神聖ミリシアル帝国海軍
戦艦『ガラティーン』
「第25通路に直撃弾、火災発生!!」
「第2ブロックに浸水発生、隔壁閉鎖!!」
「左舷副砲群に負傷者多数、看護兵を寄越してくれ!!」
戦艦『ガラティーン』は先程から集中砲火を受けていた。一度砲弾が命中した事に味をしめたのか、戦艦のみならず重巡洋艦からも攻撃を受けていたのである。
舷側に防水区画代わりに配置されていた通路は穴だらけとなり、足の踏み場がなくなっていた。
左舷副砲群は元々の装甲が薄いせいか、被害がすさまじい事になっており。15.2cm単装副砲はひしゃげたり、砲身が中途で無くなってしまったものもある。
「邪魔だ、退け!!」
「負傷兵を蹴飛ばすのか!!」
「こっちの方が死にかけなんだ、仕方ないだろうが!!」
『ガラティーン』の医務室は負傷兵で溢れかえっていた。被害担当艦じみた事になっている為である。
通路にまで負傷兵が横たわり、廊下は血で本来の色がわからない程である。
「た、助けてくれ、目が見えないんだ……………。」
「殺して、殺してよぉ…………。」
火災の時に発生した有毒ガスで目が見えなくなった者、あまりの激痛に殺してくれと懇願する者、意識が無くなって虚ろな目で動かなくなった者と様々である。
そんな中で軍医や看護兵はトリアージを決めて、一人でも助けようと奮闘していた。
「うぅ、ウエェェ………。グプウゥ…………。」
「おい、大丈夫か。少し休んでも良いんだぞ?」
「いえ、お気遣いなく。それより負傷者を運んで下さい。治療を再開します。」
あまりの凄惨さに、胃の中の物を吐き出してしまう看護兵もいた。しかし彼等彼女等はそんな状態でも負傷兵を見捨てないでいた。献身的に負傷者達に尽くす姿は、彼等にとって天使の様な物であろう。
なお『ガラティーン』の様に集中砲火を受けている『プロキオン』も、大体似たような事になっている。あちらの方は魚雷とかあるので、浸水に対するダメージコントロールは得意だが、火災や有毒ガスによる被害は大体『ガラティーン』と同じ対処であった。
「仰角修正、プラス2度。左方85度へ修正…………。」
射撃指揮所では、アーサーが相変わらず射撃の修正と発射を行っていた。かれこれ三時間も戦闘を続けている事により、彼の精神は衰弱している。
同じように勤務していた魔砲士の中には、疲労によって眠ってしまった者もいる。
砲弾とかの被害こそないが、任務をしている人間への被害は確実に起こっていた。
そして海戦が起こって二時間と数分たった時、この戦いに大きな変化が生まれた。
それは『ガラティーン』が放った主砲弾によって、被害が拡大した『プロキオン』がとうとう撃沈されたのである。
『ガラティーン』が放った38.1cm砲弾は、『プロキオン』の水平装甲を貫通し彼女の弾薬庫へと飛び込んだのである。多数の弾薬を満載した部屋で砲弾が炸裂したのが、彼女を一瞬にして海底に引き摺り下ろす原因になった。
38.1cm主砲弾を12発、20.3cm主砲弾を7発も受けてなお沈まなかった『プロキオン』は、とうとうその艦歴に終止符を打ったのだった。
その爆発たるや凄まじい物であり、真っ二つに折れた船体からは巨大なキノコ雲が上がっていたのだった。
「敵戦艦、轟沈!!繰り返す、敵戦艦轟沈!!」
第零式魔導艦隊の艦内で、大きな歓声が上がった。比較的怪我が軽い負傷者も、健常者にまじって喜びの声を上げる。
「敵艦隊反転、逃げていくぞ!!」
「俺たちの勝ちだ。やったぞ、やったぞぉ!!」
見張り員は本来の任務を忘れて、狂ったように喜んだ。しかし誰もその事を責める者は居ない、何故なら見張り員と同じように騒いで居るからである。
「我々の勝利ですな、艦長。」
「うむ、我々は勝った。しかも初戦で勝利しただけではない、我が第零式魔導艦隊は無敵だと誇示しての勝利である。」
バーソロミューとパーシヴァルが誇らしく会話しているとき、後ろからエミリーが紅茶を持ってきてくれた。
茶葉のいい匂いが、戦闘の疲れを和らげてくれる。トーマスが俺の分は無いのかと聞いたが、冷たくあしらわれてしまった。その光景をバーソロミューは面白く、パーシヴァルは呆れながら見るのだった。
「お、お前その写真は…………。」
「そうさ、俺の息子だ!!出港する数日前に生まれたらしいぜ。」
「よかったじゃねえか、お前もオヤジだなぁ!!」
『ガラティーン』の後部艦橋にて、見張り員達が思い思いの談笑に耽っていた。特にある下士官は、手紙で届いた我が子の魔写(写真)を眺めており。同僚達がそれを祝福していた。
「てめぇのカミさんとガキに、勝利を贈ることが出来たな!!」
「あぁ、無事に帰れたら存分に自慢してやるさ!!」
「では、勝利を祝ってこの酒を……………。」
そしてある下士官がラム酒を取り出した事により、後部艦橋は宴会が開催されたのだ。本来彼等を掌握する士官でさえも、彼等に混じって飲酒を楽しんでいる。
「……………うん?」
ある見張り員は、不思議な光景を目撃した。海中を何かが走っている。白い航跡をたなびかせて『ガラティーン』に近付いて来るのだ。
見張り員は飲酒のし過ぎだと結論付け、また宴会を再開するのだが。
唐突に上がった4本の水柱と、船体を大きく揺さぶる衝撃によって、それが見間違いではない事を思い知らされたのであった。
