3人も早起きして朝ぶろを堪能します。
宿の美味しい朝食を食べたら、奥志賀草津道路にある日本の国道の標高最高地点へ。
エリカと西が、小梅に山道の走り方をいろいろと教えてくれます。
小梅が目を覚ましたのは、まだ日が昇らない時刻だった。昨夜は、布団に寝っ転がってお喋りをしているうちに、気づけば西が鼾をかいて寝落ちしてしまった。そこで、エリカからもう寝ましょうと言われ、電気を消したのだった。
横を見ると、西が、乙女とはとても言えないようなあられもない姿で大鼾をかいている。エリカは、なぜか、枕とは逆の方向に頭がある。2人とも、昨日のツーリングや温泉三昧で疲れていたのだろうか。
小梅は、西のはだけた浴衣をなおして、布団をかけてあげてから二度寝を決め込んだ。
次に小梅が目が覚ました時には、窓から見える山の向こうからようやく太陽が顔を出すところだった。
驚いたことに、西はすでに起きており、丹前を羽織って、窓際の籐椅子でお茶を飲みながら窓の外を見ていた。
「あ、申し訳ございません、起こしてしまいましたか。」
「いえ、大丈夫ですよ。お早うございます、西さん。」
「お早うございます。旅に出るとなぜか早起きしてしまいます。」
「そうですね。一日を目一杯楽しむには、早起きしたほうがいいですもんね。」
小梅も窓際の籐椅子にかけて、西が淹れてくれた熱いお茶を飲む。
2人の気配を感じたのか、寝ていたエリカがもぞもぞと起き出し、寝ぼけ眼で2人のほうを向いた。
「ふわぁ。お、お早うございます。」
エリカが、寝ぼけ眼で布団から這い出してきた。上下逆さまで寝ていたことには気づいていないようだ。
「逸見殿、まずは熱いお茶をどうぞ。」
西がお茶を淹れると、エリカは、まるで芋虫のように這いつくばりながらじりじりとにじりよって来た。
「ありがと。結構冷えるわね。熱いお茶が美味しいわ。」
西が淹れてくれたお茶を飲んで、ようやく人心地ついたようだ。
「やっぱり標高が高いから、明け方は冷えますね。」
「もう少ししたら、朝風呂に行きましょう。冷気の中で入る露天風呂は格別です。」
「そうね。温泉に来たら、朝風呂は外せないわね。」
もう一杯お茶を飲んで体を内側から温めてから、丹前を羽織って浴場へと向かう。
「いきなり露天風呂に行くと寒いから、まずは内風呂で体を温めたほうがいいわよ。」
かけ湯で体を流してから、まずは内湯に浸かる。十分に体が温まったところで、露天風呂へと向かった。
ドアを開けると、浴場の温かい空気から一気に冷えた外気にさらされた。体が冷えないうちに急いで露天風呂に入り、肩までお湯に浸かる。
「ふう、気持ちいいですね。」
「体も温まるし、目も覚めますね。」
「首から上が出ていると、冷気で頭が冷えるからのぼせにくいのよ。」
見上げると、先ほどまで向かいの山の陰で暗かった山肌に日が射してきていた。空には一片の雲も見当たらず、今日も天気は良さそうだ。
「昨日、晩御飯をあれだけ食べたのにもうお腹が空いてきました。」
「食事処が開くのは7時からって書いてありましたね。」
「そんなに混まないとは思うけど、食欲があるんだったら早めに食べに行きましょう。食べた後に食休みを長めにとったほうがいいし。」
昨夜ほどではないが、お湯に入ったり出たりを繰り返して十分に体を温めてからお風呂を出る。
来るときは丹前を羽織っても少し肌寒さを感じるぐらいだったが、お湯に浸かってよく温まったからか、体がぽかぽかとしていた。
部屋に戻って、冷水で喉の渇きを潤してから、寝床を片付ける。とは言っても、布団を二つ折りにして隅に寄せただけだが。
「あ、小梅、さっき温泉で使ったタオルだけど、よく水洗いしてタオル掛けに干しておきなさい。」
「え?どうしてですか?」
「これが後で役に立つのよ。」
言われたとおり、タオルを洗って干しておく。
