ガルパンバイク部のお話   作:日本を鳥戻す

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特に伏線は張っていませんでしたが、新しいキャラの登場です。既存のキャラも出て来ます。
今回のツーリングルートや訪問地は想像した架空の土地です。

淡々としたお話ですが、この2人がバイクでタンデムツーリングに出かけたらこんな感じかな、と。



暴君を初めてのタンデムツーリングに誘ったら

戦車道の朝練の無い週末は、少し早起きして早朝ツーリングをする。

ツーリングとは言っても、学園艦を1周するだけ。走るだけなら、30分もかからない。

それでも、朝の少し冷えた空気の中をバイクで駆け抜けるのは、良い気分転換になる。

さすがに走るだけだとつまらないので、休憩を1回挟む。町はずれの神社の前だったり(プラウダの学園艦に神社があるというのも不思議ではあるが)、途中にあるコンビニだったり。

その中でもお気に入りは、艦首近くの公園。外周道路から脇道に入ったところに駐車場、その下に小さな公園がある。学園艦が航行している速度にもよるが、常に前方からの風が吹いている。目の前の視界を遮るものはなく、大海原が広がっている。あと、学園艦の進行方向によっては、朝日を見ることもできる。学園艦は日本列島の沿岸に沿って航行しているため、太平洋側だと北東か南西に向けて航海していることが多い。北から南に向かうということは、これから暖かくなるということ。その逆もまた然り。そんなことを考えながら、自販機で買ったコーヒーを飲むひと時が大好きだ。

 

さて、朝日も見たし、気分転換もできた。ここから寮までは10分程度。戻ってバイクを駐輪場に仕舞い、シャワーを浴びても朝食には十分に間に合うだろう。

バイクに跨り、ヘルメットを被ってエンジンをかける。これから始まる今日1日のことを考えながら、朝日が照らす道を、アクセルを捻って走り出した。

 

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休日なので、シャワーを浴びた後は、制服ではなく私服を着る。ただ、朝食の前にやることがある。

廊下を進んで、ドアの前に立ち、軽くノックする。いつもどおり、返事はない。

もう一度、今度は強めにノックしたが、やはり反応は無い。

仕方ないので、預かっている鍵を使ってドアを開け、ベッドへと進む。思った通り、熟睡している。これでは、ノック程度では起きないだろう。おまけに、布団をはだけて、お腹まで出して寝ている。

しばらく寝顔を堪能した後、声をかける。

 

「カチューシャ、起きて下さい。」

 

小声で呼びかけるが、反応は無い。

 

「カチューシャ、朝ですよ。」

 

今度は軽く肩に手をかけて、少し揺する。すると、少し身じろぎして、顔をこちらに向けた。

窓のカーテンを開けて日の光を室内に呼び込むと、明るくなったからか、ベッドの方でもぞもぞ動く気配がした。

 

「ふわぁ、お早う、ノンナ。」

 

今日は珍しく、素直に起きてくれたようだ。

 

「さあ、顔を洗って、服を着替えて食堂に行きましょう。」

 

ベッドから起き上がり、寝ぼけ眼で洗面所によたよたと向かう。その間に、服を準備しておく。今日は制服ではないので、季節と今日の天気を考えて、適した服を見繕う。

タオルで顔を拭いて、着替えを手伝って、準備ができたら食堂に向かう。

 

「あ、カチューシャ様、ノンナ副隊長、お早うございます。」

 

「お早うございます。今日もいい天気になりそうだじゃ。」

 

「お早うございます、ニーナ、アリーナ。」

 

「お早う。」

 

カチューシャはまだ眠そうで、ニーナとアリーナに軽く挨拶して、朝食が並べられているカウンターに向かった。週末の寮の朝食は、パンと、コーヒーや紅茶、スープに果物というシンプルなものだ。

空いている席に着いて、コーヒーを飲む。カチューシャは、いつもどおり、牛乳を持って来た。

 

「今日も早朝ツーリングに行って来たの?」

 

「はい、艦首の公園で朝日を見て来ました。」

 

パンにバターを塗りながら答える。カチューシャは、ジャムを塗っている。

 

「週末ぐらいはゆっくり寝たらいいのに。」

 

「生活のリズムが崩れてしまいますから。それに、眠くなったら少し昼寝をしますので。」

 

「そうね。昼寝って、すごく気持ちいいし。」

 

「ところで、午後の戦車道の訓練ですが。」

 

