ガルパンバイク部のお話   作:日本を鳥戻す

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前回のお話からしばらく間が開いてしまいましたが、今回も新しいキャラの登場です。

今回のお話ではツーリングには行きません。けど、バイクのおかげで、また学校の枠を超えた友情が育まれます(?)。



梓、バイクと戦車で失敗、そこから学ぶこと

森の中を駆けて行くオフロードタイプのバイクが1台。乗っているのは小柄な女の子。

今は戦車道の授業はないので、樹々の間から差し込む木漏れ日の中、聞こえてくるのは風の囁きと小鳥たちの歌声だけ。そこに、どこからともなく優しい弦楽器の音色が流れ込んで来た。

森を抜けた草原の中に、その音の主がいた。草の上に座り、目を閉じて手元の楽器を奏でている。

 

「もう、ミカったら、もうすぐ会議が始まるよ!」

 

少女がミカと呼んだ相手が、演奏の手を休めずに応える。

 

「ああ、もうそんな時間なんだね。会議の前に頭の中を整理しようと思って歩いてたら、こんなところまで来てしまったんだ。」

 

「ここからじゃ歩いて戻ると会議に間に合わないよ。さあ、後ろに乗って。」

 

「悪いね。じゃあ、お言葉に甘えて乗せて行ってもらおうか。」

 

「あとでコケモモジュース、奢ってよね。」

 

ミカがバイクの後ろに横座りしたのを確認すると、エンジンをかけて、さっき来た道を戻る。ただ、後ろにミカが乗っているので、丁寧な運転を心がける。

気が付けば、エンジン音と一緒に静かな曲が流れて来た。

 

「もう、2人乗りしながらカンテレ弾かないでよ。」

 

「アキはバイクの運転が上手だから落ちる心配もなさそうだし、安定しているからこんなことができるんだよ。」

 

そんなことを話しながら、森を抜け、林道を走ると目の前に戦車道の建物が見えて来た。

 

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「こんにちは、ミカさん、アキさん。」

 

会議室に入ると、すでに訪問者は到着していた。

 

「やあ、よく来てくれたね、西住さん、澤さん。」

 

「こんにちは。今日は遠いところをありがとうございました。」

 

アキも挨拶を返す。

 

「継続高校って、初めて来ましたが、森の中にあるんですね。」

 

大洗女子学園のセーラー服姿の西住みほが、お土産に持って来た干し芋(角谷杏おすすめの干し芋3日分が贈答用に包装されたもの)をミカに渡した。

 

「あ、それは私がお預かりします。ミカが持ってると、一人で食べちゃうから。」

 

そう言って、アキがミカの手元から干し芋が入った手提げの紙袋を取り上げた。

 

「ああ、だから私たちは、森林での戦闘が得意なんだよ。」

 

「でも、森の中をあのスピードで動けるなんてすごいです。」

 

みほが、黒森峰時代に継続と練習試合をした時のことを思い出しながら言った。

 

「でも、森の中でミカを探すの大変なんだよ。今日もバイクで走り回って、カンテレの音を頼りに探してたんだ。」

 

「えっ?バイクで?」

 

バイクという言葉に反応して、それまでみほの横にいた梓が思わず聞いた。

 

「そう、さすがにミカを探しに行くためだけにBT-42を引っ張り出すわけにはいかないからね。」

 

「アキさんって、バイクに乗られているんですか?」

 

「うん、学園艦がこんな感じだから、オフロードタイプの小型に乗ってるよ。」

 

「私もバイクに乗ってるんです!あ、原付スクーターだけど。」

 

「ほんと!継続だとあまりバイク乗ってる人いないから、嬉しいな。」

 

「アキ、今日は西住さん達、今度の練習試合の打ち合わせに来たんだから、そろそろ本題に入ろうか。」

 

ミカがやんわりと話を遮る。

 

「もう、ミカを探しに行ってたから、お喋りする時間が減ったんじゃない!」

 

アキがちょっと怒ったように反論する。

 

