耳郎とキバットの口調迷子
数か月の時が過ぎ、日もすっかり短くなった。
僕に対する周りの態度は変わらなかったが、僕の心は前より明るい。
それには、楽器屋で知り合った、耳郎響香の存在が大きかった。
彼女はかなり面倒見がいいタイプのようで、僕のことがほっておけなくなったらしい。
今では家の合鍵まで持っていて、彼女とは違う中学に通っているのもあり、僕が帰るとよく出迎えてくれる。
そんなある日、事は起きた。
中2の冬、それは将来を左右する1つの分岐点である。
ホームルームで、担任がそんなようなことを言っている
「そうゆうことで、今から進路希望調査を行う。
だけど、まあ全員ヒーロー志望だよね~」
そういうと、生徒たちは各々の個性を発動する。
「こらこら、学校内での個性使用は原則禁止だぞー」
そういっているが、彼に注意する気は毛頭ない。
「せんせー」
そういったのは、僕の前に座っている幼馴染であった。
「全員とか、一緒にすんじゃねぇよ。俺はこんな没個性のモブどもと一緒に底辺に行く気ねぇんだよ。」
「おいかつきーそれはねぇよww」
「そういえば、爆豪、お前雄英志望だったな。」
担任の発言に、教室はざわめく。
それもそうだ、雄英高校は、偏差値70越え、倍率は300にもなる。
「そのザワザワが、モブたる所以だ。俺は、この平凡な中学から雄英に進学し、オールマイトを超えるヒーローになって、必ずや高額納税者ランキングに名を連ねるのだ!」
机の上に立って、叫ぶ。
周りの生徒は、彼ならいけると考えているのか、尊敬のまなざしを向ける。
「そういえば、緑谷も雄英志望だったな」
担任の、プライバシーもへったくれもない発言により、視線が僕に集まる。
「おい緑谷には無理だろww」
「頭いいだけじゃ雄英には入れないんだよwww」
「むこせーのくせにwwww」
僕に向け集中砲火が始まった。
特に、僕の幼馴染は黙ってなかった。
「おい!没個性どころか、無個性のてめぇがぁ~なんで俺と同じ土俵に立てるんだ!あぁ!」
すごい勢いでまくしたてる幼馴染に、僕は何も言い返せなかった。
「おい、まだ授業中だぞ」
担任に言われ、彼はしぶしぶ席に着いた。
放課後、僕はいつもの日課で、”将来のためのヒーロー分析ノート”に今朝見たヒーローの情報をまとめていた。
すると、僕の前にかっちゃんとその取り巻きたちが現れた。
「おい、くそデク!俺は、完璧主義なんだよ
トップヒーローは学生時代から逸話を残している
俺は、この平凡な中学からの、”唯一”の雄英進学者として、箔をつけるんだよ!
だ~か~ら~雄英受けるなよナード君」
手の平を爆発させながらそう言ってきた。
「そんなの僕の自由じゃないか!」
僕は思わず言い返してしっまった。
気づくと彼の手には、僕のノートがあった。
BOMB!!
「そんなにヒーローになりたかったら、効率がいい方法を教えてやるよ
来世は個性が宿ると信じて、ワンチャンダイブ」
彼はそう言い、黒焦げになったノートを窓から投げ捨て、帰っていった。
◆
かっちゃんに爆破されたノートを拾って帰路に就いた
「屋上からワンチャンダイブなんて、自殺教唆だろ。ヒーロー志望なら考えて発言しろよ、まったく....」
誰もいないけれども、つい愚痴ってしまう。
「Mサイズの...隠れ蓑!」
そんなか弱き少年を、陰から見る者がいた。
気づくと僕は、後ろから現れた、ヘドロの中に飲まれていた。
「うぷっ.....がはっ.....」
「大丈夫、苦しいのは45秒ぐらいだ」
ケタケタと、気持ちの悪い笑い声が聞こえた。
もうだめかもしれない.....