「ええ、わかってるわ。例の新しい戦術に向けたメニューをやるわよ。」

 

「これまでの戦術とは大きく異なるので、順序立てて習得しないとうまくいきませんね。」

 

「かーべーたんの動きが鍵になるから、ニーナとアリーナには頑張ってもらわないとね。」

 

フルーツを食べながらカチューシャが少し考えるように話す

 

「私たちが卒業した後は、彼女たちがプラウダを引っ張っていくことになるわ。下級生がかーべーたんを使えるようにするためには、彼女たち自身がかーべーたんの扱いをマスターしておく必要があるのよ。」

 

「そうですね。では、今日はカチューシャがKV-2に乗ってはいかがですか。」

 

「そうするつもりよ。遠くから無線で指示するんじゃなくって、同じ戦車で直接指導してあげるんだから。」

 

コーヒーのお代わりを持って来て、ついでにカチューシャのためのオレンジジュースも持って来る。

 

「ありがと。話は変わるけど、ダージリンから返事はあった?」

 

「交流会の件ですね。まだ学園艦の寄港予定が決まらないけど、タイミングが合えば是非とのことでした。」

 

「わかったわ。むこうも次期隊長の指導に力を入れていると思うから、下級生を中心にした編成での試合はお互いにとってメリットがあるはずよ。」

 

「では、そろそろ行きましょうか。」

 

「ええ、訓練は午後からだから、午前中のうちに部屋の掃除とか洗濯もしておかないとね。」

 

「宿題もきちんとしないとだめですよ。」

 

「わかってるわよ!今日の夜のうちに全部終わらせるんだから!」

 

「訓練の後は、疲れて寝てしまうかもしれませんよ。」

 

「うるさいわね!宿題なんて、カチューシャが本気でやれば1時間もかからないんだから!」

 

「では、午後に戦車倉庫で。」

 

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午後の訓練が終わり、車長による戦術勉強会が終わった頃には、すでに日は沈み、辺りは暗くなっていた。

当番生徒からの日報に目を通し、来週の訓練メニューをカチューシャと検討して、隊長室を出たのは8時過ぎだった。この時間だと寮の夕食には間に合いそうにないので、帰り道にある食堂で食べて帰ることにした。

 

「明日はお休みね。今週は結構忙しかったから、しっかりと休むのよ。」

 

「はい。家事は午前中に済ませましたので。」

 

「久しぶりに何にもない日曜日ね。ノンナはどこかに出かけるの?」

 

「ええ、今夜、本土に寄港するそうなので、ツーリングに出かけようかと。」

 

「そう。バイクだと、いろんなところに行けていいわね。」

 

カチューシャが少しつまらなさそうな表情をしたのは、もちろん見逃さなかった。おそらく、自分は特に何もやることがないのだろう。ここは少し、探りを入れてみよう。

 

「カチューシャはどのように過ごされるのですか?」

 

「えっ?まあ、いろいろとね。宿題もしなきゃならないし。」

 

「でも、明日は天気も良さそうだから、どこかに出かけてはいかがですか?」

 

「そ、そうね。散歩ぐらいならするかも。」

 

「せっかく寄港するのだから、上陸してみるのもいいかもしれませんよ。」

 

カチューシャの表情が、苛立ちと怒りと悲しみの混じったものになって来た。そろそろ頃合いか。

 

「一緒に出掛けませんか?」

 

「えっ?でも、ノンナは一人でツーリングに行くんじゃ。」

 

「私のバイクは後ろにも乗れますよ。」

 

「バ、バイクで一緒に出掛けるの?」

 

「はい、歩きだとあまりたくさんは見て回れませんからね。」

 

「後ろに乗るって、危なくない?」

 

「大丈夫ですよ。もちろんヘルメットは被らないといけませんし、服装も、バイクに適したものでないといけませんが。」

 

「わ、私、バイクに乗ったことなんてないし...」

 

「安心してください。私も安全運転を心がけます。それとも、カチューシャはバイクに乗るのが怖いのですか?」

 

「そ、そんなことあるわけないでしょ!このカチューシャに怖いものなんて無いんだから!