テレビでニュースや天気予報を見て時間を潰し、7時少し前に食事処へと向かった。
入り口から焼き魚の香ばしい匂いが漂ってきて、否が応でも空腹を感じさせられる。
用意された席に着くと、焼き魚に玉子焼き、納豆、刺身蒟蒻、小松菜のお浸しなど、和食の朝ごはんが並んでいた。漬物も何種類か添えられている。お櫃を持って来てくれた係の人が固形燃料に火を点けたので、聞いてみると、この場で豆乳から作られる豆腐が食べられるらしい。
西が、3人分のお茶を淹れてくれたので、ようやく準備が整った。
「「「いただきます!」」」
「あ、花豆もある!」
昨日の夕食で出た花豆がすっかり気に入った小梅は、朝食にも花豆が出ていたので、とても嬉しそうだ。
西は、漬物だけですでにご飯を食べ終わっており、お櫃からお代わりをよそっている。
普段、朝食はそれほどたくさん食べない小梅も、箸が進むようで、おかずが半分ぐらいになったところでお代わりをする。
「エリカさんもお代わり、いかがですか?」
「ありがとう、いただくわ。」
やはり、宿の朝食というのは食欲を刺激するものらしい。固形燃料で温めていた豆乳も、いい感じで豆腐になっていたので、出汁醤油や小葱、生姜を添えて頂く。
「やっぱり朝食は和食に限りますね。知波単の寮でも朝食は和食です。」
「黒森峰は自室で朝食を作って食べるんだけど、聞いてみたらシリアルとかパンとコーヒーってのが多いわね。」
「知波単の朝食がトーストとコーヒーというのはさすがになさそうですね。」
「はい、銀シャリに漬物、海苔、御御御付けです。」
「なんだかすごくシンプルな朝ご飯ね。」
「我が知波単は、質素倹約を心がけておりますので。あ、でも、米には結構こだわりがありまして、千葉産の長狭米や多胡米などを使っております。それに、漬物も、農業科の皆さんが漬けられた梅干しやしば漬け、それに、落花生の甘味噌漬けなどもあるんですよ。」
「そう聞くと、すごく豪華な感じがするわね。」
「黒森峰は、みんなで朝ご飯を食べるのって、合宿の時ぐらいしかありませんね。」
「そうね。西住隊長が一生懸命納豆を混ぜているのが、すごく新鮮だったわ。」
「ほう、熊本でも納豆を食べるのですか。」
「ええ、意外に思われるかもしれませんが、熊本県は納豆の消費量がすごく多いんですよ。」
食後は、コーヒーを飲みながら、この後の予定について再度打ち合わせる。
「午前の早いうちに、国道の最高標高地点に行っておきたいわね。」
「そこからは、草津に戻ってくるんですか?」
「いいえ、万座温泉のほうに下って、万座ハイウェイを使って万座鹿沢口まで下るの。そこからは、昨日走った国道を戻って渋川ICまで出るのよ。」
「やはり、行きとは違うルートのほうが楽しいですね。」
「ここから先は、万座鹿沢口までガソリンスタンドが無いから、草津を出る前にガソリンを入れておきましょう。」
部屋に戻り、半時間ほど食休みでゆっくりした後、身支度をして出発の準備をする。エリカは、各自のヘルメットにフル充電したインカムをセットしている。
準備ができると、念のために部屋の中を隅々まで見て回り、忘れ物がないかを確認する。幸い、荷物は全てバッグの中やバイクウェアのポケットに仕舞っているので、忘れ物はなかった。
番台で会計を済ませ、ブーツを履いて駐輪場に向かう。屋根つきの駐輪場だったので、夜露にも濡れていない。ただ、昨日走ったときについた汚れがタンクやフェンダーに残っていた。シートも少し埃が付いている。
「さっき洗ったタオルで拭けばいいのよ。」
「なるほど。このためだったんですね。」
「タオルで拭きながら、いろんなところを点検するんですよ。出発前の点検は大事です。ボルトの緩みも見つけられますし。」
西がそう言って、ボディを拭きながらミラーや風防のボルトに緩みが無いかをチェックしている。