そう考え始めたときに、目の前のマンホールが、はじけ飛んだのが見えた。
「デトロイト......スマッシュ!!」
腕をつかまれた感覚と、強い突風が、全身を撫でる感覚とが同時にやってきた。
目を開けるとそこには、No.1ヒーローオールマイトが立っていた
「もう大丈夫だ少年、なぜって?私が来た!」
「おおおおおお、オールマイトぉ!?」
「じゃ、私は忙しいからね」
オールマイトは、その場から足早に立ち去ろうとする。
「待ってください!あなたに聞きたいことがあるんです!」
「いや待たな「無個性でも、ヒーローになれますか?...あなたみたいになれますか?」
オールマイトは、困ったような顔をして、ゆっくりと口を開く。
「プロは、いつだって命懸けだよ、少年。とてもじゃあないが、無個性でも成り立つとは言えないな。
夢を見ることも悪くはないが、相応に現実を見なくてはな、少年」
そういうと、オールマイトは飛んで行ってしまった。
家に帰ると、饗香が出迎えてくれた。
「ただいま~」
「お帰り出久」
僕たちはこの数か月で、下の名前で呼び合うほどになった。
「どうした、なんか暗いよ?学校でなんかあった?」
どうやら僕は隠し事ができないようだ。
「うん、実は......」
僕は、今日あったことをすべて話した。
話すと、なんだか心が軽くなった気がした。
途中何度か、響香の顔がゆがんだが、最後まで黙って聞いてくれた。
「それがどうした!オールマイトに言われたぐらいで、夢あきらめちやうの?出久にとってヒーローてそんなもんなの?」
「うん、...ありがとう!」
「じつはさ、ウチも....雄英志望なんだよね」
「じゃあ、一緒に頑張ろう!」
そう決意を固めていると、部屋に飾ってあった、ブラッティローズが、ひとりでに音を奏ではじめた。
「えっ、なっなに!?」
驚いている僕たちに向かって、キバットがとんできた
「出久!説明は後でする!とりあえず行くぞ!」
なぜか僕の頭には、どこに行けばいいのかが浮かんできた。
とりあえず、僕は止めてあったバイク、マシンキバーに乗り込んだ。
「私も行く!!」
響香は、僕の後ろにしがみついた
「しっかりつかまってて!!」
そういうと、さっき、頭に浮かんだ場所、近所の廃工場に向かった。
◆◆◆◆
俺は今、至極機嫌が悪い。
俺の完璧な人生計画が、よりにもよって、無個性の糞ナードによって邪魔されようとしている。
「しっかしあいつもいい加減現実見ろって話だよなぁ~」
「親に捨てられて、頭おかしくなったんじゃねww」
「うっせんだよ!あいつの話をすんな!」
自分の取り巻きにあたってもしょうがないが、このイラつきの発散の仕方を俺は一つしか知らなかった。
「おい、いつもンとこ行くぞ!」
いつものとことは、最近見つけた廃工場だった。
あそこは人が寄り付かないし、なかなかに広い。
思いっきり爆発させて、ストレス発散するにはもってこいの場所であった。
「うおらぁ!」
BOOOOOMB!!
「うわぁ、荒れてんなぁ~」
いつもの場所で、いつもよりも大きな爆発を起こす。
「ほう~、いい個性だ.....」
その様子を、少し遠目で見守る男がいた
男は、羽の生えた馬のような異形へと姿を変え、爆豪の方に向かった。
ストレスを発散していると、向こうから、馬面の怪物が歩いてくるのが見えた。
超人社会では、異形型の個性などで、人間とかけ離れた容姿の人間がいるが、それとはまた違う異形の存在だった。
「お前...いい個性だ...」
馬面は、どこからともなく剣を取り出して近づいてきた。
「おらぁ!死ねえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
俺はとっさに、個性を使って、攻撃した。
「やはり...いい個性だ!」
煙幕の中から声が聞こえる。
どうやら俺の攻撃は効いてないらしい。
「しぃぃぃぃねぇぇぇ!」
効いてないと解りつつも、俺は攻撃を続ける。
いつの間にか、普段は人のいない廃工場の周りに、ヒーローや警察が現れた。
どうやら俺の取り巻きの一人が通報したらしい。
「邪魔をするな!」
馬面がそう叫ぶと、背中から、透明な牙のようなものが飛んで行った。
「うっ......」
