深淵歩きは転生した   作:ウニダコ

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三話目で本編を投げ捨てた後の絶叫現実逃避マシーンオニオン



幕間 : とある聖杯戦争の話

──素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。

 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ──

 

 

 眼前の陣が紅く輝く。念の通りに大業を為さんと、万斛の魔力(マナ)を吸い上げる。

 

 

 ──閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する──

 

 

 その儀式の要となるは、かの英霊が愛用した大盾。深淵に侵され悠久の時を経て尚その偉容を失わないそれは、己が目的とする者を喚ぶには最適であった。

 

 

 ──告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ──

 

 

 喚ばんとするは、嘗ての英国(ブリテン)を駆けた大英雄。竜を狩り蛮族を狩り深淵を狩り、最後にはその身を犠牲にしてブリテンを救った狼騎士。

 

 

 ──誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。

 汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ────! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蒼黒い騎士が立っていた。

 

 左手には、巨大な剣。

 右手には、大型の盾。

 全身には、勇猛な狼を感じさせる鎧。

 

 それらには全て、余すことなく細かい傷と黒ずんだ粘着物があった。元は美しく神聖的に照り映えていたのであろうが、今やその輝きは魔に侵され見る影もない。

 

 しかし、その体全体から溢れるオーラは単なる魔とは明らかに異なっていた。どす黒い悪魔的な力、神聖な暖かさ、そして何よりも、純然たる強い意志の波動。その全てが混ざりあって、圧倒的な存在感を作り上げていた。

 

 騎士が惚けて突っ立っている己を見つめる。騎士の顔面は何故だか暗い影に包まれて隠されているが、それでも騎士に見つめられているのを感じていた。

 

 一方己は大層興奮していた。それもその筈、予定通りの英霊を引きあて、それでいてそのステータスは大概のサーヴァントなら捻り潰せるであろう程である。何年も何年も、心の中で描き続けていた復讐が恙無く進んでい。それが今は堪らなく嬉しい。

 

 

「──うふふ、ふふ、あはは……! あはははは……!」

 

 

 堪らず、喜びを声に出す。そうでもしなければ、狂ってしまいそうだった。いや、もしかすると既に己は狂ったのかもしれない。眼前の深淵が己を狂わせたのかもしれない。

 しかしそれでも構わない。復讐を成し遂げられるのならば。狂気に堕ちても構わない。

 

「よろしくね、バーサーカー」

 

「◼️◼️◼️◼️……」

 

 飢狼の唸り声とも、人間の苦悶に満ちた声とも聞こえる音。普段なら不気味としか言えないそれが、何故だかとても心地よく感じた。

 

 

 

 

 

 

「こんばんは、お兄ちゃん」

 

 

 突如として悪寒が、衛宮士郎の脊髄を舐め上げた。

 

 聖杯戦争の何たるかを知った、教会からの帰り道中。まったくもって突然に、彼らは姿を現した。

 

 優雅な防寒着に身を包み、光を眩く反射する銀髪と、ルビーのような紅い瞳を持つ少女。それだけでも十分目を惹く存在であったが、それを打ち消して尚有り余る存在が後ろにはあった。

 

 2mは間違いなく超している大柄な体躯。所々青黒く汚れてはいるが、それでも確かな威容を放つ銀鎧。身の丈程もある巨大な剣。それら全ては調和して、強大な存在感を漂わせていた。

 

 

「はじめまして、わたしはイリヤ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。こっちはバーサーカー。よろしくね?」

 

「アインツベルン……御三家の!」

 

「ふふ、そうよ。そういう貴女は遠坂凛ね? 同じ聖杯戦争の参加者同士、全力を以て競い合いましょう?」

 

「……えぇ、此方こそ、よろしくお願いするわ」

 

 

 心臓が重く鳴り響く。胸が軋むような感覚。息が詰まるような緊張感と騎士が出す威圧感に、情けない話だが自分は完全にあてられていた。

 

『勝てるわけがない』

 

 その言葉が、己の脳を埋め尽くしていた。

 

──かしゃり。

 

 足音。それは己のサーヴァントであり、黄色い雨合羽に身を包むセイバーの足音だった。

 

 

「──何をした」

 

 

 合羽が脱ぎ捨てられ、その顏が顕になる。突然不可解な行動をとるセイバーの真意を確かめようとし──息を飲む。

 

 怒り狂う竜。士郎の脳は彼女をそう捉えた。これまでの冷静沈着な面は既になく、唯々純粋なまでの怒りがそこにはあった。

 

 

「何をした、魔術師(メイガス)……! 答えろ! ()()()()()()()()()()()()()

 

 

 剣を顕現させ、セイバーが吼える。

 イリヤと名乗った少女は、面白そうに顔を歪めた。

 

 

「見れば分かるでしょう? もう私の者なの。私だけの愛しい僕。私だけの愛しい騎士。()()()()()()()()()()

 

「貴様ァァァァ!!!」

 

 

 剣を構えて、セイバーが駆ける。壮絶な殺気を、猛烈な怒りをその刃に乗せて。己が止める暇もなく、疾風となって少女の首を刈り取らんと。

 

 ガキィィィン! 

 

「っ!」

 

 瞬間。セイバーは大剣に弾き飛ばされ、青い弾丸となって教会の柵に激突した。

 

 

「っセイバー! 大丈夫か!」

 

「あ、あぁ、ああ……兄さん……」

 

 直ぐ様駆け寄り声をかけるが、反応がない。いや意識はあるのだが、此方の問いには一切反応していない。虚ろな瞳で呟きを続けるその姿は、どうみても異常であった。

 

「セイバー! おい、セイバー! しっかりしろ!」

 

「兄さん……なんて痛ましい姿に……。あぁ、もう少しだけ、待っててください……。今直ぐ、《それ》から解放してみせますから……えぇ、解放……解放……解放!!」

 

「あらあら、お兄ちゃんのサーヴァント随分狂暴ね。いいわ、殺してあげる。そうよ、どんなサーヴァントでも、私のバーサーカーは倒せない。だから──」

 

 

 ──やっちゃえ、バーサーカー。

 

 

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!!」

 

 

 獣と人間を混ぜ合わせたような音。聞く悉くを畏縮させるそれが、開戦のゴングとなった。

 

 地面に皹を入れ、バーサーカーがセイバーに躍りかかる。バーサーカーの大剣とセイバーの剣が、鈍い音をたててぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 これは、遠い未来(さき)のお話。

 

 闇に堕ちた騎士が、復讐を誓う幼子に仕える。そんなお話。

 

その行方、未だ判らず。

 

 

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