小梅のバイクはネイキッドタイプのため、エリカや西のバイクと比べると拭く面積が少ないので、ひととおり拭き上げるのにそれほど時間はかからなかった。
ただ、ミラーの根元のネジが少し緩んでいる気がしたので、車載工具を取り出して、左右共に増し締めをした。
「あれ、エリカさん、何をしてるんですか?」
「タイヤの空気圧をチェックしてるの。そうそう抜けるもんじゃないけど、念には念を入れてね。」
「空気が十分に入っていない場合は、ガソリンスタンドで入れられますからね。」
小梅もエリカからゲージを借りて、エアバルブを緩めて差し込む。買ったばかりのバイクなので、空気圧は特に問題無いようだった。
ものの10分ほどで拭き上げと運行前点検を済ませ、荷物を固定してから、ヘルメットを被って出発した。
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途中のガソリンスタンドでガソリンを満タンにしてから、292号線を長野方面に向かって走る。
スキー場の駐車場を過ぎたあたりから、道が本格的な山岳道路になってきた。連続したカーブを慎重に曲がりながら、標高を稼ぐ。
小梅は、昨日エリカに言われたとおり、1段低いギアでアクセルを強めに吹かしながら走っている。
前を行くエリカのバイクが、カーブの手前でスピードを落とすのでブレーキランプが光るのが見える。そのタイミングに合わせて小梅も減速する。ただ、上り坂のため、それほどブレーキをかけなくても速度が落ちるので、すぐにギアを落とす。
「ここから先はカーブが連続するから、少し間隔を開けなさい。」
エリカがインカムで指示を出す。
「赤星殿、いい感じで走れてますよ。昨日よりも車体の操作にムラがありません。」
西も、後ろから赤星の運転を見た感想を伝えてくる。
「カーブを曲がり切るところでアクセルを回して加速すれば、自然と車体は立ち上がるわよ。」
言われたとおりにカーブが終わる直前でアクセルを捻ると、うまくカーブを曲がり切れるようになり、エリカとの車間距離がそれほど開かなくなった。
殺生河原を過ぎたあたりから、カーブが連続して現れる。おまけに、火山帯で硫化水素の有毒ガスが噴出するエリアを通るため、停車禁止の看板まで出ている。確かに、硫黄の匂いがあたり一面に漂っている。
草津スキー場のゴンドラの下をくぐると、さらにカーブが増えて来た。ただ、あたりは低木帯になっており、視界がかなり開けているので、カーブの先が良く見渡せる。ヘアピンカーブでは、ギアを1速にまで落とさないと登れないようなところもあったが、慎重にギアとアクセルを操作して、バイクを駆る。
万座温泉への分岐を超えると、次第に勾配が緩やかになってきた。
「この先の道は、5月の連休の時期は雪の回廊って言って、道の左右に雪の壁ができるみたいよ。」
「おお、一度見てみたいですね。」
ヘアピンカーブを曲がると、前方に駐車スペースが見えて来た。
「石碑の手前にバイクを停めるわよ。路面が少し斜めになってるから、気をつけなさい。」
ウインカーを出して、駐車帯にバイクを乗り入れる。まだ午前中だからか、他に車やバイクはいない。
「ここが日本の国道の最高地点なんですね。」
「標高2172mって書いてあります。」
ガードレールから広大な景色を見ると、下の方には少し雪だまりが残っていた。遠くには、先ほどまで走って来た道が下の方にわずかに見える。
目の前の山裾を、雲が下から湧き上がってきて、一瞬雲に隠れるが、風に飛ばされてすぐに視界が開ける。
「ちょうど誰もいないから、石碑の前にバイクを持って来て写真を撮りましょう。人が多いとなかなか撮れないのよ。」
エリカがそう言って、まずは自分のバイクを押して石碑の前に停める。エリカからスマホを受け取った小梅が「日本国道最高地点 標高2172m」と書かれた石碑をバックに、エリカとバイクの写真を撮る。
