神聖ミリシアル帝国海軍物語   作:凡人作者

1 / 17
第一話 世界最強の艦隊

神聖ミリシアル帝国海軍

戦艦『ガラティーン』

 

マグドラ群島にある海軍基地にて、一人の士官が埠頭を歩いていた。目指す場所は、静かに佇む大型戦艦3隻。

この巨艦達が作り出す影が埠頭を黒く染め上げ、どこか陰鬱な雰囲気を作り出していた。

 

「これが、戦艦ガラティーンか。」

 

士官は一度立ち止まり、そして静かに一言呟いた。彼は見上げる戦艦へ、新しい職場への期待の目を向けていたのだった。またゆっくりと歩き出した時、下士官の一段の横を通り掛けた。下士官たちは士官に気付き、そして慌てて談笑を止めて敬礼した。彼もそれに気付いて、微笑みながら敬礼を返す。

 

「それにしても、魔導艦って表面が綺麗だなぁ。」

 

殆ど継ぎ目が見えない舷側は、神聖ミリシアル帝国の高い溶接技術を物語っていた。そしてチラチラと見える金色の粒が、この戦艦の装甲に使用されている素材を主張していた。

 

「流石ゴールド級、純金の大奮発だな。」

 

神聖ミリシアル帝国海軍、主力魔導戦艦ゴールド級。全長214.6mにも及ぶこの戦艦は、度重なる改良を受け初期型とは全く異なる戦闘力を獲得し、現在も建造が行われている。

 

「これが、38.1cm連装砲………………。」

 

この戦艦の最大の特徴は、世界最強の打撃力を持つ霊式38.1cm魔導砲を装備している事だろう。射程18.35KM(34km)を誇る大蛇は、世界各国に畏怖の念を持たれている傑作主砲だ。

 

「あ、精霊だ。」

 

内部で遊んでいる精霊が、砲身から見え隠れする。この戦艦の主砲が何故『霊式』と呼ばれているのか、それは砲弾が精霊の加護を受けて発射されるからである。

 

「アーサー?貴方アーサーじゃない?」

 

つい精霊に目を奪われて居たが、横から女性に声を掛けられ、視線を移した。そこには金髪碧眼で、エルフ特有の長い耳の女性が居た。彼女の名はエミリー・コリンズ、海軍大尉でガラティーンのレーダー官を勤めている。

 

「やっぱりアーサーだ!貴方もこの艦に配属されたのね!!」

 

甲高い声を響かせながら、エミリーは彼に小走りで近寄った。嬉しさで破顔し、元気の良さが彼女から溢れている。

 

「あぁ、久し振りだねエミリー。トーマスは元気か?」

 

「えぇ勿論!!相変わらずバカなことやってるわ。」

 

彼女から親友の息災を聞き、彼アーサー・カニンガムはとても嬉しく思った。そして親友がバカをやっているとは、相変わらず面白い奴だとも感じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「本日中央歴1642年4月22日、アーサー・カニンガム海軍大尉の着任を認める。ようこそガラティーンへ、全乗組員を代表して歓迎するよ。」

 

そう言ってガラティーン艦長のバーソロミュー・ワイアット海軍大佐は握手を求め、アーサーはそれに答えた。

 

「第零魔導艦隊の名に恥じぬよう、決して驕る事無く、粉骨砕身努力致します。」

 

「うむ、貴官の今後の活躍に期待するよ。」

 

アーサーの抱負を、バーソロミューは微笑んで激励した。そして懐かしむように、彼にゆっくりと昔話を語り掛けた。

 

「五年ぶりだな、相変わらず君は生き生きとして頼もしい物だ。海軍士官学院の頃と変わらないではないか。」

 

「あの時に艦長には、士官のなんたるかを叩き込まれましたよ。鬼の教官ワイアットとは、トーマスが名付けた渾名でしたね。」

 

鬼の教官か、アイツめ後でトイレ掃除をさせてやろうかとバーソロミューは楽しそうに呟いた。やっぱり容赦ない鬼教官かと、アーサーは口には出さず苦笑する。そして軽く雑談を交わし会い、本題へと切り出した。バーソロミューは先程の好中年ぶりから一転、鷹の目のように目を細め、厳しい軍人の顔となる。アーサーも知らず知らずの内に気を引き締める。

 

「さて本題に入る、我々は明日出港する。理由は解るな?」

 

「先進11ヵ国会議ですね。」

 