 

「では、一緒にツーリングに行きましょう。」

 

「し、仕方ないわね。ノンナがそこまで一緒に行きたいって言うんなら、後ろに乗ってあげるわ。」

 

「じゃあ、決まりですね。朝は少し早めに出ますので。そうですね。7時には出発したいですね。」

 

「そうすると、起きるのは6時ぐらい...まあ、たまには早起きするのもいいかもね。」

 

「ご心配なく、起こしに行きますから。」

 

「まあ、念のためにお願いするわ。」

 

「カチューシャと一緒に行くとなると、ルートを考えておかないといけませんね。普段は特に行き先を決めずに走るだけなのですが。どこか、行きたいところとか、やりたいことの希望はありますか?」

 

「うーん、今回の寄港地はあまり知らないから。でも、やっぱり美味しいものは食べたいわね。」

 

「わかりました。ランチの美味しいお店を探しておきましょう。それと、バイクに乗る時の服装は...」

 

夕食を食べながら翌日のツーリングについて話していると、カチューシャがだんだん楽しそうになっていくのがわかった。私も誰かと一緒に出かけるということがあまりないので、どんなツーリングになるのか、楽しみだ。

寮の玄関で別れて、それぞれの部屋に戻る。

 

シャワーを浴びて、パソコンを立ち上げて明日のツーリングルートを調べる。地図と観光情報サイトの画面を同時に立ち上げながら、いくつかの候補を選ぶ。港から少し走ると大きな川があり、それに沿って上流に向かって走る道を行くと、有名な湖がある。その辺りであればお店もたくさんあるらしい。

おおまかなルートとお店の目星をつけると、予備のヘルメットを取りだし、シールドを綺麗にしてインナーをカチューシャの頭に合うように調整した。

 

ふと思い出して、他の学園艦の航路を示すサイトにアクセスすると、知り合いの学校の学園艦が少し離れたところに昨日から停泊していた。スマホを取り出して電話をかけ、相手としばらく話す。

 

あらかたの準備を終えると、明日に備えて早めにベッドに入った。

 

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川沿いの道は、信号も無く交通量も少なめで、快適なルートだった。

学園艦を出発してしばらくは街中を走るためストップアンドゴーの連続で少々気疲れしたが、すぐに郊外の道になった。

後ろに乗っているカチューシャも、最初は身を強張らせていたが、慣れたのか、キョロキョロと風景を見ている。

 

「いつも海ばっかり見ているから、たまには川とか山の風景もいいわね。」

 

「はい、山の緑と、川に映った空の青が綺麗ですね。」

 

「それに、風も気持ちいいわ。潮風と違ってべとつかないし。」

 

ヘルメットのシールドを開けると、風が頬をなでる。この季節は暑くもなく寒くもなく、ツーリングには丁度いい。カチューシャも機嫌を直してくれたようだ。

小柄な体にフルフェイスのヘルメットがあまりにもアンバランスで可笑しかったのを笑ったので、へそを曲げてしまったのだった。機嫌を損ねて、ツーリングには行かないと言われると思ったが、頬を膨らませながらタンデムシートによじ登って「さあ、さっさと出発しなさい!」と言われた。どうやらカチューシャも、今日のツーリングを楽しみにしていたらしい。

 

1時間ほど走って、道沿いのコンビニに入る。朝が早かったので軽い朝食しか食べておらず、お昼まではまだ時間があったので、イートインコーナーで軽食を食べることにした。

カチューシャはドーナツ、私はサンドイッチを、ドリップで入れたコーヒーと一緒にいただく。

 

「それで、今日はどんなところに行くの?」

 

「この川に沿って走ると、綺麗な湖があるそうです。結構有名な観光地なので、食べるところもたくさんあるみたいです。」

 

「学園艦では食べられないものがいいわね。」

 

「学園艦にはロシア料理はたくさんありますが、それ以外はどうしても限られてしまいますからね。」

 

「じゃあ、お昼は和食の美味しいところにしましょう。そうね、お蕎麦なんてどうかしら。」

 

昨日の夜のうちにいくつかランチスポットを調べていて、その中にはお蕎麦屋さんもあった。

 

「いいですね。麺つゆではなく、胡桃味噌の漬け汁で食べるお蕎麦があるそうです。」

 

「それ、いいわね。学園艦のお蕎麦屋さんには無いメニューだし。」

 

「山菜の天ぷらもあるみたいです。」

 

「決まりね。」

 

気が付けば30分近く経っていた。カチューシャが手洗いに行っている間、スマホでメッセージを送る。戻ってきたカチューシャにヘルメットを被せ、顎紐をしっかりと締めてから、再び走り出す。