その後は、順番にバイクを押してきて、各自の記念写真を撮影した。撮影が終わると、バイクを石碑から少し離れたところに戻す。
「他の人たちもこの石碑を背景に写真撮りたいだろうから、バイクとか車はできるだけ離れて停めるのがマナーよ。」
幸い、他の観光客はまだここには来ていない。
「せっかくだから、3人で並んで写真を撮りたいんだけど、お願いできる人がいないわね。」
しばらく、ペットボトルのお茶を飲んだり、風景の写真をスマホで撮ったりしていると、先ほど来た道から、1台の車が駐車帯に入って来た。車を隅の方に停めると、運転席から体格の良い、茶髪の男性が降りてきた。
「あのー、すみません、写真を撮ってもらえますか?」
「いいですよ。その石碑を背景にすればいいですか?」
「ええ、お願いします。」
エリカがその男性にスマホを渡して、3人で石碑の前に並ぶ。
「では、撮りますよ。」
そう言って、男性がスマホをタップすると、シャッター音が聞こえた。
「もう1枚、撮りますね。」
今度は、腰をかがめて、低めの位置からのカットで同じように写真を撮る。
「念のために、画像を確認して下さい。」
スマホをエリカに返しながら、男性が言った。エリカがスマホの画像フォルダから先ほど撮った写真を表示すると、西と小梅も覗き込んできた。
「うん、バッチリです。」
「石碑と青い空もきちんと入ってます。目も瞑っていません。」
「ありがとうございました。」
「どういたしまして。」
気が付けば、30分近くここにいたが、そろそろ出発しようということになり、準備をする。
「さっき通った、万座温泉への分岐で右折するからね。」
インカムからエリカが道を説明する。
反対側から車が来ていないことを確認して、3台で走り出す。先ほどの男性が車の前にいたので、3人は軽く頭を下げた。男性も、手を振りながら見送ってくれた。
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来た道を少し戻り、万座温泉方面への道に曲がる。
下りのヘアピンカーブがいくつもあり、バイクに慣れていない小梅は曲がるのに苦労している。
「下り坂はスピードが出やすいから、基本的に2速で走ってください。ブレーキはリアを使って。フロントブレーキは使わないように。」
インカム経由で西が走り方を教える。
それでも、時々センターラインを越えそうになってしまう。
「左に曲がるインコースはカーブがきついから、ゆっくりと曲がればいいわよ。それと、リーンアウトにすればバイクを扱いやすくなるわよ。」
「リーンアウトってどうやるんですか?」
「車体を傾けるのと反対方向に体を出すの。まあ、体はそのままにして車体だけを傾けるような感じね。次のカーブでやってあげるから、見ててごらんなさい。」
小梅の少し前を走るエリカが、ヘアピンカーブの前で減速する。かなり低い速度でカーブに入り、体を地面にたいして垂直に近い状態で、車体だけを傾けて左へと曲がっている。車線のほぼ外側、路側帯近くを小さく回ってカーブを抜けて行くのが見えた。
続く小梅も真似をしてみたが、車体と体のバランスがうまく取れずに、センターラインぎりぎりまで膨らんでしまう。何度か試しているうちになんとなく傾け方が掴めてきたが、次第にカーブが緩くなり、気が付けば万座温泉のホテルの案内看板が見えて来た。
「やっぱり、速度がうまく落とせなくって、曲がる時に膨らんでしまいます...」
「まあ、まだバイクに乗り慣れていないから車体を扱いきれてないんじゃない。乗り慣れたら、結構簡単にできるようになるわよ。」
「聖グロのダージリン殿風に言えば、習うより、慣れろ、ですね。」
万座温泉は、温泉街ではなく、いくつかのホテルがあるためか、道沿いに広い駐車場が見える。中には、細道に入った奥に建物があるようなホテルもあり、曲がり角に大きくホテル名を掲げた看板が立てられている。
