神聖ミリシアル帝国
第5爆撃戦闘団
その頃オメガ率いる『ジグラント2』飛行隊は、『シリウス』に取り残された所を後方から『アンタレス』に追撃された。両機の機体性能はとても隔絶している、元々オメガ少佐は汎用機と制空機の不利を考えて『アンタレス』との交戦を避けたのだが上手く行かなかった。
彼等の『ジグラント2』は最大510km、対して『アンタレス』は零戦52型相当の性能を持っており最大565kmと55kmもの大差が開いていた。
普通のプロペラ機ならば、55kmの速度差は何とか挽回できる。実際に零戦52型は最大610km(実際は570kmとの説あり)のF6F、最大671km(実際は630kmとの説あり)に対して一方的な勝利をもぎ取ったりする戦歴を持ってのだ。また零戦より鈍重であったF4Fでも、零戦に対して食い下がる事もあった。
しかし『ジグラント2』はジェット機である、ジェット機は加速性能や旋回性能がプロペラ機より劣る機体なのだ。ただでさえ『アンタレス』より最高速度で劣り、ジェット機特有の弱点を持っている『ジグラント2』は絶望的な空戦を余儀なくされた。
「オメガ機よりヘンリー機、ジョセフ機へ、俺の後ろに敵機が食い付いた。やれ。」
「ウィルコ!!」
11機対40機の上機体性能が下回る空戦だと言え、それでも彼等はグラ・バルカスの戦闘機編隊に気を吐いて戦っていた。オメガの場合はあらかじめ自機を囮にして敵を引き付け、敵機が躍起になって落とそうとするのを僚機に撃墜させていたのだ。
オメガの後方を『アンタレス』2機編隊が襲い掛かっていたが、目の前の敵に夢中になって後方が疎かになっていた。そこをヘンリーとジョセフが4門ずつの7.7mm魔光砲を浴びせて攻撃した。
元々零戦52型は重量とエンジン、時代の関係から防弾を施してなかったのを改良した機体である。しかも『アンタレス』はそれよりも高性能な機体である。
パイロットの背中に設置されていた12mm程度の防弾鋼板と、被弾した穴を塞ぐ防弾タンクによって7.7mm魔光砲に耐えるのであった。しかし損傷したことに変わりが無い事と、敵戦闘機への恐怖から足早に空戦から離脱して行ってしまった。
「チッ、撃墜ならずかよ!!」
「死ぬのと戦果を手に入れる事、お前にとってはどっちが重要なんだヘンリー?」
「どちらともさ!!」
「この強欲な奴め。」
オメガ小隊はまだ会話が出来る程度の余裕があった。三機がお互いの視界をカバーし合い、40機の敵機に囲まれるのを回避していた。他の小隊も似たような所が有り、ある小隊は『ジグラント2』の高い降下速度(810km)を利用して『アンタレス』の追撃をかわしたり、戦場を離脱しつつある戦闘機に追撃して確実に撃墜数を稼いだりしていた。
対してグラ・バルカス帝国の航空隊は、チームプレーを無視して突出する傾向が多かった。出撃した空母航空隊が、第5爆撃戦闘団とどっこいどっこいの低い練度の部隊を優先して出撃させてたのが原因である。
大体マグドラ沖海戦は、帝国特務軍司令長官のミケレネス大将が敵の実力を見たいと言う意向で発生した戦闘である。ミケレネス大将の考えと、グラ・バルカス帝国の戦略方針が一致した事による出来事でもあるが。
「クッ…………、相変わらず数が多い!!」
「全然キリがねぇぞ……………、グギャッ?!」
しかし彼等の奮闘も空しく、オメガ隊は一機一機と数を減らして行き。最終的には約半数の5機にまで減らしてでも戦い続けたが、これ以上戦闘は耐えられないとオメガは撤退命令を下した。
「た、隊長!!俺達が居なけりゃ誰が第零艦隊を守るんですか?!」
「これ以上戦っても無駄死にが出るだけだ、安心しろ!!作戦行動中の戦艦が殺られた事例は無い、さっさと逃げるぞ!!責任は俺が取る!!」
