ガルパンバイク部のお話   作:日本を鳥戻す

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久しぶりの投稿です。

ただ、今回は、バイクはあまり登場しません。
その代わり、オリキャラを投入して、大洗町や大洗女子学園、大洗女子学園艦の様子や、戦車道を取り巻く環境などを、妄想を全開にして書いてみました。

タイトルから、オリキャラが誰かって、だいたい想像つきますよね。
あと、以前書いた伏線もここで回収しています。

書いているうちに、戦車道のことをいろいろと思いついたのでかなり長くなってしまいましたが、ご容赦のほどを。


愛娘に会いに大洗までツーリング

常磐自動車道の守谷サービスエリアで、蝶野亜美は缶コーヒーを飲みながら、待ち合わせ相手を待っていた。

陸上自衛隊富士学校富士教導団戦車教導隊一等陸尉、蝶野亜美。大洗女子学園の戦車道の教官でもあり、定期的に大洗女子学園を訪問して戦車道の訓練を指導している。

ただ、今日は訓練指導のためではなく、久々のオフで趣味のバイクツーリングで大洗に向かうところだ。

大洗女子学園には戦車道の指導で何度も訪れているが、それはあくまで学園艦への訪問であり、大洗の町にはほとんど行ったことがない。聞けば、大洗には新鮮な海産物がたくさんあり、おまけに地酒も美味しいらしい。東京からもそれほど遠くはなく、週末を海沿いの町で美味しい魚と美味いお酒で過ごすのも悪くないと思ったのだった。

それと、蝶野が大洗に行く日に知り合いも大洗に行くと連絡があり、では一緒に現地まで走りましょうということで、ここ、守谷サービスエリアで待ち合わせたのだった。

 

ほどなく待ち合わせていた相手がバイクで到着した。軽く会話を交わし、相手が少し休憩した後、2台でサービスエリアを出発した。

相手のバイクはアメリカンタイプの大型で、長旅だからか、パニアケースの上にも大きなバッグをくくりつけている。

お互いバイクを運転しているため会話はできないので、蝶野は大洗に着いたら何を食べようか考えながら、ひたすらアクセルを捻って大型バイクに遅れないように北関東自動車道を走った。

 

水戸大洗ICを出て国道51号線を走り、側道に入って涸沼川にかかる橋を渡り、大洗駅入口の交差点を右折すると、大洗駅に着いた。

 

「あそこで学園艦への入艦申請を受け付けています。事前申請が必要だそうですが、当日受付もあります。まあ、生徒の保護者であれば、特に問題はないと思いますよ。」

 

大洗駅の横のテントには十数人ほどの列ができており、その横では長机で書類を記入している人達がいた。テントの中では、大洗女子学園の制服を着たおかっぱ頭の子達が受け取った書類を確認して、引き換えに小さなカードを渡している。おそらく、あれが入艦許可証だろう。

 

「では、私はこちらで。町営駐車場にバイクを停めて、ちょっと大洗の街中を散策しようと思います。あ、娘さんにくれぐれもよろしくとお伝えください。再来週にはまた訓練指導で伺いますので。」

 

そう言い残すと、蝶野は再びバイクのエンジンをかけて、走り出していった。

 

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「どう、今日は結構多いんじゃない?」

 

来訪者が途切れたところで、大洗女子学園風紀委員、金春希美、通称パゾ美は、受付の子に話しかけた。

 

「はい、現時点で見学者が32名、学園生徒の保護者が182名です。」

 

大洗駅前に設けられた学園艦訪問受付案内所では、大洗に寄港した学園艦への入艦申請を処理している。

学園艦のセキュリティ上、入艦者は事前に申し込んだうえでここで受付を済ませ、入艦許可証を受け取る必要がある。当日でも入艦申請はできるが、その際は身分証明証などで確認してから許可証を発行している。学園艦の乗艦口でこの入艦許可証を見せることで、初めて学園艦に乗艦することができるのである。

この入艦証の発行業務は風紀委員会が担当しており、今日も受付に3名、その管理者として1名の体制で、朝から案内所で来訪者の受付業務を処理していた。

 

パゾ美は、普段は戦車道の訓練に参加しているのだが、このように風紀委員の仕事がある時は、こちらを優先させることがある。特に、今日は土曜日で来訪者も多くなることが予想されていたため、業務に慣れたパゾ美が受付業務の管理者として派遣されていた。

 

学園艦の寄港は、通常は週末の2日間程度だが、母港に停泊する時は、生徒が実家に帰ったりするのと、物資の搬入や艦のメンテナンスなども行われるため、少し長めに停泊する。今回も週末を挟んだ7日間の停泊が予定されている。今日は土曜日なので、地元の生徒の保護者が自分の子供たちに会いに来るためか、いつもより訪問者が多くなっていた。

 

「保護者の中で、当日の申請分はこちらの15名です。身分証明書の確認も済んでいます。」

 

受付の子から書類を受け取ったパゾ美は、さっと目を通した。

 

「まあ、年頃の子達は親に来られるのを嫌がるかもしれないし、親御さんもそれを見越していきなり訪問することもあるからね。」

 

「そうですね。でも、事前に申請してもらったほうがこちらとしては楽なんですが。」

 

「まあ、そうね。えーと、えっ?こ、この人、に、にしずみぃ!」

 

「どうかされたんですか?」

 

「ちょ、ちょっと、そど子とゴモヨに連絡しなきゃ。」

 

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「では、一列縦隊で倉庫に戻りましょう。この後は整備訓練ですので、戦車を所定の位置に停めた後は、レオポンさんチームの指示に従ってください。」

 

走行訓練を終えて、隊長の西住みほは、咽喉マイクを通して各車輌に指示を出した。訓練場から戻る時も、あんこうチームのⅣ号を先頭に、綺麗な一列縦隊で戦車倉庫に向かう。

 

戦車倉庫が近づいてくると、扉の横で女子生徒が1人、戦車が戻って来るのを待っているのが見えた。Ⅳ号の次に入って来たヘッツアーのハッチから、広報担当の河嶋桃が顔を出して「どうしたんだ?」と女子生徒に声をかけたが、戦車のエンジン音で聞こえなかったようだ。

 

「どうしたの?〇〇さん?」

 

ヘッツアーを停めて降りてきた生徒会副会長の柚子がその子に声をかけた。

待っていたのはどうやら生徒会のメンバーだったようだ。だが、何か用事があれば携帯に連絡が入るので、戦車倉庫にまで来るのはかなり珍しい。

 

「保護者の方が戦車を見たいからって、お連れしました。」

 

「どなた?」

 