「でも、バイクで私を探していたから、今みたいな話になったんじゃないかな。それに、練習試合の打ち合わせが終わったら、みんなでお昼を食べに行くから、その時にお話はできるよ。」

 

「じゃあ、さっさとすませてお昼に行こうよ。」

 

そう言って、みほと梓を席に案内して、事前にミッコが用意してくれた書類を配る。

 

「今度の練習試合ですが、場所は継続さんの演習場で、出場車輌は最大10輌、殲滅戦でいかがでしょうか?」

 

まずはみほが大まかなルールを提案する。

 

「それでもいいけど、そっちは戦車が8輌しかなかったんじゃないかな。」

 

「でも、公式戦だと2回戦まではお互い10輌だし。」

 

「そうだね。でも、今回は公式戦じゃない。サンダースじゃないけど、やっぱりフェアにいきたいね。」

 

「じゃあ、そちらも8輌でいいですか?」

 

みほが、ミカの申し出を踏まえて確認する。

 

「いや、5輌というのはどうだい?それに、殲滅戦じゃなくってフラッグ戦で。」

 

「5輌でフラッグ戦ですか?」

 

「殲滅戦だと、最悪負けた場合、全車輌が撃破されると戦車の修理も大変だからね。」

 

「それに、フラッグ戦の場合、殲滅戦と比べて編成や戦術をより慎重に考える必要がある。練習試合だからこそ、そんな風に自由なやり方を試してみたいとは思わないかい?」

 

ミカの考えを聞いて、みほは考える。確かに、修理にかかる費用も気になるし、自動車部への負担もある。それに、戦術を重視した練習試合というのも、ミカの言うとおり良い機会になる。

 

「では、その案でいきましょう。」

 

「でも、5輌だと、出場できないチームも出て来ますね。」

 

それまで話を聞いていた梓が口を挟む。

 

「うん、でも、練習試合だと戦車道連盟の審判派遣がないから、お互いのチームから審判を2名ずつ出さなきゃならないの。出場しないチームには審判をお願いすることになるかな。」

 

「じゃあ、カモさんチームの皆さんだったら風紀委員だから適役ですね。ルノーが出られなくなっちゃいますが。」

 

「澤さん、そこまで!」

 

おもむろにミカが話を遮った。

 

「どの戦車が出場するかは、当日までは秘密にしておかないとね。それに、ルノーは重戦車だから、それが出ない編成というのが相手に知られるのはあまりよろしくないんじゃないかな。」

 

「す、すみません!」

 

梓が慌ててミカとみほに謝る。

 

「まあ、ルノーが出ないって決まったわけじゃないし、ポルシェティーガーもあるからね。でも、今後は気を付けたほうがいいよ。」

 

口調を和らげて、梓に向けて笑いかけた。

 

「ご、ご指導、ありがとうございます。」

 

自分がしでかしたミスを理解し、梓は縮こまってしまった。

 

「ミカさん、ありがとうございます。澤さん、こういう場に来たのは初めてだから。」

 

「人は、失敗する生き物だからね。でも、その失敗から学ぶことに意味があるんじゃないかな。」

 

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「西住隊長、本当に申し訳ありませんでした。」

 

打ち合わせが終わって、ミカ達が会議室を出ると、梓はみほに頭を下げた。

 

「ううん、いいよ。気にしないで。実は、私も澤さんと同じことを考えてたから。」

 

「でも、ルノーが出ないってことが相手にわかってしまうと。」

 

「違うの。ミカさんも言ってたように、必ずしもルノーが出ないって決まったわけじゃない。でも、さっきの話から、ルノーが出ない可能性が高いと思われた。その裏をかいて、ルノーを出すというのも戦術だよ。試合はまだ先だけど、もう情報戦は始まってるってことかな。」

 

「そ、そうなんですか。」

 

さすがに、そんな深いことまで考えているとは、梓は思いが及ばなかった。

 

そこに、ドアをノックして、アキが入って来た。

 

「お昼ご飯の用意がもうすぐできるよ。今日は天気がいいから、外で食べよう。」

 

