軽率に接点を増やしていけ。
旅狼のオフ会2日目
一晩経って2日目。
朝食は揃って会食室で、とペンシルゴンが予約していたらしく、部屋の前で鉢合わせた仲居さんに言われるまま、会食室へ向かう。
「遅かったねサンラク」
会食室に居たのは、オイカッツォ、京極、それと玲さん。
「昨日寝付けなくてな。首謀者は?」
「仲居さんによると、ガチメイク中。モルドは1回だけ顔出してルストを起こしに行ったよ」
「じゃあ
「秋津茜ちゃんはみんなが集まるまで走ってきます、ってジョギング中」
「じゃあ俺はここで待つかな」
「あの……サンラクさん」
「玲氏、どうかした?」
おずおずと俺の携帯端末を差し出す玲さんを見て、昨日忘れていったことを思い出す。
「ああ、ありがとう」
「おやおやおやおや?」
「黙れカッツォ」
「まだ何も言ってませんが~?」
どうした京極、深刻そうな面持ちで。玲さんとないしょ話?なんだその顔は……
「皆さん、おはようございます!!」
ジョギングを終えたのか、ラフでスポーティーな格好の秋津茜が部屋に入ってくる。
「ジョギングは終了?」
「はいっ!軽く流すだけにしました!」
「急にどうしたよサンラク。立ち上がって」
「しばらく来ないなら、俺も少し走って来ようかと思ってな。カッツオも来るか?」
「僕は普段からジム通いなんでね。たまの休息くらい問題ないさ」
じゃあ1人で行くかな。
部屋を出ていこうと扉を開け
「うわっ?!」
あ、モルドだ。
「いや改めてみるとデカいなモルド……」
「あ、サンラクか。突然すぎてびっくりした」
「ルスト起こしてきたのか?」
その返答にはにかみながら向けられた指の先、視線を下にずらすと……いた。
「……ん」
如何にも寝ぼけ眼のルストがモルドの服の裾を掴んで立っている。
「いや子供かよ……
「ほら、ルスト。席あそこだから座ろう?」
「……うん」
モルドがルストを座らせたのを見て、その2つ隣に座る。
「サンラク、ジョギングは中止?」
「あと鉛筆だけなんだろ?なら待ってた方がいいだろ」
……気付いたら玲さんが隣にいるんだけど、さっき座ってた席そこだったっけ?
……
…………
………………
「来ないな」
「来ないね」
ルストが眠気に耐えきれずモルドに膝枕されてるんだが、これ話題に触れていいやつ?
「メイクという話でしたが……大分気合い入れてますね……」
……
…………
………………
「みんなお待たせ~!」
「すごい待っ……た……よ」
「流石の重役出……き……ん」
「……遅い」
ルストはさっきまで寝てたから言うほど待ってないだろ。
いやそんなことはどうでもいい。
ペンシルゴンが来たのを見計らったように、次々と仲居さんが朝食を運んでくる。
いや、それはともかく、だ。
料理も運び終わり、仲居さんか礼をして部屋を出ていく。
「ペンシルゴンお前……その格好はどうしたんだ?」
「どう、って、これから1日出歩くんだよ?スーパートップモデルは変装もお手のもの、ってね」
「せめて食事のときは帽子は外すもんじゃない?」
「そういうカッツオくんは、変装の準備してるんだろうね?カッツオくんがいるせいで私までバレたら、どうなるか分かってるよね?」
「ナチュラルに脅してきたよこの魔王」
「そうだぞカッツオ、絶対に身バレはするなよ」
「えっ?そこで手のひら返されるの?!」
仕方ないだろ。
「まあカッツオ君の変装は後でチェックするとして、皆さんお手を拝借」
「『手を合わせて』でいいだろ」
「「「「いただきます」」」」
◇◇◇
「はーい、みんな乗ってねー」
「このバスどうしたんだよ」
「旅館の送迎バスだよ。思い切って予約しちゃった」
「……昨日もこれで良かったんじゃ」
「過ぎたことは気にしない、気にしなーい」
まあ、駅から旅館まではほとんど距離無かったし別にいいけどな。
「どこにする向かうんですか?」
「んー、秘密、かな?」
釈然としないが、まあ乗らないことには始まらないな。
先にもう何人か乗ったけど、空いてるのは
・ペンシルゴンの隣――座ったが最後、弄られるな。無しだ。
・どちらも空いてる席――はルストとモルドが今座ったな。
・京極の隣――天誅されかねん。ゲームなら負ける気がしないが、大会優勝するレベルだっけ?というかバスの中で天誅するな。
……お、玲さんの隣の席が空いてるな。ここにするか。
「よろしく」
「は、はい。よろしく、お願いしますね」
ということは秋津茜の隣にカッツオか。いやしかし……
「その変装はないだろ」
ジャケットに野球帽とサングラス。なんともダサいというか不審者ルックというか。
「バレない、という点ではギリギリ、アリだけどねぇ」
出発します、という運転手の声に少なからず姿勢を正す。
「あ、富士山ですよ」
と、玲さんに言われて窓の外を見れば……うん。富士山だ。流石に間に県1つ以上挟んでるから小さいが、確かに見える。
「リニアからじゃ見れなかったから新鮮だな」
「ですね」
「小さいけど雑木林もあるな。母さんとか好きそうだ」
「自然がお好きなんですか?」
「自然というか、虫が大好きなんだ」
「お父様は確か釣り好きでしたっけ」
「そうそう。玲さん家のおじいさんと釣り仲間だとは思わなかったけど」
「以外なところに、縁ってあるものですね」
言われてみれば?