「こちらです、あれ?いなくなっちゃった。」

 

気が付くと、生徒会の子が連れてきた人は姿を消していた。

そうこうしているうちに、他の戦車も続々と戻ってきた。他のメンバーが降りたのを確認して、みほがキューポラから降りようとしたら、視野に男性の姿が目に入った。そちらを見ると、みほは危うく足を滑らせそうになりながら、大声で叫んでしまった。

 

「お、お父さん!?」

 

その声を聞いたあんこうチームのメンバーがみほの視線の先を見ると、Ⅳ号の後ろに、背が高くてがっしりとした体格の、日焼けした顔の男性がみほを見ながらにこにこと微笑んでいた。

 

「やあ、みほ。」

 

「え?、みぽりんのお父さん?」

 

「はじめまして。みほの父親の西住常夫です。いつもみほがお世話になっています。」

 

他のチームメンバーも何事かとぞろぞろと集まって来た。

 

「あの、み、みなさん、しょ、紹介します。わ、私のお父さんです。」

 

ルノーB1Bisから降りてきたカモさんチームのそど子が、携帯にメッセージが入っているのに気付いた。どうやら訓練中は、戦車の振動と騒音で着信音に気付かなかったらしい。

 

「あ、パゾ美からだ。えーと、なになに、えっ?西住常夫さんっていう人が学園艦に入艦ですって?」

 

「確か、西住常夫さんって、伝説の整備士と呼ばれていて、戦車で直せないものは無いと言われてる人だよ!」

 

レオポンチームのナカジマが珍しく興奮していた。

 

「いや、伝説ってのはさすがにオーバーだけど、戦車の整備はそれが仕事だからね。」

 

「西住流で使っている戦車の整備は、ほとんどお父さんがやってるんだよ。たまに他の学校とか実業団のチームからも呼ばれて、整備指導もやってるんだ。」

 

みほが、自分の父親を誇らしそうに見ながら自慢げに説明した。

 

「でも、なんで大洗に?」

 

「ああ、仕事でいろいろと行くところがあってね。それが大阪だったり名古屋だったり、東京だったり。今はそれほど忙しくないから、じゃあ、思い切ってバイク旅行も兼ねて回ろうかな、と。それで、今朝、東京で仕事を済ませてから、大洗まで来たんだよ。」

 

「熊本からバイクで来たの?」

 

「いや、大阪まではフェリーで来て、そこからいろんなところに寄りながら東京まで来たんだ。東京だったら、少し足を延ばせば大洗だし、調べたら学園艦が1週間ほど停泊するそうだから、久しぶりにみほに会おうと思ってね。」

 

「もう、それだったら連絡くれたら良かったのに。」

 

そう言いながらも、久しぶりに父親に会えたみほはとても嬉しそうだった。

母親は、西住流家元でもあり、戦車道ではいつも厳しかったため、普通の親子のような触れ合いはほとんど無かったが、父親とは昔からとても仲が良かった。

その父親とも、大洗に引っ越してからは一度も会っていない。

 

「でも、みほの元気そうな様子を見て安心したよ。」

 

「うん、大洗での生活も、戦車道も、とても楽しいよ。」

 

「楽しむだけじゃなく、全国大会で優勝したり、大学選抜との試合で勝ったりしてたもんな。」

 

「でも、大学選抜の時はお姉ちゃんと一緒に戦ったから...」

 

そこに、杏が近づいて来て常夫に声をかけた。

 

「西住ちゃん、じゃなかった、西住さんのお父さん、ようこそ大洗女子学園にお越し下さいました。大洗女子学園生徒会長の角谷杏です。」

 

そう言って、杏にしては珍しく、両手を揃えて深々と頭を下げた。

 

「同じく生徒会副会長の小山柚子です。」

 

「広報担当の河嶋桃です。」

 

柚子と桃も、杏の横に並んで同じように頭を下げて挨拶した。

 

「ヘッツアーに乗っているカメさんチームだね。こちらこそ、みほがお世話になっています。この大洗でみほが笑顔を取り戻せたのはみなさんのおかげです。」

 

「みぽりん、じゃなかった、みほさんと同じクラスの武部沙織です。あんこうチームで通信手を担当しています。」

 

「五十鈴華です。砲手を務めさせていただいております。」

 

「秋山優花里です。装填手であります。」

 

「冷泉麻子です。操縦手です。」

 

あんこうチームのメンバーも常夫に挨拶したが、このままだと他のメンバーもひたすら挨拶することになりそうだったので、みほはそこで本来の役割を思い出したように言った。

 

「あ、あの、この後はまだ整備訓練もあるから、申し訳ないけどお父さんは後でね。」

 

「いや、せっかく西住常夫さんがいらっしゃるんだから、整備訓練を見学してもらおうよ。」

 

ナカジマがみほに期待の眼を向けながら提案した。

 

「ああ、できれば私も大洗女子学園の戦車を見てみたいね。」

 

「やったー!ご指導のほど、宜しくお願いします!」

 

こうして、残りの時間はチームごとに自分たちの戦車の整備に取り掛かり、常夫はそれを見学することにした。とは言っても、やはりそこは整備士、それぞれの戦車を見て回りながら、時には自ら工具を持って、エンジンルームに顔を突っ込んで整備しだす始末。

 

「すごく丁寧に整備されているね。これだけきちんと整備されていたら、そうそうトラブルになることは無いと思うよ。」

 

そう言いながら、Ⅳ号、ヘッツアー、M3リー、八九式などを一通り見て回る。

 

「いやあ、ポルシェティーガーなんて久しぶりだなあ。しかし、良くこの戦車をここまできちんと整備したね。」

 

「まあ、最初は地面にめり込んだり、モーターが過熱して火を噴いたりしていましたけど、少しずつ調整しながら癖を掴みました。」

 

「うん、いじっているうちにだんだんコツが掴めてくるようになるよ。エンジンは特に問題ないから、あとはモーターの過熱にさえ気を付ければ大丈夫だよ。」

 

「ナカジマさん、決勝戦の時、走りながら戦車を修理していたもんね。」

 

気が付くとみほがそばに来て、にこにこしながら常夫の整備を横から眺めていた。

 

「でも、西住さんのお父さんの整備を見ていると、まだまだだなあって思い知らされるよ。」

 

常夫の整備を間近で見ていたホシノが、顔についた油をタオルで拭きながら言った。

 

「ポルシェティーガーの足回りはエレファントとほとんど同じだから、何かわからないことがあれば黒森峰の整備チームに聞いてみてごらん。さすがに戦車道の戦術は教えてくれないけど、戦車の整備に関することだったら教えてくれるはずだよ。」