アキに案内されて校舎の外に出て森の中に少し入ると、小さく開けた場所があり、丸太の椅子と切株のテーブルが用意されていた。

焚火の上には吊るし鍋がかけられており、そこからとてもいい匂いがしている。

 

「うわあ、アウトドアで食事なんて、なんだか楽しそう。」

 

「学食の食事もいいけど、自然の恵みをその場でいただくのも一興かと思ってね。」

 

エプロン姿で鍋から料理を器によそっていたミカが微笑んだ。

 

「いや、その魚を釣って来て料理を作ったの、私だから。」

 

とミッコが口を尖らせる。

 

「それに、学食だとお金がかかるけど、この料理だったらタダだし。」

 

「それじゃあ、まるで私たちが貧乏みたいに聞こえるよ。」

 

「実際、貧乏だし。」

 

そんな話をしていると、梓の目が1点に釘付けになった。

 

「あ、あれ、アキさんのバイクですか?」

 

隅の方に1台のオフロードバイクが停まっていた。

 

「うん、そうだよ。さっき、家政科にパンをもらいに行く時に使ったんだ。家政科はここから少し離れてるから。」

 

「かっこいい...オフロードバイクって、初めて見ました。」

 

「じゃあ、後でちょっと乗ってみる?」

 

「で、でも、私、原付免許しか持ってないし、クラッチ操作もわからないから。」

 

「だったら、後ろに乗せてあげるよ。それより、早くご飯食べよう。お腹ペコペコだよ。」

 

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「へー、アキさんって、バイクでキャンプに行くんですか。」

 

「まあ、キャンプって言っても、学園艦の中の森でテント張って焚火するぐらいだけど。」

 

食事も終わって、梓とアキはバイク談義に花を咲かせている。

みほ達は、焚火のまわりでミカが奏でるカンテレの音色に耳を澄ませている。

 

「それに、森の中で寝てると、結構楽しいよ。」

 

「で、でも、夜の森の中って、怖くないですか?」

 

「全然。フクロウの鳴き声や風の音、遠くから聞こえる海の音なんか、すごく風情があるよ。」

 

「大洗にもキャンプ場はあるけど、まだ行ったことないなあ。」

 

「まあ、最初は普通のキャンプ場に泊まったほうが安心かな。」

 

「泊りがけのツーリングには行ったことあるんですが。知波単の福田さんや、聖グロのペコちゃんやローズヒップさんとか。」

 

「えっ?あの子達もバイクに乗ってるの?」

 

「はい。あと、うちのアリクイさんチームの猫田さんも。この間、みんなで箱根に行ったんですけど、宿で大学選抜の愛里寿ちゃんとアズミさんとばったりお会いして、聞いたら、タンデムで来たって言ってました。」

 

「いいなあ、みんなでツーリング、楽しそう。」

 

「機会があれば、アキさんも一緒にツーリング行きましょう。」

 

「うん、学園艦の航行ルート次第だけど、是非誘って。」

 

アキのオフロードバイクの横で、梓は再びバイク談義。

 

「じゃあ、ちょっと乗ってみる?あ、後ろにだけど。」

 

「いいんですか?」

 

「うん、いつもこれでミカを探しに行って、戻って来る時に後ろに乗せてるから大丈夫だよ。」

 

「じゃあ、お願いします。」

 

アキがバイクに跨り、後ろに梓が乗る。

 

「ミカ!澤さんと一緒にちょとそこら辺を走って来るよ。」

 

「ああ、気を付けて走るんだよ。」

 

「西住隊長、継続さんの演習場を偵察に行って来ます。」

 

「案内してもらうんだから、偵察とは違うんじゃないの?」

 

ミッコも手を振る。

 

3人に見送られながら、アキと梓はバイクで森の小路に消えて行った。

 

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森の中の広い道を走りながら、アキが梓に話しかける。

 

「どう?気持ちいいでしょ。」

 

「はい、最初はちょっと怖かったけど、アキさんの運転が上手だから安心しました。」

 

「まあ、いつもミカを乗せてタンデムには慣れてるからね。ミカなんて、後ろで横乗りしながらカンテレ弾いてるし。」

 

