳満の形をもう一度作り直す。
手牌が伸びる。
彼女が描き出す純粋な理想形に、牌達の方から手によって来るように。
しかし、それをまたしても、阻む者がいる。
「ポン」
「?!」
今度は、エイスリンの上家に座る紀子が{⑨}のポンから入る。
(マタ……!?)
エイスリンの理想形にヒビが入り、大きな音をたてて崩れ去る。
9巡目 エイスリン 手牌
{②③④⑤⑥34三五八九西西} ツモ{一}
カタカタと、エイスリンの手が震える。
その表情は涙をこらえているようにも見えた。
まこ 手牌
{④④456二三四五六} {横九七八}
『宮守のエイスリン選手、清澄の当たり牌である{一}を掴まされました。そのまま切ると放銃ですが、大丈夫でしょうか?』
『んまー普通に打てば出ない牌だけどねえ……さっきっからこのコ、鳴かれると脆くて、手役に固執するきらいがあるから、切っちゃうかもねえ?』
咏の解説は少しだけ違っていて、エイスリンは決して手役に固執しているわけではない。
自身の描いた理想形を壊されても、その理想形を追いかけようとすると、手役に固執しているように見えるだけなのだ。
エイスリンが、膝の上でぎゅっとスカートを握る。
後半戦から放銃に回るケースが多くなり、弱気になっていたエイスリン。
{一}に、手がかかる。
その瞬間。
『エイちゃん!』
(……!)
仲間の、声がした。
エイスリンはハッと、先鋒戦での白望の闘牌を思い出す。
あんなに必死で白望が麻雀をする姿なんて、エイスリンは見たことがなかった。
理由は、わかっている。
だからこそ。
(アキラメチャ……ダメ……!)
エイスリンが前を向く。
切りそうになった牌を手に戻した。
必死で目を閉じ、もう一度自身の理想形を探し出す。
エイスリンは、麻雀経験は決して長くない。
宮守に豊音が来たタイミングで、ちょうどよく居合わせてそこから麻雀を習った。
最初は麻雀のルールは難しく、覚えるのには苦労したが、なによりも、留学生である自分を仲間に入れてくれたメンバーとやる麻雀が、たまらなく好きだった。
(モウイッカイ……モウイッカイ……!)
だから、まだ遊んでいたい。
皆で遊ぶ団体戦を、終わらせたくない。
麻雀に対する理解度はここにいるメンバーで一番低いかもしれない。
しかし、麻雀を心から楽しみ、麻雀を好きである気持ちは、ここにいるメンバーの誰にだって負けやしない。
エイスリンの周りで踊りだす牌達を、必死でエイスリンが追いかける。
和了り牌に、精一杯手を伸ばす。
(マッテ……!!)
力の限り伸ばしたその指の先。
和了り牌に、エイスリンの想いが届く。
白望の戦いを見て、エイスリンには伝えたかったことがある。
日本語は難しく、絵で描いて伝えたほうが楽なこともあるけれど。
それでも、この気持ちだけは言葉で伝えたいから。
『私を、仲間に入れてくれて、アリガトウ』
「ツモ!!」
エイスリン 手牌
{①②③④⑤⑥34赤5一三西西} ツモ{二}
不格好で良い。綺麗じゃなくていい。理想の形じゃなくていい。
今はただ、仲間のために。
「2000、4000デス!」
仲間を愛するエイスリンの心に、牌が応えた。
南2局 親 漫
漫が顔面蒼白になりながら、点棒を払う。
いよいよ、最後の親番だ。
ここで稼げなければ、いよいよ自身のマイナスは免れない。
(あかん……ウィッシュアートまで本調子になってきた……このままじゃ……負け……負け……る……?)
漫の目から、光が消える。
一方そのころ、姫松高校の控室では、多恵の絶叫が響き渡っていた。
「漫ちゃーーーーーん!!!!!」
必死の形相で、モニターであるテレビを両手でつかむ多恵。
画面の先では、宮守のエイスリンが執念でツモ和了り、2着との点差は更に開いた。
「4着とも僅差なのよ~……」
無論、4着である清澄とも点差は近い。
絶叫する多恵の後ろで。
キュポン、と、何かのフタを外す、音がした。
多恵の額に、冷や汗が流れる。
「……残念やなあ……あんな劇的な試合をして、きっと試合後もたっっっくさんインタビューくるやろになあ……」
悪魔の声。
ギギギギギ、という擬音が聞こえてきそうなほど機械的な動きで、多恵が後ろに振り返る。
「全国に、デコに落書きされた姿が映ってまうなんてなあ……」
「嫌だああああ!!!!漫ちゃーーーーーん!!!!」
半泣きで漫の様子を見守る多恵。
それを見て、ゲラゲラと笑っていた洋榎だったが、ふと、真剣な表情に戻る。
漫が、配牌を開ける。
(………!)
漫 配牌 ドラ{②}
{⑦⑦⑧⑨⑨5799四八九北} ツモ{七}
控え室で、洋榎がニヤリと笑みを浮かべた。
「……導火線に、火ぃついたで」
周りには強者ばかり。
絶対に負けられないという想い。
大好きな先輩から受け継いだその心の燈火は。
大きな爆弾の導火線に、火をつけた。