神聖ミリシアル帝国海軍物語   作:凡人作者

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パル・キマイラの活躍を楽しみにしていた方々、大変申し訳ない。第8打撃群と世界連合艦隊の戦いを描いたら、描く暇が無くなったので。また次回に。


第十六話 激戦

神聖ミリシアル帝国海軍

南洋艦隊 戦艦『ベガルタ』

 

「だ、第22巡洋艦戦隊が全滅した……………?」

 

「おいおい嘘だろ、ありゃ生存者なんて居やしねぇぞ………。」

 

第22巡洋艦戦隊が酷い沈み方をしたのを、南洋艦隊全ての乗組員が目撃した。船体がコナゴナになって、数秒もせずに沈んだ。誰一人海面に浮かび上がらず、一切の妥協なく全員死んだ。次は我が身ではないかと、皆が震える。

 

「敵巡洋艦部隊、本艦に近付いて来ます!!」

 

「応戦!!副砲、主砲全門敵巡洋艦へ指向せよ、敵戦艦への攻撃を中止する!!」

 

『フラガラッハ』を攻撃している戦艦を撃沈し、少しでも我が連合艦隊が優位に立つ作戦が破綻した。大体無茶に無茶を重ねた作戦だったのだ、これがもしナンバーズフリートか南洋艦隊全力だったらまだ勝機はあった。

しかし現実は非情、今タラレバを話しても無駄である。戦局は好転しない。

 

「願わくば『フラガラッハ』が敵戦艦を仕留めてくれれば良いのだが…………、それは賭けに近いな。」

 

レルジェンは静かに今の状態を冷静に見て呟く。『フラガラッハ』は未だに継戦能力を保持して戦艦を攻撃しているが、彼女の周りで吹き荒れる水柱は38.1cmクラスの大物である。もちろん彼女はこの状態でも敵戦艦に命中弾を時たま当てているが、双眼鏡越しで見る敵戦艦は全く効果が現れていないようにも見えた。

 

「敵巡洋艦発砲!!」

 

「怯むな!!巡洋艦程度の艦砲なんぞ、装甲強化前でも防げるぞ!!」

 

レルジェンが怯む乗組員を叱咤しつつ、冷静に応戦の命令を下す。先ずは突撃してくる敵巡洋艦を撃沈し、出鼻を挫く事を最優先にして動いた。目の前で味方艦が被害を受ければ、仕切り直しで敵は撤退すると予想したからである。

 

「弾着まで8秒、7、6、5、4、3、だんちゃーく、今!!」

 

34.3cm砲弾は前方を進む重巡の周りに着弾した、しかし命中弾が与えられない。手数で劣る『ベガルタ』にとっては、早々に命中弾を与えたいのだが、そうそう当たらないのが艦砲の定め。

 

「敵二番艦、発砲!!」

 

「クソッ、敵は艦ごとの交互に砲弾を放ってくるぞ!!」

 

一番艦が射撃し終えたら二番艦が、二番艦が射撃し終えたら三番艦がと続けて発砲するグラ・バルカス艦隊。こうした細かな戦術により、彼女等は射撃目標が重複しても射撃データが取れるように戦うのだ。豊富な資源によってしっかりと訓練できる(砲弾の在庫処分も兼ねてだが)グラ・バルカスは、月月火水木金金の訓練も相まってユグド世界で精強を誇ったのだ。

そして彼女等の20.3cm砲弾と15.5cm砲弾が『ベガルタ』に命中弾を与えたのだった。

 

「そ、測距儀に被弾しました!!」

 

「な、なんだと?!これでは射撃が……………。」

 

先程の衝撃に耐えたレルジェンは、ダメージコントロール班から驚きの報告を受けた。砲撃を行う上で最も重要な測距儀が破壊される、これは海戦で最も避けなければならない出来事である。測距儀で勤務していた砲術士も含めて、『ベガルタ』に大きな被害が襲った。

 

「砲ごとに射撃データを入手しろ、切り替え急げ!!」

 

「あぁ、『フラガラッハ』が!!」

 

「?!」

 

レルジェンは目の前を進む『フラガラッハ』に視線を向けた、するとそこにはみるみる内に近付いてくる手負いの戦艦の姿があった。それは機関損傷により速力を落とし、大きく傾斜した『フラガラッハ』である。死神達は第22巡洋艦戦隊だけでは飽きたらず、彼女の命を刈り取るつもりだったのだ。

 

「と、取り舵いっぱーい!!回避急げ!!」

 

トーマスが直ぐ様『フラガラッハ』との衝突を防ぐ為に回避運動を命令し、『ベガルタ』は『フラガラッハ』の横を通り過ぎようとした。追い抜き様にみた『フラガラッハ』の様子は凄まじい物である。艦橋はチーズの様に穴だらけとなり、ぐちゃぐちゃになった内部が外から見えた。4基の内2基の主砲がぶっ飛び、残りの2基からはまるで生気が感じられない。そして甲板には血だらけとなり、体の一部が無くなった兵士達が蠢いてまるでムシケラの様であった。