アキは、道に張り出した木の根をうまく避けながら、ひたすら森の中を進む。

しばらく行くと、森を抜けて草原に出てきた。草原の先には、大海原が見える。

 

「スクーターと違って、目線が高いから遠くまで良く見えますね。」

 

「オフロードはシート高が高いし、下を擦らないように車高も高いからね。乗ったことは無いけど、馬に乗るってこんな感じなんじゃないかな。」

 

「でも、足付きが悪くなるから、止まった時に不安じゃないですか?」

 

「そう思うでしょ?でも、シートが細くて足を真下に出せるから、ちゃんと足は着くんだよ。つま先がチョンって感じだけどね。まあ、バイク自体が軽いから、それでも大丈夫なんだ。それに、バイクって、止まって足を付いている時よりも走ってる時のほうが多いから。」

 

「確かにそうですね。」

 

草原の先まで進むと、学園艦の端が見えて来た。突き当りを曲がって、学園艦沿いに海を見ながら走る道を走る。

 

「私、この道が一番好きだな。海も見えるし、見晴らしもいいし。」

 

そう言って、少しスピードを出す。森の中と違って木の根に気を使う必要はないので、草原の中をバイクは軽やかに走る。

 

しばらく走ると、草原の端に少し広くなったところがあり、そこには丸太のベンチが置かれていた。

 

「ちょっと一休みしようか。」

 

ほんの15分ほどしか走っていなかったが、初めてのタンデムだったので、梓は体が強張っていたのに気付いた。

バイクを停めて、丸太に腰かけて改めてバイクを見る。

 

「バイクって、いろいろあるんですね。ペコちゃんが原付免許をとってスクーターに乗ってたから、私もスクーターを買ったんですが、福田さんはギア付きの小型二輪に乗ってますし、猫田さんはお店の配達用の実用的な小型二輪に乗ってるんです。」

 

「みんな、自分の好きなバイクに乗ってるんだね。」

 

「でも、アズミさんのバイクを見たら、中型の自動二輪もいいかなって。アズミさん、レーサータイプの中型に乗ってるんですよ。後ろに愛里寿ちゃんを乗せて。」

 

「へー、カッコイイなあ。」

 

「私も、いつかは中型に乗ってみたいんです。でも、ギアチェンジとかクラッチ操作、難しそう...」

 

「じゃあ、これで試してみる?」

 

「え?」

 

「これも一応ギアはあるし、軽いから車体の操作も楽だよ。大丈夫、跨って、ギアを繋いで少し走るぐらいだから。」

 

「じゃ、じゃあ、ちょっとだけ。」

 

アキがキーを挿して、バイクを起こす。

 

「じゃあ、跨ってみて。あ、右足はフットブレーキに置いてね。そうすると、左足が付きやすくなるから。」

 

「こ、こうですか?」

 

「そう。じゃあ、キーを回してエンジンをかけて。あ、左手のクラッチは握っておいてね。」

 

スターターボタンを押すとエンジンがかかり、小気味良いエンジン音が響き渡る。

 

「次は、左足のつま先でギアを踏んでギアを1速に入れて。」

 

ギアを入れると、カコンと音がした。

 

「右手のアクセルを少し回しながら、左手のクラッチを少しずつ緩めて。」

 

エンジン音が少しだけ大きくなり、クラッチを緩めるとギアがゆっくりと繋がって、バイクが動き出そうとした。

 

「今の状態が半クラッチだから、そこからさらにクラッチを緩めながら、アクセルを捻って...」

 

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「澤さん達、遅いですね。」

 

昼食の後片付けをして、焚火の始末をし終わっても梓とアキが帰って来ないので、みほが心配そうに森の奥を見る。

 

「まあ、ウチの学園艦はそれほど大きくはないけど、演習場は広いからね。隅々まで偵察してるんじゃないの?」

 

ミッコが余ったパンを袋にしまいながら声をかける。

 

「船の時間は大丈夫かい?」

 