山間に入って来ると、建物が少なくなり、緑の中を走る道になった。横を流れる川もかなり細くなって来た。気が付けば、気温も少し下がり、ひんやりとしている。

 

カーブが連続する山道を川沿いにしばらく走ると、前方に大きなダムが見えて来た。ダムを超えると、目の前が急に開ける。沿道にはお洒落なレストランやペンションが並び、湖畔には散策路も見える。

先ほど目星を付けていたお蕎麦屋さんは、賑わった通りを過ぎた少し先にあった。店の前の駐車場にバイクを乗り入れ、隅のほうに停める。

タンデムシートのカチューシャが降りてから、私もバイクを降りる。

 

「あら、あっちにもバイクが停まってるわ。」

 

カチューシャが指差した方向を見ると、黒いレーサータイプのバイクが停まっていた。

 

「この辺りはツーリングで有名なルートみたいですから。」

 

「どんな人が乗ってるのかしら。」

 

バイクをじっと見るカチューシャに、さあ、お店に入りましょうと声をかける。

引き戸を開けて店内を見渡すと、探していた人はすぐに見つかった。奥の、中庭が良く見える席に座っていた。

 

「こんにちは、逸見さん。」

 

「お久しぶりです、ノンナさん。」

 

「あら、エリーシャじゃないの!」

 

「こんにちは、カチューシャさん。」

 

「こんなところでばったり会うなんて、びっくりしたわよ。」

 

「ノンナさんに呼ばれたんですよ。日曜日に〇〇湖にツーリングに行くので、現地でご一緒しませんかって。」

 

「えっ!?そうなの?ノンナ、聞いてないわよ!」

 

「すみません、カチューシャを驚かそうと思いまして。」

 

文句を言いながらも、カチューシャは嬉しそうだった。大学選抜戦の時、同じ小隊で共に戦い、撃破された後はなぜか逸見さんがカチューシャを肩車していた。普段は私が肩車しているので、私自身もそれを見て驚いたのだが、カチューシャが他の学校の生徒と仲良くなるのは喜ばしいので、あえて声をかけずに後ろからそれを見ていたのだった。

 

「じゃあ、外に置いてあったのはエリーシャのバイクなのね。」

 

「はい。日曜日は戦車道の訓練も休みだし、今週末は寄港すると聞いていたので、私も今日はどこかにツーリングに行こうと思ってたんです。そうしたら、ノンナさんから連絡がありまして。」

 

逸見さんの向かいにカチューシャと一緒に座り、この待ち合わせについてひととおり話す。

 

「さあ、お蕎麦を注文しましょう。逸見さんはもう注文されたのですか?」

 

「いえ、まだです。私も少し前に着いたところで、お品書きを見ていたところです。」

 

「そうですか。カチューシャ、先ほど話していた胡桃蕎麦がありますよ。」

 

「じゃあ、私はそれにするわ。あ、山菜の天麩羅のセットがいいわね。」

 

「私はこっちの山葵蕎麦と、鮎の塩焼きのセットにします。逸見さんはどれにしますか?」

 

「私も胡桃蕎麦にします。セットは鱒のミニちらし寿司で。」

 

「エリーシャ、カチューシャと一緒のものにするなんて、わかってるじゃない。」

 

「カチューシャはわさびは苦手ですからね。」

 

「そ、そんなことないわよ! あの、鼻がツーンとして、涙が出てくるのがいやなだけよ!」

 

「それを苦手と言うんですよ。」

 

カチューシャとのいつものやりとりだが、それを見て逸見さんが笑っている。

係の人がお茶を持って来てくれたので、先ほど決めたものを注文した。

 

「そろそろ黒森峰も隊長交代の時期よね。やっぱりあなたが次期隊長になるの?」

 

「はい、先日、西住隊長から内示を受けました。」

 

「副隊長はどなたが任命されたのですか?」

 

「赤星です。彼女は指導力や組織運営能力もありますし、後輩からも慕われていますから。」

 

「プラウダの次期隊長を決めるのはこれからなの。来年こそはまた優勝するんだから。」

 

「黒森峰も負けませんよ。これまでの戦術とは異なる編成を試しているところです。」

 

「私たちは卒業してしまいますが、来年の全国大会も楽しみです。」

 

「そうね。なんてったって、大洗のミホーシャがいるんだし。」

 

「あの子とは是非戦ってみたいですね。そして、再び優勝旗を黒森峰に持ち帰るのが私の目標です。」

 

