何気に粘り強く、一定ペースでやってるのが自分でも驚きですよ…………。
神聖ミリシアル帝国海軍
南洋艦隊旗艦『ベガルタ』
『機関室より艦橋、機関室より艦橋。応答してください!!機関室より艦橋!!』
「あ、あぁ…………。こちら艦橋、何があった?」
艦内通信機から流れる機関室からのコールに、一人の男が立ち上がって周りを確認した。トーマスは艦内通信機を見つけて受話器を取り、機関室が何か有ったのかを聞き出した。
『いえ、先程大きな振動が有ったので、何事かと思いまして……………。』
「こちらは以上無しだ、引き続き職務に励んでくれ。」
トーマスは機関室からの通信を適当に返答し、未だに倒れている自分の同僚を起こし出した。他にも艦橋で倒れていた幹部達が、頭を押さえながら起き上がる。
「あいっ、たたた……………。酷い目にあったわ…………。」
「おうそうか、奇遇だな。俺も酷い目にあったぜ。」
エミリーはトーマスを冷たく睨み静かにため息を吐いた、彼に起こされた事が不服だったらしい。彼女の様子を見て、トーマスは肩を竦めるだけだったが。
「し、司令!!大丈夫ですか、司令!!」
急に悲鳴が艦橋全ての者達の耳に入り、そして全員が慌てた。艦隊を指揮していた長官は背中に多数のガラス片が刺さり、意識不明の重体に陥っていたのだ。トーマスは急いで艦内通信機で衛生兵を呼び出し、エミリーは長官に応急手当を施した。
一連の出来事により、南洋艦隊の指揮は戦艦戦隊の司令へと移った。旗艦は二番艦へ変更し、今度は『ベガルタ』が二番艦となる。
「第二文明圏連合竜騎士団、グラ・バルカス帝国艦隊を捕捉、我が連合艦隊の北方64.8NM(120km)です。交戦に入る模様!!」
「…………たぶん全滅するだろうなぁ、それ。」
トーマスはもう疲労が溜まりすぎて、考えるのを止めたくなった。どうせやっても無駄だと言うのに、一体何をどうしろと言うのだ。壊滅する事も知らずに攻撃するだろう竜騎士達へ、ただ達観しながら同情した。せめてその死が無駄にならなければ良いなぁと、失礼ながらトーマスは考えるのだった。
「ムー海軍より通信、艦隊を再編成し総旗艦を決める事を提案しているようです。」
「なんで我が艦に言うんだ………、あぁ旗艦変更を言ってなかったな。それにしてもムーはまだやる気かよ…………。」
トーマスはムー機動艦隊へ向けて呆れた声を上げた。そりゃあこの海戦の意義は、表向きは第二文明圏周囲の制海権確保であり、第二文明圏盟主であるムーがムキになるのも解らなくもない。
ただ、同じ機械文明国なんだから、もう少し頭を冷やせとも思った。おたくの自慢の『マリン』は敵の戦闘機に手も足も出なかったんだぞ、そんなのに勝てると思っているのか……………。
数分後
「第二文明圏連合竜騎士団の通信途絶、全滅したようです。」
「あぁ、やっぱりな。」
やっぱりなしか言ってないなと、トーマスは自分に対しても色々と呆れ果てていた。結局再度グラ・バルカス艦隊へ攻撃する事が決定された、彼自信は猛烈に反対したのだが、ムーとミリシアルの体制を保つために撤退は却下された。もう乾いた笑いをするしかない。
「そして総旗艦はムーの『ラ・エルド』へ決定か…………。」
最も戦力を保持していたムー第2機動艦隊が、世界連合艦隊の主戦力となっていた。神聖ミリシアル帝国を差し置いてである。知らず知らずの内に、自分の国は落ちぶれたんじゃないかとトーマスは考える程、自分でも驚くぐらいに彼は大変ネガティブになっていた。
「なーに似合わない顔してんのよ、アンタ。」
「こんな状況下だ、俺も色々と考えたりするのさ。」
「ふんっ、アンタが考え事なんてホンッとうに似合わない。」
そう今までと変わり無いように振る舞うエミリーではあったが、誰が見ても解るほどに彼女の顔は真っ青になっていた。明らかに強がりなのだが、そんな事を口に出せばややこしくなるので誰も指摘しなかった。