「ええ、あと1時間ぐらいはあるんですが。」

 

「ちょっと、BT-42で見て来ようか?」

 

ミッコがそう言って戦車倉庫に行こうとしたところで、森の奥からアキがバイクを押しながら戻って来た。後ろには、しょんぼりした梓がとぼとぼと歩いている。

 

「ごめんごめん、ちょっとトラブルがあって。」

 

バイクを停めながらアキが説明する。

 

「ど、どうしたの、澤さん。」

 

「遅くなって申し訳ございません、西住隊長。」

 

「バイクが故障でもしたのかい?」

 

片づけの手を止めて、ミカがアキに聞いた。

 

「いやあ、バイクが倒れた時にクラッチレバーが折れちゃって。」

 

「私が悪いんです。ちょっと試しに運転させてもらったんですが、止まる時にこけてしまって。そのせいでクラッチレバーが折れてしまったんです。」

 

梓が今にも泣きそうな顔で説明した。

 

「け、怪我はない?」

 

「はい。止まる時だったからすぐに足は着いたんですが、傾いたバイクが支えきれなくって...」

 

「そう、良かった。」

 

それを聞いて、みほも安心して微笑んだ。

 

「まあ、怪我がなくって何よりだね。」

 

ミカがわざと明るく声をかける。

 

「普段は工具セットを積んでるから応急処置はできるんだけど、たまたま今日は積んでなかったから。折れたのがブレーキレバーだったら、代わりにフットブレーキを使えるけど、さすがにクラッチを操作せずに走ることはできないもんね。」

 

「ほ、本当に、ごめんなさい。修理代は弁償します。」

 

梓がアキに向かって頭を下げる。

 

「私からも謝ります。アキさん、ごめんなさい。」

 

みほも梓と一緒に頭を下げる。

 

「いいよいいよ。こんなのしょっちゅうだし。それに、オフロードバイクって、こういうトラブルが多いから、クラッチレバーの予備はいくつかあるし。取り替えるだけだよ。」

 

「でも...」

 

「澤さん、アキも気にしていないみたいだから、あまり悲しまないでほしいな。私達としては、これで関係がぎくしゃくすることのほうがよっぽど悲しいな。」

 

「そうそう、戦車も壊れたら修理するでしょ。バイクも同じだよ。」

 

ミカとミッコも梓を慰める。それでも梓の表情は晴れない。

 

「じゃあ、澤さん、ひとつ、お願いがあるんだけど。」

 

アキが梓に笑いながら話しかける。

 

「な、なんでしょう...私にできることだったら。」

 

梓がおずおずとアキのほうを向いて答える。

 

「今度、私と一緒にツーリングに行ってくれる?それで、その時にお昼ご飯を奢ってよ。」

 

「そ、そんなのでいいんですか?」

 

「もちろん!こんなことはあったけど、私は澤さんとお友達になりたいな。」

 

「私も、アキに友達が増えるのは歓迎だね。澤さん、アキと友達になってあげてくれるかな。」

 

ミカが後押しするように梓にお願いする。

 

「は、はい、こちらこそ、宜しくお願いします。」

 

そう言って、梓が頭を下げる。

 

「やったー!」

 

アキが嬉しそうに飛び跳ねる。

 

「あ、アキだけなんてずるい!私とも友達になってほしいな。」

 

そう言ってミッコも梓の手を握る。

 

「もちろん、喜んで。」

 

「よし!」

 

「あ、でも、澤さんにお昼ご飯を奢ってもらうのは私だけだからね。」

 

そう言って、アキが釘を刺す。

 

「えー、でも、まあ、いいか。」

 

「じゃあ、船の時間もあるし、そろそろお開きにしようか。」

 

「ここは私が片づけておくから、ミカとアキは澤さん達を送って行ってよ。」

 

「じゃあ、お願いするね。西住さん、澤さん、行こうか。」

 

「「はい!」」

 

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学園艦を結ぶ連絡船の乗り場に向かいながら、アキと梓はツーリングの話をしていた。

 