 

「『フラガラッハ』からの通信が途絶しています、恐らく通信能力が全滅したのでしょう……………。」

 

その言葉にレルジェンは天を仰ぎたくなった、次に彼がやるべき事は一つしかない。重症のまま意識不明となった司令長官、指揮能力を喪失し生きてるかも解らない戦隊司令官。ではこの南洋艦隊で一番階級が高いのはだれか?それは紛れもなく『ベガルタ』艦長であるレルジェン本人だったのだ。

 

「全艦に通達、これより指揮権は『ベガルタ』に移る、私が艦隊の指揮を取る!!」

 

「ハッ、全艦に通達します!!」

 

そしてレルジェンは言う事だけはしっかりと言い、深くため息を付いた。今更自分に何が出来ると言うんだ、もう南洋艦隊の戦力は戦艦1隻と小型艦2隻しかいない。戦闘前に4隻居た小型艦は、12隻の駆逐艦に覆い被される様にして撃沈されたのだ。2隻の小型艦、600名近くの人命が気付かれる事なくあっさりと消える。こんな無情な事があるだろうか?

 

 

 

 

 

ムー海軍

第2機動艦隊 旗艦『ラ・エルド』

 

「魔力探知レーダーより報告、敵艦隊との距離17kmです!!」

 

「主砲射撃用意!!最大射程に入り次第これを撃て!!」

 

ムー第2機動艦隊の司令官であるレイダー中将は、何とも言えない気持ちで一杯だった。敵の艦隊は巡洋艦で構成される艦隊であり、『グレードアトラスター』の様なバケモノ戦艦ではない。海軍上層部の判断は、敵艦は我が国の艦艇より少し性能が高いだけであり。我が艦隊は23隻と敵より3隻だけだが上回っており、最も小さな艦艇は軽巡洋艦なのだ。腐っても15cm砲、ミリシアルの小型艦が持つ12cm砲よりかはパンチ力が有る。

 

「もしかしたならば…………、もしかしたならば…………。何もかもが上手く、私の目論見通りに転がるのではあるまいか…………?」

 

などとレイダーは何処から毒電波を貰ったのか解らないが、フラグ満々の台詞を呟いていた。そしてフラグ通りに事は悪い方向へ進んだ。距離16kmにまで近付いた瞬間、グラ・バルカス艦隊は駆逐艦の砲も合わせて一斉攻撃を掛けてきたのである。グラ・バルカス帝国駆逐艦の砲射程は18km、これはラ・カサミ級戦艦の13.7kmよりも長いのであった。

 

「ば、バカな?!敵艦隊は我が艦隊よりも超射程で攻撃してくるのか、小型艦も含めて!!」

 

実際の所、ミリシアルの小型艦もラ・カサミ級より射程の長い艦砲を所持している。ただムーに対して情報公開をしていないだけであり、やっぱりムーはミリシアルに信頼されて無いのだろう。

 

「戦艦部隊、装甲巡洋艦部隊、発砲を開始せよ!!」

 

「し、しかし提督!!敵はまだ本艦の最大射程に入って居ません!!」

 

「こけ脅しでも良い、撃って撃って撃ちまくれぇ!!」

 

『ラ・エルド』が発砲したのと同時に、ムー海軍の戦艦と装甲巡洋艦は30.5cm連装砲を発砲した。36発の30.5cm砲弾は魔導砲とは違い、砲弾が輝いて飛翔するが。その砲弾は虚しく巡洋艦の目の前で着弾して、ただただ派手な水柱を上げるに留まった。

 

「く、くそう!!全艦最大戦速、敵艦隊へ突撃せよ!!」

 

レイダーは少しでも砲弾を届かせるべく、艦隊をグラ・バルカスへ突撃せたが。敵艦隊は34ノットのスピードと18ノットよりも遥かに高速であり、ムーが近付けば離れ、ムーが遠退けば近付くを繰り返して絶妙な距離で砲撃していた。

 

「な、なんと小癪なぁ……………!!」

 

レイダーはグラ・バルカスへ恨みをぶつけるが、彼等にとっては知ったこっちゃないと言う話である。そしてムーが苦戦している最中、グラ・バルカスは軽巡2隻と駆逐艦12隻で突撃する。後続のマギカライヒ、パミール艦艇に接近しつつ、最終的にムー第2機動艦隊へ突っ込む作戦だったのだ。

 

「巡洋艦、軽巡洋艦部隊は射撃目標変更、連合艦隊へ接近しつつある敵艦隊を攻撃せよ!!」

 

レイダーの命に従って、巡洋艦や軽巡洋艦は駆逐艦部隊へ20.3cm砲や15.2cm砲は目標を変えて撃ちまくる。しかし両砲共に最大射程は9.14km、有効射程は6km前後程度なのだ。マギカライヒやパミールなんて最大射程が3kmしかない。