こうして『ジグラント2』と『アンタレス』の空戦は、6機の損失を出しただけでグラ・バルカス側の圧勝と言う結果に終わった。この戦闘の情報は東部方面艦隊に報告され、東部方面艦隊司令長官カイザル・ローランド大将は『神聖ミリシアル帝国、侮り難し』との言葉を残したとされる。
神聖ミリシアル帝国
第零式魔導艦隊
第零艦隊では、艦隊と航空隊の必死の攻防が繰り広げられていた。第零艦隊は輪形陣を組んで敵航空隊を迎え撃つ、まるで騎兵の突撃に対抗する方陣の様であった。
戦艦『コールブランド』と『クラレント』を艦隊の中央に据え、その前方を2隻の重巡洋艦が、その後方を同じく3隻の魔導船が占位した。そしてその周囲を8隻の小型艦が囲み、万全の状態で迎え撃って居たのだ。
その艦隊から繰り出される数多の砲弾は、見る者に強烈な恐怖心を植え付けるが。グラ・バルカス航空隊は臆さずに突撃して行く、さながら槍衾に突撃する騎士にも見えた。
「敵機が『コールブランド』へ突っ込んで行くぞ!!」
「敵を進ませるな!!機銃、高角砲弾援護射撃せよ!!」
『ロンゴミニアド』の右舷に2基設置された10.2cm連装高角砲が『シリウス』の編隊へ指向され、一門につき毎分15発、計毎分60発が秒速805mで飛翔した。
一般的に10cm高角砲と聞くと、皆秋月型の98式10cm高角砲を思い浮かべるかもしれないが。シルバー級魔導巡洋艦が装備してある10.2cm高角砲は、イギリス海軍のケント級重巡洋艦が装備する10.2cm高角砲と似通った性能を持っている。
「敵機2機を撃墜したのを確認、ただし残り14機は未だに飛翔中!!」
「引き続き迎撃に当たりなさい、何としてでも『コールブランド』へ向かう機数を減らすのです!!」
エレインは各重巡洋艦に指示を飛ばし、旗艦『コールブランド』の負担を減らそうと奮闘していた。何の為巡洋艦か、何の為の基幹戦力か、ここで旗艦を守らずしてどうするとの意気込みが、各乗組員へと伝搬していった。
しかし死神は『ロンゴミニアド』にも、命を刈るべく鎌に掛けようとしていたのだった。
「敵機直上、急降下ァァ!!」
「面舵いっぱい、最大戦そーく!!」
対空監視員の報告を受け、ロバート艦長は反射的に操舵手へと命令した。操舵手は力を込めて舵輪を回し勢い良く回転した。『ロンゴミニアド』はゆっくりと右へ進路を変え、『シリウス』から逃れるべく足掻いた。機体から投下された250kg爆撃は3発、一機目の攻撃は全て回避する事に成功した。しかし続く二機目は『ロンゴミニアド』の回避コースをしっかり先読みしており、それを踏まえた攻撃が降り注いだ。
「ダメです、爆弾直撃コース!!」
「総員衝撃にそなえよ!!」
そして『ロンゴミニアド』の甲板に、強烈な閃光が走った。それに遅れて爆発音が轟き、船体が激しく揺れる。
「わっ?!」
「し、司令!!」
被弾の衝撃に伴い、艦橋の天井に張られていたパイプが、司令艦席で指揮を取っていたエレインへ落ちてきた。
エレインの額から血が垂れ落ち、その美貌が赤く染まる。
「私に構うな!現状を報告しろ!!」
「第三砲搭に直撃、第三主砲全損!!」
「右舷第一機銃群が壊滅しました!!」
「機関室より報告、ボイラー室の一部に直撃、機関出力低下!!」
各部署から悲鳴の様な報告が入ってきた。3発の250kg爆弾により、『ロンゴミニアド』は一瞬にして手負いの獲物にへと変化してしまったのだ。エレインは悔しさで顔を歪ませる、やはり航空攻撃では重巡に甚大なダメージを与えるのは可能だったのだ。
「クッ、航空攻撃ここまでとは!!」
「今は嘆いてる暇はありません、代理旗艦を二番艦の『ブリューナク』へ変更すると伝えなさい。」
「了解!!」
「あぁ!!『クラレント』が!!」
見張り員の叫び声につられ、艦橋スタッフは『クラレント』が居る方角へ目を向けた。するとそこには爆撃を受けて景気良く炎上する『クラレント』の艦影が確認された。流石に戦艦である為か沈む気配は無いが、あまりの姿に見る者全てが絶望する。エレインは『クラレント』に勤務する一人娘の安全を、密かに願うのであった。