なんか母さんも海外に採集行くときは結構大所帯らしいし、案外名前出したら知り合い出てくるのかもな。
瑠美も読者モデル始めたから、それなりに顔が売れてそうだし……
「スモール・ワールドか」
「知人の知人のさらに知人を……と辿れば世界中の誰にでも行き着ける……でしたっけ」
「それそれ。家族の知人だけでも結構いそうだなって」
「そうですね」
「それ言ったら私たち全員ゲームで知り合った仲じゃない」
うお、鉛筆お前聞いてたのか。
「時代を彩るスーパーモデル天音永遠と知り合いなんて光栄だと思わない?」
リアルを知らなきゃそうかもしれないな。
「そういえばお前、瑠美には本性見せてんの?」
「妹さん……ですか?」
「そうそう。天音永遠のファンでさ。読モもやり始めたんだわ」
「現場で会うたびそれはもうすごいよ。それでもメイク落とさないよう、涙だけは堪えるのは流石サンラクの妹だね」
訂正。リアルを知ったとしてもわが妹は幻滅しない気がしてきた。
「……」
「ん?レイ氏どうかした?」
「いえ、妹さんにも会ってみたいな、と」
……いつでもどうぞ?
◇◇◇
「そろそろ着くから片付けてー」
鉛筆の号令に、いつの間にか始まっていた大富豪は終わりを告げる。
こういうゲームでの秋津茜は本当に強いな。外道が読み会いと煽り合いしてる横で、すんなりと大富豪を維持していた。
「……で、ここどこ?」
「由緒あるレジャーランド、わくわくめるらんど、だよ」
「なんて?」
「なんだその旧石器時代みたいな名前」
「これでも昔は有名なレジャーランドだったらしいんだけどねぇ。ほら、フルダイブVRとか、さ?」
まあ俺たちはそもそもフルダイブVRで知り合ったゲーム仲間だ。知らないのが当然っちゃ当然なんだが。
「で、今はARとMRメインでやってるってワケ。昔ながらの絶叫マシンもあるけど、まあフルダイブの方が
「……老舗って割には、人が少ない」
言われてみれば、周りにいるのは俺達以外だと数人ポツポツというレベル。
「これなら変装要らなかったんじゃないのか?」
「空いてるであろう日を狙って予定組んだからね。あとカッツオくんはともかく、私が身バレしたらファンでここが埋めつくされるのが視えてるのでダメで~す」
お前の
「ソレはともかく、行きたい場所ある人は挙手!」
「何があるかも分からないんだが?」
「いるよねー。こういう人」
「んっんー?もしかしてキミタチ、私の後ろのランドマップが見えてないのかな?」
「冗談だよ、そうだな……」
色々あるな。というか広い。有名だったってのもあながち間違いではないのかもしれない。
「……ココ」
意外にも、最初に声を上げたのはルストだった。
まあ、ルストのことだしロボゲーでも見つけたんだろ……ARのロホゲーってなに?
「ルストのやつ、一体どんなロボゲーを……あれ?」
「どうしたの?」
「これ、屑癌じゃん」
へー、こういうところに置いてあるのか。
「スクラップ・ガンマン、ね」
「JGEでデモしてたガンシューだっけ?」
「あ、あの、みなさん」
「ん?どうかした?モルド」
「もうルスト走ってっちゃいました。すみません」
うわほんとだ居なくなってる。
「よーし、同士諸君!追いかけるよー!」
「同士呼びはやめない?」
「まあ、ゲーム前の肩慣らしにゃ丁度いいだろ」
よーい、ドン!