 

「そうだね。私からもお姉ちゃんにお願いしておきます。」

 

思いがけなく学園艦を訪問した常夫と一緒に整備訓練を行い、気が付けば訓練時間を少し過ぎていた。

 

「では、本日の訓練はここまでにします。使った工具を綺麗にしてから元の場所に戻して、解散して下さい。」

 

「各チームの担当者は、今日の訓練日報を忘れるんじゃないぞ!」

 

「桃ちゃん、今日はカメさんチームは桃ちゃんが日報担当だよ。」

 

「わかってる!あと、桃ちゃんと呼ぶな!」

 

「西住ちゃん、あとはよろしくねー。私達はまだ生徒会の仕事が残ってるから。では、西住さん、どうぞ、ごゆっくり。」

 

そう言って、杏、柚子、桃は、校舎の方に戻って行った。

他のチームも後片付けを終えると、かわるがわる常夫のところに来て整備を手伝ってくれたお礼を言ってから、チーム単位で帰って行った。

 

「ところで、お父さん、今日は泊まるところ、どうするの?」

 

「学園艦にも宿ぐらいはあるだろう?そこに泊まろうと思っているんだけど。」

 

「じゃあ、私の家に泊まりなよ。」

 

「えっ?いいのかい?」

 

「うん、ちょっと狭いけど。」

 

「じゃあ、ご厄介になろうかな。」

 

さすがに年頃の娘の家に泊まるのは嫌がられるかと思っていたが、みほから泊まっていいと言われて、常夫は安堵した。

 

「ねえ、みぽりん、お父さん、今日はみぽりんのとこに泊まるんだよね。」

 

「うん。」

 

「じゃあ、ごはん会はできないけど、良かったらあんこうチームでお父さんの歓迎会やらない?」

 

「私も西住殿のお父上からいろんな戦車のお話、聞きたいですぅ。」

 

「昔の西住さんの話とか、面白そうだ。」

 

「みほさんの小さいころのお話、興味があります。」

 

「ふえぇ!そんなの、恥ずかしいよぅ。」

 

「私もみんなから、みほが大洗でどんなふうに過ごしているのか、聞いてみたいな。」

 

「じゃあ、決まりね。場所は、いつものファミレスでいいかな?」

 

「う、うん、わかった。でも、お父さん、さっきの整備で服が油で汚れちゃったから、いったん家に来てもらって、着替えてからでいいかな。」

 

「じゃあ、6時ぐらいに集合ね。」

 

「お父さん、学校にはバイクで来てるの?」

 

「ああ、駐輪場に停めさせてもらっているよ。」

 

「バイクで行くんならヘルメット借りてこないと。」

 

そう言って、みほはまだ後片付けで残っていたレオポンさんチームのところに行き、ヘルメットを借りて来た。

 

「じゃあ、また後でねー。」

 

常夫のバイクの後ろに乗ったみほは、あんこうチームに見送られながら寮に戻って行った。

 

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常夫がシャワーを借りている間、みほは常夫の服を洗濯機にかけた、お風呂上りの常夫と冷たい麦茶を飲みながら熊本での近況を常夫から聞いていると丁度良い時間になったので、急いで洗濯物を干して、2人で歩いて待ち合わせのファミレスに向かった。

 

「おーい、みぽりーん、お父様、こっちだよー。」

 

「沙織、大声で人の名前を呼ぶんじゃない。」

 

いつもの席に、すでに4人は到着していた。

 

一方の真ん中に常夫が座り、その左側にみほ、右側に華、反対側には真ん中に沙織、その左右に麻子と優花里が座る。

 

「今日は私がご馳走するから、好きなものを食べて下さいね。」

 

常夫がそう言うと、華と麻子は目をキラキラさせながらメニューを見る。

 

「お父さん、華さん、結構食べるんだけど。」

 

「あら、みほさん、それだと私がとても大食いみたいに聞こえてしまいますわ。」

 

「五十鈴殿は健啖家ですから。」

 

「私は食後のデザートにケーキが食べられれば十分だ。」

 

注文するものが決まって、席のボタンを押すと係りの人が来て注文をとっていった。華は、さすがに友人の父親の前だから遠慮したのか、あるいは恥ずかしいからか、いつもよりは少な目の注文だった。それでもステーキセットのライスは大盛りにして、食後のデザートはケーキと抹茶ぜんざいを頼んでいた。常夫は、みほに許しを得て、生ビールを1杯注文した。

5人がドリンクバーからそれぞれ飲み物を持って来て、サラダバーから野菜を取ってくると(常夫にはみほが枝豆を取って来た)、沙織が常夫の歓迎会を開始する挨拶をした。

 

「みぽりんのお父さん、遠いところをお越しいただき、ありがとうございました。あと、今日の整備訓練、いろいろ教えていただいてとても勉強になりました。

みぽりんには私達あんこうチームがいるから、どうぞご心配なく。それでは、かんぱーい!」

 

「「「かんぱーい!」」」

 

ジュースが入った5人のグラスと、常夫のジョッキが掲げられて、歓迎会が始まった。

 

「まず最初に、あらためてみほがお世話になっていることのお礼を言わせて下さい。親としては、娘が遠く離れた、知り合いが誰もいないところで一人暮らしするのはやはり心配でした。でも、皆さんがみほの友達になってくれて、みほが戦車道に戻ってこんな風に楽しそうにしているのを見て、安心しました。みんな、本当にありがとう。」

 

そう言って、常夫は頭を下げた。

 

「いえ、私達こそ、お礼を言わせて下さい。みほさんが大洗に来て、みほさんと一緒に戦車道を始めたことで、私たちもそれまでとは違った道、それもとても素敵な道を進むことができました。」

 

「私も、戦車道を通してたくさんの友人ができました。これも、西住殿のおかげです!」

 

「私にとっても、戦車道は今ではなくてはならないほど大切なものになった。あの朝、西住さんに会ってなければ、今でもただの遅刻魔でしかなかったからな。」

 

「私も、最初は戦車なんてうるさくて油臭いし、女子高生がやるもんじゃないって思ってたけど、すっかりはまっちゃいました。」

 

「沙織さんは、戦車に乗るとモテるからって始めたんじゃありませんでしたっけ?」

 

「まあ、最初の頃はそうだったけど、今は彼氏を作るよりも戦車道のほうが楽しくなっちゃった。」

 

「おい、沙織、どうした。熱でもあるのか。」

 

そう言って麻子が沙織のおでこに手をつけると、みほ、優花里、華が大笑いした。

 

