異世界初の同規模戦力がぶつかる海戦の先陣を切るのは、戦艦ではなく航空機であった。
中央歴1642年4月23日
神聖ミリシアル帝国海軍
南部戦闘機軍団 第25航空師団
第5爆弾戦闘団
『第5爆撃戦闘団、スクランブル!!繰り返す、第5爆撃戦闘団、スクランブル!!』
無機質なアナウンスが、パイロット達の宿舎に響き渡った。それを受けて彼等は飛行服に着替え、ヘルメットを被りながら『ジグラントII』のコックピットへと飛び乗った。
『ジグラントII』とは、神聖ミリシアル帝国が運用するマルチロール戦闘機である。
その性能は最大速度510km、巡航速度410kmであり、爆弾積載量は600kgまである戦闘機である。
旧式戦闘機ではあるが、それでもムーの保有するマリン(最大速度380km)、列強が保有するワイバーンロード(最大速度350km)を圧倒している。
ミリシアルが世界最強であったと自負しても仕方がないスペックを保持し、魔導戦艦と並んで世界各国に恐怖を抱かれている戦闘機なのだ。
ちなみにこの性能は、現実世界のアメリカ海軍のSBDドーントレスより高性能であり、爆弾積載量を除けばSB2Cヘルダイバーより高速である。
WW2時点では優秀な艦上爆撃機と言えるだろう、ジェット戦闘機としては落第点でしかないが。
「ヘンリー、お前はジェシカと共に俺の列機を作れ。」
第5爆撃戦闘団の第2飛行隊隊長であるオメガ・ミラー少佐は、若手のパイロット二人に指示を出した。
「「ウィルコ!!」」
二つ返事で返答した二人の名前は、片方がヘンリー・ウィルソン少尉、もう片方がジェシカ・トンプソン少尉である。
ヘンリーはエルフであるため、ロング赤毛から長い耳が見え隠れし。ジェシカもヘンリーと同じ赤毛だが、此方はエルフじゃないし、短髪なので雰囲気が違う。
二人とも20台前半の新米パイロットで、訓練もそこそこの兵士であった。
実はこの第5爆撃戦闘団は定員割れを起こしており、しかも練度は低く半ば訓練部隊と化しているのだ。
「お前ら絶対に俺の傍を離れるなよ?そして死ぬな、それが命令だ!!」
「了解、敵戦艦を沈めてやりますよ!!」
「と、取り敢えず任務を果たします!!」
全く正反対の反応が二人から帰ってき、オメガは二人の成長が楽しみになった。無論、生き残る事が最優先である。
まぁ大丈夫だろう、対空砲の命中率はとても低い、第零式魔導艦隊ですら録に当てられないのだ。大丈夫だと、オメガは自分に言い聞かせるのであった。
『第5爆撃戦闘団、離陸始め!繰り返す、離陸始め!!』
そしてオメガ達は、マグドラ群島から飛び立った。目指すは敵艦隊、航空隊の底力を見せてやると行き込んで鷲達は3000mの空を猛進するのだった。
「クソ!!、ヘンリー、ジェシカ、まだ生きてるか?!」
「こちらヘンリー機、まだ生きてます!!」
「こ、こちらジェシカ機、辛うじて。」
オメガ達第5爆撃戦闘団は、敵艦隊の対空砲火により苦戦を強いられていた。
距離14000mより40口径12.7cm連装高角砲や、駆逐艦の50口径12.7cm連装砲の対空射撃を受けており、一機、また一機とジリジリ削られていた。
そして気が付けばいつの間にか生き残っていたのは、自分を含めて20機であった。
対空砲の命中率はとても低い為、5機の損失で押さえられた。しかし前方を飛行していた戦闘団隊長のアーウィング中佐は、対空砲の直撃を受けて戦死してしまった。
「こちら代理指揮官のオメガだ、全機爆撃開始!!墜とされた味方の仇を取れ!!」
そして部下11機から了解との返答が帰った、先ず一番槍はオメガが務める。古参兵たる彼が一番目に攻撃し、後続の11機はそれを修正していって戦艦に打撃を与える。
目標はオリオン級戦艦『ペテルギウス』。狙われていると認識した彼女は、その重い図体を左へのたうつ。
「ヨーイ…………、テェ!!」
オメガ機から、願いを込めた一撃が放たれた。520kgは『ペテルギウス』へと落下して行き、そして外れて水柱が上がった。
「クソがぁ?!」