「敵機、引き返して行きます。」
「こっ酷く殺られちまったな、艦長。」
その頃第零駆逐戦隊では、ジェームズが疲れた顔で司令艦席に腰を沈めていた。彼の戦隊も『シリウス』の攻撃に晒され、所属する小型艦の内3隻が沈められてしまった。今残っている小型艦は4隻であり、彼等は身を呈して主人を守って沈んで行ったと言えるだろう。
彼が乗艦する小型艦『マインゴーシュ』も、250kg爆撃の直撃によって後部の12cm連装高角砲2基が全滅した。速度を維持して航行しているのが奇跡であった。
「通信によると、第4、第5艦隊が急行しとるそうですよ。」
「間に合わんだろ、それ。」
「ですな、ハハハ……………。」
ジェームズと艦長は乾いた笑いを漏らした、手負いの主力艦と4隻に撃ち減らされた小型艦で切り抜けなければならない。今度また同じような攻撃に晒されれば全滅は必須であろう。
「報告、超低空に魔力探知、左舷35方向。距離24.3NM(45km)、機数82!!」
「ほれ見た事か、コイツらが本命だぞ!!」
「旗艦より全艦180度回頭命令下令!!」
第零艦隊は艦隊の再編成を終わらせる前に、『リゲル』攻撃機の襲撃を受けた。とても非常に不味い状況にある。
「対空戦闘再開、使える砲を全て向けろ!!」
ジェームズは現状出せる命令を伝える、乗組員達と共に生き残る為に全力を出そうとしていた。全ての小型艦が『リゲル』へ12cm連装高角砲を指向し、20mm機銃の砲手も目の前のレティクルを『リゲル』へ重ねた。
「来るならこい!!全艦撃ち方始め!!」
「シュート、ナウ!!」
一定のリズムを奏でながら、12cm砲弾が発射された。たちまち『リゲル』の周囲で爆発が起きる、そして色とりどりの魔光弾が降り注いだ。
「クソッタレ、地雷源の中を飛んでいるみたいだぞ!!」
「メーデメーデ!!被弾した操縦不能!!」
時速370kmで低空を直進する『リゲル』の被弾率は高い、あまり落ちていないのは元々の対空砲の命中率が低いのとミリシアルの機銃が輪をかけて低いからだろう。
「投下ポイントまで20秒!!」
『リゲル』編隊の第3小隊隊長ケネス・パッシム大尉は生きた心地がしなかった。全ての機銃座が此方を向いている感覚が湧き、ケイン神王国での戦いで感じた死と隣り合わせの恐怖を思い出す。
『リゲル』の星形エンジンは雄々しく咆哮し、機体はエンジンと至近弾によって激しく振動する。
「……………4、3、2、1投下!!」
『リゲル』攻撃機は82機から76機まで数を減らしつつも、パッシム含む40機が魚雷を発射する事に成功した。残りの機体も、各々射点に付き次第投下と離脱を開始する。
「うちの小隊は無事か?!」
「ユージンもマリオンも無事です、全員生きてます!!」
「よーし、さっさと逃げるぞ。もうこれ以上ここに居るのはたくさんだ!!」
魚雷の投下数は76本に及び、海面には雷跡が見たことも無いような模様を描いていた。パッシム機の機銃手はその光景をカメラで撮り、後に博物館でその写真は飾られる事になるのであった。
「あいつら、海面に爆弾を捨てて逃げていったぜ。」
「何がしたかったんだアイツら、臆病風にでも吹かれたか?」
第零式魔導艦隊は、『リゲル』編隊の行動を訝かしんだ。折角近距離まで近付いたと言うのに、弾幕の厚さに観念して爆弾を捨てて行ったのである。
「ま、これで戦闘も終わりさ、長く苦しい戦いだったな……………。」
かれこれ5時間にも及ぶ大激戦であった、艦隊戦と対空戦の両方を行い、各艦艇の乗組員は疲労困憊でそのまま床に寝転ぶ奴も居る。見張り員達が海面に目を向けると、そこにはまだ沈みきっていない小型艦が、炎を身に纏い横たえていたり。非金属構成素材や物資、筏や救命具や内火艇が所々浮かんでいる。
小型艦4隻は反転して、溺者救助に赴こうとしていた。小さい船体ながら健気な物であると、戦艦乗組員は感想を漏らすのだった。