ここで、私は思い切って聞いてみた。

 

「気に障ったら申し訳ありませんが、以前黒森峰にいたみほさんと戦うということは、逸見さんにとってどのようにお考えですか?」

 

「ちょっと、ノンナ!」

 

「いえ、カチューシャさん、そう考えるのが普通だと思います。でも、私は、元副隊長が大洗に転校して、そこで素人同然の集団を全国大会優勝まで導いたのは、あの子の能力が大洗で開花したからではないかと考えています。黒森峰でも西住流とは少し違う戦い方をされていたこともありました。ただ、周りがそれを許さない環境でした。大洗だからこそ、あの子の戦い方ができたのかもしれません。手強い強敵と戦えるということは、私にとってむしろ嬉しいことなんです。」

 

「確かに、大洗でのみほさんは、黒森峰時代とは変わりましたね。」

 

「ええ、西住流に囚われない、チームを率いて、いや、信じて戦う姿は、あの子らしいし、少しうらやましいですね。」

 

「でも、黒森峰もエリーシャが隊長になって、変わるんでしょう?」

 

「はい、西住隊長からは、私の戦車道をすればよいと言われていますが、まだ試行錯誤です。」

 

話している間に、お蕎麦が運ばれてきた。

 

「出発したのが朝早かったので、お腹ぺこぺこです。」

 

「なんだか色が濃いお蕎麦ね。」

 

「そば粉の割合が多いのでしょう。その分、風味がありますよ。」

 

「この胡桃味噌の浸け汁、甘くて美味しいわ。」

 

「山菜の天ぷらは、天つゆではなく塩を少し振って食べると美味しいんですよ。」

 

「本当だ。でも、山菜の苦みがちょっとあれだけど。」

 

「大人になると、その苦みが美味しいと感じるそうですよ。」

 

「あ、そうなの?まあ、美味しいんじゃないかしら。」

 

「無理しなくてもいいんですよ。」

 

「まあ、正直に言えば、甘いほうが好きだから。」

 

「じゃあ、この後は、どこかで美味しいケーキでも食べましょうか。少し離れたところに、いいカフェがあるみたいです。」

 

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お蕎麦を食べた後は、逸見さんがあらかじめ調べていたカフェに行くことになった。

逸見さんの趣味はネットサーフィンで、出かける時はいろいろと調べるらしい。今回も、先ほどのお蕎麦屋さんだけでなく、カフェも前の日にネットで探してくれた。

 

蕎麦屋を出て、逸見さんのバイクに先導してもらって2台で連なって走る。

湖のさらに奥に行き、大きな橋で向こう岸に渡り、しばらく走るとログハウス風の建物が見えて来た。エリカさんがウインカーを出してそのお店の手前にある駐車場にバイクを入れたので、その横にバイクを停める。

 

「なんだかいい雰囲気ね。」

 

「このログハウス、マスターが自分で建てたそうですよ。」

 

店内に入ると、カウンターと大きな無垢材のテーブル席が4つほどあり、先客が1組いるだけだった。

窓際の、遠くに湖が見える席に着き、メニューを広げる。

 

「カチューシャは、紅茶と、このチョコレートのケーキにするわ。」

 

「私も紅茶と、ブルーベリーのチーズケーキにします。」

 

「私はコーヒーと、フルーツタルトがいいです。」

 

係の女性に3人分の注文を伝えると、逸見さんが聞いてきた。

 

「カチューシャさんはノンナさんとよくツーリングに行かれるんですか?」

 

「いいえ、今回が初めてよ。ノンナと私はいつも一緒にいると思われているみたいだけど、戦車道の時だけなのよ。まあ、高校生活がほとんど戦車道ばかりだから、どうしても一緒にいる時間が多いんだけど。」

 

「クラスも違いますし。でも、寮は同じですから、言い換えれば、授業に出ている時以外は一緒のような気もしますね。」

 

「やっぱり、ノンナも一人になりたいこともあるだろうし、バイクで走るのって、一人になるのにちょうどいいじゃない。」

 

「でも、一人だと、何かを見たり食べたりして、感想を言い合う相手がいないので。だから、思い切ってカチューシャを誘ってみたんです。」

 

「この間、うちの赤星と、知波単の西さんと草津温泉に1泊ツーリングに行ったんですよ。その前は、黒森峰の学園艦が大洗に寄港した時に、西住隊長とみほと一緒に日光に日帰りツーリングに行きました。」