「ひっどーい、でも、戦車道で結果を出せば、彼氏なんてあとからいくらでもついて来るもん!」

 

「それは、どうかな。私もお姉ちゃんも、これまで彼氏なんてできたことないし、他の学校の人たちも彼氏がいるって聞いたことないから。」

 

「ええっ!そうなの?じゃあ、どうやって彼氏を作ればいいのよー!」

 

「それをなんとかするのが、沙織さんのモテ道なのでは?」

 

華のいつもの突っ込みで、一同大爆笑。

 

「まあまあ、確かに今は女子高だから周りに同年代の男性はいないけど、高校を卒業したら陸に上がるし、戦車道が盛んな大学だと整備は工学系の男子生徒が担当することもあるそうだから、そこで探すという手もあるよ。」

 

「お父さんも、お母さんの戦車を整備してたから仲良くなったんだよね。」

 

「えっ!その話、ぜひ聞かせて下さい!」

 

惚気話には目が無い沙織が目をキラキラさせて身を乗り出したが、

 

「沙織、今日は西住さんが大洗でどんな風に過ごしているのかを聞きたいって話だったぞ。」

 

と麻子がうまく話を逸らした。それを受けて、華がみほの普段の生活を話した。

 

「私が言うのも何ですが、みほさんは普通の女子高生として生活していらっしゃいますよ。授業もきちんと受けてらっしゃいますし、成績も、特に問題は無いようです。」

 

「まあ、ご飯が時々コンビニ弁当というのはどうかと思うけどね。」

 

と、沙織がみほの実態をさっそくばらした。

 

「みほ、そうなのか?ちゃんと自炊しなきゃだめだぞ。」

 

「あ、でも、たまにみんなで私の家に集まって、沙織さんに教えてもらいながら料理をいろいろと作って、ごはん会とかやってるから、料理も少しずつ身につけて行って、ます...」

 

「まあ、うちはしほさんも料理は苦手だからなあ。」

 

「では、西住家では普段の食事はどうされているのですか?」

 

「うちは、家政婦さんがご飯を作ってくれるから。」

 

「え?家政婦さんなんているの?」

 

「うん、菊代さんっていう、昔からうちにいる家政婦さんだよ。」

 

「菊代さんの作ってくれるご飯はすごく美味しいからなあ。」

 

「お母さんも何度か作ってくれたけど、塩と砂糖を間違えたり、お鍋を焦がしたり、結構失敗してたよね。」

 

「私のところも普段の料理は使用人が作ってくれますね。」

 

「あ、新三郎さんだっけ?」

 

「いえ、料理はそれを担当する者が別にいますので。」

 

それを聞いて優花里は、麻子と沙織に

 

「私達みたいな一般庶民とは違う世界ですね。」

 

と言ったが、華が

 

「でも、何でも家の者にしてもらうと、自分でやらなくなるので、それはそれで必ずしも良いとは言えませんね。」

 

「じゃあ、みぽりんには、これから私が料理を教えますので、ご心配なく!」

 

「あはは、お手柔らかにお願いします。」

 

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その後は、料理を食べながら、みほの好きなボコのテーマパークが大洗にあり、大学選抜の島田愛里寿と時々行っている話や、学校の授業の話、たまにお昼ご飯をⅣ号の上で食べる話や、普段の戦車道の訓練の話などを代わる代わる常夫に説明した。

 

「いろいろと教えてくれてありがとう。料理や、お小遣いをボコグッズに使いすぎるところはちょっと心配だけど、だいたい大丈夫そうだね。武部さん、みほにいろいろと料理を教えてあげてくださいね。」

 

「はい、まかせて下さい!」

 

料理をひととおり食べ終わり、デザートが来る前にみんなでドリンクバーに飲み物を取りに行った。常夫も、さすがにビールを2杯目ということはせず、コーヒーを持って来た。

 

これ以上さっきの話を続けると分が悪くなるので、みほは常夫に聞いた。

 

「お父さん、バイクで取引先を周るなんて珍しいね。普段は電車か飛行機で行くのに。」

 

「熊本でも特に急ぎの仕事がなかったから、久々にバイクでのんびりと走ろうと思ってね。」

 

「やはり、戦車の整備の仕事ですか?どんな戦車を整備されたんですか?」

 

戦車の話を聞けると思った優香里が期待するように身を乗り出して聞いた。

 

「いや、今回は整備じゃなくって、海外からの部品輸入の依頼や、取引先が開発した試作品の確認がほとんどだったね。あと、東京では戦車道連盟にも顔を出したんだ。理事長の児玉さんが相談したいことがあるからって。東京での用事が済んだら大洗に行くって話をしたら、児玉さんが皆さんにくれぐれも宜しくって言ってたよ。」

 

「大学選抜の時は理事長さんにいろいろとお世話になりましたからね。」

 

大学選抜との試合の時、最初はどこか頼りなく見えていた戦車道連盟理事長の児玉七郎だが、実は裏で西住流家元や蝶野と共に、他校からの短期転校や戦車の持ち込みの許可などで動いてくれていたというのを後で杏から聞いていた。

 

「児玉さん、私がバイクで大阪から東京まで来たって聞いたら、バイクを見せてくれって。あの人も若いころはバイクに乗っていたから。」

 

「えっ!理事長さんもバイクに乗ってらっしゃったんですか?」

 

華が驚いて、思わず口に手をあてた。理事長と言えば、いつも和服で、とてもバイクに乗っているようには見えないので、他のメンバーも同じように驚く。

 

「ああ、そうだよ。私が最初に児玉さんに会ったのも、実はツーリング先だったんだ。」

 

「そうなの?その話、初めて聞くよ。」

 

「そうだったかな。若いころ、ツーリングに行ったら道端にバイクを停めて困っていそうな人がいたから、手持ちの工具で直してあげたんだけど、それが児玉さんだったんだ。それで、話してみるとその人は戦車道連盟で働いているって聞いて、私も将来は戦車を整備する仕事に就きたいって話したのがきっかけで、それ以来のお付き合いになるね。」

 

「バイクがきっかけで知り合いになるって、本当に縁は奇なものですわね。」

 

「でも、やっぱりあの理事長さんがバイクに乗っているなんて、イメージできないなあ。」

 

沙織がつぶやくと、

 

「児玉さん、ジーパンに革ジャンで、サングラスの似合うおじさんだったな。」

 

「まるで、プロレスラーの蝶野正洋さんみたいですね。」

 

「あ、それで思い出したけど、大洗までは亜美さんと一緒に走って来たんだけど、亜美さんが再来週指導訓練に行くからって言ってたぞ。」

 