「そうだ。」

 

先進11ヵ国会議、それは二年に一回開催される国際会議の事だ。各文明国の有力国、すなわち列強国や地方の大国が呼ばれる名誉ある会議である。第零式魔導艦隊は、この会議が開催される時期にこのマグドラ群島沖で訓練に勤しむのである。この時期特有の霧が薄い日ではあるが。

 

「今回はイレギュラーが多い、最大限の注意を払った訓練する事となるだろうな。」

 

「日本国と、グラ・バルカス帝国ですね。」

 

「うむ。この二か国は相当ヤバイ。方や列強のパーパルディアを下し、方やレイフォルを征服した。実力は未知数と言った所だ。」

 

日本国とグラ・バルカス帝国は、ほんの三年でいきなり出現した新興国家である。技術力は相当な物で、ほぼ無傷で列強に勝利した事から、第一文明圏相当の科学力が有ると予想されて居るのだ。それを力強く、そして淡々と語るバーソロミューからは、殺気めいた雰囲気が出ていた。それを見たアーサーは、事の重大さを知る事となる。

 

「海軍上層部では楽観視されているが、もし戦争となれば中々厄介な事になるぞ。気を引き締めたまえよ?」

 

「ハッ!了解しました!!」

 

そしてアーサーは艦長室を退室し、戦争になればどうなるのだろうか?もしかすると戦死するかも知れないと考えるのであった。

 

 

 

 

 

中央歴1642年4月23日

 

「いやぁ~、今日は絶好の訓練日和ですなぁ。艦長?」

 

何処か軽薄気味な言葉が、バーソロミューに向けられた。発言主の名前はトーマス・ベイカー海軍大尉、ガラティーンの航海士官を勤める男である。刈り上げた茶髪が制帽の中に隠されており、タレ目の茶色い目が彼のトレードマークである。

 

「そうだな大尉。霧が薄く立ち込めては居るが、昼になれば晴れるだろうな。」

 

「そうなれば早速砲術訓練ですな、アーサー初の仕事となるでしょうな。」

 

披露されるであろう親友の腕前に、トーマスは期待を寄せていた。海軍次席のエリート様はどう活躍してくれるのか、先に第零艦隊に所属していた彼はワクワクしていたのだった。

 

「ま、初日でヘマをやらかしたトーマスよりかは、上手くやるでしょうね。」

 

「おっと?初日で緊張しまくったエルフさんが何か言っとりますな?」

 

「なによぉ?この減らず口!!」

 

「自己紹介か?」

 

そしてエミリーが発端となり、二人の口喧嘩が艦橋で起こった。ガラティーン配属されて以来のこの喧嘩に、艦橋スタッフは慣れてしまった。そして慣れによって余裕が生まれたのか、古参スタッフは彼等を微笑ましく見つめるのであった。

 

「止めんか、夫婦喧嘩はそこまでだぞ。」

 

「ハァイィ?!夫婦ぅ?コイツとですかぁ?!」

 

口喧嘩に苦言を漏らしたのは、ガラティーン副長のパーシヴァル・レッドフォード海軍中佐であった。鬱陶しそうに彼が放った言葉がエミリーを刺激し、さらにパーシヴァルをも巻き込んだ口喧嘩に発展する。これまた何時も通りと、艦橋スタッフはまた思うのであった。

 

「たくもぉ~…………………、ん?」

 

口喧嘩に疲れたエミリーがレーダースクリーンへ目を向けると、先程までになかった光点が浮き上がっていた。方位は9時、距離にして32.4NM(約60km)である。

ミリシアル帝国が運用する魔力探知レーダーは、文字通り敵艦船や敵航空機に乗り込む人間の魔力を探知して、搭乗員数に応じて光点が大きくなったり小さくなったりするレーダーだ。

戦艦クラスの光点が2、重巡クラスの光点が3、魔導船(軽巡)クラスの光点が2、小型艦(駆逐艦)クラスの光点が5の12隻。光点の中にゴールド級クラスの光点が混じっているが、付近にミリシアル帝国の艦隊が通行する予定は無い。

彼女は国籍不明艦隊を探知した事を、慌ててレーダー長の少佐へ報告した。

 

「対水上レーダーに感!!9時の方向より艦影が接近。速力27ノット、距離32.4NM。艦艇数12隻です!!」

 

突然の報告により、コーヒーを飲んでいた少佐はカップをデスクに置いた。そしてエミリーに確認を取る。

 