 

「えっ!?ミホーシャってバイクに乗ってるの?」

 

「いいえ、西住隊長の後ろに乗ってました。あの子、戦車の操縦は苦手だったんですが...」

 

その後は、運ばれてきたケーキを食べながら、逸見さんがまほさんから聞いた、みほさんが子供の頃に自転車の練習で引き起こした騒動の話や、知波単の福田さん、聖グロのオレンジペコさんやローズヒップさん、大洗の澤梓さんがバイクに乗っている話を聞いた。

カチューシャは、自分は小学校に上がる前には駒付き自転車は卒業していた、と逸見さんに自慢していた。

 

「1年生や2年生は、結構他の学校の子達と仲良くやってるみたいね。」

 

「ちょっと、うらやましいです。以前は隊長クラスしか他校との交流はありませんでしたから。」

 

「やはり、大学選抜との試合を機に、学校を超えた仲間意識ができたのでしょうか。」

 

「カチューシャも、大洗のレオポンさんチームやアリクイさんチームとメールのやりとりしているみたいですね。」

 

「ええ、あの子たちのお蔭でバミューダ三姉妹のひとりを倒せたし。でも、ノンナとエリーシャはどうやって知り合ったの?」

 

「大学選抜との試合の後の祝勝会でノンナさんがバイクに乗ってるって聞いたんです。それから、たまにメールでツーリングの話をやりとりしています。」

 

「逸見さん、いろんな寄港地のツーリングルートに詳しいので、プラウダの学園艦が寄港する時はその地のおすすめルートを逸見さんに教えてもらってるんですよ。」

 

気が付けば、ケーキやタルトも食べ終わり、紅茶やコーヒーも冷めていた。

 

「そろそろ行きましょうか。帰りも結構距離ありますし。」

 

会計を済ませてお店を出る。

 

「私は、ここから山越えルートで帰ります。そっちのほうが、学園艦が寄港している港には近道なので。」

 

「逸見さん、今日はありがとうございました。」

 

「エリーシャ、今日はわざわざ来てくれてありがとう。久しぶりに会えて、カチューシャも嬉しかったわ。」

 

「私もです。では、また機会があれば一緒にツーリングに行きましょう。」

 

「気を付けて帰るのよ。」

 

逸見さんがバイクに跨り、颯爽と走って行くのを見送る。

 

「では、私たちも帰りましょう。」

 

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「来年の黒森峰は強敵になりそうね。」

 

後ろに乗っているカチューシャが、先ほどの逸見さんとの会話を思い出しながら呟く。

 

「まほさんがいた時は真の西住流でしたが、逸見さんが隊長になってこれまでの戦術を変えてくるとなると、私たちの得意な包囲戦は通用しないかもしれません。」

 

「だからこそ、かーべーたんの使い方が重要になってくるの。足が遅くて装填に時間はかかるけど、あの火力で相手の隊列を崩してそこを突くことができるようにならないと、あっと言う間にこちらが守勢になってしまうわ。」

 

「T34の攻撃部隊はすでに新しい戦術に馴染んでいるようですが、相手のフラッグ車を狙うIS-2がまだ追いつけていないようです。」

 

「だからこそ、ニーナとアリーナをかーべーたんの装填手から各小隊の小隊長に配置換えして、小隊間の連携が取れるようにしないといけないのよ。」

 

「今年は無限軌道杯が復活するようですから、私たちももう1度、大会に出られます。そこで全てを後輩たちに引き継ぐことになりますね。」

 

大洗の奇跡の進軍で注目を浴びた全国大会や大学選抜戦によって戦車道の機運が盛り上がっていたことから、今年は冬の無限軌道杯が復活することになった。全国大会でカチューシャと私の高校戦車道は終わったと思っていたが、この無限軌道杯に出ることで、再び全国の強豪校と戦うことができる。

 

「まだ時間はあるけど、後輩たちへの引き継ぎも含めて、訓練は手を抜かないわよ。」

 

「わかっています。」

 

「でも、たまにはこんな風にノンナの後ろに乗せてもらっておでかけするのも悪くないわね。今日はいい気分転換になったわ。久しぶりにエリーシャとも会えたし。」

 

「そう言っていただければ嬉しいです。カチューシャは隊長としていつも気を張っていますから、休日には適度な息抜きも必要です。」

 