牙が、警官の首筋に刺さると、警官から色がなくなっていった。
完全に透明になった警官は、その場に倒れ、消滅した。
「きゃああああ」
「うっ打て!!」
警官やヒーローたちが一斉攻撃を開始するが、軽くいなされてしまっている。
次第に、ヒーローたちは後退していく
その時、見知った顔がこちらに走ってくるのが見えた。
◆◆◆◆
思わず、しっかりつかまってと言ってしまったが、さっきから背中に女性特有のやわらかいものを感じている。
本人は、小さいときにしているようだが、そんなことない。
そんな邪なことを考えていると、人だかりが見えた。
「いったい何が、.....!!」
人だかりの先を見ると、かっちゃんが焦った表情をして、馬の異形に応戦していた。
助けなきゃ、と駆け出すと、腕をつかまれた。
「待って、冷静になって。出久が行かなくても、ヒーローがこんだけいればなんとかなるって」
話していると、前の方から、うめき声と悲鳴が聞こえた。
今まで、応戦していたヒーローが後退してきた。
「何があったんですか?」
「警官が殺された、こちらの攻撃もほとんど聞いてない。相手の攻撃手段がわからない以上こちらとしては動けない」
ヒーローは悔しそうな顔をした。
その時、助けを求める顔をしているかっちゃんが見えた。
「出久!」
「おい!君!」
僕が走り出したと同時に響香や、ヒーローの声が聞こえた
「あぁ、まだ説明してないのに....しょうがない、キバっていくぜ!」
キバットが僕の横に出てきた。
「出久、手を出せ」
僕は言われたとおりにした。
「ガブっ」
キバットがかみついてきた。
すると、僕の腰あたりに、鎖が巻き付き、ベルトに変化した。
頭に戦い方が流れ込んできた。
「変身!」
キバットがベルトにとまると不思議な感覚が、体をめぐりコウモリを彷彿とさせる鎧のような姿へと変わる。
そのままの勢いで、馬面の異形、基ホースファンガイアに向かって、右ストレートを放った。
ファンガイアにあたった瞬間、手からは火花が散り、ファンガイアは大きく後退した。
そのすきに、ヒーローたちがかっちゃんを保護したのが見える。
横目で確認し、ファンガイアをしっかりと見据える。
すかさず、がら空きになったボディにラッシュを叩き込む。
最後の一発に思いっきり腰の入った右ストレートを叩き込んだ。
ファンガイアは倒れこむ。
赤いフエッスルを取り出し、キバットに咥えさせる。
「ウェイクアップ」
笛の音が流れると同時に辺りに夜の帳が下りる。
右足を思いきり振り上げると、キバットは右足にある鎖を解き放ち深紅に染まった翼があらわになる。
体が浮かぶような感覚とともに、右足から飛んでコウモリのようにさかさまになる。
気づけば後ろには、三日月が浮かび、僕を照らしている。
立ち上がったファンガイアに、急降下した僕のキックが入る
「はあぁぁぁぁぁぁ」
そのまま近くの壁まで押し付ける。
ファンガイアは、ステンドグラスのようにひび割れ砕け散る。
光の弾が宙をさまよい始めると、どこからともなく現れた、ドラゴンの頭と足が生えた洋館が光の弾をたべ、去っていった。
後に残ったのは、コウモリ型に沈んだ壁だけであった。
◆◆◆◆
一瞬だった。
出久が飛び出したかと思うとコウモリを彷彿とさせる鎧姿に変わった。
そのまま、馬型の異形を倒した。
人をかき分け、変身した出久が戻ってきた。
そのままバイクにまたがると、ウチを乗せて逃げるようにその場を後にした。
「出久、だよね?」
家に着いて勇気を出して聞くと、出久は元の姿に戻った。
「さっきの何?」
「自分でもよくわからないんだけど、あの姿は"キバ"っていうらしい」
「それって、個性?」
「いや、違う。鎧みたいなもの...らしい」
「らしいって....じゃあ、さっき戦ってたのは?」
「あれは、ファンガイア。人間に紛れて生活していて、人間の生命力、ライフエナジーを吸って生きてるんだ。
ライフエナジーを全部吸われた人は、体が透明になって消えてしまうんだ。」
「ふ~ん、ていうかなんでそんなこと知ってんの?」
「よく、わかんないんだけど、キバットにかまれた瞬間全部わかったんだ」
幼い顔で笑う彼の横顔は、今までと変わらない優しい笑顔で、少し安心した。