「あれ?じゃあ、蝶野さんは帰っちゃったの?」

 

「いや、今頃大洗の宿で飲んだくれてるんじゃないかな。」

 

「蝶野さんもバイクに乗ってらっしゃるんですね。」

 

「最近、バイクに乗ってる人多いよね。大洗だと澤さんと猫田さんが、この間、栃木にツーリングに行ってたし。」

 

「聖グロのローズヒップさんとペコちゃんもスクーターでラーメン屋さん巡りしているって言ってたよね。」

 

「お姉ちゃんとエリカさんも乗ってるし。赤星さんも免許を取ったって。」

 

「この間、日光から送ってくれたカステラ、美味しかったよ。しほさんもすごく喜んでた。」

 

「えっ?あれはお姉ちゃんが送ったんだけど。」

 

「差出人はみほになってたぞ。しほさん、それを見てすごく嬉しそうだった。」

 

「お姉ちゃん、私が送ったことにしてくれたのかな。」

 

「みほ、今回大洗に来たのは、しほさんから言われたのもあるんだ。みほが元気にしているか見て来て下さいって。戦車道を辞めたみほが大洗で戦車道を初めたと知った時は少し戸惑っていたようだけど、全国大会での優勝と、大学選抜との試合を見て、考えを変えたようだ。まあ、西住流家元としてはなかなか心の整理がつかないようだけど、母親としては娘がのびのびと戦車道をやって成果を出していることが嬉しいんじゃないかな。」

 

常夫は、みほと母親が和解することを望んでいた。それを見て麻子は、

 

「西住さん、一度、実家に帰ってお母さんとじっくり話したらどうだ。私が言うのも何だが、後から後悔しないように、できるだけ早くお母さんと和解したほうがいいと思う。」

 

と、真剣な眼で言った。華も、

 

「私も、戦車道を始めたことで一度はお母様から勘当されてしまいましたが、戦車道のおかげで新しい境地が開けて、その成果を形にすることで認めて頂きました。私にもできたのですから、みほさんにもできますよ。」

 

と、みほの不安を払しょくできるよう、自分の考えを話した。

 

「一度、熊本に帰って来なさい。その時は、できるだけお父さんも家にいるようにしよう。まほもその時は帰って来るだろう。」

 

「西住殿、自分ひとりでできない時は、周りの力を借りて進むのが私たちのいつものやり方じゃありませんか。」

 

「みぽりん、私達が一緒に行ってあげようか?」

 

それを聞いて、みほは、生徒会から呼び出された時、沙織と華が一緒に来てくれたことを思い出した。

 

「うん、もしかすると、お願いするかも。やっぱり一人だと不安だから。」

 

「うわぁ、西住流の戦車を見られるなんて、最高ですぅ!」

 

「ゆかりん、戦車を見に行くわけじゃないからね!」

 

「熊本には美味しいものがたくさんあるそうです。馬刺しとか。楽しみですわ。」

 

「ちょ、ちょっと、華まで!」

 

「あはは、やっぱりみんなと一緒がいいかな。」

 

遠く離れて一人暮らしをしている娘が友達と笑いあうのを見て、常夫はやっぱりみほは大洗に転校して良かった、と、優しい目で娘を見ていた。

 

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日曜日は、レオポンさんチームから強烈にお願いされて、常夫は戦車の整備のために学園に1日中詰めていた。みほは、午前中は自宅の掃除や洗濯などの家事をして、午後は沙織と優花里と一緒に父親のための晩御飯の材料を大洗の街中まで買い出しに出かけていた。

 

夕方になり、常夫が学園から帰って来ると、沙織の指示のもとでみほと優花里が晩御飯を作っていた。料理が出来上がる頃には、実家に顔を出していた華と、おばあの所に行っていた麻子も合流して、常夫を交えたごはん会が開催された。戦車の整備講習のお礼として、みほは常夫に缶ビールを買って来たのだが、それが実はノンアルコールビールだったので、慌てて優花里がコンビニまで缶ビールを買いに走るというハプニングもあった。

 

「うちのお父さんもお店が終わった後にビールを飲むので、よく買いに行くんです。」

 

「ありがとう、優花里さん。ビールってどれも同じだからわからなくって。」

 

「みぽりんって、戦車に乗ってる時はすごく頼りになるけど、それ以外では結構抜けてるよね。」

 

「一度、カバンを持たずに登校したこともあるしな。そど子が呆れてたぞ。」

 

「あらあら、あんまりみほさんの失敗話をされると、お父様がまた心配されますよ。」

 

「いや、みほは昔からこんな感じだから、今更驚かないよ。」

 

「えっ?そうなんですか?」

 

「まあ、昔はもっとやんちゃだったのが、少しはお淑やかになってくれたみだいだけど。」

 

「みほさんがやんちゃだったなんて、タイマンしたり、カチコミかけたりしていたのでしょうか。」

 

「小さいころ、自転車の練習で演習場に入り込んで大騒ぎになったという話は聞いたことがあるが。」

 

「学校で男の子と喧嘩したり、近所の田んぼで蛙をたくさん捕まえて来て庭の池に放したり。あの時は、しほさんの執務室にまで蛙が入り込んで大騒ぎだったな。」

 

「そ、そんなことも、あった、かな。」

 

「私の作業場にいる時は結構おとなしくしていたけど、さすがに預かっていた戦車に乗って動かそうとした時は焦ったよ。」

 

「Ⅱ号戦車は普段から乗ってたけど、やっぱり重戦車は運転が難しかったから、車庫を出たところですぐに捕まったけどね。」

 

沙織達が作ったご馳走を食べながら、常夫が話すみほの子供の頃の話を、あんこうチームは楽しそうに聞いていた。常夫も、沙織がおつまみ代わりに作ったきゅうりとシラスを酢味噌で和えたものを摘まみながら、ビールのせいか、普段よりも饒舌になっていた。

 

「そう言えば、父上殿は西住流の戦車の整備をされているということですが、普段はどんなお仕事をされているのでしょうか?」

 

「お父さん、社長さんだよ。」

 

「え?車長?」

 

「いや、そっちの車長じゃなくって、会社の社長。西住流って、戦車道に関係する会社をいくつも持っていて、そこの社長なんだ。」

 

「えー!じゃあ、みぽりんって、社長令嬢なの?」

 

「ど、どんな会社なんですか?」

 

「整備会社もそうだけど、戦車の部品を輸入する会社と、あと、新しい部品を開発する会社とか。」

 

「西住流は私塾みたいなもんだから、門下生や生徒さんのお月謝だけだと、とても私たちは生活できないからね。」

 