「ここの温泉って、白い濁り湯の硫黄泉で、すごくいいらしいわよ。」
「景色も良くって、露天風呂に入ると気持ち良さそうですね。」
「ホテルのホームページを見たんだけど、浴場が何か所もあるそうよ。中には、混浴もあるみたい。」
「混浴はちょっと、恥ずかしいかな。」
「殿方と一緒に入るのは、私もご遠慮願いたいです。」
「将来、彼氏ができたら、一緒に混浴の温泉に入ってみたいような気もするわね。」
「エリカさん、結構大胆なんですね。」
「いいじゃない!あくまで希望よ!まあ、そんな日が来るかどうかはわからないけどね。」
万座温泉を過ぎると、万座ハイウェイの案内標識が見えた。
「ここから先は長い下り坂だから、スピードの出し過ぎには注意しなさい。」
「速度の調整は、リアブレーキとエンジンブレーキをうまく使うんですよ。」
インカムからエリカと西の声が聞こえてくるので、それに従って走る。すでに標高が下がっているからか、それほど険しい山岳道路ではなく、整備された広い道が続く。カーブもあまりきつくなく、油断しているとスピードが出てしまうので、時々リアブレーキで速度を下げながら走る。
樹林帯の中の開けた道を快適に走り、嬬恋エリアに入ると、料金所が見えて来た。
「私がまとめて支払っておくから。後で精算しましょう。」
エリカが料金所でバイクを停めて、係りの人に3人分の通行料を支払う。料金所を過ぎると、ゴルフ場の中を走る道になった。
「もうすぐ終点よ。」
一時停止のところで止まり、左右を確認してから右折する。町中を走り、吾妻川を渡る橋を越えて、406号線に入る。少し走ったところにコンビニがあったので、休憩のために入る。
「いやあ、走りごたえありましたね。」
缶コーヒーを飲みながら、西が小梅に言った。
「景色もすごく良かったです。遠くに浅間山が見えて。」
「頂上から少しだけ噴煙が出てたわね。」
小梅とエリカもコンビニで買った飲み物を手に、先ほどまでの道について話す。
「やっぱりまだカーブは苦手です。」
「でも、ギアの使い方はかなり慣れたように見えました。」
「直線ではきちんとスピードも出ていたし、メリハリのある走り方ができてたんじゃない。」
「昨日よりは慣れたかな、と思います。」
「でも、慣れたころが一番危ないから、ここから先も気を引き締めて行くわよ。」
「ところで、今日のお昼ご飯はどこで食べるのでしょうか。」
時計を見ると、お昼にはまだ時間が早いが、すでに朝ご飯はこなれていた。
「ここから渋川ICに行く途中に美味しいお蕎麦屋さんがあるから、そこで食べましょう。」
「昨日はうどんで、今日はお蕎麦ですね。」
「物足りなかったら、高速のサービスエリアで何か食べましょう。」
コンビニを出て、406号線を東に向けて走り、途中で145号線に入ると、昨日走った道に戻ってきた。そこから少し走ったところで、目当ての蕎麦屋さんに入り、昼食にざる蕎麦と天ぷらのセットを食べる。
食後の蕎麦湯を飲みながら、帰りのルートについてエリカが説明する。
「ここからは、昨日来た道を戻る感じで走るんだけど、渋川ICの手前でガソリンを入れたほうがいいわね。」
「今から出ると、渋川ICには2時ぐらいに入れそうですね。」
「上里SAで休憩して、その後は三芳PAで解散かしらね。」
「渋滞が無ければ4時までには着けそうですね。」
「首都高速は少し混むかもしれないわね。」
「じゃあ、そろそろ行きましょうか。」
渋川ICから高速に乗り、高崎JCTを超えたあたりから、徐々に車の量が多くなってきた。
交通情報の電光掲示板には、鶴ヶ島JCTあたりで少し渋滞があると示されていたが、今のところはスムーズに流れている。
藤岡JCTでは、上信越道から入って来る車が多く、その間を縫うようにして左車線に入り、神流川の橋を越えて、休憩のために上里SAに入った。