あっ、ペンシルゴンお前故意にフライングしただろ今!
◇◇◇
「いやー、なんていうか、アレだね」
「だな」
「同感」
「「「秋津茜(ちゃん)速すぎ」」」
途中からルスト関係なくレースに発展し、若干グロッキー気味な俺達と対象的に、一位をかっさらった上でまだ元気全開の秋津茜を見ていると、もう少し運動した方がいいのかなという気がしてくる。
「まあ、何はともあれ、やろっか。スクラップ・ガンマン」
「あー、俺もう少し休憩したい」
「では私も……」
玲氏はなんか余裕ありそうだけど休むの?まあいいけど。
「じゃあ、トップバッター、秋津茜ちゃんと京極ちゃん、いっといで」
「はいっ!頑張ってきます!」
「龍宮院流を舐めないでもらおう」
因みにルストは全力疾走しすぎて今モルドに膝枕されている。ありゃ当分ダメだな。
「ペンシルゴンさん!プレイ中です!」
「あー。まあ空いてるとは言え、先客がいたかー。じゃあ、終わるまで待とうか」
「いえ!隣のルームは空いてるのでそっち行きます!」
「そう、頑張って~」
「はいっ!」
ほー。なるほど。ガラス越しにMRが見えるのとは別に、プレイヤー目線のAR映像も画面に出してくれるのか。
「これ、見ているだけでも楽しそうですね」
「ルスト、始まったけど見る?」
「……もう少し……休む」
ガチャリ
お。終わったらしいな。
俺もそろそろ回復できたし、玲氏とリベンジと洒落込もうじゃないか。
「あれ?サンラク?」
ん?
「こんなとこにどうしたのさ」
「……失礼ですが、どちら様で?」
出てきたのはスーツ姿――流石に上着とネクタイは外している――の男性……いやまて?今スコア見えたけどランクSS?こいつなにもんだよ。
「なに?サンラクくんの知り合い?」
「その声は……変装でよく分からないけど、もしかしてジャイアントキリング?」
こいつ、ペンシルゴンとも知り合いか。声で分かるってことは……声?
「いや、どっかで聞いたことある気が……」
「ああ、リアルだと会うの初めてだったっけ?僕だよ。ヤシロバード」
ストン、と全てが腑に落ちる音がした。
「……社長が自社製品でランキング独占すんのはどうかと思うぞ」
「ああ、これは新モジュールのテストだからオンラインには載らないから安心してよ」
つまりプライベートでやってる時のは載ってる、と。
変態銃マニアがよ。
「ん?もしかして隣にいるの、
「かっ、かのっ、のっ……のっ……」
あ、バグった。
「えーと?なんかやっちゃった」
「今日は
「そういえば身内ギルドだったね君たち」
そう言って
「君たちがルストとモルドかな?
「ちょっと疲れてまして……」
「後は多分シャンフロでもあったことな……いや、京極はあるな。彼女は?」
「隣でプレイ中だよ。秋津茜も一緒」
「ああ!竜の子ね!ってことは……」
「こちらサイガ-0氏」
「
「あ、はい」
挨拶も終わったし、という雰囲気で去ろうとしているが、ヤシロバード、1人忘れてるぞ。
「僕そこまで影薄い?」
「まあユニーク自発してないからねぇ……」
「あぁ、ごめんよ。こちらは……?」
ちょっと待って、と頭をひねっている。
「あ、分かった!君がオイカッツオだね?ウェザエモンの時にアナウンスのあった!」
「どうぞお見知りおきを」
お、カッツオの声、あれちょっと機嫌悪いな。
「ん?待って?その声……」
どうしたヤシロバード。カッツオの顔なんか、見つ……め……あ、
「……魚臣慧選手?爆薬分隊の?」
バレた。
その後。
「え、本当に魚臣選手?いや、これは光栄だ。ご活躍は
「どうも」
「忘れていたお詫びと言ってはなんだけど、今度大会を開こうと思っていてね。ゲスト出演してみないかい?」
「なんか流れおかしくない?僕に利点無くない?」
「サンラクは
「む」
「やっぱりフルダイブVRのプロにARゲームは難し過ぎるかな。悪かったね無理を言って」
「おーおー、そこまで言うならやってやろうじゃん?」
「えっ、ほんとかい?!ちなみにこれ協力プレイモードもあって……」