「確かに、多数の戦車を保有して、生徒さん達が訓練するとなると、戦車の維持費や砲弾、燃料などもそれだけコストがかかるだろうな。」

 

「五十鈴流でも、生け花教室以外に、ホテルやデパートなどの装飾用のお花や、冠婚葬祭のお花を扱う会社があります。そちらは父が一手に面倒を見ています。」

 

「華道と戦車道は違うかもしれないけど、やはりそれを支えるための仕事がたくさんあるからね。最近はその仕事があまりにも増えてしまって、実際に戦車をいじるのは少なくなったから、今日は久々に思う存分戦車を整備させてもらったよ。」

 

「だから、お父さん、機嫌がいいんだね。」

 

「ああ、西住流だとドイツの戦車が多いけど、大洗はいろんな戦車があるから結構楽しかったよ。自動車部の子達も、よくあれだけバラバラな戦車を整備しているもんだ。卒業したら、うちの整備会社に欲しいぐらいだよ。」

 

「あはは、じゃあ、ナカジマさんやスズキさん、ホシノさんは進路に悩まなくて済むね。」

 

「でも、レオポンさんチームはツチヤさん以外は3年生だから、卒業するとツチヤさんだけになっちゃいますね。」

 

日々の訓練の後の整備や履帯修理などは既存のメンバーでもなんとか対応できるが、撃破された戦車を修理するには、ツチヤだけではどうしても足りなくなる。今でも、試合の後はレオポンさんチームがほぼ徹夜で修理しているぐらいだ。

 

「昨日、児玉さんと話した時も、それを心配していたよ。大洗だけじゃなく、他の学校でも戦車の整備ができる人が少なくて苦労しているらしい。お金の問題だけじゃなくって、人材の問題もあるからね。」

 

「黒森峰とかサンダース、プラウダなどは大丈夫かもしれないが、アンツィオとか継続なんかは結構厳しそうだな。」

 

「優秀な戦車乗りがいても、整備ができないとろくに練習もできないし、試合に出ると撃破されることもあるから、修理も必要になってくる。今も戦車道連盟のほうで戦車整備について定期的な研修をしているけど、それだけじゃ足りないからね。だから、あくまでまだ検討段階ではあるんだけど、戦車道連盟が仲介して、工学系の高校や大学からの整備士の派遣を検討しているんだ。やっぱり、実際の戦車を整備したり修理するほうが、整備士にとっていい経験になるからね。児玉さんとも話していて、なんとか今年中にはある程度の骨子を作って、来年度からは始められるようにしたいと思っているよ。」

 

「でも、整備や修理は、部品がないとできませんよね。部品も必ずしもタイミング良く戦車に合うものが売っているわけではありませんし、パーツ取り用の戦車を持っている学校も多くありません。シャーマンやパンターならそれなりに部品はありますし、ある程度汎用性もありますが、うちみたいに珍しい戦車を保有していると、部品を手に入れるのも一苦労ですから。」

 

レオポンさんチームから頼まれて、優花里は時々、戦車の部品をネットオークションなどで探しているが、大洗の戦車に合う部品がなかなか出品されておらず、あったとしてもかなり高い値がついているので、結構苦労していた。

 

「確かに、その問題もあるよね。戦車道の規定で、1945年8月15日時点で設計または試作段階だった戦車のみが利用できるとなっているけど、すでに70年近くたっているから、当時の部品や、増してや戦車となると数は限られる。」

 

「優花里さんの言うとおり、うちは20年前に戦車道が廃止になった時に残っていた戦車をなんとかかき集めたから、部品の汎用性もないし、学校も県立だから予算も限られているの。」

 

「じゃあさ、手に入りにくい部品は作ってもらえばいいんじゃないの?」

 

空いたお皿を片づけながら、沙織がこれぞグッドアイデア、といった感じで提案した。

 

「いや、ある程度の数が揃えばいいが、1個ずつのワンオフとなると金型や設計自体を個別にする必要があるから、かなりの高コストになるし、時間もかかる。作る側からしても、いつ売れるかわからないものを作ることはできないからな。洋服をオーダーメイドで作るのと同じだ。」

 

麻子が現実的な回答を返すと、沙織が少しむっとしてほっぺを膨らませる。

 

「確かに、ある程度高コストになるのはやむを得ないと思う。みほ、社会で習ったかもしれないけど、日本の製造業における中小企業の割合ってどのくらいかわかるかい?」

 

「え、ええっと、日本は自動車会社みたいに大きな会社が多いから、7割ぐらい、かな。」

 

「いや、西住さん、大企業は実はそれほど多くなくって、日本の会社の99%がいわゆる中小企業や零細企業なんだ。」

 

勉強に関しては学年主席の麻子が、昔授業で習ったことを思い出しながら答えた。

 

「そう、冷泉さんの言うとおりだ。でも、みほが言ったことにもヒントがあるんだよ。第2次世界大戦までに戦車を作っていた国の有名どころはどこかわかるかい?」

 

「確か、ドイツ、アメリカ、フランス、イタリア、ロシア、日本でしょうか。」

 

華が、自分が戦った高校の戦車を思い出しながら、指を折って数えた。

 

「他にも、チェコやイギリス、ポーランド、オーストラリアも作っていましたが、やはり五十鈴殿が挙げられた国が様々な戦車を作っていました。」

 

「それらの国の、現代における主要産業って何かわかるかい?」

 

「自動車だな。ロシアは該当しないかもしれないが。」

 

「そのとおり。でも、自動車って、自動車会社だけで作っているわけじゃなくって、グループ会社や協力会社など、様々な会社がいろんな部品を作っているんだ。日本にある製造業の会社の3割近くは、なんらかの形で自動車に関わっているんだよ。」

 

「だんだんわかってきたぞ。西住さんのお父さんが言いたいのは、おそらく、その中小企業が戦車の部品を作る事業に進出すれば、これまでの既成部品と比べてより安価な新製部品ができるということじゃないか。」

 

「今は戦車の部品を作っているところはそれほど多くないし、あっても限られたものしか作れないからね。でも、自動車会社と取引している会社は、すごくたくさんあるんだ。それも、日本の高品質な自動車に使われるいろんな部品を作っているぐらいだから、技術力も高い。そんな会社にお願いすれば、戦車の部品も作れるんじゃないかと思ってね。」

 

「でも、ワンオフって高コストになるんじゃないの?」

 