「やっぱり週末はどうしても混むわね。」
「首都圏は、どこに行っても渋滞にあうのは覚悟しないといけませんね。」
「まあ、混んだら混んだで、のんびりと行きましょう。」
その後は、東京に近くなるに従って交通量が多くなり、電光掲示板でも何か所か渋滞を示す案内が出ていた。ただ、完全に止まってしまうことはなく、速度が40km程度に落ちるぐらいで、渋滞の中でもそれほどのストレスは感じなかった。それに、インカムで話をしながら走っていたので、渋滞もさほど気にはならなかった。
何か所かの渋滞を抜けて、三芳PAに着くころには、空には夕焼けが広がっていた。
「今日はお疲れ様でした。初めてのツーリングでしたが、とても楽しかったです。」
「こちらこそ、お誘いいただき、ありがとうございました。」
「西さんが後ろから、私の走りを見ていろいろとアドバイスしてくれたので、なんだか少し上達したような感じがします。」
「実地で練習できたから、この2日で結構上手く乗れるようになったんじゃない。」
エリカは、西のヘルメットからインカムを外してヘルメットを返した。
「このインカムって、すごく便利ですね。今度、福田と遠乗りに行くときに使ってみます。」
「スマホとか携帯プレイヤーと繋げば、音楽も聴けるわ。ナビと繋げれば、音声案内も聞けるそうよ。」
「確かに、一人で走る時には、音楽があると楽しそうですね。」
「イヤホンを付けて走るのは違反になるらしいけど、ヘルメットにスピーカーを付けて聞く分には大丈夫みたい。」
「いやあ、勉強になります。」
話は尽きないが、あまり長居すると首都高速の渋滞に巻き込まれるので、解散することになった。
「では、道中、お気をつけて。」
「西さんもね。今度会う時は、バイクじゃなくって戦車に乗っていると思うけど。」
「また、ツーリングに行きましょう。それまでにもっと運転上手くなっておきます。」
関越道から外環道に入り、西は外環道をそのまま千葉方面へ、エリカと小梅は美女木JCTから首都高速へと別れた。
「今回のツーリング、とても充実してました。」
「私も、これだけ距離を走ったのは久しぶりね。」
「またみんなとツーリングに行きたいです。」
「学園艦が近くに停泊する機会はなかなかないけど、寄港したところでまたツーリングに行きましょう。」
「今度は、みほさんともツーリングに行ってみたいな。」
「あの子はバイクに乗るような柄じゃないわよ。この間も西住隊長とタンデムだったし。」
「じゃあ、エリカさんが乗せてあげればいいんじゃないですか。」
「そうね。確かに、1人より2人、2人より3人のほうが楽しいのよね。」
「他の学園の人たちとも走りたいですね。」
「西さんが言ってたけど、福田さんとか、聖グロのオレンジペコさん、ローズヒップさん、それと、大洗の澤さんだったかしら。でも、小型二輪とか原付だから、一緒に走るのは難しいかもしれないわね。」
「一緒に走れなくても、どこかにバイクで集合して、みんなでお昼ご飯を食べるってのもいいかもしれません。」
「そうね。じゃあ、関東圏でそんな感じで行けるところを探しておくわ。」
「お願いしますね。」
首都高速のトンネルを抜けると、東京湾に浮かぶ学園艦が遠くに見えて来た。
楽しかった1泊温泉ツーリングももうすぐ終わり。小梅とエリカは、明日からの戦車道の訓練のことを考えながら、連絡船が着く日の出桟橋へとバイクを走らせた。
草津は、関東圏からなら日帰りでも行けますが、やっぱり1泊してゆっくりと温泉に浸かりたいですね。
あと、軽井沢から入ると、つまごいパノラマラインという、嬬恋高原を走る快適なルートがあります。ここを走ると、嬬恋高原ってすごく広いんだなあと思います。
万座温泉もいいですよ。着ている服が全部硫黄くさくなってしまいますが。
次回は、ちょっと趣向を変えたお話にする予定です。