「何、27ノットだと?ムーの艦艇では出せない速力だぞ、間違い無いのか?」

 

「間違いありません、たった今速力29ノットに上昇しました。」

 

一体どういう事だ?艦橋スタッフは皆困惑した。これはムーの艦艇で無いのは明らかだ、彼等の主力戦艦の『ラ・カサミ』級にそんな能力は無いからだ。するとエミリーの隣に座る同僚の魔導通信士官、クレア・マッケンジー海軍大尉が血相を変えて報告を上げた。

 

「旗艦コールブランドより通信!『グラ・バルカス帝国艦隊接近、全艦第1種戦闘配置、これは訓練ではない!!』」

 

それを受けてバーソロミューは、腹の底から声を上げた。彼のダミ声が、艦橋スタッフに緊張を走らせたるのだ。

 

「総員第1種戦闘配置、これは演習にあらず、これは演習にあらず!!」

 

「対水上戦闘ヨーイ!!繰り返す、対水上戦闘ヨーイ!!」

 

艦長の命令を、副長が、航海長が、砲術長が復唱し、末梢神経たる全乗組員に伝わった。それを受けて各乗組員は日頃の猛訓練の賜物か、ほんの数分で戦闘配置を済ませるのだった。

 

「副長、どう思うかね?」

 

「時刻的には、まだ先進国11ヵ国会議は開催中です。流石にこの時期に戦闘行動を取るのは、グラ・バルカス帝国の心象をさらに悪くするだけです。何しろレイフォル首都に艦砲射撃を仕掛けた上に、イルネティアを占領した後ですから。」

 

うむ、最もだとバーソロミューはパーシヴァルの意見に頷き、そして続けた。

 

「だがそれを狙った先制攻撃だとしたらどうするかね?」

 

「まさに命知らずと言った所ですな。我々ミリシアル帝国は世界最強であり、世界の盟主であります。それに奇襲を仕掛けるとは世界各国に喧嘩を売るのも同意義、彼等の行動は蛮勇でしかありません。」

 

まぁそうなるなとバーソロミューは会話を切り、双眼鏡を覗き込んでグラ・バルカス帝国艦隊を見つめた。敵艦隊からは黒煙がもうもうと立ち込めている。ムーと同じように、石油燃料を激しく燃焼させた時にできる黒煙だ。

我がミリシアルは液状魔石を燃焼させているために煙が全く出ない、出るのは魔素だけである。故にミリシアル帝国と列強二位のムーには大きな壁が有ると言っても良い。敵の戦艦は中々に大型だが、機関の能力は我々に劣るのだろう、よくて互角程度か。そうバーソロミューは、グラ・バルカス帝国のオリオン級を評価した。

 

「後方より機影接近、この反応はジグラントIIです。」

 

「海軍基地航空隊が到着したようだな…………。さて、何処まで活躍してくれるかねぇ…………。」

 

エミリーからの報告に、トーマスは呟いた。何処まで活躍するかと言ったが、彼自身はそこまで海軍航空隊に期待を抱いては居なかった。何故ならミリシアル帝国では大艦巨砲主義が横行しており、海軍飛行隊は何時も割りを食っていたのだ。確かに、彼等が運用する520kg爆弾では、装甲強化した戦艦の主要部(バイタルパート)は貫通出来ない。もし仮に装甲強化前に貫通出来たとしても、機関室や弾薬庫に直撃しなければ致命傷にもならないのだ。これは地球でも言える事であり、戦艦を沈める事が出来るのは、魚雷を持ってして水線下部に打撃を与えなければいけない。魚雷を持っていないミリシアル帝国が航空機が戦艦を撃沈出来ないと言うのも、あながち間違いでは無いのである。

 

そして、ミリシアル海軍航空隊への対空砲火が、マグドラ沖海戦の始まりを告げたのであった。




色々とディスられてるけど、ゴールド級戦艦ってそれなりに標準的なスペックなんですよ。
選りすぐりの精鋭を集めたって言われてますし、乗組員もそれなりに有能な奴や訓練を施された兵士とか居そうなんですけどね……………。


マグドラ群島より飛び立つ空の騎士達。世界最強国家の航空隊と言う栄光を背にして、520kgの槍を携えて飛び込む彼らに127mmの矢が降り注ぐ。


次回、第5爆撃戦闘団。お楽しみに!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。