「おい、何だありゃ?」
誰かがそう言葉を漏らすのが聞こえた、甲板に居る者達は海面へと目を向ける。白い線が『コールブランド』、否全ての艦艇へと向かって伸びている。それも数十本にも及ぶ数である。
誰かが戦艦『ガラティーン』が最後に受けた攻撃を思いだし、艦内電話の受話器を強引に取って艦橋へと通報した。
「至急、至急!!何かが多数本艦に向かってきます!!『ガラティーン』への攻撃に酷似、繰り返す『ガラティーン』が受けた攻撃に酷似!!」
その報告を受け、艦橋のスタッフは皆右舷の窓へと張り付く様に海面を確認した。確かに白い航跡が、第零艦隊の全ての艦へと延びているのが確認された。
「土属性魔力障壁展開、装甲を最大まで強化!!」
全ての艦の艦長が、絶叫するように部下へ指示を飛ばした。全艦が黄色いほのかな色の光に包まれる。船体表面の合金が土属性を帯びた魔力障壁に反応し、物理的な衝撃に強くなったのだ。
「海中攻撃と思われる攻撃、着弾まで12秒!!」
バッティスタが、クロムウェルが、エレインが、ジェームズが、生き残った全ての艦の指揮官は海面を睨み続け、頬に汗が流れた。先程の『ガラティーン』の沈没を見た者達が、この海中攻撃で沈められたと結論付けた。あの大きな船体がみるみる内に傾斜して行ったのを見て、砲撃よりも船体への損傷が大きくなるようだ。
戦艦ですらあの様なのだ、戦艦以下の艦艇艦長の頭の中には撃沈の二文字がくっきり刻まれていた。
「総員衝撃に備え!!」
各艦艇乗組員が身近な者へと掴まる。次の瞬間、全ての艦に大きな水柱が上がった。旗艦の『コールブランド』に至っては、七発もの水柱が上がっていた。
「くっ…………、損傷箇所を報告せよ!!」
クロムウェルは衝撃に耐えられずよろめき、壁に頭を強打した。額からは血が滴り落ち、片目に流れ込んで激痛が走る。
「右舷、7ヶ所に破口発生!!多数の浸水を認める!!」
艦橋からの司令を受け、ダメージコントロール班は角材を抱えて被弾箇所へ急行した。しかしそこには大量の浸水で水没した区画があるのみで、彼等が出来たのは防水ハッチを閉め、それを重量物で蓋をする事だけであった。
「左舷注排水システムを起動しましたが、浸水が多すぎます!!このままではじきに注水限界に達します!!」
「まさかこんな事が、作戦行動中の最新鋭戦艦が、航空機ごときにやられるとは!!」
バッティスタはようやく気付いたのだ、ただ『ジグラント』が、この世界全ての飛行部隊が戦艦を沈めうる性能を持っていなかっただけである。
そして傾きつつある艦橋で彼は悟った、もうすぐ戦艦による砲撃戦は時代遅れになると言うことを………………。
「司令、艦長、早く退艦なさってください!!」
士官達はバッティスタとクロムウェルに対艦を促したが、二人は疲れた顔で、何処か達観した様な顔でこう答えるのであった。
「ノーセンキュー、貴官らの健闘を祈る。」
「そう言う事だ、私も残るぞ。『コールブランド』を一人寂しく沈めたくないからな。」
その言葉を発して、二人は艦と運命を共にする事を選んだ。各幹部と艦隊参謀達は二人の勇姿に背を向けながら、泣く泣く『コールブランド』を退艦したのだった。
そして戦艦『コールブランド』は、二人の英雄と逃げ遅れた乗組員を巻き添えにしながら、深い海の底へと沈んで行った。『クラレント』や『ロンゴミニアド』も『コールブランド』に付き添う様に沈没し、海面には沈みきっていない艦艇の破片や、海へ脱出した両軍の兵士だけとなったのだった。
落日と共に終わったこの海戦は、第零式魔導艦隊の結末を表しているかのようで、酷く虚しい物であった。
世界の要人を集めたカルトアルパスは、マグドラ群島で激戦が有ることを知らず、非常に気ままな物だった。
しかし神聖ミリシアル帝国の各地から戦力が集まる、来るべきグラ・バルカスとの戦いを予期して。
次回、カルトアルパスの守護者。お楽しみに!!