「やっぱり走るなら海沿いがいいよね。学園艦とは違って、海を間近に見ながら走るって楽しそう。」

 

「私も海沿いを走るの、大好きです。それに、海の近くだとご飯も美味しいですから。新鮮な魚を使った海鮮丼なんておすすめですよ。」

 

「楽しみだなあ。普段は川で釣った魚を焚火で焼いて食べるけど、海のお魚も美味しそう。」

 

そんな風に盛り上がる2人を見ながら、ミカとみほが後ろを歩く。みほは、お土産にもらったコケモモジュースの入った紙袋を手に持っている。

 

「ミカさん、今日はいろいろとありがとうございました。お土産までもらっちゃって。」

 

「なに、折角来てくれた客人を手ぶらで帰すわけにはいかないからね。」

 

実は、ミカがコケモモジュースと一緒にサルミアッキのキャンディーを入れようとしたのを、アキとミッコが全力で阻止したことをみほは知らない。

 

「それに、アキと澤さんが仲良くなってくれたのも嬉しいな。」

 

「私もです。澤さんには、いろんな学校の人たちと仲良くなって欲しいし。」

 

「そうだね。君たち大洗の戦車隊は、全国大会や大学選抜との試合を通して、他の学校との交流を深めている。試合で勝負することも戦車道だけど、そんな絆を深めるのも戦車道だね。」

 

「はい、私もそう思います。」

 

みほは、継続もBT-42で大学選抜との試合に助太刀してくれたことを思い出しながら頷いた。

 

「でも、今度の練習試合では手加減しないよ。西住さんが黒森峰にいた時は負けたけど。まあ、リターンマッチというわけじゃないけどね。」

 

「あはは、お手柔らかにお願いします。」

 

今度の練習試合について話しながら歩いていると、気が付けば船着き場まで来ていた。

 

「じゃあ、気をつけて帰るんだよ。」

 

「はい、練習試合、楽しみにしています。」

 

「澤さん、ツーリングに行く場所、考えておいてね。」

 

「はい、あと、猫田さんも誘ってみます。」

 

「うん、2人よりも3人のほうが楽しいよね。」

 

連絡船が桟橋から離れると、ミカとアキは船が見えなくなるまで見送っていた。

 

「そろそろ行こうか。今度の練習試合の編成や戦術も考えないとね。」

 

「そうだね。でも、あっちはルノーは出てこないんだよね。」

 

「そうとも限らないよ。そういう風に言ってたけど、やっぱり出してくるということも考えておかないとね。」

 

すでに頭は練習試合に向けて戦術を考える思考になっていた。

 

「アキも、澤さんと友達になれて良かったね。」

 

「まあ、あんなことはあったけど、結果オーライだよ。」

 

「そうそう、西住さんに渡したお土産だけど、コケモモジュースだけだとなんだか物足りなかったから、シュールストレミングの缶詰を入れておいたよ。」

 

「ええっ!あれ、すごく臭うんだよ!サルミアッキキャンディーよりやばいよ!」

 

「でも、一応は食べ物だからね。あんこうチームの武部さんは料理が得意だそうだから、なんとかしてくれると思うよ。」

 

「大丈夫かなあ。」

 

後日、練習試合の時、あんこうチームからの視線が険しくなっていたそうな。




いかがでしたでしょうか。

継続高校からは、アキがバイク乗りとして参加です。
森林地帯の多いフィンランドだったら、オフロードのほうが合うのではないかと(実際はフィンランドではなく学園艦ですが)。

アキは小柄ながらも、オフロードバイクを、ミカを後ろに乗せて走るぐらいに乗りこなしているんですね。
澤ちゃん、やらかしてしまいましたが、これにめげずに是非とも自動二輪にチャレンジしてほしいと思います。
ちなみに、フィンランドでは、失敗から学ばせるという「失敗教育」が世界的に有名だそうです。澤ちゃんも、今回の失敗から学んでくれるといいですね。

前回投稿した後、次のお話を書いていたのですが、これがなかなか収束せず、そのうちにこちらのお話を思いついたので、先に書き上げました。

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