ある夜、腕立て伏せのノルマをこなした西片のスマホに高木さんからメッセージが届いた。

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腕立てノルマと宿題と

とある日の夜。

 

「ふぐっ、ふんっ、ふんぬ…」

 

今日も今日とて高木さんにからかわれまくった俺は腕立て伏せのノルマをこなしていた。

自分に対する戒めのために始めたはずなのに全く回数が減らない。むしろ日課になってしまっている。

 

全然成長してないじゃん、俺…

 

「あとっ、いっかいっ、だはぁぁぁ。」

 

やっと終わってその場に突っ伏せる。

 

ポロロン♪

 

同時にスマホの通知音が鳴った。

 

誰だろう?

木村がまた変な画像でも送ってきたかな?

ベッドの上に置いてあるスマホを取って画面を見る。

 

「よっと…高木さん?」

 

 

『いま、なにしてる?』

 

 

何してるって、腕立て終わったところってちょっと待て!

下手な返信するとまたからかわれかねない。これ以上ノルマが増えても困るし、ここは慎重に。

 

『特になにもしてないよ。』

 

とりあえずこれで様子見だ。

さぁ、どう出る高木さん!

 

ポロロン♪

『ウソついてない?』

 

ギクッ!

ま、まずい、話を逸らさなくては!

 

『高木さんこそなにしてたの?』

 

ちょっと無理があるがこれで行こう。

 

ポロロン♪

『西片のこと考えてたよ。』

 

なっ…そ、そうきたか高木さん!

やっぱり俺を恥ずかしがらせて楽しもうとしてるな!

 

ふふふ、俺だって伊達にからかわれてきたわけじゃない!

この程度の攻撃、どうってことないんだよ!

 

『そんなに俺のことが気になってるの?』

 

俺も少なからず恥ずかしいが、肉を切らせて骨を断つ!

どうだ高木さん!恥ずかしがるといいよ!

 

ポロロン♪

『うん、西片のこと、ずっと気になってる。』

 

なっ⁉︎返された⁉︎

 

ポロロン♪

『わたしの気持ちがわかるなんて、西片もわたしのこと、気になってるんだね。』

 

『ちがうから!』

 

ポロロン♪

『暑いの?』

 

『暑いの!』

 

てか顔見えてないでしょ⁉︎

くそぅ、さすが高木さんだ。

一筋縄じゃいかない…

 

ポロロン♪

『とにかく、ずっと西片のこと気になってるよ。』

 

き、気になってるって…

 

『どうせまたからかうつもりでしょ?』

 

きっとそうだ、そうに決まってる。

けど…

 

ポロロン♪

『真剣な話だよ。』

 

真剣な話…

いやまさか…いやでも…

気になってるって…気になってるってそういう…

高木さんは…俺のこと…

 

ポロロン♪

『英語の宿題やった?』

 

気になってるってそっちかよぉぉぉぉ!

 

ポロロン♪

『どっちの意味だと思ったの?』

 

『なんにも思ってないよ!』

そして心を読むなよ!

 

決してガッカリはしていない!決して!

 

ポロロン♪

『それで、宿題はやったの?』

 

そ、そうだった。

そういえば宿題出されてたんだ。

授業中、ずっと高木さんにどう仕返ししてやろうか考えてたせいでほとんど聞いてなかった…

 

『やってません。』

 

ポロロン♪

『ずっとわたしにどう仕返ししてやろうか考えてて、授業聞いてなかったでしょ。』

 

しかもバレてるし。

 

まずいな、田辺先生をこれ以上怒らせるのはマジでまずい。

今からやるのはいいとして、授業まともに聞いてなかったせいで何をやればいいのかわからない…

 

うぅ、背に腹は変えられないか…

 

『高木さん、もう終わった?』

 

高木さんの事だ。とっくに終わらせてるだろう。宿題のノートを写真で撮って送ってもらうしかない。

そして高木さんの事だ。簡単にはいかないだろう。

 

ポロロン♪

『終わったけど、写真で撮って送るのはダメ。ズルはよくないよ。』

 

ほらね、やっぱり。

でもここで引き下がるわけにはいかない。

 

『そこをなんとかお願いします!』

 

プライドを捨ててでも頼み込まなきゃ。

 

ポロロン♪

『そんなに言うなら、西片から電話してくれたら教えてあげてもいいよ。』

 

くっ、そう来たか。

俺から高木さんに電話かけた事なんかないし、こんな時間に女子に電話かけるのはなんか恥ずかしいが…

自業自得だ、仕方ない。

 

俺は通話ボタンをタップして、高木さんに電話をかけた。

 

プルルルル…プルルルル…

 

『こんばんは、西片。』

「こ、こんばんは。」

 

いつも学校で話してるのに、電話で耳元で声を聞くとなんだか…ドキドキするな。

 

『そんなにわたしの声、聞きたかった?』

「そうじゃなくて!宿題!」

 

いきなり攻めてくるとは、まったく油断ならない。

 

『あははは♪そうだったね。いいよ、教えてあげる。』

「お、お願いします。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

それからしばらく、俺は高木さんに電話越しで宿題を教えてもらっていた。

今まで何度か勉強を見てもらったことはあったが、改めて感心するほど高木さんは教えるのが上手かった。

ただ…

 

『西片、次の文の"I miss you."を訳して言ってみて。』

「ええっと、"I miss you."は…あなたが恋し…」

『西片、聞こえないよ?』

「あ、あなたが…こ、恋しい…」

『恋しいの?』

「訳しただけだよ!」

『暑いの?』

「暑いの!てか見えてないでしょ⁉︎」

 

…などど、ちょいちょい腕立て伏せのノルマを増やされてしまったのだが。

 

とにかく、高木さんのおかげで無事に宿題を終えることができた。

 

「ふぅ、やっと終わったぁ。」

『お疲れ様、西片。』

 

ふと時計を見ると、もうすぐ日付けが変わりそうな時間だった。

 

「もうこんな時間…ごめんね高木さん。ありがとね、ほんと助かったよ。」

『どういたしまして。わたしも西片をからかえて楽しかったよ。』

 

いや、それに関してはほんとやめて欲しかった。

この後増えた分の腕立て伏せが待っていると思うと気が滅入る。

 

『じゃあ西片、腕立て伏せ頑張ってね。』

「知っててからかったな!?」

『あははは♪おやすみ、西片。』

「はぁ、おやすみ、高木さん。」

 

電話を切った後、妙に部屋が静かに感じる。

 

I miss you.

 

…まぁ、明日学校で会えるか。

 

「さぁて、腕立て伏せしますか。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

少女は机の上にある宿題のノートを開き、ある言葉を眺めていた。

 

「今日は強引に言わせたけど…」

 

「今度は向こうから言ってくるように頑張らなきゃね。」

 

少女は窓から見える夜空を眺めながら呟く。

 

西片… I miss you.

 

 

 



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