気が付けば、西の空には夕焼けが太陽の残光を赤やオレンジ色に染めていた。

市街地に近づいてきたからか、辺りの車も多くなってきたので、慎重にバイクを走らせる。

 

「ノンナ、またツーリングに連れて来てね。そう言えば、エリーシャはバイクで草津に行ったって言ってたわね。今度はどこか温泉にでも泊まりましょう。」

 

「ええ、でも、北の方だと雪でバイクでは走れませんから、南の方に寄港したら泊まりで出かけましょう。」

 

「あと、久しぶりに大洗にも行ってみたいわね。エキシビションの時は廃校騒ぎでバタバタしてたからあんまりゆっくりできなかったし、またミホーシャ達とも遊びたいから。」

 

「レオポンさんチームやアリクイさんチームともお会いしたいですね。」

 

「そう言えば、ネコーシャもバイクに乗ってるって言ってたわ。親戚のお店の配達をバイクで手伝ってるんですって。」

 

「確か、アリクイさんチームのみなさんはネトゲが趣味と聞いていましたが。」

 

「だから、課金するためのアルバイトだそうよ。」

 

市街地を走り抜けて海に向かうと、プラウダの学園艦が見えて来た。

 

「でも、あんまり遊んでばかりいると、成績が落ちますよ。宿題はもう済ませたのですか?」

 

「わかってるわよ!昨日のうちに手を付けて半分は終わらせたわよ!あともう少しなんだから!でも、ちょっと手伝ってくれると嬉しいんだけど。」

 

「私は、自分の分は済ませていますが、今日の夜はニーナとアリーナの勉強を見てあげるという約束をしていますので。」

 

「何よ!あの子たち!自分の宿題ぐらい自分たちでやりなさいよ!」

 

「いえ、宿題ではなく、ロシア語の授業の予習だそうです。」

 

「ロシア語だったらクラーラに頼めばいいじゃない!」

 

「クラーラは古文の宿題が大変だって言ってました。ありおりはべりいまそかりはさすがに日本語が堪能なロシア人にも難しいですからね。」

 

「なんでロシア人が日本の古文なんて勉強しているのよ!」

 

「さあ、もうすぐ学園艦に着きますよ。今日の晩御飯は、さっきのお蕎麦屋さんで買って来たお蕎麦をみんなで食べましょう。」

 

「お昼もお蕎麦だったのに?まあ、あのお蕎麦、美味しかったからいいけど。」

 

「夜は暖かい月見そばにしましょう。クラーラは鴨南蛮が好きなようですが。」

 

「なんでロシア人が鴨南蛮なんて知ってるのよ!」

 

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~後日~

 

「(ロシア語)カチューシャ様、先日のお蕎麦、美味しかったです。」

 

「だから、日本語で喋りなさいよ!」

 

「クラーラさんは、この間のツーリングで副隊長が買って来たお蕎麦が美味しかったと言ってるんだべ。」

 

「なんでニーナがクラーラの言ってることがわかるのよ!」

 

「そりゃあ、副隊長にロシア語を教えてもらったからじゃ。あと、ロシアの実家から美味しいものが送られてきたから、今夜、ご馳走しますとも言ってるべ。」

 

「そうなの?何かしら。本場のピロシキかしら、それともプリャーニクだったらいいわね。」

 

「(ロシア語).......」

 

「イクラがたくさん届いたから、醤油と味醂に漬けて、鮭の切り身をほぐしたのと一緒に暖かいご飯に載せて、刻み海苔をまぶして鮭イクラ丼にしましょうって言ってるじゃ。」

 

「なんでそんな渋い和食、しかも作り方まで知ってるのよ!」

 




いかがでしたでしょうか。

新キャラだけじゃなく、他のお話で出てきたキャラを絡めたり、以前の話の中にあったエピソードを添えることで、連続性もできるかな、と思いました。

書いているうちに、ふと浮かんだプラウダではありそうなシーンとして、クラーラにも登場してもらいました。
ロシア語でセリフを書くには厳しいので、そこは省略(汗)

あ、ちなみに、イクラはロシア語なんです。

このお話、もっと前から書いていたのですが、途中で行き詰ってしまったのと、その間に他のお話のアイデアが浮かんだので、そっちを書き終えてからこちらに戻り、無理矢理(?)書き続けて、ようやく日の目を見ることができました。

実は、もう1話、書いているところです。こちらも、まだ話の流れが見えないので、出来上がるにはもう少し時間がかかりそうです。
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