「隊長、次は俺が行きます!!」
二番目に突入したヘンリーも、オメガに続いて爆弾を投下したがこれも外れた。相変わらずの練度不足が、ここに来て響いてしまったのだ。ヘンリーはコックピットの中で激しく悔しがった。
「つ、次は私が!!」
三番目のジェシカ機は、恐怖からか通常より高い高度で投弾してしまった。しかしそれのお陰か、『ペテルギウス』の甲板に命中。薄い木製の甲板を貫き、中甲板の主装甲部分でストップして爆発した。
『ペテルギウス』からは、第零艦隊からも見える程の爆煙が上がった。
なお500kg程度の航空爆弾は、日本海軍のを参考にすると。99式50番通常爆弾が炸薬200kgで70mm、2式50番通常爆弾が炸薬56.33kgで80~120mmだったりする。
ジェシカが当てた520kg爆弾がオリオン級『ペテルギウス』の主要水平装甲を貫通できなかったのは仕方が無かったのだ。オリオン級と同じ金剛型は、水平装甲127mmなのだから。
「や、やった………………。うぎゃ?!」
「ジェシカ?!」
そしてジェシカ機の主翼部分に、25mm機銃弾が直撃。しかし幸い彼女の『ジグラントII』は、主翼から燃料が白い尾を引いているだけで撃墜には至らなかったのだった。
なお、臨時の大尉が指揮する第1飛行隊は、戦艦『プロキオン』に急降下爆撃を敢行した。結果は前弾命中せずとなり、初戦にしては散々な結果となった。
「クソッ、命中1かよ!!」
「まぁ、こんな時も有りますよ隊長。」
思わず毒づいたオメガを、ヘンリーは慰めるのであった。もっとも彼も愚痴の一つや二つは言いたくなったのではあるが。
「命中はジェシカだけか、ジェシカ流石だぞ。誇ってもいい。」
「ま、まぐれですよぉ。」
オメガからの激励に、ジェシカはまぐれだと謙遜する。卑屈に近い謙遜ではあるのだが。
しかしオメガは例えまぐれでも、ジェシカは凄いと思っていた。戦場では砲弾やら銃弾やら、爆弾やらの命中率は一桁台にまで落ちるからだ。
おまけに敵からの対空砲火を受けながらも投下し、爆弾を命中させたジェシカは光る物が有ると言えるだろう。
オメガは、この二人の新米パイロットの将来に、更に希望を抱くのだった。
神聖ミリシアル帝国海軍
戦艦『ガラティーン』
「やっぱり駄目だったかぁ……………。」
「大尉、言葉を選びたまえよ?」
「5BF-023と番号が振られているジグラントは、凄かったんですがねぇ~。」
トーマスの落胆した言葉に、パーシヴァルは注意した。言葉を選べと言う発言から、彼も航空隊にそこまで期待して居なかったようだ。
「やはり、海戦は私達が決着を付けねばな。総員傾注!!」
バーソロミューは艦長席に据え付けてある艦内魔信を繋ぎ、艦内全域で任務に当たる乗組員へ演説を行った。
「総員、これより我が艦は敵艦隊と戦闘状態に入る。日頃の猛訓練の結果を示すチャンスでる。ミリシアルは各員がその義務を尽くす事を期待するだろう!!交信終わり。」
そしてバーソロミューは艦橋を見回した、何名かは笑いを堪えている状態である。何故ならこの演説は、ミリシアル帝国海軍にとって有名な海軍提督が言った言葉なのだ。
「フッ、私には似合わない言葉だったかな?」
「いえ、中々様になっていましたよ。艦長。」
苦笑したバーソロミューへ、すかさずパーシヴァルがフォローに回る。数年間一緒にこの戦艦で勤務していたからこそ、色々とわかる物が有ったりするのだ。
「砲術長より射撃方位盤へ、砲術長より射撃方位盤へ。アーサー大尉聞こえているか?」
「ハッ!!」
砲術長の少佐が、射撃方位盤で勤務しているアーサーへ艦内魔信を入れた。海戦を前にして、彼に一つ渇を入れようとしているのだ。砲術長の言葉を待つアーサーに、緊張が走る。
「お前の腕の見せ所って訳だ、士官学院二位の実力とやらを見せてもらおうか?」
「ご期待に添えれるよう、努力致します!!」
「おう、それで宜しい。」
砲術長からの魔信を切り、アーサーは目の前にある方位盤に視線を移した。第零艦隊の名誉の為にも、第一射で莢叉に持ち込まなければならない。とても責任重大だ、射撃トリガーにかける指に自然と力が入る。