「そう、これまではその点がネックになっていた。でも、これだけ自動車業界にたくさんの会社があれば、ワンオフでもそれなりのコストで作ることができる会社もあるんだよ。自動車会社は、車を開発する際、最初はワンオフの部品を結構必要とするし、そんなニーズに応えてワンオフに特化した会社も結構あるんだ。ほとんどは社員が10人ぐらいの小さな工場だけど、そんなオーダーを受けるぐらいだから技術力は十分にあるし、設備もワンオフを前提としたものを用意しているから、細かい注文にも対応してくれるんだよ。小さいから会社そのものの運営コストがそこまでかからないから、製造コストも大企業に比べてかなり安く済む。」

 

「それに、いつまでも70年以上前の既成部品に頼ってはいられない。いつかはなくなるからな。そうなる前に、新製部品を作る体制を整えておかないと、いざ部品が供給されなくなってからだと遅すぎる。西住さんのお父さんは、それを見越して今から先手を打とうとしているんじゃないか。」

 

「まあ、うまくいくかどうかはわからないけど、遅かれ早かれ手を付けることにはなる。だったら、今からやっても早すぎるということはないからね。」

 

「凄いです!戦車の整備だけではなく、戦車道業界の未来を見据えた活動をされているんですね!」

 

「戦車道は淑女の嗜みで、良妻賢母を育成すると言われているけど、それを裏方として支えるのが男としての役目かもしれないね。」

 

「決めた!私、戦車道を続けて、戦車道を支えてくれる男の人と結婚する!」

 

「沙織さん、戦車道を続けるというのはよろしいのですが、それだと男の人と出会うのが遅くなりませんか?」

 

「行き遅れかねないぞ。」

 

「ひっどーい。いいもん、みぽりんのお父さんに素敵な男性を紹介してもらうんだから!」

 

「みほさんのお父様は、沙織さんより先にみほさんのお相手を探さなければいけないのでは。」

 

「いや、私よりもまずはお姉ちゃんかな。」

 

「う~ん、父親としては、娘の晴れ姿を見たい気もするが、やっぱり寂しいから、先に沙織さんのお相手を探そうかな。」

 

「ふえぇ!ひどいよ!」

 

西住流の話から、戦車道を取り巻く環境など、普段では聞けない話を常夫から聞いて、あんこうチームは戦車道がますます好きになった。みほも、自分の父親があんこうチームから尊敬のまなざしで見られることが嬉しくもあり、また、誇らしかった。

 

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月曜日の早朝、常夫はバイクに荷物を積んで、みほに見送られながら学園艦から去って行った。

てっきり、大洗からフェリーで帰るのかと思ったが、道中でいろんな会社を周って、戦車の新製部品を作ってくれそうなところを探すらしい。

 

放課後の戦車道の訓練では、日曜日にレオポンさんチームと常夫が戦車の整備をしたからか、どの戦車も調子が良くなっていた。

特に、ポルシェティーガーは、モーターの焼き付き防止のために5秒程度しか使えなかったEPSが20秒近くもつようになったので、ツチヤが訓練場の端から端まで使って走り回っていた。今後は、EPSを作動させた状態でドリフトするのが目標と宣言していた。

アリクイさんチームの三式中戦車も、シフトレバーが固くて折れやすかったのが、ギアのかみ合わせを調整することで、シフトチェンジがしやすくなったとももがーが喜んでいた。

八九式は、火力を強化することはできなかったものの、レオポンさんチームが魔改造した足回りが常夫によってさらに強化され、河西忍がこれまで以上に軽快に走り回っていた。

 

訓練を終えて戦車が戻って来ると、いつものようにレオポンさんチームを中心に整備が始められた。

 

「西住さん、お父さんにいろいろと教えてもらったんだけど、いやあ、あれは本当に勉強になったな。」

 

ナカジマがみほに、日曜日の様子を話す。

 

「エンジンや足回りをいじることでモーターの負担を下げて、EPSが使える時間を延ばすなんて、私達じゃ思いつかなかったね。」

 

スズキがポルシェティーガーのEPSが改善した理由を話す。

 

「それに、三式も、てっきりレバーの剛性が弱いのかと思ったら、ギアの噛み合わせが原因だったなんて、目からうろこが落ちたよ。」

 

いつも三式を整備しているホシノも、日曜日に常夫に教えてもらったやり方で三式の整備に取り掛かっていた。

 

「お父さんも、いろんな戦車をいじることができてすごく楽しかったって言ってました。」

 

「機会があれば、また来てほしいなあ。」

 

「じゃあ、お父さんにお願いしておきますね。あ、あと、熊本に戻ったら、戦車の整備に必要な工具を送ってくれるって言ってました。整備工場で使わなくなった工具がたくさんあって、それを使えば今までよりもっと効率的に整備ができるからって。」

 

「本当?いやー、それは助かるなあ。今までは自動車用の工具を流用してたんだけど、専用工具でないと結構手間がかかるからね。」

 

ナカジマが嬉しそうに微笑んだ。

 

「それと、ポルシェティーガーについて黒森峰の整備士さんに相談する件、昨日、お姉ちゃんに電話で聞いたら、逸見さんに相談してからになるけど、快諾する方向で進めてくれるって。」

 

「おおっ、黒森峰の整備士さん達と交流できるって、夢のようだ!」

 

「今後は、他の高校の整備士さんともいろいろと情報交換したりできるようにしたいですね。」

 

みほは、常夫が戦車道の将来を考えているのを見て、自分も何かできないかと考えていた。そこで、他校の隊長とやり取りすることが多くなったことから、その伝手で各校の整備士がお互いに気軽に相談できる情報交換会のようなものを作る計画を、昨夜、父親と話し合って練り上げていた。

 

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大洗を出て1週間後、常夫は久しぶりに家に戻って、妻のしほと、丁度帰省していたまほと一緒に食卓を囲んでいた。

 

「常夫さん、大洗はどうだった?」

 

「いやあ、いろんな戦車があって、思わず整備しちゃったよ。いつもはドイツの戦車だけど、たまには他の戦車を弄るのも楽しいもんだな。特に、あのポルシェティーガーなんて...」

 

「いえ、戦車ではなく、みほのことです。」

 

「ああ、楽しくやってるみたいだったよ。あんこうチームの皆さんや、戦車道履修生の人たちが仲良くしてくれているみたいだし。」

 

「食事はきちんと食べているのでしょうか。お米とか野菜、送ってあげたほうがいいかしら。」

 

「みほはコンビニ好きだから、コンビニ弁当ってこともあるみたいだけど、料理の得意なあんこうチームの武部さんがみほにいろいろと教えてくれているそうだ。たまにみほの家に集まって、みんなで料理を作ってごはん会をしているらしい。」

 