6倍の最大射程と有効射程を持つ駆逐艦に一方的に撃たれ、マギカライヒとパミールの高速艦艇(ただし異世界基準)はなす統べなく全滅したのだった。

 

「じゅ、巡洋艦部隊に被害が出ています!!既に3隻が戦闘不能です!!」

 

駆逐艦部隊へ喧しいだけの攻撃を繰り返した巡洋艦、軽巡洋艦部隊は、駆逐艦達の母親であるグラ・バルカス帝国の軽巡洋艦に攻撃され。威力と射程で上回る15.5cm砲の攻撃を受けた、勿論一方的にである。

 

「敵小型艦接近!!」

 

「な、何なんだ彼らは?何故彼らは接近してくるんだ?」

 

レイダーは駆逐艦が近付いて来た理由が解らなかった。彼女等の主砲は12.7cm砲と言えど、『ラ・カサミ』級よりも射程で勝ると言うのに。もしかして舐められており、弾の無駄遣いをせぬ様に突撃して来たのか。ならば相応のお返しをしてやろうと意気込んだ時、彼女等が何をしようとしていたのかを理解した。

 

「敵小型艦から何かが射出!!此方へ航跡を引いて近付いて来ます!!」

 

「ま、まさか『魚雷』だと言うのか?!」

 

レイダーは即座に何が来たのかを理解した、それは日本から情報提供された『魚雷』と言う兵器である。まさか敵は小型艦にも『魚雷』を装備していると言うのか?!冗談だろとレイダーは言いたくなった。まぁ冗談ではなく現実なのだが。

 

「敵魚雷本艦にも来ます、あっ!『ラ・ヤシブ』が!!」

 

「あのバカ、一体何をするつもりだ?!」

 

『ラ・エルド』の後方を進んでいた装甲巡洋艦『ラ・ヤシブ』が速度を21ノットに増速し、魚雷と『ラ・エルド』に割り込んできたのである。全員が理解した、コイツ死ぬ気だと。

 

「『ラ・ヤシブ』より通信、我総員退艦、全艦隊の武運長久を祈る!!」

 

「あの、バカ野郎がぁ……………。」

 

レイダーが呟いた直後、『ラ・ヤシブ』は魚雷を六本も食らった。急速に艦が傾き、そして最後には大きな爆発を起こして撃沈したのだった。

 

「くそ、くそがぁ…………!!ただ死ぬだけ、ただ死ぬだけじゃないか?!こんな事があって良いと言うのか、どいつもこいつも皆死んじまうのか?!」

 

そして海戦は続き、太陽が傾くまで海戦は続いた。その時にはもう、世界連合艦隊は跡形も無くなっていた。ムーは23隻居た艦艇が9隻にまで撃ち減らされ、マギカライヒとパミールは全滅。他の艦隊も100隻以上が撃沈された。

 

 

 

 

 

 

神聖ミリシアル帝国海軍

南洋艦隊 旗艦『ベガルタ』

 

「最早、これまでだな。副航海長……………。」

 

「そうですなぁ、艦長。」

 

トーマスはタバコを吹かして、レルジェンの言葉を軽く返した。任務中だと言うのに彼はタバコを吸っているが、誰もそれを咎める事は無い。

 

「アンタ………ねぇ。なに………、任務中にタバコ吸ってんのよ…………。」

 

「それ以上喋るなよ………、傷が開くぜ?皆も一杯居るか?」

 

ただ一人注意したのは、レーダー長のエミリーだけである。ただしとても苦しそうに言葉を発しているとの注意書きが必要なのだが。彼女の腹には包帯が巻かれてあり、脇腹から血が滲み出ていた。至近弾によって艦橋内に破片が飛び込み、彼女を貫いたのである。

 

「はぁ、まぁ俺達は全力を尽くしましたよ。ただ、何もかもが力不足でしたがねぇ…………。」

 

トーマスは淡々と言葉を連ねる、それはこの海戦の総括と言っても良い事であった。後はもう、今頃別動隊として行動しているアーサーだけが頼りである、もう俺達は何もしないのだと……………。

 

「魔導連合艦隊より通信、今そちらに『古代兵器』を展開させる。各艦隊は空中戦艦に攻撃しないよう周知徹底されたし。以上です!!」

 

「『古代兵器』だと…………?ど、どう言う事だ?!」

 

艦橋はざわめいた、一体『古代兵器』とは何物だと言うのか?まだ我々には知らない隠し玉が、この戦場へ来ると言うのか?

その疑問は、数分後に姿を表した。260mの巨体で空に浮かび、見るもの全てに畏怖を与える戦艦がやって来たのだった。

 




世界連合艦隊はなす統べなく、グラ・バルカスに圧倒される。多数の将兵が海底に引き摺り込まれ、最早敗残兵の集まりと化した時。古の超兵器が目覚める。

次回、空の王者よ、前へ。お楽しみに!!


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