そして誰かが唾を飲み込む音が聞こえた気がした、思わず周囲に目を向けると砲術士達が顔を強張らせていた。
如何に猛訓練を行おうと、実戦自体は初めての者が多いのだ。自分達の実力か敵にいくら通用するのか、それは未知数と言えるだろう。
緊張しているのは俺だけじゃないかと、アーサーは軽く安堵するのだった。
「全艦隊へ、手を止めて聞いてほしい。これより我が艦隊は、神聖ミリシアル帝国海軍へ第一撃を加える。敵艦隊はミリシアル帝国でも最精鋭と言われる艦隊だ、各員一層、奮励努力せよ!!交信終わり。」
グラ・バルカス帝国特務軍より編成された、東征艦隊(第4打撃群《STRIKE GROUP 4》)司令マーク・アルカイド少将は、ケイン神王国との運命戦争以来の緊張をしていた。
異世界に転移して、初めての同クラスの敵との戦いである。何が起こるのかまるで検討が付かないと言った思いで、この海戦に赴いていた。
「群司令、緊張しすぎですぞ。もう少し力を抜いたらどうですかな?」
隣から落ち着きのある声が耳に入ってきた、声の主は第8戦艦戦隊《Battleship Division 8》の司令官。ジェラルド・A・アンドロメダ少将からであった。
アルカイドは同じ少将で、実戦経験も同じな彼が何故まったりと出来るのか、とても不思議に思った。
それが表情に出ていたのか、アンドロメダは苦笑しながら訳を話す。
「まぁ、個人差と言うことで。」
「ずるくないか?ソレは。」
「そう言われましてもなぁ……………。」
ハハハっとアンドロメダは軽く笑う、その様子を見てアルカイドは自分が緊張しているのがバカらしくなった。
気を引き締めるのと、緊張するのは全く違う物だなと、結論付けた時に後ろから声が響いた。
「お二人方、コーヒーを入れてきましたぞ!!」
「うむ、艦長の淹れるコーヒーは格別だ、待っていたぞ。」
その声は、この旗艦『ペテルギウス』の艦長を務める、ウィリアム・バーダン大佐であった。
彼の淹れる美味いコーヒーは、『ペテルギウス』のみならず艦隊全員に知れ渡っており。民間の新聞にはインタビュー記事が載るほどの大人気なのである。戦艦『ペテルギウス』に載れば、一度は味わって見るべき逸品と言えるだろう。
「敵艦隊、更に近づーく!!」
「まずは帝国の主砲の射程を知らしめてやるか。主砲射撃準備!射程圏に入り次第、一斉射せよ!!」
見張り員の報告を受け、アルカイドは主砲の射撃準備を下令した。それを受けて、バーダンが各砲術員に命令を下して行く。
オリオン級戦艦に備え付けて有るのは、前後合わせて連装4基8門の45口径35.6cm連装砲である。
今回は斜めから第零艦隊に近付いて居るために、使用できるのは艦前部の4門のみであるが。これは先手を打つためにこの様にしただけであり、第一斉射が終われば直ぐ様同航戦に持ち込むつもりである。
なお、45口径35.6cm連装砲の貫通力は
15000mにて、垂直装甲426mm水平装甲124mm
20000mにて、垂直装甲358mm水平装甲134mm
25000mにて、垂直装甲271mm水平装甲157mm
30000mにて、垂直装甲228mm水平装甲208mm
となっている。
『ペテルギウス』は35500mより発砲したので、水平装甲の貫通力は208mmを超える事は間違いないだろう。
これはサウスダコタ級やアイオワ級の様な、40cm砲戦艦の水平装甲を貫通しうる威力である。
もっとも、35500m等と言うような超遠距離では、最新式の射撃レーダーや演算装置を持っている現代艦でも直撃どころか挟叉も難しいのではあるが。
とにかく、マグドラ沖海戦の本格的な戦闘は、『ペテルギウス』の第一射から始まったのであった。
ついに始まるマグドラ沖海戦、お互いの艦艇がしのぎを削って砲弾を相手に送り込む。第零艦隊が優位に立つなか、グラ・バルカスの攻撃が……………。
次回、精兵の意地。お楽しみに!!