そう言えばコイツも、あのミリシアル最初の敗北であるカルトアルパスの戦いを経験してたんだったなぁ………と、トーマスは懐かしいように感じた。もう色々と吹っ切れてしまったのだろう。
「魔力探知レーダーに感!!距離21NM(37km)より敵艦隊接近、数42隻!!」
「おいおい冗談じゃねえよ、42隻だと?」
レーダー監視員は震える声で敵の編成を報告する、ミスリル級クラス(ヘラクレス級戦艦)が1隻、重巡洋装甲艦クラス(重巡洋艦)が4隻、魔砲船クラス(軽巡洋艦)が13隻、小型艦クラス(駆逐艦)が24隻の計42隻。数だけみれば未だに360隻以上が浮いている世界連合艦隊が圧勝に見えるだろう。
ただしトーマスはそんな楽観的な想像をすぐに捨てた、大幅な技術格差的にミリシアル8隻VSグラ・バルカス42隻の方が正しいに決まっている。戦力差は5倍、3倍で圧倒できると言われているから絶望的と言わざるを得ない。
「私達以外の戦力、案外当てにならないよね?」
「言うなよ、本当にそれだけは言うなよ。」
この時の世界連合艦隊の編成は、ミリシアルが戦艦2、重巡1、軽巡1、小型艦4。アガルタ法国が戦列艦50、ギリスエイラ公国が戦列艦72、トルキア王国が魔法船団60、マギカライヒ共同体が蒸気船20、ニグラート連合が竜母機動艦隊22、パミール王国が砲艦84。
そしてムー海軍は、空母3、戦艦3、装甲巡洋艦6、巡洋艦12、軽巡16と計40隻と言う戦力を保持していた。
しかし大破した艦艇や、空母を離脱させる為に戦力を割いたので、実数戦力はここで記入した物よりも遥かに小さい。現にニグラート連合なんて22隻が10隻に減ったし、ムーの最終的な戦力は戦艦3、装甲巡洋艦6、巡洋艦6、軽巡洋8の23隻にまで下がった。
なお中央法国は全滅した、たった二隻の戦列艦しか送ってないから当たり前である。
「ムー旗艦『ラ・エルド』より通信、全艦天祐を確信して突撃、敵艦隊を殲滅せよ!!」
「ケッ!もう世界の盟主と英雄気取りかよ。なんともお気楽な物で…………。」
実際はムー機動艦隊司令長官レイダー中将は、勝てるだとか英雄になるとかとはちっとも思って居なかった。ただ自分の恐怖を、勇ましい号令でかき消そうとしていただけである。ただ、それだけである………………。
そして両艦隊は接敵、戦闘の火蓋は射程に優れるグラ・バルカス帝国海軍第8打撃群《STRIKE GROUP 8》のヘラクレス級戦艦が切った。彼女が握る41cm砲と言う大剣は、38.4kmと言うオリオン級戦艦の35.6cm砲を上回る射程を持っている。勿論、マーキュリー級戦艦の34.3cm砲を上回るのは言うまでもない。
「敵戦艦の標的、旗艦の『フラガラッハ』です!!」
「よし!!本艦はそのまま敵戦艦を叩くぞ、驚異目標を早々に撃破!!」
世界連合艦隊は唯一の優位点、グラ・バルカスに対抗できる二隻の魔導戦艦で敵旗艦を早々に叩く事を目標としていた。各国の艦隊の役割は、ムー、マギカライヒ、パミールの艦隊は18ノットの速力で第8打撃群の側面を突つき、ミリシアル海軍は25ノットの速力で遊撃、その他の戦列艦達は囮として行動であった。
「囮の囮とか、一体なんなんだろうな?」
「それ、絶対に公の場で言うんじゃないよ、国交崩れかねないから。」
「もう既に崩れている様な気がするんだがなぁ…………。」
当然グラ・バルカス側は世界連合艦隊の思惑を予期していた。重巡2隻、軽巡6隻、駆逐艦12隻へ艦隊を分離し、グラ・バルカスから見て二番目に驚異度が高いムー艦隊へ差し向けたのだった。
その様子を見てミリシアルはムー艦隊が大打撃を受ける事を予想したが、残念ながら指を咥えて見るだけしか出来なかった。自分がやることで必死なのである。