「そう、それであれば、安心しました。」

 

「みほの部屋は、やはりあの変な熊のぬいぐるみが一杯だったのでしょうか?」

 

まほも、妹の大洗での生活に興味があるらしく、実家の部屋と同じように寮も熊のぬいぐるみで埋め尽くされているのではと思い、常夫に聞いた。

 

「ああ、ぼこられクマのボコだっけ?部屋の中に10個ほどあったかな。」

 

「確か、大洗にそのクマのテーマパークがあって、島田流がスポンサーになったと聞いてます。」

 

「じゃあ、これからさらに増えるかもしれないね。」

 

「島田さんのところの愛里寿ちゃんと、そのテーマパークに遊びに行ったりしているらしい。大学選抜との試合の後、仲良くなったそうだ。」

 

「みほは、戦った相手とどんどん仲良くなっています。だからこそ、大学選抜の時、他校の人達が助っ人に来てくれたのでしょう。」

 

「まほも、その一員として駆けつけたんだよね。」

 

「はい、大洗連合の中で、みほを大隊長として戦ったことで、みほの戦車道というものが少しだけわかったような気がしました。」

 

「西住流とは違う、でも、そのみほの戦車道が黒森峰を破り、大学選抜に勝利したのです。西住流の家元としては少し複雑ですが、親としてはこんなに嬉しいことはありません。」

 

「しほさん、その言葉はみほに直接かけてあげたらどうだ?」

 

「そうですね。でも、廃校騒動の時に帰省した時も、私と会うのを躊躇していたようですし。」

 

常夫は、大洗でみほと、しほとの仲直りについては少しだけ探りを入れてみたが、やはりまだ蟠りがあるようだった。

だが、そのみほの背中を押してくれたのもあんこうチームだった。あとは、しほがそれを受け入れるかどうかだ。

 

「お母様、今なら大丈夫だと思います。それに、みほには支えてくれる友人達もいます。」

 

「そうだ、あんこうチームの皆さんをうちに招待してはどうだ?一人で帰るのが心配だったら、一緒に行ってあげるって武部さんも言ってたよ。」

 

「そうですね。みほがいろいろとお世話になっていることですし、きちんとお礼をしないと、西住流の名折れですね。」

 

「私も、みほの友人達とは一度、話してみたいと思ってました。」

 

「そう言えば、冷泉さんが、おばあさんが倒れた時、まほがヘリを出してくれたことをすごく感謝していた。直接会ってお礼を言いたいと言ってたよ。」

 

「では、今度の連休あたり、いかがでしょう。その日であれば、私もこちらに来ることができます。」

 

「いいね。しほさんはどうだい?」

 

「その時期であれば、それほど忙しくないと思います。」

 

「じゃあ、決まりだね。みほには私から連絡しておくよ。」

 

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常夫が大洗から帰ってきて1か月ほど経った連休初日、あんこうチームのメンバーは、みほの実家の最寄駅に降り立っていた。

 

「やっぱりこちらはまだ暑いですね。」

 

華が、手で顔を煽ぎながらみほに言った。

 

「みぽりんの実家って、ここから遠いの?」

 

「タクシーで30分ぐらいかな。」

 

「西住流の本拠地で、広大な演習場も併設しているとなると、やはり郊外にならざるをえないだろう。」

 

「じゃあ、そろそろ行こうか。って、あれ?」

 

みほがタクシー乗り場のほうに向かおうとすると、1台の戦車が駅前の道をこちらに向かって入って来た。

 

「うわぁ、ティーガーⅠですよ!しかも、あの転輪の数と、マズルブレーキにティーガーⅡの部品が付いているので最後期型です!」

 

駅に入って来たティーガーは、みほ達の前に停まった。

 

「みほ、良く来たな。」

 

操縦手席のハッチから、常夫が顔を出す。

 

「あんこうチームのみんなも、良く来てくれた。」

 

キューポラが開いて、まほが上半身を出した。

 

「お、お父さん、それに、お姉ちゃん!」

 

「ちょ、ちょっと、みぽりん、戦車で普通に道路って走っていいの?」

 

「武部殿、戦車は特殊車両扱いで、指示器などの安全装備を付ければ公道も走行可能なんですよ。」

 

「私たちが仮校舎にいた時も、Ⅳ号でコンビニに行ったりしてたしな。」

 

「砲塔も封印されているようですし、大丈夫なのではないかと。」

 

「Ⅱ号戦車はよく足代わりに使ってたけど、今日は大きめのティーガーで来たんだね。」

 

「いや、戦車を足代わりってどういうこと?」

 

「みんな、あんまりここに長居すると他の人たちの迷惑になるから、そろそろ行こうか。」

 

常夫が声をかけると、あんこうチームのメンバーはキューポラから戦車に乗りこんだ。

 

「みほ、ここからはお前が車長だ。お父様が操縦してくれるから、指示を頼む。」

 

まほが、車長席をみほに譲りながら言った。

 

「ティーガーの車長席、懐かしいなあ。」

 

「みほさん、では、参りましょう。」

 

「後で私も操縦してみたい。」

 

「じゃあ、そろそろ行くよ。パンツアー・フォー!」

 

いつものように、みほの掛け声で戦車が動き出した。

 

「ヒャッホウ、最高だぜえー!」

 

「始まったよ、ゆかりんのパンツァーハイ。」

 

「大洗とは違う風景、とても新鮮です。」

 

「少し寝るから着いたら起こしてくれ。」

 

みほは、この4人が一緒に来てくれたことが嬉しかった。そして、遠くに見える阿蘇山を見ながら、今日こそ母親であるしほと仲直りしようと決意した。

ティーガーは一路、無限軌道の音を道路に響かせてみほの実家へと向かった。

 

「そう、戦車はどこにでも行ける。そして、私にはみんながいる。」

 

田んぼの中の道を進むティーガーの上を、小さいころまほと一緒にⅡ号戦車で出かけたあの日と同じように、白鷺が翼を広げて飛んで行った。

 




いかがでしたでしょうか。

今回は、みほのお父さん、常夫さんに登場いただきました。
本編では一切出て来ませんが、多分、こんな感じだろうなと想像しながら書きました。

年頃の娘と、その友人達への父親の接し方って、どんなのだろう?
まあ、戦車道という共通の話題があるから、なんとかなったのではないかと。

話の中で出てきた日本企業の統計データは、結構適当です。(^^;)
あと、戦車道連盟理事長も昔バイクに乗っていたようですが、これは伏線ではありません(理事長ファンの方、ごめんなさい)。

最終章では、みほとしほさん、和解できるといいですね。
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