「な、何が起こったのだ?!誰か状況を報告せい!!」
「ダメージコントロール班より入電!!左舷より浸水発生、先程の比ではない程の海水が流れ込んで来ているようです!!」
艦橋で紅茶を楽しんでいたバーソロミューは、突然の衝撃によってカップを落としてしまった。しかし、その後入った魔信によって、その事を気にする余裕は無くなった。
伝令より報告が入った数秒後、『ガラティーン』は急速に左舷へ傾斜していった。5度、10度、15度と一秒経つ事に傾斜は拡大して行く、その速さはダメージコントロール班の処理能力を飽和状態に陥れる程である。
「て、敵の攻撃か?!」
「バカな?!敵はもう撤退した筈だ!!発砲音すら聞こえなかったのだぞ?!」
突然の事態に艦橋は混乱の渦が引き起こされた、誰も彼も現状を把握しきって居ない。もはや無法地帯の様な有り様である。しかしこの中で冷静を保っていた男が大きく渇を入れた。
「静まれぇい、狼狽えるでなぁい!!我々幹部が取り乱しては、誰が指揮を執ると言うのだ!!」
その声で艦橋に落ち着きが取り戻された。彼等は本来やるべき任務を思いだし、そして『ガラティーン』を救うべく行動を開始したのだ。
しかし、既に船体へ入り込んだ海水は、処理能力を越えたものである。右舷へ注水しようとも傾斜するスピードは変わらず仕舞いであった。
傾斜は既に30度近くとなっており、物に掴まっていないと立って居られないような所まで来てしまっている。
バーソロミューは、非情な決断を下さなければならなくなった。『ガラティーン』に乗艦する1300名の命を預かる者として、『ガラティーン』を捨てなくてはならない。
「旗艦『コールブラント』へ通信。われ被害甚大、総員退艦命令を下命す。皆の者、よく頑張ってくれた。有り難う。」
「か、艦長………………。」
バーソロミューは総員退艦命令を発令した。艦橋では一部幹部が『ガラティーン』を救えなかった事に嗚咽を漏らした。それをバーソロミューは優しく声を掛けて慰める。
「皆最善を尽くしたのだ、敵戦艦をやれてガラティーンも満足だろう。ガラティーンは乗組員を道連れにする事を良く思わないだろうから、彼女が持ちこたえてる間に対艦しよう」
と艦橋スタッフを慰めて行くのだった。
「負傷者が先だ、急げよ!!」
「まだ上部格納庫に筏があった筈だ。急いで持ち運べ!!」
甲板上では総員退艦を受けて、乗組員達が脱出の準備を行なっていた。退艦する訓練も行われていたので、皆順序よく準備を進めて行く。
負傷者は内火艇に乗せられて、足早に離脱していく。健常者は筏に乗るなり、右舷側から海へ飛び込んで泳いで離脱する。
その脱出した者の中に、バーソロミューは居なかった。彼は艦長として『ガラティーン』と運命を共にすると言いったのだ。パーシヴァルの説得も聞かずに艦橋の羅針盤へ、自分の体をロープで固定した。
「ガラティーンが…………、沈む!!」
「ちくしょう、ちくしょう!!俺たちは何も出来やしなかった!!すまねぇガラティーン………………。」
そしてそのまま、『ガラティーン』は艦長と共に、深く静かな海底へと旅だったのであった……………。
「勇敢なる戦艦ガラティーンに、敬礼!!」
救助にきた小型艦と魔導船の艦長は、沈み行く『ガラティーン』へ敬礼した。被害担当艦となって、その攻撃を一身に受けた『ガラティーン』への勇姿を誉め称えたのである。
小型艦と魔導船は素早く救難者を救い上げ、それと落とされた『ジグランド2』のパイロットと敵側である『プロキオン』の乗組員を拾い上げて、第零艦隊へと合流するのだった。
神聖ミリシアル帝国海軍
重巡洋装甲艦『ロンゴミニアド』
「レーダーに感あり、機械可動式の航空機械らしき機影が多数接近中!!距離およそ27NM(50km)、数は………… 200!!」
「何ですって?!」
エレインはその報告を耳にして、思わず驚愕の声を上げた。普段の彼女とは思えない程の驚きようであるが、200機もの航空機がやって来たら誰しもが驚くだろう。
驚かないのは、太平洋戦中の日米海軍位だろう。この世界では初の大規模航空攻撃である。前例の無い数が第零艦隊へと襲い掛かろうとしていた。
「対空戦闘用意、敵航空機を撃ち落としなさい!!」
『ロンゴミニアド』と『アスカロン』に備え付けてある霊式10.2cm連装高角砲が、魔力探知レーダーと測距儀に連動して敵編隊を睨む。
アクタイオン25mm対空魔光砲も、砲手が操縦して来るべき航空攻撃に備えた。
他の艦艇も大体このような感じで、敵の攻撃に備えたのだった。
「魔力探知レーダーに感、後方より機影接近。数は11機、これは友軍の『ジクラント2』です!!」
「先陣はまたもや航空隊が切るのですね、少しでも敵機を減らしてくれると良いのですが……………。」
エレインは何とも言えない不安に苛まれた。彼女は第六感の様な症状が出る事が多々あり、嫌な予感がすればほぼ必ず悪い事が起きるのだ。
ただの思い過ごし、杞憂だと良いのですがと、彼女は願うのだった。
戦艦『ガラティーン』は沈んだ、それも世界各国が知らない攻撃方法によるものである。浮き足立つ第零艦隊、その巨影に200機の鷹が襲いかかる。
対して救援に来たのは、先程の第5爆撃戦闘団だった…………。
次回、ヘルダイバー。お楽しみに!!