「みすみすやられるのを、ただ黙って見てるだけとは。俺たちって本当に情けねぇなぁ…………。」
「仕方もあるまい、今の私達は自分の身を守るので必死なのだ。」
レルジェンの返答に、ただトーマスは腹立たしくなった。レルジェンの物言いに対してではない、自分の無力さに対してである。こう少し前はボロクソに貶していた世界連合艦隊の面々だが、流石に死ぬとわかって居るのを見て、それも目の前で何も出来ないのはどうなのかと。
何が世界最強だ、何が世界の盟主だ、どんな二つ名も意味が無いじゃないか。呆れるしかない、勇ましい言葉が泣くな。
自虐的に考える事しかできない、溜め息をつくトーマス。
「なにボサっとしてるのよ。悩むのは後にして自分の仕事ぐらいちゃんとしなさいよ。」
「お前は仕事に一途で本当に羨ましいな、何にも考えてないんだから。」
その返答を聞いて、彼女の顔は真っ赤になり始めた。プルプルと少し震えている、相当頭に来たようだ。これには艦長であり、色々と修羅場を潜ったレルジェンも驚いた。そして彼は頭を抱える、あぁ余計な事を言うんじゃないと…………。
「あんたいい加減にしなさいよ!!そうやってウジウジウジウジ……………」
艦橋スタッフは心の中で溜め息を付いた、あぁもう手に終えないや。
どっちが悪いとか悪くないとは言えないが、ケンカはこの戦いが終わってからにしてくれよ、まぁ終わった後にどうなってるかは解らないが。
とこの様に少し冷めたように感じていたが、彼等彼女等なりにも思う所があったので、最後の仕事として頑張るかと心を切り替えるのだった。
「あぁ解った解った、ちゃんとやるさ、うん。」
「本当に解ってるんでしょうね?えぇ?!」
そしてまた、ケンカは海戦が終わってからにしてくれと、二人にうんざりするのだった。
神聖ミリシアル帝国海軍
第22巡洋艦戦隊
「敵艦、発砲!!」
「総員衝撃に備えぇ!!」
南洋艦隊に所属する第22巡洋艦戦隊は、とてつもない危機に陥っていた。敵の数が多い、ただその言葉に尽きる。
元々第22巡洋艦戦隊は重巡2、軽巡2の編成なのだが、先程の航空攻撃で1隻づつ撃沈された。もちろんこの戦隊にもカルトアルパス戦の生き残りは居たのだが、20機にも及ぶ雷撃機の魚雷攻撃なぞ回避できる筈がなかった。
「敵は俺達が一発撃つごとに十発撃ち返してくるぞ!!」
「タコ殴りだ、一方的じゃないか!!」
乗組員全員が悲鳴を上げる、相手は重巡2、軽巡7を伴って攻撃してくるのだ。戦力差は4倍を超えている、絶望的な砲撃戦が繰り広げられた。
「敵艦隊より航跡発生、『水中攻撃』です!!」
「『フラガラッハ』へ通信!!『水中攻撃』回避の為に一時的に戦列を離れる!!」
巡洋艦戦隊の司令である少将は、旗艦からの許可を貰う前に独自に回避運動を取った。最早四の五を言っている暇など無いのだ、南洋艦隊の指揮系統は壊滅している。
「て、敵『水中攻撃』50を超えます、回避不能です!!」
「く、クソッタレェェェ!!」
グラ・バルカスの重巡洋艦は高雄型、軽巡洋艦は15cm砲最上型に相当する。重巡洋艦は方舷へ8門の魚雷を発射でき、軽巡洋艦は6門の魚雷を発射できる。
グラ・バルカス巡洋艦戦隊の統制雷撃は戦艦をも撃沈するほどの強力な物、ユグド世界のケイン神王国が恐れた攻撃なのだ。
戦隊司令の絶叫は、そのままミリシアル巡洋艦戦隊の断末魔へと変わった。十本以上の魚雷が巡洋艦を襲う、オーバーキルと言っても良い。
戦隊は三個以上に別れ、粉々になった巡洋艦は乗組員全員を飲み込んで沈没した。一瞬にして二千名近くの命が消えてなくなる、南洋艦隊VS第8打撃群の初戦は、巡洋艦2隻撃沈と言う凄まじい物であった。
数々の思想が交錯し、世界連合とグラ・バルカスの戦いは続く。幸先の悪い戦闘は、世界連合艦隊不利のまま続く。
数多の凶報が轟き、世界連合艦隊は絶望する。
次回、激戦。お楽しみに!!